勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

文字の大きさ
上 下
34 / 101
第1章 水の研究者、異世界へ

第34話 交渉

しおりを挟む

「ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!」

 奴隷商人が情けない声を上げて、地面を這いながら俺から逃げていく。恐怖を感じすぎて立てなくなったようだ。その姿を見ても、見逃してやる気にはならない。

「なぁ、どこ行くんだよ。エルフを攫いに来たんだろ? 逃げるのか? 雇った冒険者たちに払った金の分、エルフを捕まえて稼がなくて良いのか?」

「そ、そうだ! 金、金をやる!! お前が望むだけ、いくらでも」

「……ほう」

「だから私の仲間になれ。い、いや、仲間になってください」

 ここで俺の心の中の悪魔が俺に囁いた。人身売買で私腹を肥やすこのクズを絶望させる最高の方法を思いついてしまったんだ。

「わかりました。仲間になってあげます」

「ああ、ありがとう!」

「それでまず私にくれるというお金ですが、貴方が現在保有する資産の半額を要求します。それ以下は認めません」

「は、半分だと?」

「嫌ならいいです。今すぐ貴方を殺すだけなので」

「くっ! お前ら、エルフを盾にしろ!!」

 あらら、交渉は決裂したみたい。

 奴隷商人の部下たちは10人ほどいて、そいつらが馬車に乗せられていたエルフの少女たちを盾にしようと動き始めた。

「俺にとって他人のエルフが人質になるとでも?」

「貴様はそこの女エルフを守っていた。異世界人様はみんなお優しいからな。さぁ、エルフたちを殺されたくなければ、私たちを見逃せ!」

 良く分かってるじゃん。
 エルフを盾にされると俺は困る。

 俺と同じ種族だとしても、お前らみたいなクズより可憐なエルフの少女たちの方がこの世界にとって何百倍も生きている価値がある。

 だから人質にするために剣を向けるなど、絶対に許さない。

「お、おい! お前たち、なんで動かないんだ!!」

「動けないよ。彼らの身体は今、俺の魔法で拘束されてるから」

 冒険者だけじゃなく、とりあえずこの場にいる人族全員に水魔法で小さな怪我を負わせていた。誰かひとりくらいはまともな奴がいるんじゃないかと思ったが、望みはなさそうだ。今すぐ全員殺せるが、あまり俺がやりすぎるのは良くないかも。

 エルフたちだって、こいつらに復讐したいはず。だから動けないようにだけしておく。


「貴方の指示に従って動ける部下はいないみたいですね」

「わ、わかった! 私の資産の半分をお前に渡す! だから私だけでも助けてくれ」

「それでは貴方が隠してる金の場所を教えてください。あるんでしょ? 貴方しか知らない秘密の隠し場所が」

 こういう金に汚い奴は腹心の部下にも本当に大切な金庫の場所は教えないって漫画で読んだ。コイツもそうだろうと思ったから鎌をかけてみる。

「そ、それは……」

 この反応、ほんとにあるみたいだ。

「別にそこの金を全部もらおうってんじゃないです。貴方が俺を裏切らない保証が欲しいだけですよ。金を稼ぐ才能がある貴方とは、これからも仲良くしたいですから」

 奴隷商人を絶望させるための嘘でも、こんなクズと仲良くしたいなど言っていて反吐が出る。しかし、もう少しの我慢だ。

「わ、私の屋敷の地下に、隠し金庫がある」

「どうやってそこに入るんですか?」

「屋敷の入口に飾ってある甲冑を操作するんだ。右に回せば隠し扉が開く仕掛けになっている。なぁ、ここまで話したんだ。ほんとに見逃してくれるんだよな!?」

「えぇ。貴方の言葉が嘘じゃなければね」

「私は取引では嘘をつかない。信じてくれ」

 誰がそんな言葉信じるか、バーカ。

 霧による索敵魔法の応用で、俺は奴隷商人の心音が良く聞こえるようにしている。その鼓動は最初激しく、俺と会話するごとに徐々に落ち着いていった。

 はじめてやってみたが、こんなにもわかりやすく典型的な嘘つきの心音を聞かせてくれるなんて。ある意味感動する。

「……いいでしょう。交渉成立です」

 どうせ甲冑操作したら毒針とか出てくるんだろ。もしくは落とし穴が動作するトリガーになってるとか。でも金がコイツの屋敷のどこかに隠されている可能性は高いと思う。上手い嘘つきは真実の中に嘘を混ぜることで自分の言葉が全て真実だと自分自身を騙す。そうして他人にもその嘘を信じさせるらしい。

 とりあえずコイツの屋敷は全部破壊して、金を探してみよう。

 今回は俺のせいでこの国が襲われたと言っても良い。だから俺は、ミスティナスには入れない。例えララノアやラエルノが問題ないと言ってくれてもダメだ。

 ミーナの身体の傷を消してあげたくて、過去の傷も治る薬を求めてここまで来たけど諦める。代わりに奴隷商人から金を貰って、それで何とかできないかってことを思い始めていた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...