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第2章 水の研究者、魔族と戦う
第55話 最強の杖の素材
しおりを挟む水の魔族を倒した後、俺たちは人族の王国サハルまでやって来ていた。
シャルロビさんの魔道具屋が目的地だ。ガロンヌさんの工房は差し押さえられていて、魔道具を作るための工具などを持ち出すことができなかった。
俺の杖を作ってもらうための工房を貸してもらおうと、ここまでやって来たんだ。
そんで今、師弟が再会したところ。
「し、師匠!! お久しぶりです!」
「おぉ、ガロンヌ。お前は昔と変わらぬ姿じゃな。元気そうで何よりだ」
魔法を無効化する魔具を作って、ガロンヌさんは魔導都市ラケイルを統治する貴族に投獄されていた。製法などを聞き出すために激しい拷問を受けていたが、俺がエリクサーを渡して全回復しているので、今は健康体だ。
「師匠が王立魔導研究所から追放されたと聞いた時、真っ先に駆けつけようとしたのですが……。申し訳ありません。弟子だというのがバレていたせいで、都市から外出禁止令を出され、どうしようもありませんでした」
「よいよい。儂の脇が甘かったせいで、お前にも迷惑かけたようだな」
「俺は平気です! ただ都市から出られず、暇を持て余した時に興味本位で魔法無効化魔具を作っちまったせいで俺も捕まっちまいまして」
魔法使いの天敵になり得る魔具を暇つぶしで創っちゃったんですか。すごいですね、天才ですね。ちょっと聞きそびれてたけど、あとでもっと詳しく聞きたい。
「そんで捕まってた俺を、このトールさんとミーナさんが助けてくれたんです。師匠がこのふたりに俺を紹介してくれたおかげです」
「そうでしたか。儂の弟子を助け出してくれて、どうもありがとう」
「いえ。ガロンヌさんには、俺の杖を作って頂きたいと思っているんです」
「俺の工房は差し押さえられてしまっているので、こうして師匠を訪ねてきました。申し訳ないですが、工房をお借り出来ますか? あと、トールさんには最高の杖を。ミーナさんには最強の防具を渡したい。もし可能なら、師匠にご助力いただけないでしょうか?」
「構わんよ。弟子の恩人だ。儂もできることは全力でやらせてもらおう」
おぉ!
なんかすごいことになった。
「ありがとうございます。是非お願いします!」
「まぁ、ガロンヌの腕は既に儂を遥かに超えておる。できるのはサポートぐらいになるだろうが」
「ま、またまたご謙遜を」
「儂も歳なのだ。細かな作業をしようとすると手が震えてしまう。これが人族の限界ということだろう。ドワーフであるお前が羨ましいよ」
エルフほどではないが、ドワーフも長寿種。500年以上生きるらしい。
「師匠……」
「だから今回の仕事は、儂の生涯で最高のものにしたい。素材選定に妥協はしませんぞ。よろしいかな?」
それは、杖に必要な素材は全部集めて来いって意味だろうか。
おーけい、やってやりましょう!
「大丈夫です。頑張ります」
「ウチの鎧もお願いするニャ!」
「よし。ではまずおふたりに適合する最適な杖と防具を設計するため、色々と計測させてもらいます」
「はい」
「はいニャ」
シャルロビさんの工房にて、俺とミーナは様々な魔具を使って色んなことをやらされた。薬品が入った瓶に息を吹き込んだり、色んなポーズで杖を構えさせられたり。
ポーズとるのって、なにか意味あるんですか?
その他にも、逆立ちした状態で手に魔力を集めるのと、限界まで魔力を絞り出せって言われたりした。どちらもかなりキツかった。
俺の水魔法の弟子になったアレンも初めての魔法使用で魔力切れを起こして気を失っていたけど、こんなにしんどいとは……。
魔力切れには十分注意しよう。
一方、ミーナはガレアスから魔導都市に向かう途中の街で高価な防具を購入していた。実はこれ、ガロンヌさんの作品だったらしい。この防具が彼女に最適化されるための調整と強化ができるというので、それをお願いしている。
ミーナの武器は獣人ならではのスピードだ。それを殺さないような防具設計が求められる。
疲労時にも防具が邪魔になって攻撃を避けられないことがないよう、彼女は両手両足に重りを付けた状態でシャドウボクシングっぽいことをさせられていた。
「これ、やばっ、もう、むりニャ」
「がんばって! あと3セットです。本当にキツいとき、身体は自然と最高効率で動きます。それを把握しなきゃいけないんだ。さぁ、立って!」
ガロンヌさんがスパルタだった。
──***──
それから3日後。
「トールさん、ミーナさん。お疲れ様でした」
「俺と師匠の設計が完了しました」
ついに設計が完了したらしい。
これから素材集めが始まる。
「できましたか! それで、俺たちはどんな素材を集めてくれば良いですか?」
しかし、何故かふたりの表情が暗い。
「ミーナさんの防具は問題ありません。世界最高峰の防具にしてみせます」
「わーい! ウチ、頑張った甲斐があるニャ」
「ただ問題はトールさんの杖の方です」
「えっ」
「設計はできたが……。製造ができないんじゃ」
「な、なんでですか!?」
ガロンヌさんが杖の設計図を机の上に拡げた。かっこいい杖のデザインの周りに、何やら複雑な計算式や魔法陣が描かれていた。
「この構造であれば、膨大な魔力を扱うトールさんにも耐えるじゃろう」
「だが逆に言えば、この設計以外ではトールさんが使える杖にならねぇんです」
「じゃ、じゃあこれを作りましょうよ」
「だから、それが無理なんじゃよ。ガロンヌ、説明を頼む」
「かしこまりました。えー、良いですか。順を追って説明しますね」
ガロンヌさんが図面の中央を指さす。
「まず杖の芯材に“世界樹の枝”が必要だ。この世界で魔力変換効率が最高の素材。これは絶対条件。そんで、一番の問題だ」
世界樹の枝か。
持ってるな。
「世界樹の枝でもトールさんの魔力を変換しきれなかった時の保険に、魔力を一時貯蔵できる“竜の瞳”ってのが要る。超貴重な世界樹の枝を破壊しないための部材だが、これ自体も貴重。ガレアスって国のコロッセオを統治してる男がこのアイテムを所有しているって情報があります。しかしいくら金を積んでも入手は不可能だ。そいつはこの宝珠を、他国の王族が欲した時でも手放さなかったらしい」
竜の瞳もあるな。
なんか普通にくれたけど。
「王族からは小国を買えちまうぐらいの予算を提示されたが、コロッセオの統治者は断ったって言うんだ。あぁ、もちろん盗み出すのも考えるのは止めておいた方がいい。奴の私有軍はそこいらの国軍よりよっぽど精強で残忍だからな」
「なるほど。参考までに、他にも必要な素材はありますか?」
「杖と魔法の親和性を高めるために、同系統の魔法を使う魔物の角があると良い。だがこれは……。普通はありえないんだが、最高の素材があるんだよな。トールさんがここに来る途中で倒しちまった水の魔族の角。あれです」
「そうですか。では、世界樹の枝と竜の瞳があれば俺の杖を作れるんですね?」
「一応、最期にもうひとつ入手難易度が高い素材がある。これは師匠の方が詳しいから、ご説明いただけますか?」
「わかった。えー、トールさん。儂はお前さんに出会ってから、どうすれば壊れない杖を作ることができるか日々考えてきた。それでとある魔術を新たに生み出したのじゃが、これには貴重な素材を触媒として利用する必要がある」
「その触媒とは?」
「この世界のモノでない生物の体組織。つまり、異世界人の血肉じゃ」
……あれ、俺が異世界人だと言ってなかったっけ?
「血を数滴で良い。異世界人の、つまり勇者様たちの血液が必要なんじゃが、彼らが見ず知らずの儂らのために血をくれるとは考えにくい」
「数滴で良いなら、構いませんよ」
「ん?」
「世界樹の枝と竜の瞳もあります」
机の上に世界樹の枝、竜の瞳、魔族の角を置いた。
「……えっ?」
「は? え、トールさん。これ、えっ」
「あと、言ってなかったかもしれませんが、俺は異世界人です。勇者召喚に巻き込まれてこっちの世界に来たので、勇者ではありませんが」
「トールさんが、異世界人?」
「えぇ。というわけで、素材は全て揃いましたね!」
あとは、よろしくお願いしまーす!!
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