勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

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第3章 水の研究者、勇者を還す

第70話 ミーナ・ギャレット(1/3)

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 ファーラムに向かう旅の途中。

「こうやって寝てると、可愛いニャ」

 小さな寝息を立ててウチの膝で寝るトール。

 悪人は一切の容赦なく殺しちゃう冷徹さ、魔物はおろか魔族だって瞬殺しちゃう彼の強さは異次元過ぎて、ちょっと怖い時もあるニャ。

 でもこんなリラックスして眠るトールを見ることができるのは、世界でウチだけ。そう思うと、なんとも言えない気持ちだニャ。

「ウチをあの地獄から助けてくれて、ほんとにありがとニャ」


 ──***──

 今からおよそ1年前。

 とある獣人の里が人族の軍隊に襲われていた。

「クソっ! 敵の数が多すぎる!!」
「一旦退きましょう」
「ミーナ隊長も、こちらへ!」

「ウチがこいつらの足止めするニャ! だから、みんなを逃がしてニャ!!」

 数十人の兵士を相手にミーナがたったひとりで奮闘していた。

 ちなみに獣人族で語尾が特徴的なのは女性の猫獣人だけ。昔の勇者が獣人の姫を助けた時の“お願い”が原因でこんなことになっている。


「あれが、“凶獣ミーナ”か」
「口調と強さが合ってねーよ」
「つ、強すぎんだろ……」

 少し離れた場所にいる人族の兵士たちは、多くがそのような感想を抱いた。

 重鎧を纏った大男たちが、「せいニャ!」という掛け声とともに繰り出されるパンチで吹き飛ばされていくのだ。

 信じがたい光景だった。


 獣人に魔法を使える者は少ない。

 その代わりに彼らは魔力を身体中に巡らせ、元より高い身体能力を更に高めて戦うのだ。中でもミーナは獣人にしては魔力が多く、戦闘スキルも高いため他国にもその名を知られるほどの武力を有していた。

 凶獣──それが、彼女を恐れた人族たちがミーナに付けた仇名だった。


「この先には絶対通さんニャ。死にたい奴から向かって来いニャ!」

「ひ、怯むな! かかれぇ!!」
「いけぇぇぇぇ!!」
「「「うぉぉぉおお!」」」


 彼女はこの日、およそ500人の人族を戦闘不能にさせた。

 しかし獣人の里を攻めてきた兵の数が多すぎた。

 魔力が切れ、体力がなくなった彼女は生きたまま拘束された。

 その後、意識を失ったミーナは人族の兵士たちに犯されそうになったが、軍の司令官によってその行為は止められた。司令官はミーナに減らされた戦力を、彼女の身を奴隷として売ることで賄おうとしたのだ。

 その目論見は見事に成功する。

 凶獣という二つ名をつけられ、屈強な兵士ですらその姿を目にしたら逃げ出そうとするほどに強い獣人を好きにできると聞きつけた大商人がミーナを買うと申し出た。

 5,000人規模の軍を編成できるほどの大金で彼女は売られた。



 数日後、屋敷に送られてきたミーナを大商人がいざ犯そうとすると──

「いぎゃぁぁぁああああああ!」

「こんな拘束でウチを止められると思うとか、アンタ馬鹿なのかニャ?」

 彼女は手足を鉄製の鎖で拘束されていたが、ミーナはその状態のまま大商人の股間を粉砕してしまった。悶絶し、泡を吹く大商人。

 大商人の護衛たちが騒ぎを聞いてかけつけ、ミーナの鎖を掴んで取り押さえようとするが、彼女はここでも大暴れした。

 多大な犠牲を出しながらも、最後は大商人が贔屓にしていたオリハルコン級冒険者が何とか彼女を取り押さえた。
 
 
 ミーナが再び拘束された場所まで部下たちに支えられながら、ふらふらとした足取りでやって来た大商人に冒険者が問いかける。

「コイツ、ここで殺しましょう。それとも部下に犯させますか? その場合は、手足を斬っておくことをおススメします」

「……いや、ダメだ。この雌猫はコロッセオに送る。そこで確実に殺せ」

 大金をはたいて買った女なので、それを他の男に犯させるという選択をしたくなかった。また彼は股間を潰され、男性としての闘争心が薄れていた。

 ミーナへの怒りはあるが、それをどう処理すれば良いか分からなかった。周りの部下たちの声を無視して大商人はそのような選択をしたのだ。


 こうしてミーナはコロッセオにて、トールと出会うことになる。


 一方、ミーナを買った大商人だが、もともと彼は豪胆で他国にも知られる男だった。そんな大商人は陰嚢を失い、目に見えて活力がなくなった。大きな商談に何度も失敗した。財産を失っても、それを取り戻そうとする気力も湧かなかった。

 ある日、屋敷にある金が底を尽きそうだという報告を受けた大商人は、その話を聞いた部屋の窓から飛び降りて死んでしまう。

 それはミーナを買ってから、わずか2週間後のこと。

 彼女がコロッセオで戦う前だったが、残された者たちは凶獣に手を出そうとしたことが全ての原因だと考え、その後は誰もミーナに干渉しようとはしなかった。
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