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第1章 異世界で始める特許登録
第18話 ステータスツリー
しおりを挟むクラスメイトたちと別れた翌日。
「うぅ……。やっぱりあのローブ、もらっときゃよかったなぁ」
俺は絶賛大後悔中だった。
頬を赤らめながらローブを差し出してきた唯奈さんの顔を、俺は今でも鮮明に覚えている。あれは一生忘れられない思い出だ。
みんなに迷惑をかけたくなくて、今回も一緒に行かないという選択をした。
それ自体に後悔はしていない。
ステータスポイントを大量にゲットし、次にみんなが帰って来てくれた時には頼りになるステータスになった俺をクラスメイトたちが歓迎してくれる未来を妄想している。それで1週間程度の孤独なら乗り越えることは可能だ。
しかし女子が身に着けた衣類(ローブ)を着られる機会なんて、俺には今後一生ないだろう。それだけが心残りで、なんであの場で受け取らなかったのかと激しく自分を攻めてしまう。
「……まぁ、もし俺がもらってたら、田中とダッサンに殴られただろうけど」
大人しい清楚系女子はオタクに人気がある。ギャル女子とは違い、オタクにも優しくしてくれるから。勘違いしてしまうんだ。
オタクに優しいギャルもいる?
そんなん都市伝説だろ。
ちなみに俺のオタク仲間の残りひとりであるキムは、クラスのギャルに気になる子がいるらしい。絶対無理だからやめておけ。
そんな俺たちのようなオタクでも夢を見てしまうのが、この異世界転移ってやつ。
オタク知識で無双することで、普段は見向きもされないような女子からチヤホヤされることを妄想するんだ。
しかし──
現実は残酷だった。
俺たちはクラス全員がこちらの世界に転移してきた。
オタクの俺たちが無双できるような特殊スキルはもらえず、当然のようにスポーツ万能で成績優秀の超人、湊が勇者になった。
また別のクラスのカースト上位のイケメンは強いスキルを得て、この世界でも活躍しているらしい。
一方、田中たちがもらったスキルも、俺の【特許権】と比べたら実用性のある強スキルだ。それでも元がオタクなので、身体の使い方が下手すぎた。せっかく強いスキルがあるのに、そこまで活躍できていないらしい。
その話を聞いて、一緒に傷を舐め合った。
オタクはこの世界に来てもオタクだったのだ。
「ステータスを上げても、身体の使い方が分からない俺は結局弱いままか」
ただステータスを上げれば無双できると思っていた。でもそれじゃダメなんだ。
『祐真様は、体術を使えるようになりたいのですか?』
「うん。アイリスが教えてくれたりする? 俺は全く武術とかやったことない素人だけど……。せめて魔物に接近された時、攻撃を避けられるくらいになりたい」
前に魔人の攻撃を避けたが、あれはアイリスの指示があった上に運が良かった。避けられたと言ってもバランスを崩していたし、連続攻撃されてたら死んでいた。
『ステータスボードを開いてください』
「なんで?」
『いいからいいから。私にお任せください』
こうして会話してると、普通に仲の良い人間と会話してる感じになる。
改めて考えるとすごいことだよな。
俺はこっちの方が好きだけど。
「ステータス確認」
とりあえず彼女の言う通りにしてみた。
[ステータス]
九条 祐真
種族:人族
職業:魔法使い(レベル106)
物理攻撃:25
物理防御:10
魔法攻撃:60
魔法防御:30
固有スキル【特許権】
ジョブスキル
・魔力回復速度強化(小)
・魔法防御力強化(小)
パッシブスキル
・言語理解
・ステータスボード
相変わらずのクソ雑魚ステータだ。
この世界、ステータスポイント(SP)を割り振らないと物理攻撃力とかが上げられない。だから魔人を倒してレベル106の魔法使いになった俺でも、物攻とかはこの世界に来た時から一切変わっていない。SPはほとんど特許登録に使ってるから。
ちなみに得られた固有スキルによっては、そのスキルレベルを上げることも可能だという。俺の【特許権】がそのタイプじゃないってのは確認済み。
「ステータス開いたけど、どうすれば良いの?」
そろそろ誰かが俺の魔法使ってレベルアップしてくれたかも。次ページで確認できるから、NEXTの文字を押してみようとした。
『SP確認より先に、物理攻撃力の文字を30回タップしてください』
なにそのスマホの開発者権限付与みたいな行為。
ちょっとオタク心をくすぐるじゃん。
ちなみにスマートフォンはとある場所で同じ文字を連続タップすると、スマホを『開発者モード』にすることができる。アプリ開発で使う機能らしいね。俺はスマホアプリなんて作れないけど、その機能がかっこいいから設定してる。
アイリスに言われた通り、物理攻撃の文字をタップする。
「1、2、3……、13、14………、28、29、30回!」
すると俺の前に半透明のボードが浮かび上がった。
【物理攻撃力の詳細設定モードに移行しますか?】
マジかよ、この世界にも開発者モードがあるのか。
『はい、とお答えください』
「はい」
すると半透明のボードが消え、俺のステータボードが一瞬強く輝いた。
「えっ、これは……」
ステータスボードが横に広がり、ゲーマーならおなじみの “スキルツリー” が展開されていた。いや、これはステータスのツリーだから、“ステータスツリー”かな。
そこには物理攻撃力としてひとつに統合されていた “腕力” や “脚力” 、“攻撃速度” 、“連撃” 、 “剣術” 、“近接戦闘” 、“遠距離攻撃”など様々な項目が記されている。
『本来はステータスボードが自動で戦闘職に最適なステータスの強化を行っていきます。魔法職の祐真様が体術を鍛えたいというのであれば、近接戦闘にSPを割り振れば良いのです。ちなみに回避でしたら、物理防御の方に統合されています』
「なるほど。そっちも30回タップして開発者モードにしろってことね」
『その通りです』
この情報、クラスのみんなは知ってるのかな?
10回ならダッサンが試してそうだけど。
アイツはこーゆーのなんでも試すから。
でも30回は多分やらないだろうから、次回みんなに会ったら自慢してやろう!
応援ありがとうございます!
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