勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

文字の大きさ
上 下
61 / 101
第2章 水の研究者、魔族と戦う

第61話 世界を守る

しおりを挟む

「暇だ……」

 ガロンヌサンとシャルロビさんに杖を作ってもらって1か月が経過した。

 しかし魔族が現れたという情報はなく、俺はこちらの世界の言葉で最強を意味する“ハザク”と名付けた杖を使う機会がなく過ごしていた。

「どっかに魔族出ねーかな」

 情報収集の手を広げているものの、魔族や勇者たちに関する情報は全くヒットしていない。

「たぶん、この世界で魔族の出現を心待ちにしてるのって、トールだけだニャ」

「だって暇なんだもん」

「この1か月の間に魔物の群れに襲われていた街や村を5つも救ってるのに、杖を使わないで魔物を全部倒しちゃうからニャ。使えば良いニャ。ていうか使えニャ。なんで魔物100体の群れを杖なしの水魔法で殲滅しちゃうニャ」

 そう、それなりに活動はしている。

 魔族が復活し始めているというのは確かなようで、各地で魔物の発生が激しくなっていた。魔物たちを魔族が率いているんじゃないかって考えて、街などが魔物に襲われたと聞けば大急ぎで駆け付けて魔物を倒していた。

「ハザクのおかげで移動は楽になったよね」

「最近のトール、普通に空飛んじゃうからヤバいニャ」

 水魔法で水を宙に浮かせられるんだ。その水を一部凍らせることもできる。俺はその氷に乗ってるだけ。飛行魔法が使えるわけじゃない。

 でもこの方法で空を飛べるようになり、馬で1週間かかる距離にある街まで1時間で移動し、被害が大きくなる前に対処できている。各地に配置した“連絡係”も成果を出していた。

 人族の王国であるガレアスとザハル、ソラスの主要な街には、自警団や冒険者たちで対処できないような脅威が迫った時、俺にその情報を伝えるための連絡係を置いている。異常が起きた時、狼煙を上げてもらうようにしたんだ。その狼煙を見た最寄りの街や村にいる連絡係が、更にそれを拡散する。

 そうすることで俺がどこにいても情報が伝わってくる。異常が起きた場所は狼煙の区切り方で判断する。例えば狼煙が長く1回上がったあと、短く4回上がるのが繰り返されたら、ガレアスのコロッセオがある街が危険であることを示している。

 各地の主要都市まで行けば、より詳細な情報が得られるようにしていた。

「遠く離れた場所での危機を察知して、高速で向かって対処するとか、もはや歴代最強って言われてた賢者様クラスのことやってるニャ」

「昔の賢者ってそんな感じだったんだ。異常はどうやって知ってたんだろう? 通信魔法とかあればいいんだけど」

 生憎そんな都合の良い魔法は無かった。唯一あるのは世界樹からの念話。エルフの王国ミスティナスで発生した危機は世界樹から情報が入る。しかも世界樹は俺たちを召喚できるので、移動に時間がかからないという点も素晴らしい。

 最近は世界樹からの連絡がないけど。

 平和ってことなのかな。
 まぁ、それが一番だ。

 魔族と戦いたいってのは変わらないけど。


『トールさん! 助けてください!!』

 平和が一番って思ってた時、世界樹から念話が飛んできた。

「どうしたの!? 魔族が攻めてきた!?」

 来たんですか!?
 来たんですね!!

「なんでちょっと嬉しそうにしてるのかニャ。普通はもっと、こう……。あー、もういいニャ。なんでもないニャ」

『あ、あの。すみません。今、魔族に攻めれれているとかではなくてですね。その、予知があったんです』

「予知?」

『えぇ。私の能力のひとつに、この世界の未来に関する予知ができるというものがあります。数日、もしくは数週間以内に、私が燃やされる可能性を予知しました』

 便利な能力だな。

「前回、雷の魔族が攻めてきた時は?」

『私が燃やされる未来はなかったのでしょう。予知はありませんでした。そもそも意図して見えるモノではないのです。この世界が危機に陥りそうになった時、ぼんやりと未来が見えるのです』

「世界樹が燃やされると、世界の危機に繋がるんだ」

『私は負のオーラを浄化し、この世界の正常を維持しています。もし私がなくなれば、100年に13体の発生に留めている魔族の数が増えてしまう可能性があります』

「1体でも国が滅亡するのに、それが増えるなんてヤバすぎるニャ」

「うん。それは阻止しないと」

 魔族と早く戦いたいから、俺としては増えてくれても構わない。でも俺がその魔族の出現場所に運よく出くわさなければ、傷付く人々が出てしまう。

「俺らがミスティナスにいて、世界樹を守ればいい? 攻めてくるって分かってるなら、事前に迎撃の準備もできるだろうし」

『私を、世界を守っていただけますか? 私がトールさんの存在を知っている状態で見た予知なのです。もしかしたらトールさんがいても、私が燃やされるっていう状況になるかもしれません』

 なるほど。つまりかなりヤバい状況になる可能性があるってことか。

 もしかしたら、複数体の魔族が攻めてくるのかもな。

 そういう想定をして対策を練ろう。世界樹が燃やされるってことは、火を使う魔族が来る可能性が高い。対して俺は水魔法使いだ。

 雷魔法を使う魔族を倒した。
 水魔法を使う魔族を倒した。

 そして俺は、最強の杖ハザクを手に入れている。

 世界最強の水魔法使いになった自負がある。

 その俺が入念に準備をして敵を迎え撃つんだ。

 大丈夫。
 きっとなんとかなるさ。

「ミーナ。良いよね?」
「はいニャ!」

 いつものように彼女はすぐ了承してくれた。


「世界樹、俺たちを召喚して。世界を守りに行くよ」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...