男子高校生の怪奇譚

ちゅねお

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第3譚 少年のカルテ

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汚れ1つない白い壁に綺麗な環境音が流れる室内、轟々と焚いたアロマ水蒸気の向こう側で白衣を羽織った女医は「どうぞ~。」と一言扉の方へ声を掛けた。


「はい、どうぞ・・・恒雄くんお久しぶりだね。あれからどうかな?ちゃんと眠れているかな?」


そう聞かれた田辺恒雄は目を閉じて首を横に振る。
女医は困った様な顔で「あらら」と漏らし、恒雄のカルテが入力されている画面を覗く。


「ではここ最近の様子を教えて貰えるかな?」


女医の言葉に恒雄はぽつりぽつりと言葉を零し始めた。その表情は恐ろしい程に無機質である。


「...ふむふむ、なるほどねぇ...では前から言っていたオジサンは未だに現れるんだね?........うんうん、そうなんだ、じゃあオジサンが邪魔をするから眠れないんだね?.....え?いやいや、大丈夫怖くないよ」


女医は恒雄が初めてこの病院へ診察に来た時の事を思い出した。
友人と思われるくせ毛の学ランの少年に付き添われてやってきた彼は「隙間が怖い」と繰り返すだけで全く会話にならない状態だ。
目の焦点は合っておらず、ずっと虚ろな表情を浮かべていた。
薬物を使用している訳でも何でも無かった。
どうして彼がこの様な状態になったかまでは女医は聞き出す事が出来なかったが、通院していくうちに経過は安定したように見え安心していたが、まだ幻覚は見えているようだ。


「恒雄くん、オジサンはどんな時に恒雄くんの前に現れるの?...うんうん、なるほど。特に決まりはないのか...お薬はどうかな?効いてる?....あぁ、そっかぁ、分かりましたもう少し強いの出しますね....え?そうなの?」


恒雄の話によると、半開きの部屋の扉やカーテンの隙間それらに壮年期の男性が彼を覗いて来るようだとは以前から聞いていたが、最近では隙間とは関係ない場所でも現れるようになったらしい。

いよいよ本格的に入院を薦めて経過を見るべきだろうかと女医は困ったようにカルテと恒雄を交互に眺める。


「恒雄くん、もし今のお薬効果無かったらさ....一度入院......ん?」


女医の言葉を遮るように恒雄は目をかっぴらきながら口を開く。


「先生、今あんたの目の前にいるよ」


アロマ水蒸気とは異なるイヤに生暖かい温度が女医の顔面へ規則的に吹き掛かる気がした。





第3譚  終
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