勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

文字の大きさ
上 下
51 / 101
第2章 水の研究者、魔族と戦う

第51話 クズしかいない

しおりを挟む

「おい、バドス。誰もいねーじゃねーか」

「なっ!? そ、そんな!」

 俺たちが先ほどまでいた部屋に10人ほどの男たちが入ってきた。俺は今、ミーナを抱えてバドス魔道店の屋根裏に身を潜めている。この店の店主であるバドスが連れてきたのは、衛兵のような恰好をした男たち。

 この屋根裏からは店内にいるバドスや衛兵たちの会話が聞こえる。

「逃げられたのか?」

「と、扉はどこも開いていませんでした」

 脱出する際、部屋の扉が店から外に出る扉がどこも開かなかった。全ての出入り口が何らかの方法で塞がれていたんだ。仕方なかったのでひとつの窓枠を水魔法で綺麗に切断し、そこから脱出した。脱出後に窓枠をはめ直しておいたので、力強く押したりしない限りそこから逃げたとは思われないだろう。

「くそ! 俺の薬に気付いたってのか!?」

「お前の薬って、獣人でも匂いに気付けないんだろ?」

「……そのはずです」

 やっぱり睡眠薬が入ってたのか。激しく揺すってもミーナが全く起きなかったことから、かなり強い薬なのだと思われる。そんなものをミーナに飲ませやがって。

 ふつふつと怒りが湧いてくるが、今は我慢の時。まずは情報を集めないと。

「その逃げたふたりが、ガロンヌの協力者ってのは確かなのか?」

「えぇ、間違いありません」

 バドスが勝手なことを言っている。

 何が間違いありませんだよ。ガロンヌさんの顔も見たことないわ!

「人族の男と女猫獣人のふたり組です。どちらもゴールドの冒険者証を身に着けていました。きっとガロンヌに材料提供している奴らっすよ」

「ゴールドの冒険者……。そいつらがガロンヌの味方だってなら、絶対に捕まえなきゃなんねーな。アイツが違法に強力な魔具を作れたのもその冒険者たちの協力があってのことだろう」

「えぇ。俺もそうだと思います」

 ガロンヌさんに杖を作ってもらいたいって言っただけなのに、なんで俺らが彼の協力者ってことになってんの? それに違法な魔具って……。ガロンヌさん、貴方いったいなにやったんですか?

「と、ところで旦那。ガロンヌの協力者に関する有力な情報を提供した報奨金についてですが」

「払えるわけねーだろ! ここにその冒険者たちがいたって証拠がどこにもないじゃねーか!! お前の証言だけで報奨金をださせるか!」

 ……ほう。
 金欲しさに俺らを売ろうとしたと。

 そうか、そういうことですか。

 確かに、この国ではゴールド級の冒険者であってもそれほど信頼度が高いわけじゃないらしい。だからって、ガロンヌさんのことを知りもしない俺たちを突き出したところですぐにバレるだろ。

 それともあれかな。余所者でガロンヌさんの知り合いって言う奴がいたら、問答無用で投獄されたりするような状況にでもなってんのか?
 
「ほんとにいたんです! そ、そうだ。これを見て下さい。茶を飲んだ形跡がある。俺が配合した眠々草入りの茶です。どちらかがこれを飲んだのなら、目を覚まさせるには同じく俺が配合した解眠薬が必要。奴らがそれに気付けば、絶対にココへ戻ってきます!」

 あー、そう。
 死にたいらしいね。

 おっけー。わかった。

「……お前、そうやってガロンヌの知り合いをでっち上げようとしてるだろ」

「や、やだなぁ。旦那たちだって、ガロンヌの仲間を何人か捕まえなきゃいけないってノルマがあるんでしょ? 俺はそれに善意で協力してるだけっすよ」

「おい、勝手なことを言うな」
「俺らは仕事をしてるだけ」
「確かにノルマはあるけどな」

 そう言って衛兵たちは笑っていた。

 この世界、クズしかいないのか?

 逆に考えれば、このクズたちに捕まっているガロンヌさんの方が良い人である可能性が高そうだ。善人って悪者に目の敵にされがちだから。

 てことで、ガロンヌさんを助けに行こう。その前にミーナを起こすための薬を作ってもらわなきゃな。


 ──***──

 その日の夜。

「クソが。アイツら、いったいどうやって逃げやがった」

 店でひとり、魔具の整備をしながら俺たちへの悪態をつくバドス。背後にいる俺の存在にはまだ気づいていないらしい。

水よマイン
「──なっ!?」

 さすが元冒険者。良い反応だ。
 でも、もう遅い。

包めラトゥーフィア

 水がバドスの頭部を包み込む。

 彼は呼吸ができず、苦しそうにその場で暴れた。店の棚にある魔具がいくつも地面に落ちて瓶が割れる。

 そのまま1分待った。

 大抵のヒトが溺れても意識を失わない時間。脳に障害も残らず回復可能だとされる時間だが、苦しむ時間として最長なのがおよそ1分。

 魔法を解除すると、バドスは苦しそうに咽こんでいる。


「こんばんわ。解眠薬を貰いにきました」

「お゛、おま゛えば、ひる゛の」

 かなり水を飲み込んだらしく、まだ苦しそう。

 でも俺には関係ない。

「解眠薬を作れ。断ったら殺す」

 彼の目の前に水の塊を浮遊させる。

「もし俺を騙そうとしたら殺す」

「う゛、あ゛ぁ゛。だ、だす、げで」

 バドスが這って外に逃げようとする。

「ちなみにお前の知り合いの衛兵たちは全員拘束してる。助けを求めても無駄だよ。この店に俺たちが戻ってくるのを待ってたんだろ?」

 周辺の店舗や家屋に隠れていた衛兵たちは全員水魔法で捕縛し、近くの空き家にまとめて放り込んでいる。ここは魔導都市なんだけど、水魔法への備えが全くされていないから楽勝だった。


「もう一度いう。解眠薬を作れ」

「お、お゛れをごろ゛ぜば、ながま゛は、い゛っじょう、おぎない゛ぞ」

 だいぶ肺に水が入ってるらしい。
 非常に言葉が聞きずらい。

 でも言いたいことは分かる。

水よマイン回れディスドーヴ

 バドスの顔付近で水を超高速回転させる。床に落ちていた商品の短剣を手に取り、それを彼の目の前で細切れにしてみせた。

「もしミーナが起きなければ、俺はこれでお前を指先から刻んでいく」

「ひ、ひぃぃ」

 これでもコイツが拒否するのなら、エリクサーを使ってみよう。ヒトが作った睡眠薬なんてエリクサーで対処できると思う。もしダメなら世界樹に相談する。それでミーナが起きたらバドスは用済みになる。

 でも一番簡単なのは解眠薬を作ってもらうこと。

「これが最後。解眠薬を作れ」

「わ、わ゛がりまじだ」


 ──***──
 
 バドスは背後で監視する俺に怯えながら薬を調合した。

 それが毒でないか彼に飲ませて確認した後、ミーナにも飲ませる。

「ミーナ。起きて」
「んぅ。ふ、にゃぁぁぁ」

 大きな欠伸をして目を覚ました。
 起きてくれて良かった。

「あ、トール。おはよニャ」
「おはよう」

 まだ夜だけどな。

「こ、これで、ゆるしてくれるか?」
「うん。解放してあげる」

 俺に殺されるかもしれないって恐怖から。

水よマイン弾けろラツォート

 ミーナに薬を盛った男を許せるはずもなく、俺はバドスが飲み込んだ水を体内で弾けさせた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...