17 / 101
第1章 水の研究者、異世界へ
第17話 自動防御魔法と旅立ち
しおりを挟む奴隷身分から解放されて2週間ほど経過していたが、俺とミーナはまだコロッセオがある街から移動していない。
というのも目的地が決まらないからだ。この世界では情報通信技術がほとんど発達しておらず、他の大陸の状況などがほとんど伝わってこない。そのため、俺の目的である高校生たちの所在や現状というのが全くわからなかった。
コロッセオの統治者ができるだけ情報を集めてくれるというので、俺たちはその結果を待っている。ちなみにこの2週間で5回ほど夜襲されたが、その全てを返り討ちにしてやった。魔力を含ませた水を常に持ち歩くようにして、夜寝る時は部屋への侵入者を自動で高速する水魔法を生み出したことで安全に過ごせている。
ただ、まったく問題が無いというわけではない。
拠点としている部屋の扉が開き、暗い顔のミーナが入ってきた。
「トール。地下室に拘束してた襲撃者だけど、また殺されてたにゃ」
「……そうか」
俺たちを襲わせている黒幕を聞き出そうとしているのだが、やっぱり暗殺に来るような奴らは口が堅い。俺もミーナも拷問なんてしたことないから、色々と脅してみるけど上手くいっていなかった。そして仕方なく宿屋の地下室を借りて拘束しているのだが、3日もしないうちに別の暗殺者によって殺されてしまう。
襲撃者を自動で拘束する水魔法は、俺から数メートル離れると1時間くらいで効果がなくなってしまう。だから拘束している者を守れないんだ。かといって俺たちを殺しに来た奴と同じ部屋で寝るなんて絶対に無理。
ていうか、暗殺に失敗しても生きてるんだから、そのまま連れて帰ればいいのに。なんで殺すんだよ。一度失敗したら、絶対に死ななきゃいけないルールなんだろうか。闇の世界に生きてる人たちって怖いな。かわいそうなのは暗殺者の死体を片付けることになる宿の従業員さんたち。何度もごめんなさい。
「そろそろこの街、出た方がよくないかニャ?」
「んー、そうだね。統治者のオッサンが情報集めてくれるって言うからこうして待ってるけど、あの人が黒幕の可能性もあるんだよな」
協力的な感じで接してくれるが、あの人は俺たちが子の街にいることで支配力を弱めている。彼は圧倒的な戦力の私兵団を保有して街の治安を維持し、コロッセオの運営をしていた。しかしその私兵団が全員でかかっても俺を倒せないだろうと住人が思い始め、街のいたるところで私兵団と住人の衝突が起きているみたい。
だから俺たちには早く出ていって欲しいはず。
たぶん、3回目くらいまでは統治者が差し向けた暗殺者だったんじゃないかと思う。隠し持ってた暗器の質が良かったし、暗殺者を拘束した日に統治者の所に会いに行ったら俺の来訪にかなり驚いていたから。
彼が黒幕だという確信はなかったけど、“次があったら、容赦しないよ”って脅しておいた。当然統治者は何のことか分からないと言ったが、金を要求したらすぐに持ってきてくれた。それで一応許したことにして、彼にも暗殺を諦めてもらおうとした。
それでも4回目と、昨晩5回目の夜襲があった。ちなみに水が自動で侵入者を拘束するので、その水から逃れて撤退した奴もいるかもしれない。
「ウチら、結構お金持ってるってバレてるからニャ」
「うん。その金を狙った盗賊かもしれないし、俺が殺した騎兵たちの仲間って可能性もあるな。とにかく俺ら、ここで敵を作りすぎた」
ここに留まって暗殺者を撃退し続けながら情報が入ってくるのを待つのもいいけど、撃退が今後もずっと上手くいくとは限らない。俺の水魔法に関する情報が少しづつ敵に把握されていけば、いつかは自動防御の隙を突かれるかもしれない。食事に毒を混ぜられる可能性もある。
目立ってしまうと、良いことなんてほとんどない。
「よし、決めた。今からこの街を出よう」
「トールは思い切りが良いニャ」
「なにか問題あるかな? 旅に必要なものは一通り買い揃えてるし」
「ウチは大丈夫にゃ。トールについてくニャ」
「ありがと。それじゃ、最後にオッサンのとこに顔出して出発だ」
──***──
「そんなわけで、俺たち今からこの街を出ますね。お世話になりました」
「לצאת. טיפלו בי」
俺の言葉を統治者の付き人が翻訳してくれる。ちなみにミーナが俺の旅に同行してくれることになり、半ば強制的に連行されないと知った時、彼は涙を流して喜んでいた。そんなに俺についてくるの嫌だったんだと、少しショックだった。
「הזדרז. לאן אתה הולך」
「俺と一緒にこの世界に来た子どもたちを探します」
まだ完璧ではないものの、短い言葉であれば言っていることを理解できるようになった。話すのは厳しいので、ここ以外ではミーナにお願いするつもり。
「でもまだ彼らがどこにいるかは分からないので、とりあえず先に彼女の傷を治せるような薬を探しに行こうかなと」
「傷って、ウチの身体の?」
「そう。今朝も気にしてただろ、ミーナ」
鏡の前で、身体に残った小さな傷に触れながら溜息をつく彼女を見てしまった。俺は気にしないが、女の子が傷だらけの身体ってのも良くないだろう。
「み、見てたのかニャ」
「ごめんね。でも古傷が治せるような強い薬はこれから役に立つはず。ミーナのためでもあるけど、俺が目的を果たすためにも入手しておきたいんだ」
「לשדון י ,ש ה הסם」
「エルフの……。そうですか、ありがとうございます!」
良いことを聞いた。
そして目的地が決定した。
その後、統治者が用意してくれた馬に乗り、俺たちはコロッセオの街を出た。
「いざ、エルフの薬を求めて。エルフの国、ミスティナスへ!!」
0
応援よろしくお願いします!!
別作品も投稿してます! こっちも見てねー!!
スキル【特許権】で高位魔法や便利魔法を独占!
俺の考案した魔法を使いたいなら、特許使用料を
ステータスポイントでお支払いください
お気に入りに追加
922
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる