勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

文字の大きさ
上 下
65 / 101
第2章 水の研究者、魔族と戦う

第65話 エルフ姉妹

しおりを挟む

 地底湖は日が差さないので時刻が分かりにくいが、世界樹によると夕暮れ時になったらしいので地底湖での作業を一旦終えた。

 地上に戻り、今晩泊る宿を探そうとしていると。

「宿なんて泊まらなくても、私の家に来ればいいんです!」

 ララノアが家に来いと言って俺たちを放してくれなかった。聞けば、姉のラエルノアとふたりで住んでいるので、部屋は余っているらしい。

「いや、でも……。ふたりで住んでるんでしょ?」

「えぇ。そうですよ」

「じゃぁ色々とまずいだろ」

 若いエルフの女性がふたりで住んでいる家に人族で男の俺が上がり込むのはちょっと……。ララノアたちはエルフなので、実際は俺よりだいぶ年上の可能性もある。

 それでも嫁入り前の女性の家はダメでしょ。

「何がまずいんですか? ……あっ。もしかして、えっちなこととか想像しちゃいました? でもお姉ちゃんに手を出すのはダメですよ。わ、私はその、トールさんなら、ダメってことはないですが」

 そこは姉同様にダメって言ってほしかった。

「トール? わかってるよニャ?」

 ほら! ミーナが怒ってる。 
 怖くて後ろを振り返れない。

 もちろん分かっております!

「やっぱり俺たち、宿に泊まるよ」

「えぇー? うちにきてくださいよぉ! お姉ちゃんもトールさんに会いたがってたんですから」

「それはほら。俺たちは明日以降もここにいるんだし──」


「トール!!」

 軽鎧を身に纏ったラエルノアが走ってやって来た。

「や、やぁ。ラエルノア」

 なんでこんなタイミングで来ちゃうんですか?

『言ったじゃないですか。ラエルノアも会いたがっているって。だから私が呼んでおきました!』

 なるほど、世界樹が呼んだんだ。

 なんて余計なことをぉぉおお!

「トール! やっと会えた!!」
「えっ」

 ラエルノアにすごい勢いで抱き着かれた。

 それと同時に俺の背後で急速に膨らむ殺気が気になって仕方ない。

「な、なんでいきなり?」

 ララノアと再会した時も抱き着かれたが、まだ少女といえる体型の彼女と違い、ラエルノアは大人の女性だ。しかも美人。そんな彼女に抱き着かれれば、ミーナが怒るのも無理はない。

「命の恩人に礼を言えず、国を二度も救ってくれたことに報いることもできなくて、ずっと悶々としてきたんだ。だから先に謝っておく、すまない」

 ラエルノアの顔が近い。
 頬に柔らかい感触があった。

「わ、私からの、感謝の気持ちだ。その……。人族はこうされると喜ぶって聞いた。で、でも、誰にでもするわけじゃないぞ! 私がこんなことしたのは、トールがはじめてなんだ」

 そう言って美女エルフが顔を赤らめる。

「ど、どうだろう。私の感謝の気持ち、伝わったかな?」

 ラエルノアにキスされたみたい。

 普通ならこんな状況、男が妄想する最高のシチュエーションであるはず。

 だけどミーナがすぐ後ろにいる状況では止めてほしかった。

 彼女の殺気が俺の背中をグサグサ刺してくる。

 なんでララノアとラエルノアはこれに気付かないの?

 もしかして、俺の勘違い?


 恐る恐る後ろを見てみる。

「トールはエルフにもモテるんだニャ。美人姉妹エルフに誘われたら、鼻の下が伸びちゃうのも仕方ないニャ。トールが愉しそうで、なによりだニャ」

 勘違いじゃなかった。
 すっごい怒ってた。

 ミーナの目がギンっと見開き、毛が逆立っている。

 めっちゃ怖い。

 思わずラエルノアの肩を持って、少し強引に突き放してしまった。 

「ラエルノア、感謝の気持ちは受け取った。たまたま戦う力を得ることができたから、俺はやるべきことをやっただけ。世界樹からも十分な報酬を受け取ってる。だからこれ以上はもう本当に大丈夫」

「お前が十分って言っても、私たちはまだ感謝しきれてない!」

「そうですよ。世界樹様からトールさんたちをもてなすように言われていますし、私たちの家に来て、是非もてなされてください!」

 もてなされろって、はじめて言われた。

 お願いだから諦めてほしい。

「ふたりとも、本当に申し訳ないけど」

「いいんじゃないかニャ。美女エルフ姉妹の家に招かれるなんて、男としては最高のシチュエーションだニャ。別に断らなくて良いニャ」

 ミーナが拗ねてる。

 きっと感情が抑えられなくて、全く意図してないことを口走ってるんだ。

 だけどエルフ姉妹はミーナの言葉をそのまま受け止めた。

「ミーナさんもこう言ってることですし」

「トール、こっちだ。今日は私が手料理を振舞ってやる」

「お姉ちゃんが作るご飯、とても美味しいんですよ! 私もご飯作るのお手伝いします。楽しみにしててくださいね!!」

 そう言いながらララノアが俺の手を引いていく。

「お、おい」

「ミーナさんも、こちらへ」
「はいニャ」

 本気で断るべきか悩んだが、ミーナもラエルノアに促されてついてきていたので躊躇してしまった。


 ……よし、ご飯だけご馳走になろう。

 ご飯を食べたら、ミーナと宿に泊まりに行けばいいんだ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...