上 下
44 / 59

第44話 大精霊の訪問

しおりを挟む

「ただいまー!」
「お帰り、ケイト」

 お城に帰ると、フリーダが出迎えてくれた。

「なかなか帰って来ないから心配してたんだぞ。子どもたちは昼食に来ない君のことをずっと待っていた」

 俺は朝ここを出ていったが、今はもう昼をとうに過ぎていた。大精霊の救出まではそんなに時間がかかっていないが、その後が問題だった。世界樹からここに戻ろうとする俺を引き留める精霊たちから、なかなか離れられなかったんだ。

「ごめん。色々とやらなきゃいけないことがあったんだ」

「色々? まさかケイト、大精霊様に会えたのか?」

「うん。大精霊様には会えたよ」

 ちなみに会えただけじゃなく──

「お邪魔しまーす!」
「ん? なんだこの少女は」

「こちら、大精霊のシルフ様です」

「…………は?」

 フリーダがフリーズした。
 大精霊がうちに来ちゃったんだ。

「もぉ! 様はいらないって、何回も言ってるじゃん!」

「あはは。ごめんごめん」

 頬を膨らませるシルフが可愛くて、その頭を撫でておく。彼女は頬を赤らめて嬉しそうにしていた。

 ふふふっ。
 この大精霊様、ちょろいな。

「ちょ、ちょっと待てケイト。こ、この御方が」

「シルフだよ」

「初めまして! 大精霊のシルフです。貴女はケイトの奥さんのフリーダだよね?」

「は、はい。フリーダと申します」

 礼儀として膝をつかなければいけないのか分からず、フリーダはかなり狼狽していた。動きが面白いことになってる。エルフ族の前にシルフが姿を現すことってほとんどなかったから、こういう時の対応が決まっていないらしい。

「そんなに畏まらないで良いよ。私はケイトと契約を結んだの。だからフリーダとも仲良くしたいな」

「契約を!?」

 凄い勢いでフリーダが俺を見てきた。

 あっ。もしかして契約って、浮気になります?

「違う、ケイト。私はその程度で怒ったりしない」

 相変わらずフリーダさんは俺の表情から思考を読みすぎじゃないですかね?

「大変失礼ですが、貴女が大精霊様であるというあかしを何か見せていただけませんか?」

「大精霊の証かぁ。今は力を失ってるから、ここに世界樹を生やしたりはできないし……。んー、どうしようかな」

 な、なんか今、とんでもなくヤバそうな単語が聞こえた気がする。でも今はできないらしいので、とりあえず安心だな。

「あっ! これはどうかな」

 シルフが両手を前に出すと、手のひらの上に数枚の葉っぱが現れた。

「これは、まさか──」
「世界樹の葉?」

「うん。そうだよ」

 それは俺が世界樹の頂上で見た葉と同じ形をしていた。

「す、すごい。世界樹の葉が、こんなにも」

 フリーダが商人の顔つきになっている。感動と羨望、そしてシルフの手に乗る世界樹の葉を何としても手に入れたいという強い意志を感じる。

「ケイトが大精霊様と契約を結んだということは、彼が望めばその手の上にあるものを頂けるということですか?」

「これ? ケイトには何枚か世界樹の葉をあげたけど、まだほしいの?」

「えと、俺は」

 チラッとフリーダを見ると、凄い勢いで首を縦に振っていた。無言だが、明らかに『貰いなさい』と言われている。

「ほしい。シルフ、それちょうだい」
「はーい」

 俺が手を出すとその上にシルフが世界樹の葉を置いてくれた。それと同時にフリーダが抱き着いてくる。

「よくやったケイト! さすが私の旦那だ!! 愛してる」

 商人モードのフリーダは簡単に愛してるって言ってくれるから好き。もちろん通常時の恥ずかしがりながら言ってくれる彼女も好きだ。


「あーでも、ケイトは私がいなくても世界樹の葉を入手できちゃうから、こんなの世界樹の葉を出せるのが大精霊の証になるか微妙だよね」

「えっ?」

 世界樹に到着した時、俺は近場にあった葉を採取しようとしてみた。しかしどれだけ力を入れようと、それを枝から引きちぎることはできなかった。世界樹の葉って、そういうものらしい。ちなみにその行為は下位精霊に許可してもらってからやっている。人族の力じゃ絶対に採取できないんだ。

 世界樹から葉をとるには大精霊シルフの許可がいる。シルフが許してくれさえすれば、人族の力でも採取が可能になるらしい。俺はシルフを救出した後、彼女に許可を貰ってから何枚か採取させてもらった。その後、試しに許可を貰わずに収納魔法で採取しようとしてみたけど、なんか普通に採取できちゃった。そのせいで精霊たちが大騒ぎして、帰ってくるのが遅れたんだ。

「ケイト、お前」

「大丈夫。今後はちゃんとシルフの許可を貰ってから葉を採るから」

「いや、そういうことじゃ……まぁ、いいや。とにかく、貴女が大精霊シルフ様であることは把握いたしました」

 フリーダはシルフが大精霊であることを認めたようだ。俺は彼女が世界樹で羽を失った中位精霊を治癒したのを見たときから、シルフが本物の大精霊であることを確信していた。

「良かった。それじゃ、これからよろしくね」

「よろしく、といいますと?」

「今日から私もここに住むんだよ!」
「「……え?」」

 事前に聞かされていなことを急に言われ、俺はフリーダと一緒に口を開けて固まってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

エロゲで戦闘力特化で転生したところで、需要はあるか?

天之雨
ファンタジー
エロゲに転生したが、俺の転生特典はどうやら【力】らしい。 最強の魔王がエロゲファンタジーを蹂躙する、そんな話。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...