勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

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第2章 水の研究者、魔族と戦う

第39話 杖を買おう

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「そういえば、トールって杖は持たないのかニャ?」

 ミーナの身体を念入りにチェックした日の翌朝。宿のそばにある小洒落た店で朝食をとっていると、ミーナが話しかけてきた。

「杖?」

「魔法使いはみんな杖を持つニャ。杖があれば基礎魔法なら詠唱なしでも発動できるようになるニャ。詠唱した方が威力が上がるから、杖を持っていても詠唱する魔法使いが多いみたいだけどニャ」

「へぇ、そうなんだ」

 杖か。確かに魔法使いと言えば杖だよな。ミスティナスでラエルノアを助けた時、彼女に火魔法を放った魔法使いも杖を持っていた。

「トールは杖がなくてもすっごい魔法使えちゃうから要らないかもしれないニャ。でも逆に考えれば。杖がなくても強いトールが自分にあった杖を持ったら……。最強の魔法使いになれちゃうんじゃないかニャ」

「ふむ、一理あるね」

 ちょっと杖が欲しくなった。

 そう言えば世界樹が杖にできる枝をくれるって言ってたな。ただ、今はまだミスティナスに行く心の準備ができない。ララノアに別れもなしに逃げたことを怒られるんじゃないかって思うと気が進まないんだ。

「杖って、この街でも買えるかな」

「魔道具屋があったから買えるニャ。そもそもトールは魔法使いなのに、一度も魔道具屋に寄ってないことが異常ニャ」

「魔道具ってそんなに重要?」

「もちろんニャ! 杖だけじゃなくて魔力回復薬とか、魔法の威力を上げる装飾品とか。魔法使いにとっての必需品をトールは一回も買いに行こうとしてないニャ」

 そんなものがあるなんて知らなかったから仕方ないだろ……。

 てか、魔力量って薬で回復できるんだ。そもそも一晩寝れば魔力は全回復しているし、大人数と戦う時も敵の魔力を含んだ血を分離した水を使って戦うから、俺が魔力切れになることはほとんどない。だから必要だと思ったことがなかった。

 魔法の威力を上げられる杖や装飾品は欲しいな。

 魔力回復役も、いざという時のためにいくつか入手しておこう。

「今日は魔道具を色々買おうか。良さそうな杖があればそれも買うよ」

「それがいいニャ! じゃ、今日はこれからお買い物デートだニャ」

 自分で言ったくせに、恥ずかしがって頬を赤らめているミーナが可愛い。俺たちはその後、ゆっくり朝食を食べて街に繰り出した。


 ──***──

 この街には10を超える魔道具屋があった。

 今まで興味を持たなかったので、こんなに店があることに驚く。ちなみに王都ではない中規模の街でここまで魔道具屋がたくさんあるのは魔法使いの割合が多い人族ならではだという。

「こんなのはどうかニャ?」

 綺麗な装飾の施された杖をミーナが見せてくる。

 見た目はかなりかっこいい。でも持ってみると、なんとなくこれじゃない気がするんだ。杖が嫌がってる、そんな感じ。

「うーん、ちょっと違うかな」

「そうかニャ……、杖選びって、難しいニャ」

 杖ならなんでも良いと思っていたが、いざ選ぼうとすると決まらない。自分でもちょっと不思議。

「にいさん、この杖を持ってみな。儂の自信作じゃ」

 魔道具屋の爺さん店主が俺に杖を勧めてきた。

 言われた通りに持ってみるが、何故か納得いかない。

「すみません。説明できないんですが、この杖は俺には合わないと思います」

「そうか、それは凄い」

 すごい? 
 えっ、何が?

「ある一定以上の実力を持った魔法使いになるとな、自分の魔力に杖が耐えられるかが分かるようになるんじゃ。にいさんはそれが分かって、儂の杖では耐えられんというているんじゃよ」

「いや、ごめんなさい。俺は、そんなつもりじゃ」

「よいよい。自分の力がどんなもんか、知りたくはないか? ちょっと儂についてきなさい」

 とりあえず言われたまま店主についていく。


 やった来たのは店の裏側。そこは魔法を試せるスペースのようで、ちょっと離れた所に的が設置されている。的には切り傷や焼け焦げた跡が見えるので、魔法使いたちがあの的に向かって魔法を放つのだろう。

「この杖を持って、にいさんの魔法で一番魔力効率が悪いのを使ってみなさい」

「魔力効率が悪い魔法、ですか?」

 それなら間違いなく“水よマイン回れディスドーヴ”だ。

 だけど、ここで使って良いのかな? 水魔法ってこの世界じゃ珍しいというし……。俺の魔法を多くの人に知られてしまうのも困る。水魔法が弱いと思われていることも、俺にとってはアドバンテージになる。

 少し悩んだが、なんとなくこの店主を信じて見ようと思った。もし俺が水魔法を使えることがバレても、この世界の人々では対策できないような魔法を考えておけば問題ない。

「わかりました、行きますね」

 渡された杖を構え、的に向ける。

水よマイン回れディスドーヴ!」

 水が的の付近に集まり、回転を始めようとしたとき──


「っ!!?」

 突然杖が爆発した。

 手に怪我はなかったが、いきなりのことで驚いた。

「す、すみません! 売り物の杖を……。弁償します」

 この杖、店主の自信作だと言っていた。きっと高いのだろう。お金はあるが、もしかしたら魔力をちょっと込めたら爆発するような仕組みにしてあって、俺は嵌められたんじゃないかと勘繰った。

「いや、大丈夫だ。それより怪我はないか? 儂の杖が耐えられずに申し訳ない」

 逆に謝られてしまった。
 どういうことだろう?

「言ったじゃろう。にいさんは無意識に杖が自分の魔力に耐えられるかどうかを見抜いておったのじゃ」

 杖が耐えられないって……、文字通り耐えられないのか。魔法使おうとしたら爆発するって危なすぎるだろ。

 あとよくよく考えれば俺ってもともと魔力量が多かったらしい。それが世界樹との契約で数倍になった。今の俺はかなり多くの魔力を保有しているということになる。

「杖は魔力を魔法に変換する補助道具。膨大な魔力を注ぎ込んだ魔法を行使する時、魔力変換が間に合わなければ杖は耐えられず破裂する。そうならぬように素材を厳選し、変換効率の良い杖を作るのが儂ら魔具師の仕事。もう50年近く杖を作ってきたが、儂の杖が耐えられない魔法使いは初めてだ」

 そう言って店主は店舗の方に歩いていき、すぐに戻ってきた。

「ほら、これを持って魔導都市ラケイルへ行きなさい。そこにガロンヌというドワーフがやっている魔道具屋がある。彼ならにいさんでも使える杖を作ってくれる」

 手紙を渡された。
 紹介状というものだろうか。

 手紙にはシャルロビと書かれている。この店主の名前だろう。ちなみにミスティナスでゲットし、今も俺が身に着けている“翻訳水晶は”言葉だけでなく、文字も理解できるようになる優れモノだった。

「シャルロビさん?」

「うむ。ガロンヌの元師匠、シャルロビと申す。儂の紹介だと言えば、杖を作ってくれるじゃろう。ただし材料はにいさんたちで調達する必要があるかもな。まぁ、君らなら何とかなるだろう。先ほどの水魔法、素晴らしかったぞ」

 特に目的地のない旅を続けていた俺たちだが、次の目的地が決定した。

「ミーナ、良いかな?」
「もちろんニャ」

 よし。次の目的地は魔導都市ラケイルだ!
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