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第2章 魔法学園
第39話 反省
しおりを挟む俺は3年の先輩たちの魔法を受けきった。
「ぜぇ、ぜぇ…て、てめぇ、ぜぇ。ど、どう、なってんだ?」
「なんで、はぁ、はぁ…。俺らの、魔法が、効かない!?」
ふたりの先輩が魔力切れを起こし、地面に倒れ込んでいる。もうひとりはかろうじてまだ立っていた。
「ど、どんな魔法を使いやがった!?」
「防御力強化魔法です」
俺が新しく創ったヤツね。
冥府之鎧といって、俺の魔力量の半分を物防と魔防の補正値に変換してくれる魔法。今だとその補正値は10万くらいになってるんじゃないかな。
「そんなわけあるか! 防御強化魔法で俺たち3人の攻撃が防げるわけないだろ!! 少し前に来た勇者も三賢人たちも、俺たちの上級攻撃魔法には驚いていた!」
そうか。湊や田中たちに魔法を見せたんだ。彼らの反応を見たから、気が大きくなっちゃったのかな? でもみんな俺の新魔法を使えるようになったし、ここに来た時とは比べ物にならないくらい強くなってるはず。
勇者をビビらせたって自信は、早めになくしといた方が良いと思いまーす。
ちなみに俺は魔王が新魔法を使ってきても耐えれるのに、貴方たち人族の学生3名の力で俺の防御を崩せるわけないでしょう。
──って、この考え方はダメか。
力を得ても調子に乗るなっていうのは、俺へのブーメランすぎる。
もしかしたら魔族がヒトに化けて魔法を使ってくることがあるかもしれない。そうなった時でも、俺は“魔王の攻撃でも防げたから大丈夫”って慢心して普通に攻撃を受けてしまう。
今回がまさにそうだった。
冥府之鎧が発動していることは忘れていたが、学生程度の攻撃なら平気だろうって思って受けちゃった。
もし先輩たちの誰かが魔族だったら?
この学園は魔族の侵入を防ぐ仕組みがあるからないとは思うけど、もしそんなことがあったらと仮定して考えてみる。侵入してきた魔族が、俺の創った新魔法を使って来ていたら……。
補正値込みの魔防があれば、どんな魔法を使われても俺は死なない。でも不死の敵を封印できる魔法は創ってあるんだ。それを使われていたらヤバかった。
俺と契約しなければ魔法を使えないわけじゃない。
特許を無視して勝手に使ってしまうことができる。
そう考えると、避けたり防いだりする余裕があるのに無策で敵の魔法攻撃に当たりに行くというのは、絶対にダメな行為であるといえる。今後は気を付けるべきだと深く反省した。
「俺らが1年に負けるなんて認められるか! 火の精霊よ、我が敵を焼け──」
まだ立っていた先輩は残りカスの魔力で魔法を使う気だ。詠唱から火属性の初級攻撃魔法であることが分かる。
初級攻撃魔法か……。
でも俺は無策で魔法を受けないと決めたばかり。
「天帝領域、展開!」
「火炎弾!!」
先輩が放った火炎弾が俺から1メートルくらいの距離まで迫った時、それは跡形もなく消滅した。
俺が考案した新魔法を含む、全ての魔法を消滅させる魔法“天帝領域”。それを無詠唱で発動させたんだ。初級攻撃魔法って分かってるのに、これは流石にやりすぎか。
「お、俺の魔法が、消えた?」
「もしかして、新魔法か?」
「いや。32の新魔法に、魔法を消す魔法なんて存在してないはずだ」
確かに天帝領域はこの世界の一般人に公開してない。
それを把握してるってことは、魔法の勉強はしっかりしてるんだ。粗暴だけど、流石この魔法学園の3年生だと少しだけ彼らを見直した。
上級攻撃魔法も数発撃ってきたし、先輩たちがオークを余裕で倒せるというのも納得だ。そんな学生を育成できるこの学園がスゴイってことも再認識した。
でも力を持っちゃうと、勘違いしちゃうよね。勇者をビビらせたっていう事実も彼らのためによろしくない。
俺もそうだけど、気を付けなきゃいけない。
俺TUEEEE系ラノベや漫画の主人公たちが失敗するのは、いつだって自分の力を過信した時。
そのことを俺に思い出させてくれてありがとう。
だからお礼に、自分たちの無力さを感じさせてあげますね。
天に向かって手を掲げる。
「静寂破りて雷鳴響く、開闢より幾星霜、其の天楼に雷を蓄積せし巍然たる大精霊よ」
雷雲が立ち込め始めた。
「そ、空が……」
「精霊への呼びかけが3文節、だと?」
「なんなんだ、その詠唱は!?」
必要魔攻が8000だから、いくら強いっていっても先輩たちじゃ使えないだろ。
だから詠唱を隠さない。
脅しなので当てるつもりはない。死なないって分かってるこの訓練場でも、新魔法ではどうなるか分からないから。
「我の敵を塵芥のひとつも残さず殲滅せよ──」
空から俺に雷が落ちてくる。
身体に纏った雷を、範囲と威力を最小にして放つ。
「雷哮!」
先輩たちの右斜め上を狙って放った雷属性の最上位攻撃魔法は、遥か彼方まで続く一筋の閃光となり直進していった。
「ふぅ。まだやります?」
呆然としている先輩たちに声をかける。
「もう魔力尽きてますよね。てことで、この勝負は引きわ──」
「負けました!」
「……え」
「「すみませんでしたぁ!!」」
「えっ、あの、え?」
3年の男子学生3名が魔法訓練場の真ん中で俺に向かって土下座している。
何やら周囲が騒がしかった。それで気付いたが、いつの間にか訓練場の周囲にはたくさんの学生や教員が押し寄せていた。
「俺たちの負けです。約束通り、今後は何でも命令してください」
えっと、そんな約束してましたっけ?
ていうか、引き分けで良いんですけど。
引き分けじゃないとまずいんですけど。
「ユーマ!!」
俺の悩みの種が走ってきた。
すごい勢いで抱き着かれる。
「ユーマ、凄かった。私のために勝ってくれて、ありがとう」
「う、うん。どういたしまして」
一方、俺の脳内では──
『ユーマ様。今すぐ天地晦冥を! 全てなかったことにしましょう!!』
もうひとつの悩みの種が、とんでもないことを言い出していた。
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