勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

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第1章 水の研究者、異世界へ

第24話 霧を使った索敵魔法

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 מים, לעטוףマイン ラトゥーフィア

 持ってきていた水を操作してエルフの少女の手足に水を纏わせる。これは魔物に襲撃された時のために俺の魔力を混ぜてある。こうしておけば空気中から水を集めるより攻撃までの時間短縮が可能だ。

「は? な、なによコレ!?」

 水が自らにまとわりついてくることに驚いている。手足を振り回して水から逃れようとするが、俺の魔法はしっかり彼女の手足に追従していく。

טיפות מים, תפסיקディポート マイン ディフシーク

 彼女が手を勢いよく振り上げたところで水を凍らせた。

「えっ、嘘。動けない」

 水を全て凍らせてしまうとただの腕輪、足輪となってしまう。その場での拘束はできない。そこで一部は水のまま残すことで、俺の意志で動かせる状態にしている。今やっているように、その場で対象の動きを制限することだって可能。

 四肢を拘束されたエルフの美少女が俺たちを怖い顔で睨んでくる。

「これ、貴方の仕業なの!? 早く解きなさい!」

「ダメにゃ。トールの凄さを認めて、ごめんって謝るまでは解放してあげないニャ」

 ミーナが少女に近づき、その頬に手を当てる。

「ほらほら。早くごめんなさいするニャ。そうしないとウチら、やらしいことしちゃうかもニャ」

 頬に当てて手を彼女の胸に、そして下半身へと移動させていく。

 エルフの少女は短めのスカートを履いていて、俺の水から逃れようとした際に足を上げていた。その瞬間に拘束されたので、もう少しでスカートの中が見えてしまいそうな体勢になっている。ミーナの手が少女の綺麗な太ももに伸びる。

 なんとも破廉恥な光景だ。
 美人猫獣人とエルフ少女の絡み合い。
 実に最高です。

 でも少女に酷いことしたくて拘束したわけじゃない。俺の水魔法を自慢したかっただけ。そろそろ拘束を解いてやろう。そうしなきゃミーナが暴走しそうだ。


「──あっ! ミーナ!!」

 何かが高速で飛んできて、俺の自動迎撃魔法が反応した。

「ん? ──っぶニャ!」

 ギリギリのところでミーナはしゃがんで飛来物を躱した。飛んできたのは矢だった。地面に深く突き刺さっている。それがミーナの頭部目掛けて飛んできたので、彼女を殺すつもりだったようだ。

「トールの魔法が無かったら死んでたニャ」

「あぁ。遠距離からの攻撃手段を持つ敵の襲撃だ。気を付けろ」

 狙われたのが俺だったら、迎撃魔法があっても死んでいたと思う。

 自動迎撃といっても、水では飛来物を完全に防ぐ力などない。速く迎撃できるように水の量も多くしていないので、とんできたモノの速度を少し遅くしたり、軌道を変えることぐらいしかできない。これは改良が必要そうだな。

ዘርኢ ወዲ ሰብ ተመለስ ሓፍተይ!人族と獣人か。妹を返せ!

 森の中から美しい女エルフが現れた。俺たちに向かって怖い顔で何かを叫びながら弓矢を俺たちに向けてくる。彼女がなんと言っているかは全く分からない。

 俺たちの背後には四肢を拘束され、いやらしい感じで衣服を乱したエルフの少女がいる。状況からして、俺たちが悪人と思われてしまうのは当然だろう。

「どうするニャ?」
「お前が調子に乗るからだぞ」

 ミーナに怒ったところで仕方ない。
 既に状況は最悪だ。

「あの! 俺たちの言葉分かりますか? 誤解です!! 俺たちは彼女を襲おうなんてしてません」

ተይ እዞም ወዲ ጠንቆልቲ እዮም!お姉ちゃん、こいつら魔法使い!

 背後の少女が何かを叫んだ。それを聞いて俺たちの正面にいる女エルフの表情が厳しいものとなる。

ተጠንቀቑ!警戒!

「トール。ウチら囲まれてるみたいニャ」

 敵に囲まれていることにミーナが気付いた。彼女は女エルフが発した言葉で森の中がざわめいたことから、伏兵の存在を知ったようだ。

 実は俺もそれに気づいている。もちろん俺にはミーナのような優れた五感なんてない。俺は水魔法で敵を感知しているんだ。霧状にした水を更に薄く広範囲に展開し、それに触れた存在を認識できる魔法。有効範囲は俺を中心に約100メートル。魔力を保有する者に限定されるが、襲撃には対応できる。

 エルフ少女が現れる前から周囲確認用の魔法は展開していた。それでもミーナと盛り上がってしまっていたから、彼女に気付かなかった。戦闘用スイッチの入った今なら、俺たちの周りに7人の敵がいることは容易に把握できる。

 正面の女エルフの他に5人が近くの森の中で、俺たちを囲むように潜んでいる。そしてもうひとり、俺の魔法の有効範囲ギリギリのところにもエルフと思われる魔力が感じられた。

 用意周到だな。
 1人が注意を引き、残りで囲む。

 もし6人が返り討ちにあったりしても、1人が逃げて応援を呼びに行ける布陣か。エルフの王国に近づく不審者を捕らえるための集団なのだろうか? 俺は戦闘のプロじゃないから良く分からないけど、きっと彼女らは凄く強いんだろう。

 ただ、相手が悪かったな。

 場所さえ把握できていれば、全員俺の手の中にいるようなもんだよ。でも一応、拘束魔法が失敗した時の保険として防御を強化しておこう。

מים, להקיףマイン レハキィーフ

 空気中から集めた水で俺とミーナ、それからエルフの少女を囲む。それとほぼ同時に俺たち目掛けて矢が飛んできた。しかし大量の水で分厚い壁を作ったので矢の速度は落ち、水の壁を通り抜けたところでポロっと地面に落ちた。

 問答無用で命を獲りに来るのか。
 徹底してるな。

 でも今回は俺たちに非がある。殺されそうになったとしても、簡単に相手を殺して良いわけじゃない。エルフが作れるという、過去の傷でも治せる薬を貰いに来たんだ。彼女らと戦争なんて望んじゃいない。

 なるべく穏便に済ませよう。
 既にだいぶヤバい状況だが……。 

 とりあえず、俺たちの話を聞いてもらわないと。
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