勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

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第2章 水の研究者、魔族と戦う

第53話 魔具師、救出

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 魔導都市ラケイルの中心にある大きな屋敷。ここが魔導都市全域を統治している公爵の屋敷らしい。公爵家は代々魔法使いの家系で、非常に強い火魔法の使い手なのだということを酒場での情報収集により把握していた。

「さて、どっから忍び込もうかな」

「正面突破はしないのかニャ?」

「それやったら、この魔導都市にいる全ての魔法使いを敵にすることになるからね。さすがにそれで勝てるって思える自信はないよ」

 一対一なら負けない自信がある。
 魔族にも勝てたし。

 でも物量で攻められるとヤバいかもしれない。そもそも俺が開発してきた水魔法は暗殺に向いた魔法が多い。音を立てず、敵が気付いた時には既に俺が敵の命を掌握している。そんな魔法を目指してきた。

 敵の血を使えば多数が相手でも戦えなくはないが、敵が増えればそれだけミーナを守り切れない可能性も高くなる。だから無理はしない。目立つようなことも避ける。

「てことで、まずは敵情視察から。水よマイン広がれリモア

 水を霧状にして広範囲に拡散し、それに触れた魔力を持つモノの所在を把握する魔法を展開した。

「大きな魔力が4、5、6……。強そうなのは全部で8人か」

 世界樹と契約する前の俺と同じくらいの魔力保有者が8人いた。そのうちひとりは地下っぽい所にいて、全く動かない。もしかしたらこれがガロンヌさんなのかも。

 ちなみにこの世界、魔力だけを広げて索敵するのは不可能だ。色々試してみたが、自分の身体から離れた魔力に触れた他人を検知するのができなかった。魔力は魔法にしなければ二次的な効果を得ることができない。それがこの世界のルール。

 そもそも魔法で敵を探すってことがあまりされないらしい。酒場で酒を奢ったら、数人の魔法使いたちが色々教えてくれた。

 風魔法とか土魔法は索敵に向いていそうな気がするんだけどな。索敵って戦闘の基本じゃないのか? でもここではそれが疎かにされている。まぁ、俺としてはその方が助かるわけだが。


「ミーナ。今から侵入するよ。犯罪者になるけど、本当に大丈夫? この先ずっと魔法使いたちに追いかけられる可能性もある」

「いまさら何言ってるニャ。たとえこの都市で犯罪者になっても、トールを受け入れてくれる国はミスティナスとかガレアスとかいくつもあるニャ。それがウチらを守ってくれるはずニャ。だから気にせず行くニャ!」

 そう言ってくれると心強い。
 本当に良いパートナーだな。

「ありがと。じゃあ、ガロンヌさん救出作戦、開始だ!」


 ──***──

 俺はミーナと貴族の屋敷に忍び込んだ。

 城のような造りで城門にも城壁にも見張りがいたが、水魔法で索敵し、水魔法で見張りの注意を引くことでバレずに屋敷内に侵入することができた。

「ミーナ、止まって」
「はいニャ」

 廊下の曲がり角でヒトが近づいてくるのを検知し、近くの部屋に隠れた。そうしてやり過ごし、地下への入口を探す。

「だぶんこっちだニャ」

 ミーナの勘で進んで良く。なんとなく案内を任せてみたが、少しづつ地下で動かないヒトに近づいている。

「この先の部屋、ちょっと下水の臭いがするニャ。地下室から空気が流れて来てるのかもニャ」

「了解」

 その部屋に入ってみると、奥の方に地下へと続く階段があった。

 ちなみにだが、この都市には治安維持部隊がいて、犯罪者は治安維持部隊が管理する牢獄に入れられるらしい。そこではなく、こんな屋敷の地下に閉じ込められている時点でガロンヌさんの事情が特殊であると分かる。

 注意しながらミーナとふたりで階段を降りていった。


「……誰だ。新しい拷問官か?」

 身体中がボロボロの男が鉄格子の向こう側にいた。

 小柄で、顔の半分以上を覆う髭が特徴。ドワーフという種族だ。彼の身体は興行師に拷問を受けた時の俺以上に酷い有様。髭は血のようなもので赤黒く染まっていた。

「猫獣人? 女連れとは、また変わった奴が来たな」

「ガロンヌさん、ですか?」

「いかにも。だが名前以外、お前らに教えることなど何もない。魔封じの魔具に関する製法も維持の方法も、絶対に教えない」

 かなり暴力を受けていたと思われるが、彼の目には強い意志が垣間見えた。強いヒトなんだ。そして俺の勘だけど、やっぱり彼は良いヒトだと思う。

「俺、シャルロビさんに紹介されて、貴方を杖を作って欲しくてこの街に来ました」

「し、師匠に? あんた、師匠に会ったのか!? 師匠は今、どこにいるんだ?」

「サハルって人族の国で魔道具屋をやっていますよ。これ、紹介状です」

 シャルロビさんに書いてもらった手紙をガロンヌさんに手渡す。彼はそれを真剣な表情で読み始めた。

「これは……。まさしく師匠の筆跡。おぉ、師匠。ご無事でしたか」

「どうでしょう。俺の杖、作ってくれますか?」

「師匠の杖でも耐えられなかったというのが信じられん。しかし、俺にあんたの杖を作るよう書いてある。師匠のお言葉なら従いたいが……」

 ガロンヌさんが鉄格子を握りしめ、残念そうな表情で俺を見てくる。

「こんな状況ではな。すまないが」
水よマイン回れディスドーヴ

 水魔法で鉄格子を切断する。

「なっ!? な、なんだその魔法は!?」

「俺が開発したオリジナルの水魔法です。さぁ、こちらへ。歩けますか?」

 手を差し出すと、その手を取ってガロンヌさんは牢の外へと出てきた。身体中傷だらけなのに、自力で立てる彼の体力が凄まじい。これがドワーフか。 

「まずはここから逃げましょう」

「状況が飲み込めてないが、あんたは」

「俺、トールって言います」

「ウチはミーナだニャ」

「トールさん。あんたたちは俺を助けに来てくれたって理解して良いのかな?」

「えぇ。ガロンヌさんに杖を作ってもらうために、助けに来ました」

「トールは最強ニャ。大船に乗ったつもりでいるニャ」

 何故か自慢げなミーナ。

「そいつは心強いが……。護衛の魔法使いたちはもう倒したか?」

「いえ。ここまでは見張りとかにバレないように侵入してきました。誰とも戦闘はしていませんよ」

「そんなことが可能なのか。そうか、そのために獣人をつれて」

「違うニャ。トールの魔法の力だニャ。獣人の嗅覚より敵の位置を把握することに優れた魔法をトールが使えるからニャ」

「そ、そいつは凄い。だが、護衛長の雷魔法使いは健在ってことだな。逃げたのがあいつにバレたらおしまいだ。魔導都市ラケイルで最強の男が貴族の護衛をやってるから、ここでは誰も逆らえない。しかもトールさんは水魔法使いなんだろ? だったら、絶対に奴とは戦っちゃなんねぇ!」

 やっぱり水魔法の天敵って、雷魔法だと思われるよね。

 でも、大丈夫です。
 なんといっても──


「おやおや。叛逆者ガロンヌ、何をしているのですか?」

「っ!? ま、マズイ!」

 眼鏡をかけた金髪の男が階段を降りてきた。肩の高さくらいまである大きな杖を持つ彼を見てガロンヌさんが青い顔をしている。

 当然だが、俺はコイツが接近してきたことには気づいていた。

「あなたが、その檻を? どんな魔法を使ったのか気になりますね」

「トールさん。戦っちゃダメだ! アンタの魔法じゃ、コイツには勝てねぇ!!」

 そんなこと言ったって、コイツ倒さなきゃ逃げられないでしょ。

水よマイン舞えリクォード

「ほぉ、水魔法ですか。その水量を操れるというだけで、貴方がとてつもない魔法使いであることが分かります。ですが──雷よラーム

 眼鏡の男の身体に電撃がほとばしる。

「相性が最悪でしたね。貴方の水魔法では私の魔法を防げません。しかし貴方ほどの魔法使いを死なせてしまうのは非常に惜しい。だからどうでしょう。そのドワーフ、ガロンヌを捕まえて大人しくこちらに差し出せば、貴方は見逃します。ご希望ならここの主に雇ってもらえるよう、私が進言しても良い」

「……雇用条件は?」

 誘いに乗る気は全くないが、とりあえず聞いてみる。

「潤沢な魔法研究資金が与えられます。それにこの都市での横暴は何でも許される。魔法のまとにする実験体も手に入る。特に魔法耐性の高いエルフを殺す魔法開発には、貴重なエルフの奴隷が欠かせません。それだって望めばいくらでも」

 救いようのないクズだ。
 こいつもクズだった。
 
 聞いておいて良かった。
 コイツ、殺さなければ。


「おや? その手を私に私に向けるということは、交渉決裂ですか」

 眼鏡男が俺に向けて杖を掲げる。それを見てガロンヌさんが慌てた。

「だ、ダメだ! 俺は大人しく捕まる。だから、このふたりは逃がしてくれ」

「交渉は失敗だったのです。もう後戻りなんてできません。ちなみに私の魔法制御は完璧なのでご安心ください。ガロンヌと、そこの獣人は気絶程度で済むようにしてあげます。獣人はあとでゆっくり、魔法の実験体に使わせてもらいますね」

水よマインつらぬクフィ──」
雷よラーム貫けクフィツァ!」

 眼鏡の方が後から詠唱を始めたのに、俺より魔法の発動が早かった。

 これが杖の効果か。
 やっぱり杖が欲しくなる。


「ふふ、ふははははっ! ちょっと他より魔法が使えるからって調子に乗りやがって、馬鹿が!! 水魔法使いが、私に勝てるわけないでしょうが!」

 雷魔法の弱点って、発動時に強烈な雷光で視界が一時喪失することだと思う。

 俺たちは健在なのに、もう勝った気でいるんだ。

 だから発動が少し遅くても問題ない。


水よマイン貫けクフィツァ
「ぐふっ!!?」

 俺の放った水弾が雷魔法使いの腹を貫いた。


「な、なん、で──」

 訳が分からないという表情をしながら、腹に大穴を開けた彼は後ろへゆっくり倒れて動かなくなった。
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