SCRAP

本編 19.04 - 20.03

境界・決別/503/ローファンタジー

ㅤ世界が、2つに割れた。そういうと、地球の大円に沿って遥か高い壁が現れたように聞こえるかもしれない。けれど、それは全くランダムだった。大きさも形もバラバラで、都市をそっくり囲うような大きな場所もあれば、部屋一つ包めないほど小さなものもあった。

ㅤ壁は、微かな光だけを通した。壁の向こうに見えるのはモノトーンの暗い、寂しい世界で、一切の音が遮断される。壁は生物にだけ作用した。壁の向こうには濁った音と光の世界が広がる。

ㅤ大きな支障はない。問題といえば、違う種類の人間が同じ側にいても、互いを認識することはできない、ということだろうか。いいや、むしろいいことではないか？ㅤ向こう側では生物は知覚されないということは、輸送可能な人員が倍に増えるということだ。コミニケーションが取れない点は技術に任せるとして、世界人口が11桁を越えた今、むしろこれは、ありがたい現象なのではないか？

ㅤ湊は、向こう側の人間だった。私とは違う。もう、直接顔を見ることも叶わないのだ。

ㅤ2ヶ月後の朝、テーブルの上にあったのは、部屋の合鍵とメモだった。彼女なしで、どう生きればいいのだろう。

ㅤ崩れ落ちた私の背中に、ドアの閉まる音が跳ね返る。