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第1章 水の研究者、異世界へ
第36話 心の拠りどころ
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「ミーナ、お待たせ」
「おかえりニャ」
エルフの王国王都の防壁のそばにミーナとララノアがいた。彼女らのそばには防壁守備部隊の隊員らしきエルフたちもいる。
「トールさん! お、お姉ちゃんは!? 無事なんですか!?」
ララノアがすごい勢いで俺に詰め寄ってきた。俺についてきたいとごねる彼女をここに残し、俺はひとりでラエルノアたちの加勢に向かったんだ。
「大丈夫、無事だよ」
「そう、ですか……。良かった」
安心して力が抜けたようで、ララノアはその場にペタンと座り込む。俺が間に合わず、何人かのエルフたちを救えなかったのは黙っておこう。優しい彼女のことだから、傷付いてしまうんじゃないだろうか。
俺からは良いことだけ報告しておいて、あとはラエルノアに任せよう。
「何人か女性と子どもたちが捕まっていたけど、みんな無事に助け出した。あと敵は全員捕まえたから、安心して」
俺は動けなくしただけだが、拘束したりその場で処理したりはラエルノアたちがしていると思う。問題はないはずだ。
「ミーナ、ちょっと良いかな」
「何かにゃ?」
「あ、ララノアはここにいてね」
「はい、わかりました」
荷物を積んだ馬を引いたミーナを呼び寄せ、移動を開始した。ララノアは俺たちがちょっと離れた場所で内輪の話をするだけだと思ったのだろう。素直にその場で待機し、特に何も言わなかった。
──***──
「トール、どこまで行くニャ?」
馬に乗ってしばらく走ったところでミーナが聞いてくる。
「このままミスティナスを離れる」
「えっ!? も、もしかして逃げるのかニャ?」
察しが良いな。
「ちなみに俺はエルフを傷つけるような悪いことはしてない。でもこの国が襲われた原因は俺にもあるみたいなんだ」
「それって、どういう意味ニャ」
少し馬の足を緩め、奴隷商人がミスティナスを襲撃するに至った経緯を説明した。
話していて気分が悪くなる。
俺は自分なりに精一杯生き延びただけなのに、それが何人もエルフ族を死なせて原因になったんだ。じゃあ、俺はどうすれば良かったんだよ……。
最初の戦いで、大人しく剣闘士に殺されておけば良かったのか?
そうすればララノアの知り合いが殺されることもなく、今もミスティナスは平和だったはず。そう考えると、俺が今生きているのは間違っている気がしてきた。
思い出される奴隷商人の言葉。
“全て貴様のおかげだ。”
“本当に感謝してる。”
あぁ、そうか。
俺のせいだ。
俺が生き延びたから、エルフたちは──
「…ール、トール。ねぇ、トール!」
いつの間にか馬が足を止めていた。ミーナが俺のそばまで馬を寄せていて、俺の顔を上げさせる。彼女がそばに来たのにも気づかなかった。
その時、強い眩暈がして、馬から落ちそうになった。身体に力が入らない。心が壊れそうだった。このまま落馬して死んだら、少しは罪を清算できるかな。
「トール! しっかりするニャ!!」
ミーナが俺を支えてくれた。
ゆっくり馬から降ろしてくれる。
「……ごめん、急に力が抜けて」
自分のせいでたくさんのヒトが死んだのだと実感した。集落で見たあの惨状の原因が俺にあったのだと改めて考えてしまった。死んだ方が良い。俺は死ぬべきなんだと、死神が俺に囁いている気がした。
「トールのせいじゃないニャ。トールは何も悪くないニャ」
「えっ」
「自分の命を守って何が悪いニャ! ヒトを売り買いするクズの言葉なんて、気にする必要はないニャ」
力強く俺を抱きしめてくれた。
とても暖かい。
少し身体に力が戻ってきた。
「クズたちがエルフを襲って、トールはクズからエルフを守った。今日起きたのはそれだけニャ。エルフたちがトールに感謝することはあっても、恨むなんて筋違いだニャ。もしそれでもトールのせいだって言うなら、そんな恩知らずな奴らウチが全員ぶっとばしてやるニャ!」
……すごいな。
ミーナの言葉は。
心が軽くなっていく。
「ありがとう、ミーナ」
「はいニャ。そもそもトールがコロッセオで死んでたら、ウチは今ここにいないニャ。だからどんなことが起きても、誰がなんと言おうとウチはトールの味方ニャ。絶対にトールを裏切らないし、トールに死んでほしいなんて考えないニャ」
その言葉が嬉しすぎて、ミーナの背中に手を回して全力で抱きしめる。
俺はまだ、生きていても良いんだって思えた。
「おかえりニャ」
エルフの王国王都の防壁のそばにミーナとララノアがいた。彼女らのそばには防壁守備部隊の隊員らしきエルフたちもいる。
「トールさん! お、お姉ちゃんは!? 無事なんですか!?」
ララノアがすごい勢いで俺に詰め寄ってきた。俺についてきたいとごねる彼女をここに残し、俺はひとりでラエルノアたちの加勢に向かったんだ。
「大丈夫、無事だよ」
「そう、ですか……。良かった」
安心して力が抜けたようで、ララノアはその場にペタンと座り込む。俺が間に合わず、何人かのエルフたちを救えなかったのは黙っておこう。優しい彼女のことだから、傷付いてしまうんじゃないだろうか。
俺からは良いことだけ報告しておいて、あとはラエルノアに任せよう。
「何人か女性と子どもたちが捕まっていたけど、みんな無事に助け出した。あと敵は全員捕まえたから、安心して」
俺は動けなくしただけだが、拘束したりその場で処理したりはラエルノアたちがしていると思う。問題はないはずだ。
「ミーナ、ちょっと良いかな」
「何かにゃ?」
「あ、ララノアはここにいてね」
「はい、わかりました」
荷物を積んだ馬を引いたミーナを呼び寄せ、移動を開始した。ララノアは俺たちがちょっと離れた場所で内輪の話をするだけだと思ったのだろう。素直にその場で待機し、特に何も言わなかった。
──***──
「トール、どこまで行くニャ?」
馬に乗ってしばらく走ったところでミーナが聞いてくる。
「このままミスティナスを離れる」
「えっ!? も、もしかして逃げるのかニャ?」
察しが良いな。
「ちなみに俺はエルフを傷つけるような悪いことはしてない。でもこの国が襲われた原因は俺にもあるみたいなんだ」
「それって、どういう意味ニャ」
少し馬の足を緩め、奴隷商人がミスティナスを襲撃するに至った経緯を説明した。
話していて気分が悪くなる。
俺は自分なりに精一杯生き延びただけなのに、それが何人もエルフ族を死なせて原因になったんだ。じゃあ、俺はどうすれば良かったんだよ……。
最初の戦いで、大人しく剣闘士に殺されておけば良かったのか?
そうすればララノアの知り合いが殺されることもなく、今もミスティナスは平和だったはず。そう考えると、俺が今生きているのは間違っている気がしてきた。
思い出される奴隷商人の言葉。
“全て貴様のおかげだ。”
“本当に感謝してる。”
あぁ、そうか。
俺のせいだ。
俺が生き延びたから、エルフたちは──
「…ール、トール。ねぇ、トール!」
いつの間にか馬が足を止めていた。ミーナが俺のそばまで馬を寄せていて、俺の顔を上げさせる。彼女がそばに来たのにも気づかなかった。
その時、強い眩暈がして、馬から落ちそうになった。身体に力が入らない。心が壊れそうだった。このまま落馬して死んだら、少しは罪を清算できるかな。
「トール! しっかりするニャ!!」
ミーナが俺を支えてくれた。
ゆっくり馬から降ろしてくれる。
「……ごめん、急に力が抜けて」
自分のせいでたくさんのヒトが死んだのだと実感した。集落で見たあの惨状の原因が俺にあったのだと改めて考えてしまった。死んだ方が良い。俺は死ぬべきなんだと、死神が俺に囁いている気がした。
「トールのせいじゃないニャ。トールは何も悪くないニャ」
「えっ」
「自分の命を守って何が悪いニャ! ヒトを売り買いするクズの言葉なんて、気にする必要はないニャ」
力強く俺を抱きしめてくれた。
とても暖かい。
少し身体に力が戻ってきた。
「クズたちがエルフを襲って、トールはクズからエルフを守った。今日起きたのはそれだけニャ。エルフたちがトールに感謝することはあっても、恨むなんて筋違いだニャ。もしそれでもトールのせいだって言うなら、そんな恩知らずな奴らウチが全員ぶっとばしてやるニャ!」
……すごいな。
ミーナの言葉は。
心が軽くなっていく。
「ありがとう、ミーナ」
「はいニャ。そもそもトールがコロッセオで死んでたら、ウチは今ここにいないニャ。だからどんなことが起きても、誰がなんと言おうとウチはトールの味方ニャ。絶対にトールを裏切らないし、トールに死んでほしいなんて考えないニャ」
その言葉が嬉しすぎて、ミーナの背中に手を回して全力で抱きしめる。
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