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第23話 奴隷の保護

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 フリーダと別れて三日。
 
「はぁ……」

 喪失感がヤバい。
 胸にでかい穴が開いた感じ。

 たった一日だけの関係だったのに……。あんなに美人なエルフが俺の彼女だったと思い返す度に、自ら手放したものはあまりにも大きすぎたことを痛感する。

 だが今の俺は、動きを止めることはできない。
 やるべきことをやらなきゃ。


「ケイトさん、おかえりなさい」
「ただいま」

 一仕事終えて戻ってきた俺を、狼獣人のテルーがアジトに迎え入れてくれた。

 サンクトゥスからさほど離れていない森の中で見つけた洞窟に俺は仮の拠点を作った。そこでは俺が助け出した元奴隷のエルフや獣人たちを一時的に保護している。奴隷は世界中から攫われてきていて、俺が行ったことのない国もあるから直ぐに親元に帰してあげることができないんだ。

「あの三人は無事に?」
「うん。全員親のところに帰したよ」

 同じ国から攫われてきた子たちがいれば、まとめて俺が収納魔法の転移で送っていく。問題は国と言っても収納魔法の取り出し口を設定ていたのが王都や大きな街ばかりだったので、そこから元奴隷の子たちを家まで送っていくのに時間がかかっていること。

「それは良かった。ケイトさん、お疲れ様です」
「テルーも子どもたちの面倒を見てくれて、ありがとな」

 五歳ぐらいの時に攫われて奴隷にされたテルーは二十歳になったという。今から十五年前に起きた魔物の大侵攻。それによりテルーは両親を魔物に殺され、家を失った。路頭に迷っているところを冒険者崩れの男に捕まって奴隷商人に売られたらしい。

 帰るべき家がなく家族もいない彼は、俺の手伝いをしてくれることになった。魔王討伐を目的とする勇者一行のサポートのことではなく、奴隷にされている子どもたちを助け出すことの方だが。

 それでも俺ひとりでやれることには限界があるので非常に助かっていた。この拠点に子どもたちを一時的に保護しておけることで、俺はを一気に進めることができる。貴族の屋敷に忍び込んで奴隷にされているエルフたちを助け出すという行為だが、これに時間がかかると奴隷を連れ去る事件が多発していることが情報共有されてしまう。

 奴隷を奪われないようにと、貴族が傭兵でも雇ったら面倒だ。だから俺は可能な限り早くリストにある奴隷たちを助け出さなければならない。

 そうはいっても、真昼に貴族の屋敷に忍び込むわけにはいかない。奴隷を弄んでいる貴族の目の前に転移してしまったら……。

 奴隷だけを連れて逃げられる自信がない。

 自信がないというのは貴族の追手から逃げられるかということではなく、俺がその場で貴族を殺さないよう自制できるか自信がないということ。我慢できる気がしない。奴隷にされた子に、俺がトラウマを与えかねない。

 とりあえず今は奴隷の解放だけを最優先して行っている。奴隷を弄んだ貴族たちの粛清はいつでもできる。だから俺は深夜に貴族の屋敷へ忍び込んでこっそり奴隷を連れ去り、昼間は奴隷にされていた子どもたちを親の元へ送り届けるという行為を繰り返していた。


「ケイトさん。もう三日間、昼も夜も活動しっぱなしでしょう。そろそろ休まれてはいかがですか?」

「俺は大丈夫だよ」

 収納魔法での転移は魔力をそれなりに使用するが、肉体的疲労はほとんどない。貴族の屋敷に侵入するというのは本来、見つからないかどうかの緊張感から心的疲労があってもおかしくはないが……。千里眼が使える俺には無関係だった。仮に見つかっても収納魔法で何とかなる。

「それより何か問題はない? 必要なものがあれば買ってくるよ。お金は奴隷商人の屋敷から持ち出したのがたくさんあるから」

 かなり儲けていたようで、奴隷商人のアジトには大量の金貨があった。その全てを収納魔法で回収していたから活動資金に不安はない。ちなみに奴隷にされていた子たちを親のところに帰す時、少しでも心のケアになればと金貨を数十枚手渡している。子どもが帰ってきたことに満足して、俺から金貨を受取ろうとしない親も多いけど。

「食料はまだ余裕があります。寝具なども問題ありません。といううかケイトさんの魔法はすごいですね。ベッドまで運べるなんて」

 一時的な保護場所だとしても、それなりの生活環境を用意してあげたかった。奴隷としてエルフたちを監禁していた貴族の屋敷からベッドや魔石を拝借し、この洞窟内でみんなが快適に過ごせるようにしている。

 環境浄化や周囲を照らす効果のある魔石があるので、深い洞窟の中でも問題なく活動ができる。てか、やっぱり貴族ってズルいよな。こんなに便利なアイテムがあるなら、勇者一行にも分けてほしかった。これらがあれば、もっと楽に旅ができたはずなのに……。

 まぁ、今それを愚痴っても仕方がない。
 問題がなさそうなら良かった。

 奴隷から解放した子を親元に帰す作業に戻ろうとした時。

「あっ、ひとつだけ問題が」

「ご主人様ぁぁあ!」
「うわっ。な、なに!?」

 いきなり後ろから抱き着かれた。

「ひとり、貴族に洗脳されていた子がいまして」
「ご主人様、おかえりなさいにゃ!!」

 猫獣人の女の子が、何故か俺のことを『ご主人様』と呼んでいた。
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