天空の蒼鷲 ーされど地に伏す竜 ー

すだちかをる

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ヤナン村

恐怖との対峙-Ⅳ-

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「すげえ」
 
 横でアランから感嘆の声が漏れ、ふと我に返る。
 そして慌ててばあさんの元に歩み寄ろうとして、凄まじい怒気が飛んできた。
 
「来るんじゃない!」

 恐ろしい迫力に足は強制的に歩みを止めた。
 恐る恐るばあさんを見ると、こちらに目を向けることなく、あらぬ方向を見ている。
 その表情は若い美少女のままだが、険しく歪んでいた。
 ばあさんの見据える先、その方向には何も無い。
  ・・・いや、無かった。
 それは突然、現れた。
 小さな黒いもやだ。
 何もない空間にそれは現れ、次第に渦を巻きながら大きくなってい。
 やがて両手ほどの大きさになると、中から二つの禍々しい鉤爪が抜き出てきた。
 そしてその爪が渦を引き裂くと、一匹のSAWが這い出てきた。
 先程のSAWやつらより二回り程大きく、筋肉質の体躯には黒い重装鎧を身に付け、
 背中には身の丈と同じくらいの両手斧を下げている。
 獣が吼え、こちらを向いた。
 殺意と狂気に満ちた赤い両眼。
 とても友好的にはなれそうにはない。
 そして獣が口を開いた言葉に驚く。
 
「ナンダ、マダイキテイル、ニンゲンガ、イタノ、カ・・・」
 
 その獣は、人語を話した。
 まさか、そんな・・・
 自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。
 SAWは、人間と相容れない存在。
 だから人語を操るSAWは存在しないと聞かされてきた。
 けれど目の前にいるのだ、そのあってはならない存在が。
 こいつは先ほどの奴らとは違う。
 肉体からだが本能的に悟ったのか、知らずにアランと共に後退あとずる。
 それを見たSAWの口角が鋭さを増した。
 鋭い牙が見え、長い舌を舐め回す。
 次の、瞬間。
 SAWはとてつもない速度でこちらに突進してきた。
 かと思うと、既に目前には背中の両手斧を振り下ろすSAWの姿がある。
 顔を見た。
 にたりと不気味な笑みと恍惚な眼差しを浮かべている。
 その時、悟った。
 嗚呼、俺は此処で死ぬんだなと。
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