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第1章 異世界で始める特許登録

第8話 魔法詠唱の特許明細書

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「アイリス。次の魔法詠唱の特許出願をお願いできる?」

 俺は古城に籠り、アイリスと共に魔法詠唱の特許を取得しまくっていた。

「次のは戦士用の魔法で、俺の詠唱なら従来の身体強化魔法より魔力消費量が少なくなる。それに従来のより更に脚力が20%向上するんだ。前衛で戦う戦士が使いやすいよう、精霊への呼びかけを短縮できる部分が新規性あるんじゃないかって考えてるんだけど、どうかな?」

『ちょ、ちょっと待ってください。先ほど申請を終えたばかりで……。もう次ですか? それに祐真様、お食事もとられていません。少しはお休みにならないと』

 なんだかアイリスが疲れているみたいだった。

 スキルって、疲れるのか?

 まぁ、アイリスがそう言うなら休憩するか。


 ちなみに俺は、食事をとるのもわすれるぐらい過去の黒歴史を思い出すのが楽しくなっていた。

 いや、本当なら思い出したくもない黒歴史のはずだったんだけど……。

 でもこの世界じゃ、それ黒歴史は俺を強くするための要素になる。

 この強くなるための準備をしている期間って、たまらなく面白い。地道なレベル上げを退屈だって言う人もいるだろうけど、俺は結構好き。強くなって、以前は苦戦した魔物を一撃で倒せるようになった時のことを考え、ただ黙々と経験値効率の良い魔物を倒し続ける。元の世界で俺はそんなスタイルのゲーマーだった。


『えっと、さっきのは申請した後に “明細書” も出したからオッケーだけど……。3件目のやつ、“拒絶理由通知” が届いてるぅぅ! あっ、22件目は特許査定が出た!』

 何やら俺の脳内でアイリスが騒がしかった。

 特許出願件数が10を超えたあたりから、こんな感じになってしまったんだ。

 いくつか聞いたことない単語があった。

 忙しそうだけど、聞いちゃおうかな?


「アイリス、明細書ってなに?」

『特許の明細書です! 精霊たちに提出しなきゃいけないんです!!』

 彼女がそう言うと、俺の目の前にステータスボードのような半透明のパネルが現れた。そこには小さな文字でたくさんの情報が書かれていた。



[魔法詠唱特許明細書]

【魔法名称】雷哮(らいこう)
【出願番号】特願245ー00001
【出願日】セシル暦245年5月12日
【詠唱文節の数】5
【主属性】雷/電撃
【審査請求】済み
【発明者】九条 祐真
【代理人】アイリス(ガイドライン)

【詠唱本文】
静寂破りて雷鳴響く、開闢かいびゃくより幾星霜いくせいそう、其の天楼てんろうに雷を蓄積せし巍然ぎぜんたる大精霊よ。我の敵を塵芥ちりあくたのひとつも残さず殲滅せよ、雷哮らいこう

【請求の範囲】
【請求項1】
雷属性魔法の詠唱であって、文節の1~3を精霊への敬意を示すことに費やした最上位魔法。

【請求項2】
請求項1の雷属性の最上位魔法であって、文頭の“静寂”は空の安定を示す。これを続く“破りて”で魔法発動の前準備とする。更に“雷鳴響く”はこの魔法が雷属性であることを示唆する最上位魔法。

【請求項3】
請求項1又は請求項2の最上位魔法であって、遥か長い月日が経過したことを示す “開闢より幾星霜” という表現で精霊たちが長期間、空に雷エネルギーを蓄積してきた、ということを示唆する最上位魔法。
(以下略)

【詳細の説明】
【この魔法詠唱の効果】
空に雷雲を召喚し、落雷により魔法発動者に膨大な雷エネルギーを帯電させる。その後、魔法発動者の指定方向へ狭範囲・超高威力の雷撃を放つ。

【001】
第1文節、“静寂破りて雷鳴響く”は、静かな空に雷雲が現れることを表現している。ここで魔法属性が雷であることを精霊に伝達する。静寂は“静けさ”や“沈黙”などの言葉でも良い。また空の安定を表現するそれ以外の表現でも良い。

【002】
第2文節、“開闢より幾星霜” は、非常に長い期間を示す言葉であり──
(以下略)



「な、なにコレ!?」

 とんでもない文字数だった。
 全部でA4用紙12枚分くらいある。

 こんなもの俺は書いていない。

『こちらがスキル【特許権】を使用して魔法詠唱を特許化しようとした際に必要な明細書です。請求の範囲にある請求項が、権利で保護される内容となります』

 請求項には俺が考案した魔法を文節ごとに区切って解説している感じだった。

『ただ請求項の内容のみでは、詠唱の一部を改変しただけで第三者が魔法を使えてしまう可能性があります。そこで詳細の説明にて、請求範囲の補足を行っています。例えば静寂という単語は、沈黙などとすることも可能だとしているのです』

「そうすると、ほかの人がちょっと変えたくらいじゃ魔法を使えないってこと?」

『実際には使用できてしまいますが、類似の詠唱であると認められれば特許権を侵害したとして “差し止め請求” や “損害賠償請求” を行うことが可能です。このふたつこそ、スキル【特許権】の真の力であるともいえます』

 特許実施許諾契約でステータスポイントの5%を貰うより、損害賠償請求とかの方がメインなの? なんだがよく分からない。

 まぁ、いつか使う時が来たらアイリスが教えてくれるだろう。

「とりあえず明細書ってのをアイリスが作ってくれてたってことで良いよね?」

『そうです。私、頑張っているんです』

「ありがとね。本当に助かってる。俺ひとりじゃ、絶対こんなの作れないから」

『祐真様に褒めて頂けて、嬉しく思います。引き続き頑張りますね!』

「よろしくお願いしまーす!!」

『はい。あっ、ちなみにこちらが特許登録済みの “公開広報” となります』



[魔法詠唱特許公開広報]

【魔法名称】雷哮
【特許番号】特許第0000001号
【登録日】セシル暦245年5月12日
【詠唱文節の数】5
【特許権者】九条 祐真
【代理人】アイリス(ガイドライン)
(以下略)


「おぉ! 特許第0000001号!! なんか嬉しい!!」

『明細書作るのって非常に大変なんですが、この番号が第0000100号になるまで、私は負けませんから!!』

 アイリスがどんどん人間っぽくなってきてる気がする。

 前より会話してて楽しい。

 だからかな。あまり無理はしないで欲しいって思うようになった。

 まだ時間はあるし、俺も明細書を作るの手伝ってみようかな。
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