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第2章 魔法学園
第35話 ふたりっきりの夜会
しおりを挟む寮の共有スペースに設置されたソファーに座る。
良かった。結構柔らかい。
これなら寝られそうだ。
いくらリエルが軽いといっても、モヤシの俺には彼女を背負ってここまで運んでくるのは非常に重労働だった。
汗をかいたから、出来ればシャワーを浴びたい。ただしタオルも着替えもない。
一応確認してみたが、シャワールームにタオルは置かれてなかった。
まぁ、そりゃそうだよな。
今日は我慢するか。
「あぁー、つかれだぁぁぁ」
ドサッとソファーに倒れ込む。
『魔力を筋力に帰る魔法を使えば良かったんじゃありませんか?』
「おっふ」
そーゆーことはリエルを運んでる時に言ってほしい。どうせ初めから気づいてたんでしょ? 俺は初めて女の子をおんぶするってことで、頭がパンクしてた。
『申し訳ありません。しかし魔法に頼らず、頑張って小娘を運んでいる祐真様は素敵でしたよ』
「そう? ありがと」
気になるのはアイリスがリエルを小娘って呼んで敵対視してるんだよなぁ。できれば仲良くしてほしい。といってもリエルはまだ俺のガイドラインである彼女の存在を知らない。説明も難しい。
俺の脳内で色々教えてくれる女性がいるんだって言っても、普通に変な奴って思われるだけだろう。そう思ってクラスメイトたちにも打ち明けていなかった。
『私は祐真様に認知されていれば、それだけで十分です』
「以前と違って、アイリスはかなり人間っぽくなったね」
『そうですか?』
「最初の頃から話し方は流暢だったけど、特許化できる魔法詠唱を教えてって言ってもテンプレみたいな回答しかくれなかった。でも最近は、先生が生徒に問題を解くためのヒントをくれるみたいな感じ」
『申し訳ありません。私、おかしいですよね』
「成長したってことだと思うよ。俺はおかしいとか、ダメなことだとは思わない。今だってこうして会話してくれて嬉しい」
何よりアイリスの可愛らしい声には心が癒される。
「今日は楽しかったな。俺が考えた魔法を、あそこまで真剣に議論してくれる人たちの中に入れて、俺は最高に幸せだった」
オタク仲間はいるけど、みんな少しずつジャンルが違うんだ。完璧に趣味趣向が一致するリアルの友人はいない。SNS上には俺と同レベルのことをガチで語り合える仲間がいたけど、直接会ったことはない。
だからこそ、俺の妄想世界の最奥まで入り込もうとしてくれる教師陣が最高に好きになった。
俺の詠唱の一言一句の意味を何度も考えてくれる。句読点の位置すら、彼らの考察対象だった。わざわざ難解な言葉を使っているのに、それをかっこいいと言ってくれるのが嬉しかった。
明日以降も、新魔法研究会に顔を出すのが楽しみで仕方ない。
『魔王を倒しに行くという目標、お忘れではありませんよね?』
「もちろん覚えてるよ。でもクラスのみんながこっちに戻って来てくれるまでの数日くらいは、堪能させてもらっても良いでしょ」
編入試験を受けた当日で寮に入れたのは凄いと思う。
入学手続きとか一切やらずに教師たちと魔法の議論を繰り広げてたわけだけど……。ほんとに良かったのかな?
今さらながら少し不安になった。
『寮の鍵を受け取っているので問題はないでしょう。少なくともこの学園の教師たちは、祐真様を手放したくないと考えるはず。多少の無理なら聞いてくれますよ』
「そっか。そうだよね」
逆に出ていきたいって言っても、退学させてくれなかったりしたら困るな。
ラノベとかだとありがちな展開。
俺は飛行魔法も壁抜け魔法も使えるから、脱走することは容易い。でもここの教師たちとは争いたくない。そんな状況にならないと良いが……。
大きな欠伸が出た。
とても眠い。
「もう、げんかい。ねる」
『布団もない場所で祐真様を寝せることになってしまい、申し訳ありません』
「アイリスのせいじゃないよ」
俺はこのソファーでも寝れる。
この寮に来た時は、まだ新魔法研究会でのやり取りによる興奮が残っていた。しかしこうしてアイリスと会話することで心が落ち着いてきた。
「アイリス、おやすみ」
『おやすみなさい、祐真様。良い夢を』
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