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第1章 水の研究者、異世界へ
第15話 旅の仲間
しおりを挟む俺たちが奴隷身分から解放されて3日後の朝。とある宿屋の一室にて──
「ふ、にゃぁぁ。……んー。朝かニャ」
大きな欠伸をしながらミーナが目を覚ました。
「えっ、ミーナ?」
傷は治っているはずだが、彼女がまったく目を覚まさなかったので俺は凄く心配していたんだ。今の俺にできることは全部やって、それでも目覚めない彼女に気をもんでいたら、本人はいたって普通の朝だという感じで急に起き上がった。
「あ、トール。おはよニャ」
「おはよう。……良かった。やっと目を覚ましてくれた」
「やっと? よくわかんないけど、なんだかお腹が空いたニャ」
こっちがどれだけ心配したかも知らないで、のんきなやつ。
「起きれるか? 宿の人に言って飯用意してもらおう。ここの飯は結構おいしいぞ」
「わー い! 楽しみニャ」
ミーナがベッドから降りて立ち上がり伸びをする。その際にお腹部分の服がはだけて彼女の綺麗な腹筋が目に入る。少しドキッとした。
そ、それにしても獣人って凄いな。瀕死の怪我を負って、3日間も寝ていたのに起きてすぐ自力で立ち上がれるんだから。
「……あれ、ちょっとふらふらするニャ」
歩こうとしたミーナがフラついて、近くにあったテーブルに手をつく。やはりまだ本調子ではないようだ。
「3日も寝てたんだ。無理するなよ。ほら、俺につかまって」
「ありがとニャ。ウチ、そんなに寝てたのかニャ……ん? てか、ここどこニャ?」
今更かよ。
普通、真っ先に気になるだろ。
「ここはコロッセオの統括者が用意してくれた宿屋だよ」
「コロッセオの。あ、あれ? ウチって、確か刺されて」
バッ、とミーナが上半身の服を脱いだ。
「ちょ!? な、なにしてるんだよ!」
慌てて視線を逸らしたが、彼女は俺のことなど気にも留めず自身の身体を確認していた。
まぁ、治療などの際に何度か着替えさせたから、彼女の裸を見るのはこれが初めてじゃなかった。もちろん俺は、やましいことなど一切やってない。
「刺された傷が無いニャ」
「上級治療薬ってのを貰ったから、それを使った」
「えっ!? そ、それ凄く高い薬ニャ。ゴールド級冒険者が1年間稼いでも足りないくらいの価格で、処置が早ければ斬られた手足も治るって噂ニャ」
そう、俺もミーナに上級治療薬が使われる場面を見ていて驚いた。内臓まで届くほど深く刺された傷が、瞬く間に治っていったんだ。俺の水魔法で無理やり細胞をくっつけていたところも綺麗に治癒されていた。
「その薬をくれたのも統治者のオッサンだよ。迷惑料ってことで、ここの宿代と食費も出してもらってる」
彼は自主的に迷惑料を支払うと言ってくれた。決して俺が脅したわけじゃない。コロッセオの観客席のそばに浮かせた巨大な水球をチラチラ見ながら交渉したが、俺の要求に従わなければ観客を殺すなんて脅してはいない。
ミーナを奴隷から解放するのはダメだと言われた時は流石にイラっとして、ちょっと脅してしまったが、あれは仕方ない。
「ちなみにこれは、ミーナの身体に傷をつけた慰謝料」
そう言って金貨の詰まった袋を彼女に手渡す。
「こ、こんなにもらって良いのかニャ?」
「もちろん。俺は俺で別にもらってるから」
ミーナの身体には小さな傷がいくつもあった。それは3日前の集団戦より以前につけられた傷で、上級治療薬をもってしても治らなかった。だから彼女への慰謝料として統治者に交渉し、もぎ取った金だ。この国の王都で10年は遊んで暮らせるくらいの金額を要求しておいた。
王都では獣人が差別されたりはしておらず、奴隷の取引も禁止されているというからミーナも安心して過ごせると思う。これで彼女が生活に困ることはないだろう。
「ミーナはこれからどうする? 王都に行って住むつもりなら、統治者のオッサンが色々手助けしてくれるってさ」
数万もの国民を動員して、人々の憂さ晴らしと経済効果が期待できるコロッセオ。その統治者は国の中でもかなり地位の高い人物だったようで、俺が暴れないように様々な要望に応えてくれた。
「……トールは、どうするニャ?」
「この世界を旅するよ。俺と一緒にこの世界に来た子どもたちがいるんだ。彼らを元の世界に還してあげなきゃいけない」
戦う力を得た俺は、彼らの足手まといになることはないだろう。大人である俺が戦うべきなんだ。
「言葉はどうするニャ?」
「少しなら喋れるようになってきたし、通訳できる人を借りていく」
コロッセオで俺のところまで要求を聞きに来た男性。彼を俺の旅に連れていくことにした。最初に交渉した時、彼は青い顔して断ろうとしていた。それでも俺が絶対に守ると約束したら、しぶしぶという感じで了承してくれたんだ。
ただ、本音を言えばミーナについてきて欲しい。
騙されて奴隷にされるクソな世界だけど、彼女のような可愛い女の子と旅ができたら楽しいだろう。戦力としても頼りになるしな。
「……ウチ、結構強いニャ。トールが足手まといにならないなら、その辺の人族には負けないニャ」
ミーナが刺された脇腹を触りながら俺の目をまっすぐ見てくる。彼女は俺を守ろうとして傷を負ったんだ。俺がいなければ怪我もしなかったはず。
「そ、その節は誠に、すみませんでした」
「別に謝ってほしくて言ってないニャ」
彼女はいったい、なにが言いたいのだろう。
「それじゃ、夜の相手として連れてくのはどうかニャ? 身体は傷だらけだけど、トールのヤりたいことは全部させてあげるニャ」
そう言うとミーナは自身の胸を揉み始めた。張りがあって形の良いそれが、柔らかそうに形を変える。ヤバいくらいエロい。
「おい、ちょ──」
「ちなみにウチ、前の主を拒んで剣闘士にさせられたって言ったニャ。それだけは絶対にさせなかったニャ。だからまだ、男としたことはないニャ」
ミーナが俺に近づき、首に手を回してきた。
胸が俺の身体に当たって押しつぶされる。
「こんな傷だらけな獣人女じゃ、やっぱり嫌かニャ?」
「嫌なわけないだろ!」
彼女の背中に手を回して力強く抱きしめる。
「ミーナ。俺の旅についてきてほしい」
「はい。よろしくニャ、トール」
こうして俺に、旅の仲間ができた。
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