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第25話 元奴隷からの依頼

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 狼獣人のテルーと猫獣人のミィが仲間になってから一週間が経過した。その間に俺たちが解放した奴隷の数は三十人を超える。

 全員無事に、とは言えないが……。

 貴族の中には奴隷を物扱いする奴らがいた。そういう貴族に酷い扱いを受け続け、心が壊れてしまった子が何人かいる。そんな子がいても、俺にはどうしてあげることもできなかった。俺が元奴隷の子のためにできるのは親のところに帰してあげることだけ。申し訳ないけど、そこまでしかできない。

 とりあえず俺はをしておくけど、やったことを奴隷だった子に伝えるつもりはない。全部俺が処理しておく。彼らにはゆっくりでいいから、その身に起きた不幸を忘れて幸せになってほしい。

 
 可能な限りの奴隷を解放した後、俺はゴミ処理を開始した。それは姿を暗殺するお仕事。俺たちと同じ言葉を使うエルフや獣人を亜人と呼び、まだ幼い子どもたちを弄んで楽しむような奴らは人じゃない。魔物なんだ。

 奴隷を一度奪ったとしてもダメ。
 奴らはきっと、同じことを繰り返す。

 だから俺は魔物を狩る。


 巨大な屋敷の中。
 センスの悪い調度品が飾られた寝室にて──

「だ、誰だ!? 貴様、どうやってここに!?」

 俺の前にいるのは、高そうな服を着た魔物。
 そいつは俺たちと同じ言葉を話している。

「俺に心当たりはないか? 噂くらいは聞いているだろう」

「……そうか。近頃多発している奴隷を盗まれた後にその飼い主であった貴族が殺されるという事件。あれは貴様の仕業か」

 俺はこの魔物の屋敷からも奴隷にされていた猫獣人の少女を連れ去った。奴隷にされている子どもたちの救出を優先したから、こうして魔物狩りに来るまでに時間差ができた。それはこいつらが俺の襲撃に備える時間を与えてしまうことになるが、手加減しなくていいなら問題はない。

「奴隷を開放して英雄気取りか?」

「俺は、英雄じゃない」

 英雄にはなれない。

 でも本物の英雄が──勇者ルークスが心置きなくこの世界を救えるように、俺は世界の暗い部分の掃除をする。それくらいなら俺にだってできる。

「馬鹿馬鹿しい。今すぐにミィを返せ。そうすれば貴様は半殺しで許してやる」

「嫌だね」

「そうか。では貴様を捕らえて拷問し、ミィの居場所を聞き出すことにする。あぁ、かわいそうなミィ。今頃、儂を求めて鳴いているはずだ」

 ミィを奴隷にしていた魔物が手を叩くと、武装した男たちが十人ほど室内に入って来た。男たちの後ろに下がった魔物は勝ち誇った顔をしている。

「貴様は拷問後に殺して剝製にしてやろう。貴様の剥製をミィの牢に飾ってやるのも悪くないな。英雄気取りの馬鹿を毎日眺めることができて、ミィもきっと喜ぶ」

 俺が無言でいるのを、人数不利でビビっているとでも思ったのだろうか。やたら饒舌になった魔物が気持ちの悪い笑みを浮かべていた。

「旦那。侵入者はこいつだけのようです」
「そうか。ご苦労」

 武装した男たちのリーダーっぽい奴が魔物に報告をしていた。ここにいる男たちとは別に屋敷の中を警戒している者が何人かいて、そいつらが侵入してきたのは俺だけだと伝えたようだ。

「たったひとりで伯爵たる儂の屋敷に忍び込むとは、なんと愚かな。貴様が今まで殺した子爵や男爵たちとは警備や護衛の規模が違うのだ!」

「お前たち、やれ」

 リーダーの合図で武装した男たちが俺に突撃してくる。


「ふははっ。右手をもら──」

 突っ込んできた男の剣を躱してその身体に触れ、異空間に収納した。

「は? お、お前いま、何を──」
「異空間に片付けた。こんな風に」

 一人目が目の前で急に消え、戸惑っていた二人目の男も同じように身体に触れて収納する。

「お、お頭! なんかこいつ、ヤバ──」
「ひっ!? や、やめ──」

 立て続けにふたりを異空間に送る。

「な、なんで消えるんだ!?」
「おい! そいつに触られるな!! 消され──」

 俺が触ったら消されるって仲間に忠告していた奴は、収納魔法の取り出し口を遠隔で出現させて収納した。別に触れる必要はない。俺が目視できればそれで良いんだ。


 二十秒ほどで高そうな服を着た魔物と、武装した男たちのリーダー以外は誰も居なくなった。

「ば、馬鹿な……」

「お、おい! 何をしている!! 儂を守れ! なんのために高い金を払ってお前たちを雇ったと思っている!?」

「俺の襲撃に備えるなら人数を集めるんじゃなく、魔法を封じる魔具とかを用意すべきだ」

 ちなみに俺の魔法って、何故か魔具の影響を受けない。魔法を封じる魔具を俺が異空間にいくつか収納できてしまっているのがその証拠。

「そもそも集めた連中のレベルが低いし数も少ない」

 俺は勇者パーティーの一員だった。ルークスたちと一緒に高レベルの魔物と戦ってきたんだ。ずっと荷物持ちだったとは言え、武器を持った人間十数人なら普通に剣で戦っても勝てる。

「な、なめるなぁぁぁ!!」

 何やらハンドサインのようなものをした後に、リーダーが剣を構えて突撃してきた。

「隠れてた仲間はもう収納しちゃったよ」
「えっ──」

 自らを囮として、影に潜んでいたふたりの男に攻撃させようとしていたらしい。剣を振り上げた状態のリーダーに触れ、俺は彼を収納した。

 残ったのは、あと

「ひ、ひぃ! なんなんだ貴様!?」

「世界の掃除屋、かな?」

 汚いものは全て異空間にポイ!
 綺麗な世界を創ります!!


「あっ。そう言えばお前にミィからの伝言があったんだ」

「なに? ミィが、儂に?」

 少し魔物の表情が明るくなった。
 助けてもらえると思ったんだろうか。

 もちろん、そんなわけはない。

「『一生苦しめ。くそ野郎』だとよ」
「は?」

 俺から逃れるように壁に背をついていた魔物。
 その足が突如消えた。

 重力に従って魔物の身体が床に叩きつけられる。

「──っ!? い゛ぎゃぁぁ!!!」

 股間を強打して悶絶している。

 これはミィからの依頼じゃない。
 たまたま起きた事故だ。

「手も貰っておく」
「や、やめ」

「やめないよ。お前、ミィや他の奴隷の手で色々と遊んだんだろ? 聖水を使って治療させながら何度も何回も。彼女が止めてって叫んでも、お前はそれを聞かなかったらしいじゃないか」

 魔物の手を収納した。
 血は出ない。
 出血死なんかで逃がしはしない。

「えーっと、あとは目と舌。それから耳だな」

 ところで耳って、どこまでが耳?
 聴覚を奪うなら結構深くまでいかなきゃ。

「助けてくれ! だ、誰かたす──へうぅぅ!?!?!?!」

 うるさいから舌が先になった。
 でも、大丈夫。

 ちゃんと全部収納してあげるから。
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