勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

文字の大きさ
上 下
55 / 101
第2章 水の研究者、魔族と戦う

第55話 最強の杖の素材

しおりを挟む

 水の魔族を倒した後、俺たちは人族の王国サハルまでやって来ていた。

 シャルロビさんの魔道具屋が目的地だ。ガロンヌさんの工房は差し押さえられていて、魔道具を作るための工具などを持ち出すことができなかった。

 俺の杖を作ってもらうための工房を貸してもらおうと、ここまでやって来たんだ。

 そんで今、師弟が再会したところ。

「し、師匠!! お久しぶりです!」

「おぉ、ガロンヌ。お前は昔と変わらぬ姿じゃな。元気そうで何よりだ」

 魔法を無効化する魔具を作って、ガロンヌさんは魔導都市ラケイルを統治する貴族に投獄されていた。製法などを聞き出すために激しい拷問を受けていたが、俺がエリクサーを渡して全回復しているので、今は健康体だ。

「師匠が王立魔導研究所から追放されたと聞いた時、真っ先に駆けつけようとしたのですが……。申し訳ありません。弟子だというのがバレていたせいで、都市から外出禁止令を出され、どうしようもありませんでした」

「よいよい。儂の脇が甘かったせいで、お前にも迷惑かけたようだな」

「俺は平気です! ただ都市から出られず、暇を持て余した時に興味本位で魔法無効化魔具マジックキャンセラーを作っちまったせいで俺も捕まっちまいまして」

 魔法使いの天敵になり得る魔具を暇つぶしで創っちゃったんですか。すごいですね、天才ですね。ちょっと聞きそびれてたけど、あとでもっと詳しく聞きたい。

「そんで捕まってた俺を、このトールさんとミーナさんが助けてくれたんです。師匠がこのふたりに俺を紹介してくれたおかげです」

「そうでしたか。儂の弟子を助け出してくれて、どうもありがとう」

「いえ。ガロンヌさんには、俺の杖を作って頂きたいと思っているんです」

「俺の工房は差し押さえられてしまっているので、こうして師匠を訪ねてきました。申し訳ないですが、工房をお借り出来ますか? あと、トールさんには最高の杖を。ミーナさんには最強の防具を渡したい。もし可能なら、師匠にご助力いただけないでしょうか?」

「構わんよ。弟子の恩人だ。儂もできることは全力でやらせてもらおう」

 おぉ! 
 なんかすごいことになった。

「ありがとうございます。是非お願いします!」

「まぁ、ガロンヌの腕は既に儂を遥かに超えておる。できるのはサポートぐらいになるだろうが」

「ま、またまたご謙遜を」

「儂も歳なのだ。細かな作業をしようとすると手が震えてしまう。これが人族の限界ということだろう。ドワーフであるお前が羨ましいよ」

 エルフほどではないが、ドワーフも長寿種。500年以上生きるらしい。

「師匠……」

「だから今回の仕事は、儂の生涯で最高のものにしたい。素材選定に妥協はしませんぞ。よろしいかな?」

 それは、杖に必要な素材は全部集めて来いって意味だろうか。

 おーけい、やってやりましょう!

「大丈夫です。頑張ります」
「ウチの鎧もお願いするニャ!」

「よし。ではまずおふたりに適合する最適な杖と防具を設計するため、色々と計測させてもらいます」

「はい」
「はいニャ」


 シャルロビさんの工房にて、俺とミーナは様々な魔具を使って色んなことをやらされた。薬品が入った瓶に息を吹き込んだり、色んなポーズで杖を構えさせられたり。

 ポーズとるのって、なにか意味あるんですか?

 その他にも、逆立ちした状態で手に魔力を集めるのと、限界まで魔力を絞り出せって言われたりした。どちらもかなりキツかった。

 俺の水魔法の弟子になったアレンも初めての魔法使用で魔力切れを起こして気を失っていたけど、こんなにしんどいとは……。

 魔力切れには十分注意しよう。 


 一方、ミーナはガレアスから魔導都市に向かう途中の街で高価な防具を購入していた。実はこれ、ガロンヌさんの作品だったらしい。この防具が彼女に最適化されるための調整と強化ができるというので、それをお願いしている。

 ミーナの武器は獣人ならではのスピードだ。それを殺さないような防具設計が求められる。

 疲労時にも防具が邪魔になって攻撃を避けられないことがないよう、彼女は両手両足に重りを付けた状態でシャドウボクシングっぽいことをさせられていた。

「これ、やばっ、もう、むりニャ」

「がんばって! あと3セットです。本当にキツいとき、身体は自然と最高効率で動きます。それを把握しなきゃいけないんだ。さぁ、立って!」

 ガロンヌさんがスパルタだった。


 ──***──

 それから3日後。

「トールさん、ミーナさん。お疲れ様でした」

「俺と師匠の設計が完了しました」

 ついに設計が完了したらしい。
 これから素材集めが始まる。

「できましたか! それで、俺たちはどんな素材を集めてくれば良いですか?」

 しかし、何故かふたりの表情が暗い。

「ミーナさんの防具は問題ありません。世界最高峰の防具にしてみせます」

「わーい! ウチ、頑張った甲斐があるニャ」

「ただ問題はトールさんの杖の方です」

「えっ」

「設計はできたが……。製造ができないんじゃ」

「な、なんでですか!?」

 ガロンヌさんが杖の設計図を机の上に拡げた。かっこいい杖のデザインの周りに、何やら複雑な計算式や魔法陣が描かれていた。

「この構造であれば、膨大な魔力を扱うトールさんにも耐えるじゃろう」

「だが逆に言えば、この設計以外ではトールさんが使える杖にならねぇんです」

「じゃ、じゃあこれを作りましょうよ」

「だから、それが無理なんじゃよ。ガロンヌ、説明を頼む」

「かしこまりました。えー、良いですか。順を追って説明しますね」

 ガロンヌさんが図面の中央を指さす。

「まず杖の芯材に“世界樹の枝”が必要だ。この世界で魔力変換効率が最高の素材。これは絶対条件。そんで、一番の問題だ」

 世界樹の枝か。
 持ってるな。

「世界樹の枝でもトールさんの魔力を変換しきれなかった時の保険に、魔力を一時貯蔵できる“竜の瞳”ってのが要る。超貴重な世界樹の枝を破壊しないための部材だが、これ自体も貴重。ガレアスって国のコロッセオを統治してる男がこのアイテムを所有しているって情報があります。しかしいくら金を積んでも入手は不可能だ。そいつはこの宝珠を、他国の王族が欲した時でも手放さなかったらしい」

 竜の瞳もあるな。
 なんか普通にくれたけど。

「王族からは小国を買えちまうぐらいの予算を提示されたが、コロッセオの統治者は断ったって言うんだ。あぁ、もちろん盗み出すのも考えるのは止めておいた方がいい。奴の私有軍はそこいらの国軍よりよっぽど精強で残忍だからな」

「なるほど。参考までに、他にも必要な素材はありますか?」

「杖と魔法の親和性を高めるために、同系統の魔法を使う魔物の角があると良い。だがこれは……。普通はありえないんだが、最高の素材があるんだよな。トールさんがここに来る途中で倒しちまった水の魔族の角。あれです」

「そうですか。では、世界樹の枝と竜の瞳があれば俺の杖を作れるんですね?」

「一応、最期にもうひとつ入手難易度が高い素材がある。これは師匠の方が詳しいから、ご説明いただけますか?」

「わかった。えー、トールさん。儂はお前さんに出会ってから、どうすれば壊れない杖を作ることができるか日々考えてきた。それでとある魔術を新たに生み出したのじゃが、これには貴重な素材を触媒として利用する必要がある」

「その触媒とは?」

「この世界のモノでない生物の体組織。つまり、異世界人の血肉じゃ」

 ……あれ、俺が異世界人だと言ってなかったっけ?

「血を数滴で良い。異世界人の、つまり勇者様たちの血液が必要なんじゃが、彼らが見ず知らずの儂らのために血をくれるとは考えにくい」

「数滴で良いなら、構いませんよ」

「ん?」

「世界樹の枝と竜の瞳もあります」

 机の上に世界樹の枝、竜の瞳、魔族の角を置いた。

「……えっ?」

「は? え、トールさん。これ、えっ」

「あと、言ってなかったかもしれませんが、俺は異世界人です。勇者召喚に巻き込まれてこっちの世界に来たので、勇者ではありませんが」

「トールさんが、異世界人?」

「えぇ。というわけで、素材は全て揃いましたね!」

 あとは、よろしくお願いしまーす!!
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...