収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥

文字の大きさ
上 下
43 / 59

第43話 救出のお礼と契約

しおりを挟む

「ケイト。今回は私を助けてくれてありがと」

 泣き続けている中位精霊を腰に抱き着かせたまま、大精霊シルフがケイトに礼をいう。

「いえ、お気になさらず。実は俺の妻がエルフなんです。あと、俺もこの国で暮らしています。だからシルフ様をお助けしたのは自分たちの利益のためでもあります」

「そうなんだね。でも私が消えちゃうと、しばらくは世界樹も活力がなくなる」

 シルフは世界樹の化身のような存在だが、彼女が消えても世界樹が枯れることはないという。数百年から数千年かけて次の大精霊が生まれるらしい。ただ、次の大精霊が生まれるまでの間は、世界樹の恩恵は一切なくなってしまう。

「そうなっていたら、この子たちも存在を維持できなくなっていたかもしれない」

 腰に抱き着く中位精霊と、周囲をふわふわと飛んでいる下位精霊たちを見ながらシルフが優しく微笑んだ。自身のことを慕ってくれる精霊たちに再び会うことができて、彼女は心から喜んでいた。

「だからお礼はさせてほしい。私にできることなら、なんでもする」

「い、良いんですか?」

 シルフの提案にケイトはすぐに飛びついた。彼の目的は世界樹の葉を手に入れることであり、それをするためにはシルフの力が必要だった。彼女が『なんでも』と言ってくれたので、もう世界樹の葉は手に入れたも同然。

「じゃあ、俺は──」
「私と召喚契約を結びたいの!? し、仕方ないなぁ」

「えっ」

 ケイトは『世界樹の葉を何枚かください』と言おうとしたのだが、それを遮るようにシルフが彼の望みを断定した。

「し、シルフ様?」
⦅ケイトと契約するんですか!?⦆

 中位精霊はシルフの言葉に唖然とし、下位精霊は嬉しそうに飛び回った。大精霊が人族と召喚契約を結んだのは遥か昔に一度だけ。精霊に愛された召喚士の少女が四大精霊を引き連れて、当時の勇者と共に魔王を倒したことは人間界でもお伽噺として語り継がれている。

 そんな偉業を成し遂げようとしているのだが、当事者であるケイトはそれが凄いことだとは気づいていなかった。

「いや、俺は葉をもらえれば」
「もちろん、無条件では召喚に応じてあげられません」

 ケイトの言葉など今のシルフの耳には届かない。彼女は自分の要求を伝えることに必死になっていた。中位精霊の手をほどいて、ケイトのもとまでシルフが小走りで近づいていく。

 手招きしてケイトに頭を下げさせると、その耳元でシルフが囁いた。

「私を召喚する条件はね、その……。さ、さっきみたいにまた、抱っこしてほしいな」

 少女の姿をした大精霊が頬を赤らめながら要求を伝える。

 今からおよそ千年前。召喚士の少女と旅をした頃のシルフはまだ全盛期ではなく、悪魔に力を奪われた今と同じような姿をしていた。そんな彼女を勇者がよくお姫様抱っこしていたのだ。シルフはいつも勇者に文句を言っていたが、本心ではその行為を喜んでいた。

 大精霊として力をつけ、大人の姿になった彼女を抱っこしてくれる存在など千年間現れていない。千年ぶりとなる人の腕に抱きあげられる感覚が、彼女の理性を崩壊させていた。

「そんなの、いつでもしてあげるよ」

 ケイトはケイトで、おねだりしてくるシルフが可愛らしくて、特に深く考えることもなく彼女を抱き上げた。いつも子どもたちにしているように。

「ちょ、ちょっと! みんなが見てる前では止めてよ!!」

「ダメなの? でもシルフは三十年も捕まってたんだから体力的に万全じゃないでしょ。俺が心配だから、こうしてあげたいの」

「そ、そう言うことなら。仕方ないわね」

 彼は種族も性格も多種多様な家族たちと過ごすうちに、ツンデレ属性の扱い方を習得していた。

「俺がピンチになったら、シルフを呼んでもいいんだよね?」

「もちろん! 力さえ戻れば上位悪魔だってやっつけてあげる」

「それは心強い。ちなみに力はどのくらいで戻りそう?」

 世界樹に帰って来たのだから、シルフの力が元に戻るのも早いだろうとケイトは軽く考えていた。彼は忘れていたのだ。ここは長寿の種族が棲むサンクトゥスエルフの国。精霊に寿命はなく、大精霊は数万年生きているということを。


「ざっと百年あれば大丈夫」
「……え」

 少なくともケイトが普通に生きているうちは、シルフの力を頼って召喚することができないことが確定した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

レベルアップしたらステータスが無限になった

wow
ファンタジー
レベルが上がるのが遅すぎると追放された主人公にシステムメッセージが流れ驚愕の事実が通達される。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...