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第2章 水の研究者、魔族と戦う
第52話 尋問
しおりを挟む「えっ、なんで? 殺しちゃったのかニャ?」
全身の血液を弾けさせたわけじゃなく、バドスが飲み込んだ俺の水を体内で弾けさせただけ。内臓がズタズタになって即死はしたが、いつかのような派手な血しぶきは上がっていない。
「ガロンヌさんの居場所、聞かなくて良かったのかニャ?」
「コイツ、俺たちを騙して捕まえようとしてたんだ。ミーナは睡眠薬を飲まされて今まで寝させられてたの」
「睡眠薬を……。ウチ、匂いも味もまったく気づけなかったニャ」
「そういう特殊な薬らしい。今後は気を付けなきゃな」
ミーナの嗅覚と味覚が優れていても、それを騙せてしまう薬品があると分かって良かった。俺たちはいつも一緒だから、ふたり同時に食事や飲み物に手を付けないという手段で予防できるだろう。もちろん俺は今後も誰かに招かれた場で出された飲食物に手を付けるつもりはないが。
この世界、ほんとに誰も信じられない。
「てことはトールが今回もウチを守ってくれたのかニャ?」
「そうなるかな」
ミーナだけが俺の味方だ。
絶対に守るよ。
「えへ、ありがとニャ」
目の前でヒトを殺しても、ミーナが俺の行為を責めるようなことはない。だから迷わず手を下せる。
こちらこそお礼を言いたい。
いつも俺を許してくれてありがとう。
「そういえば、ガロンヌさんがどこかに捕まってるっぽいんだ。俺らを騙そうとした悪い奴の敵ってことは、良い人なんじゃないかなって思うんだ」
「敵の敵は味方って奴ニャ」
「うん、それ」
「助けに行くのかニャ?」
「そのつもり」
「どこに捕まってるのか分かるのかニャ? 情報提供者が死んじゃってるニャ」
「大丈夫。あと10人、別の場所に捕まえてあるから」
「あ、相変わらずトールはバケモノ級に強いニャー」
お褒めの言葉として受け取っておこう。
──***──
俺が水の索敵魔法で見つけた空き家にて。
「さっきのヒトみたいに、パン! ってなりたくなければ、ウチの質問に嘘偽りなく答えるにゃ」
「わ、分かった! 何でも言う、なんでも答えるから殺さないで!!」
「はいはい。とりあえずアンタには、こっちの部屋で話を聞かせてもらうニャ」
そう言いながら、水魔法で拘束された男のひとりをミーナが別室に連れていく。
俺は来なくて良いと言ったが、ミーナは“ウチも共犯だニャ”と言って付いてきてくれた。だからふたりで衛兵を拘束していた場所にやって来たのだが、ひとりの男が俺の拘束から抜け出していた。
そいつが俺たちに攻撃を仕掛けてきたんだ。
咄嗟のことだったので、衛兵たちにも飲ませていた水を体内で弾けさせた。こいつらは悪いことしたという確証がまだないから、殺すつもりなんてなかったのに……。
まぁ、ヤっちゃったもんは仕方ない。さっさと切り替えよう。
見せしめができたことで、嘘を吐いたり質問に応えなければ死ぬと理解してもらえて結果良かったのかもな。ちなみにミーナがひとり連れて行ったのは、同じ場所で質問したら口裏合わせされる可能性があるため。
ここで俺が聞きだした情報とミーナが別室で聞いた情報を照らし合わせ、嘘が無いか確認する。これが尋問の基本。
俺は水魔法で対象者の心音を聞くってこともできるけど、メンタリストじゃないんだから精度はそれほどないと思う。分かるのは典型的な嘘つきの心音くらい。
今、俺の目の前にいる衛兵たちは死の危機感からか、うるさいほど心臓の鼓動が激しい。こんな状態じゃ何も分からない。だから普通に質問することにした。
「ガロンヌさんって、今どこにいるの?」
「やっぱり、お前たちは奴の仲間か」
「質問してるのはこっち。でも、とりあえず答えておこうかな。俺たちはある人から紹介されてガロンヌさんに杖を作ってもらうためにこの都市に来た。だからまだガロンヌさんの顔も知らない」
「ふん。どーだか」
殺されるかもしれないのに、良くそんな態度を取れるね。
「別に信じてくれなくていい。俺の質問に答えろ」
水の塊を宙に浮かせて、それからトゲトゲを出す。
「正直に答えないと、お前らに飲ませた水をこうする」
「……ガロンヌは、製造を禁止されている魔具を作りやがった。それで、この都市を治める貴族の屋敷の地下牢に幽閉されている」
「禁止されてる魔具って、どんなの?」
「魔法を無効化する魔具だ」
「魔法使いにとって脅威となる」
「研究するのも禁忌のそれを」
「あ、あいつは実現しやがった」
へぇ、魔法の無効化か。
でもここは魔導都市なんだから、魔法無効化の研究を推進して魔法使いが暴走した時に対応できるような技術として確立すべきだろ。それを逆に禁止するって……。
統治者の貴族が馬鹿なのか?
なんにせよ、ガロンヌさんが捕まった事情と場所が分かった。俺としては彼が悪いことをしたようには思えない。救出に行くのは俺の中で決定している。
ガロンヌさんに杖を作ってもらうのと、魔法を無効化する魔具についても色々聞きたいな。もし彼以外が同じような発明をしていたら、魔法が無効化された俺はただの雑魚になってしまう。その対策を考えなきゃいけない。
「トール! ガロンヌさん、貴族の屋敷の地下に閉じ込められてるっぽいニャ!!」
ミーナが部屋に飛び込んできた。
情報を聞き出せてご機嫌だ。
俺に褒めてほしいのだろう。近づいてきて、俺の顔をじっと見ている。
可愛いから頭を撫でてあげた。
「よしよし。偉いぞ、ミーナ」
「えへへ。ウチ、偉いニャ」
だけど本当は俺とふたりで聞き出したことを話し合って、情報に間違いが無いか確認しなきゃいけないんだ。まぁ、今回は間違いなさそうなのでもういいか。
「情報ありがとうございました。今から俺たち、ガロンヌさんを助けにいきます。もし貴族の屋敷に彼が居なかったら、ここに戻って来て貴方たち全員殺しちゃうかもしれません。良いですね? さっき言ったの、嘘じゃないですね?」
再度確認したが、反応はなかった。
「あれ、俺の声が聞こえなくなりました?」
「さっさと行けよ! どうせガロンヌの救出なんて不可能だ。俺らとはレベル違いに強い魔法使いたちが守ってる屋敷に忍び込んで無事に帰ってこれるもんならな!!」
威勢がいいねー。でもそれ、捕まってる時にやらない方が良いよ。
俺を煽った奴の頭部を水で覆う。
連帯責任で残りの奴らも。
苦しそうに床で暴れまわる衛兵たち。
必死に水から逃れようとするが、俺の魔法は彼らの頭部を包み込んで離れない。
「聞こえてないと思うけど、その魔法は1分後に解除されるように設定しておいたから。それじゃ、ミーナ。行こうか」
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