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第2章 水の研究者、魔族と戦う
第41話 資金調達
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人族の王国サハルから魔導都市ラケイル行こうとしたが、その前にやるべきことを思い出して逆方向のガレアスに向かっている。
やるべきことというのは、奴隷商人の財産を回収すること。
せっかく隠し金庫の場所を聞いたのだから、ちゃんと約束の資産の半分を貰っておかなければもったいない。
「奴隷商人の部下とかが大人しくお金くれるかニャ?」
「無理だと思うよ。でも抵抗してくるなら、こっちもそれなりに対処する。だって代表の彼が資産の半分をくれるって約束したのは本当なんだから」
それに俺の杖を作ってもらうのにもお金が必要かもしれない。
魔導都市で俺の杖を作るように言ってくれたのは、シャルロビという魔道具屋の店主。彼はサハルで最もすごい魔具師だという。他の魔道具屋にも何件か立ち寄ってみたんだけど、どこの店主もシャルロビさんが一番の魔具師だと言っていた。
本当は王都の研究機関で統括をしていてもおかしくないほどの人物らしい。政権のゴタゴタに巻き込まれ、国境に近いこの街に追いやられた。でもその実力は国も認めているとのこと。
そんなシャルロビさんの杖でも俺の魔力量に耐えられなかった。
俺用の杖を作るのには。とんでもない費用がかかる可能性があるんだ。
だから俺は奴隷商人からお金を貰いに行く。俺を売買してくれた慰謝料も含めて、ちょっと多めに貰っちゃってもいいだろう。文句があるなら言いに来てほしい。彼がまだ、生きていれば。
「あっ、見えてきたニャ」
「……うん」
俺にとっては嫌な思い出の場所。
奴隷市だ。
冷たく硬い石の床、腐りかけの食事しか与えられず、ちょっとでも反抗的な態度を見せれば容赦なく殴られる。ここで過ごした時間はそれほど長くなかったが、人権を無視した扱いをされた最低な場所。
その最低な場所は、気分が悪くなるほど多くのヒトで活気づいていた。
「たくさんヒトがいるニャ」
「俺がいた時もこんな感じだった。ミーナはこの奴隷市には来てないの?」
「ウチはこことは別の奴隷市で売られてたニャ。ここよりは少しだけマシな感じだったけどニャ」
最低な会話だ。それでもミーナは奴隷時代を笑い話にできてしまうような強い心の持ち主だから平気そう。彼女の明るさに俺はいつも救われている。
「それで。どうするニャ?」
「どうするとは?」
「ここでひと暴れして、奴隷たちをみんな解放しちゃうかニャ? 奴隷商人の資産の半分を貰えるってことは、ここにいる奴隷たちの半分はトールのモノってことニャ」
おぉ、それは考えてなかった。
「俺は奴隷全員を解放しようとは思ってないよ」
「そうなのかニャ?」
「ギャンブルで負けて、自責で奴隷になったりするヒトとかもいるでしょ。そういうのまで助けようとは思わない。親を殺されて奴隷にされた子どもたちはかわいそうだけど、全員は助けられない」
もちろん助けられるなら全員助けたい。でも俺たちだけでは、助けた後に彼らの生活を支援してあげることができないんだ。奴隷から解放されても生きていけなければ意味が無い。奴隷でいた方が長生きできる可能性すらある。
だから俺は今回、お金だけもらって逃げるつもりだった。
今の俺に大切なのはまずミーナ。そして一緒にこちらの世界に来た高校生たちだ。申し訳ないが、ここで奴隷になっている人たちを助けなきゃって使命感はない。
「よう、にーちゃん。可愛い獣人を連れてんな」
奴隷市を偵察していると、スキンヘッドの男から声をかけられた。
「そいつ売らねーか? 今、ここの主がいないからそんなに出せねーが、これほどの上物なら俺の裁量限界500ギルで買ってやる」
ミーナを買いたいと言い出した。
キレそうになる。
ぐっと耐え、笑顔で対応する。
「すみません。彼女は俺の連れなので絶対に売ったりしません」
「そうか。残念だな──って、もしかしてお前……。あの無能異世界人か?」
俺はこの男に見覚えはない。それでもこいつは俺を知っているようだ。裁量とかって言ってたし、奴隷商人が不在の間ここを任されているナンバー2とかなのだろう。
「えぇ。おかげさまでコロッセオから無事に出てくることができました」
「くはははは! 俺らの言葉を覚えたのか! 頑張ったな!」
なぜか笑い始めるスキンヘッド。
「いやぁ、商品が自ら商品価値を高めて。上物連れて戻ってくるとはな。ほんとにお前、最高だよ」
「……あ゛?」
「おい。お前ら!!」
スキンヘッドが手を叩く。
ぞろぞろと筋骨隆々の男たちがやって来て、俺とミーナを取り囲む。
「こいつはコロッセオから逃げてきた奴隷だ! また捕まえて売り物にしろ!!」
「「「おう!!」」」
俺がコロッセオで何をやったか、彼らは知らないようだ。そして奴隷から解放されてコロッセオを出た者を捕まえてまた奴隷にしようとするなんて信じられない。
こいつら、人間のクズだ。
もともとクズだと思っていたが、想像以上に腐っていた。
「ん? なんだこの水。なんで浮いて──」
それがスキンヘッドの最期の言葉となった。
空中に浮いた水球がスキンヘッドの口の中に飛び込み、その気道を塞いでいる。
俺はこうした人ごみに入る時、必ず事前に魔法をかけた水を準備しておく。そうすることで詠唱なしで自由に水を操作できるんだ。
呼吸ができず、地面をのたうちまわるスキンヘッド。彼の部下たちも同じように地面で暴れていた。
数分後、彼らは全員動かなくなった。
遠巻きに俺たちを見ていた人々は、俺が視線を向けると堰を切ったように走って逃げていく。一般人と関係者を区別するのは難しいし、逃げるのをわざわざ追いかけることはしない。
さて、思いがけず奴隷市を占拠できてしまった。
「ミーナ、やっぱりここの全部もらっていこう」
「りょーかいニャ!」
奴隷を助けるつもりはなかったが、結果としてこうなってしまった。俺が何とかしてあげるしかないだろう。ただ、ここに残された奴隷は少なく見積もって100人はいる。俺とミーナだけでは絶対に奴隷全員を養えない。
だからまた、彼を頼ろうかな。
やるべきことというのは、奴隷商人の財産を回収すること。
せっかく隠し金庫の場所を聞いたのだから、ちゃんと約束の資産の半分を貰っておかなければもったいない。
「奴隷商人の部下とかが大人しくお金くれるかニャ?」
「無理だと思うよ。でも抵抗してくるなら、こっちもそれなりに対処する。だって代表の彼が資産の半分をくれるって約束したのは本当なんだから」
それに俺の杖を作ってもらうのにもお金が必要かもしれない。
魔導都市で俺の杖を作るように言ってくれたのは、シャルロビという魔道具屋の店主。彼はサハルで最もすごい魔具師だという。他の魔道具屋にも何件か立ち寄ってみたんだけど、どこの店主もシャルロビさんが一番の魔具師だと言っていた。
本当は王都の研究機関で統括をしていてもおかしくないほどの人物らしい。政権のゴタゴタに巻き込まれ、国境に近いこの街に追いやられた。でもその実力は国も認めているとのこと。
そんなシャルロビさんの杖でも俺の魔力量に耐えられなかった。
俺用の杖を作るのには。とんでもない費用がかかる可能性があるんだ。
だから俺は奴隷商人からお金を貰いに行く。俺を売買してくれた慰謝料も含めて、ちょっと多めに貰っちゃってもいいだろう。文句があるなら言いに来てほしい。彼がまだ、生きていれば。
「あっ、見えてきたニャ」
「……うん」
俺にとっては嫌な思い出の場所。
奴隷市だ。
冷たく硬い石の床、腐りかけの食事しか与えられず、ちょっとでも反抗的な態度を見せれば容赦なく殴られる。ここで過ごした時間はそれほど長くなかったが、人権を無視した扱いをされた最低な場所。
その最低な場所は、気分が悪くなるほど多くのヒトで活気づいていた。
「たくさんヒトがいるニャ」
「俺がいた時もこんな感じだった。ミーナはこの奴隷市には来てないの?」
「ウチはこことは別の奴隷市で売られてたニャ。ここよりは少しだけマシな感じだったけどニャ」
最低な会話だ。それでもミーナは奴隷時代を笑い話にできてしまうような強い心の持ち主だから平気そう。彼女の明るさに俺はいつも救われている。
「それで。どうするニャ?」
「どうするとは?」
「ここでひと暴れして、奴隷たちをみんな解放しちゃうかニャ? 奴隷商人の資産の半分を貰えるってことは、ここにいる奴隷たちの半分はトールのモノってことニャ」
おぉ、それは考えてなかった。
「俺は奴隷全員を解放しようとは思ってないよ」
「そうなのかニャ?」
「ギャンブルで負けて、自責で奴隷になったりするヒトとかもいるでしょ。そういうのまで助けようとは思わない。親を殺されて奴隷にされた子どもたちはかわいそうだけど、全員は助けられない」
もちろん助けられるなら全員助けたい。でも俺たちだけでは、助けた後に彼らの生活を支援してあげることができないんだ。奴隷から解放されても生きていけなければ意味が無い。奴隷でいた方が長生きできる可能性すらある。
だから俺は今回、お金だけもらって逃げるつもりだった。
今の俺に大切なのはまずミーナ。そして一緒にこちらの世界に来た高校生たちだ。申し訳ないが、ここで奴隷になっている人たちを助けなきゃって使命感はない。
「よう、にーちゃん。可愛い獣人を連れてんな」
奴隷市を偵察していると、スキンヘッドの男から声をかけられた。
「そいつ売らねーか? 今、ここの主がいないからそんなに出せねーが、これほどの上物なら俺の裁量限界500ギルで買ってやる」
ミーナを買いたいと言い出した。
キレそうになる。
ぐっと耐え、笑顔で対応する。
「すみません。彼女は俺の連れなので絶対に売ったりしません」
「そうか。残念だな──って、もしかしてお前……。あの無能異世界人か?」
俺はこの男に見覚えはない。それでもこいつは俺を知っているようだ。裁量とかって言ってたし、奴隷商人が不在の間ここを任されているナンバー2とかなのだろう。
「えぇ。おかげさまでコロッセオから無事に出てくることができました」
「くはははは! 俺らの言葉を覚えたのか! 頑張ったな!」
なぜか笑い始めるスキンヘッド。
「いやぁ、商品が自ら商品価値を高めて。上物連れて戻ってくるとはな。ほんとにお前、最高だよ」
「……あ゛?」
「おい。お前ら!!」
スキンヘッドが手を叩く。
ぞろぞろと筋骨隆々の男たちがやって来て、俺とミーナを取り囲む。
「こいつはコロッセオから逃げてきた奴隷だ! また捕まえて売り物にしろ!!」
「「「おう!!」」」
俺がコロッセオで何をやったか、彼らは知らないようだ。そして奴隷から解放されてコロッセオを出た者を捕まえてまた奴隷にしようとするなんて信じられない。
こいつら、人間のクズだ。
もともとクズだと思っていたが、想像以上に腐っていた。
「ん? なんだこの水。なんで浮いて──」
それがスキンヘッドの最期の言葉となった。
空中に浮いた水球がスキンヘッドの口の中に飛び込み、その気道を塞いでいる。
俺はこうした人ごみに入る時、必ず事前に魔法をかけた水を準備しておく。そうすることで詠唱なしで自由に水を操作できるんだ。
呼吸ができず、地面をのたうちまわるスキンヘッド。彼の部下たちも同じように地面で暴れていた。
数分後、彼らは全員動かなくなった。
遠巻きに俺たちを見ていた人々は、俺が視線を向けると堰を切ったように走って逃げていく。一般人と関係者を区別するのは難しいし、逃げるのをわざわざ追いかけることはしない。
さて、思いがけず奴隷市を占拠できてしまった。
「ミーナ、やっぱりここの全部もらっていこう」
「りょーかいニャ!」
奴隷を助けるつもりはなかったが、結果としてこうなってしまった。俺が何とかしてあげるしかないだろう。ただ、ここに残された奴隷は少なく見積もって100人はいる。俺とミーナだけでは絶対に奴隷全員を養えない。
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待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
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となります。
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