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第1章 水の研究者、異世界へ
第3話 騙されて奴隷になる
しおりを挟む「おい! どうなってんだ!? 話が違うだろ!」
俺は地上に設置された牢屋に入れられていた。
少し離れた所で、俺をこの街まで連れてきた男が小太りの男から硬貨らしきものを受け取っている。
「なぁ、助けてくれるんじゃないのか!?」
「רוֹעֵשׁ!」
牢屋の鉄格子を強く蹴られて驚いた。
蹴ったのは軽鎧を纏った男。俺を連れてきた奴だ。
「אם אתה לא יכול לדא קי בלת שוחות מהאלה.」
男はまるでゴミを見るような目で俺を見てくる。
「נתראה. אם תהפוך לגלדיאטור, אני מהמר」
全く何を言っているか分からない。
そんな俺を見て、男は笑いながら去っていった。
どうやら俺は、アイツに騙されたようだ。
助けてくれるものと思ってここまでやって来た。街が見えた時は助かったと思い、あの男に何度も感謝の言葉を伝えたんだ。
それが、こんなことに……。
ここに着いて、軽鎧の男が小太りの男に何か話したと思うと、俺はいきなり屈強な男ふたりに身体を拘束され、この牢屋に放り込まれた。怪我の治癒などされるはずもなく、倒れ込んだ衝撃で足がひどく痛み、しばらく起き上がれなかった。
この状況からして、俺は軽鎧の男に奴隷として売られたってことだろう。この場に来た時、どうして気付かなかったのか。落ち着いてよく周りを見渡せば、首を鎖で繋がれた人々があちこちにいた。
足のケガが痛くて、早く治療してほしくて周りを気にできていなかった。
それから少しして、小太りの男が周りの人々に何かの指示を出しながら俺のいる牢屋に近づいてきた。どうやらこいつがここを仕切っている人物のようだ。
「לגלגל את זה אנייה בצרות אם אמות」
小太りの男が鉄格子の隙間から汚い布を放り込んできた。布には白い薬品のようなものがベッタリと雑に塗られている。
男が俺の怪我した方の足を指さしている。
これで足を治療しろってことだろうか?
成分も分からないモノを使いたくない。
「あの……。この白いものの成分は?」
「הזדרז!」
絶対に教えてくれなさそうだ。
仕方ないので兎に攻撃された部分に布を当てた。
「ぐっ。い、いてぇ」
すごく染みた。でも小太りの男は満足そうに離れていったので、俺の行動は間違ってないんだろう。
最初は染みたが、痛みが少しマシになった気がする。
「ちょっと、休むか……」
未知の何かを傷口から自分の身体に取り込んでしまったことは不安だ。でもそれ以上に怪我したままかなりの距離を移動してきたことによる疲労が強く、俺は牢屋の壁にもたれ掛かるとすぐに意識を手放した。
──***──
ガンガンと鉄格子を蹴られる音で目を覚ます。
最低な目覚めだ。
俺は牢屋の中にいた。
意識を失う前のことが全て夢なら良かったのに。
でも俺は今、間違いなく異世界にいた。
頭部に獣耳を生やした少女が目の前を通って行ったんだ。彼女は首に繋がれた鎖を屈強な男に引かれ、強引に移動させられていた。
また別の所ではトカゲのような皮膚をした男が、数人の少年少女を小太りの男に売っている様子だった。
間違いない。ここは異世界で、そして俺がいるこの場は奴隷市だ。しかも昼間からこんな街中でやってるってことは、この世界で奴隷は一般的なものだということ。
「האם התעוררת 」
俺が目を覚ましたことを誰かが伝えたらしく、小太りの男が近づいてきた。俺の近くに歩いてきながらも忙しく方々へ指示を出している。やはり彼がこの奴隷市を仕切っている奴隷商人ということで間違いないようだ。
「בקרוב תורך」
奴隷商人はニヤニヤしながら何か言っていた。
言葉は相変わらず分からない。
パソコンのOSを更新した後、再起動するとアップデートが適用される。俺の言語理解も神の手違いでそうなってるんじゃないかって若干の期待をしていたのだけど……。
「נראה שאין קונים」
やっぱりダメだったみたい。
一度意識を失った後でも、この世界の人々が何を言ってるのか検討すらつかない。俺は元居た世界の主要言語をいくつか理解できる。水に関する研究成果をまとめた論文の発表などで必要だったから覚えた。そんな俺でも意味の分からない発音だから、俺がいた世界とは違う言語の発達をしているようだ。
魔法が使えるとか肉体強化ができるとか、そんな凄いスキルじゃなくて良い。いくつも要らない。
望むのは、ただひとつだけ。
言語理解スキルがマジで欲しい。
俺は言葉が理解できない状況で自身の進退が勝手に決められていく状況に、強いストレスを感じていた。
「היי פתח את זה」
奴隷商人が合図すると鉄格子が開けられた。俺をここに押し込んだのとは別の屈強な男ふたりによって強引に連れ出される。抵抗する気にはなれなかった。腕を掴んでいる奴らが怖すぎるんだ。
そのまま俺は、奴隷市のメインステージらしき場所まで連行されていった。
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