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自己紹介
第1譚
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「書道部の藤崎くんって分かる?」
「あの顔が昭和顔のイケメンでしょ?」
「そうそう!今ね、藤崎くんが廊下の水道の前に1人で居たから声掛けてみようよ!」
少女2人は年頃らしい淡い気持ちと仲良くなれるかもという期待を持ちながら校内で1番の伊達男である藤崎祐一郎のもとへ制服のスカートを靡かせた。
少女の1人(A子)が言った通り廊下の端の1番目立たない水道で高い背を縮こませながら何か作業をしている少年がいる。少年こと祐一郎は1人俯きながら手元をバシャバシャと必死に動かしており、近付いてくる2つの気配に全く
気が付いていない様子だ。
きっと彼が所属している書道部で使用した道具を洗っているのだろうとA子は遠慮がちに祐一郎へ声を掛けた。
「あ、あの、藤崎くん?」
「............」
傍から見た彼はいつも機嫌が良さそうに誰にでもフランクに対応しているようだが、今日は声を掛けられた事にすら気付いていないのか少女達を見ようとしない。
手元はひたすらバシャバシャと忙しそうである。
そんな祐一郎を不思議に思い、A子は彼の手元を覗き込むとどうやら書道道具ではなく彼自身の手を洗っている様だった。墨でも付いたのだろうか何度も入念に固形石鹸を擦り付けて。
激しくタイルへ叩きつけられる水しぶきが合間ってその光景は異様に感じられた。
「....あ、ん?何か用かな?」
手元を覗き込まれて漸く人の気配に気付いたのであろう、祐一郎は横を振り向き端正な顔を愛想良く振り撒いた。
「藤崎くん、手どうしたの?怪我したの?」
もう1人の少女(B子)は依然止まる事のない彼の手の動作を見つめながら聞く。
B子の問いに祐一郎はフと手を一瞬止め、目を細めた。
「いやははっ参ったよ。さっき墨を零しちゃってさ、片付けていたら爪の中まで墨が入ってきちゃったんだ。放置すると中々落ちなくなるんだよね。」
ほらね。と祐一郎は2人に手を差し出すと確かにうっすらと墨の痕が見える。
A子が改めて祐一郎の姿を確認すると、ワイシャツにも無数の墨が飛んだ痕跡が見える。
そんな祐一郎の姿にA子はじんわりした気持ちが込み上げ、「あははは!やだぁ!ここにも付いてるよぉ!?」と祐一郎のYシャツを触ろうと手を向けた。
「駄目!!!!!!!!!!!」
そんなA子に突如大声を張り上げたB子は彼女の手を勢い良く掴み逃げる様にその場を走り去る。
残された祐一郎は何が何だか分からないと不思議そうな面持ちでドンドン小さくなる2つの背中を眺めた。
「B子...どうしたの?」
友人の異変にA子は動揺を何とか抑えつつ優しく問いかける。祐一郎にグイグイ行き過ぎてB子に引かれたかな?と少し反省の色も付け加えた。
だが、A子のそんな心配を他所にB子は神妙な面持ちで口を開く。
「あれ墨で出来たシミじゃない」
「え?」
「あれA子が触ろうとしたの"目"だったよ」
A子はゾッとした。
B子によると祐一郎のYシャツに飛び散っていた様に見えたそれは正しく黒目がちな目で、A子が触ろうとした瞬間ギョロっと一斉にA子を見ていたそうだ。
「くそ、くそ、全然シミが落ちない」
廊下の水道では未だに落ちる事のないそれを落とそうとする少年と、その頭上からダラりと垂れ下がった人影だけが残り、水道の水の激しい音が廊下にいつまでも響いた。
第1譚 シミ 終
「あの顔が昭和顔のイケメンでしょ?」
「そうそう!今ね、藤崎くんが廊下の水道の前に1人で居たから声掛けてみようよ!」
少女2人は年頃らしい淡い気持ちと仲良くなれるかもという期待を持ちながら校内で1番の伊達男である藤崎祐一郎のもとへ制服のスカートを靡かせた。
少女の1人(A子)が言った通り廊下の端の1番目立たない水道で高い背を縮こませながら何か作業をしている少年がいる。少年こと祐一郎は1人俯きながら手元をバシャバシャと必死に動かしており、近付いてくる2つの気配に全く
気が付いていない様子だ。
きっと彼が所属している書道部で使用した道具を洗っているのだろうとA子は遠慮がちに祐一郎へ声を掛けた。
「あ、あの、藤崎くん?」
「............」
傍から見た彼はいつも機嫌が良さそうに誰にでもフランクに対応しているようだが、今日は声を掛けられた事にすら気付いていないのか少女達を見ようとしない。
手元はひたすらバシャバシャと忙しそうである。
そんな祐一郎を不思議に思い、A子は彼の手元を覗き込むとどうやら書道道具ではなく彼自身の手を洗っている様だった。墨でも付いたのだろうか何度も入念に固形石鹸を擦り付けて。
激しくタイルへ叩きつけられる水しぶきが合間ってその光景は異様に感じられた。
「....あ、ん?何か用かな?」
手元を覗き込まれて漸く人の気配に気付いたのであろう、祐一郎は横を振り向き端正な顔を愛想良く振り撒いた。
「藤崎くん、手どうしたの?怪我したの?」
もう1人の少女(B子)は依然止まる事のない彼の手の動作を見つめながら聞く。
B子の問いに祐一郎はフと手を一瞬止め、目を細めた。
「いやははっ参ったよ。さっき墨を零しちゃってさ、片付けていたら爪の中まで墨が入ってきちゃったんだ。放置すると中々落ちなくなるんだよね。」
ほらね。と祐一郎は2人に手を差し出すと確かにうっすらと墨の痕が見える。
A子が改めて祐一郎の姿を確認すると、ワイシャツにも無数の墨が飛んだ痕跡が見える。
そんな祐一郎の姿にA子はじんわりした気持ちが込み上げ、「あははは!やだぁ!ここにも付いてるよぉ!?」と祐一郎のYシャツを触ろうと手を向けた。
「駄目!!!!!!!!!!!」
そんなA子に突如大声を張り上げたB子は彼女の手を勢い良く掴み逃げる様にその場を走り去る。
残された祐一郎は何が何だか分からないと不思議そうな面持ちでドンドン小さくなる2つの背中を眺めた。
「B子...どうしたの?」
友人の異変にA子は動揺を何とか抑えつつ優しく問いかける。祐一郎にグイグイ行き過ぎてB子に引かれたかな?と少し反省の色も付け加えた。
だが、A子のそんな心配を他所にB子は神妙な面持ちで口を開く。
「あれ墨で出来たシミじゃない」
「え?」
「あれA子が触ろうとしたの"目"だったよ」
A子はゾッとした。
B子によると祐一郎のYシャツに飛び散っていた様に見えたそれは正しく黒目がちな目で、A子が触ろうとした瞬間ギョロっと一斉にA子を見ていたそうだ。
「くそ、くそ、全然シミが落ちない」
廊下の水道では未だに落ちる事のないそれを落とそうとする少年と、その頭上からダラりと垂れ下がった人影だけが残り、水道の水の激しい音が廊下にいつまでも響いた。
第1譚 シミ 終
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