天空の蒼鷲 ーされど地に伏す竜 ー

すだちかをる

文字の大きさ
上 下
21 / 25
ヤナン村

恐怖との対峙-Ⅳ-

しおりを挟む

「すげえ」
 
 横でアランから感嘆の声が漏れ、ふと我に返る。
 そして慌ててばあさんの元に歩み寄ろうとして、凄まじい怒気が飛んできた。
 
「来るんじゃない!」

 恐ろしい迫力に足は強制的に歩みを止めた。
 恐る恐るばあさんを見ると、こちらに目を向けることなく、あらぬ方向を見ている。
 その表情は若い美少女のままだが、険しく歪んでいた。
 ばあさんの見据える先、その方向には何も無い。
  ・・・いや、無かった。
 それは突然、現れた。
 小さな黒いもやだ。
 何もない空間にそれは現れ、次第に渦を巻きながら大きくなってい。
 やがて両手ほどの大きさになると、中から二つの禍々しい鉤爪が抜き出てきた。
 そしてその爪が渦を引き裂くと、一匹のSAWが這い出てきた。
 先程のSAWやつらより二回り程大きく、筋肉質の体躯には黒い重装鎧を身に付け、
 背中には身の丈と同じくらいの両手斧を下げている。
 獣が吼え、こちらを向いた。
 殺意と狂気に満ちた赤い両眼。
 とても友好的にはなれそうにはない。
 そして獣が口を開いた言葉に驚く。
 
「ナンダ、マダイキテイル、ニンゲンガ、イタノ、カ・・・」
 
 その獣は、人語を話した。
 まさか、そんな・・・
 自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。
 SAWは、人間と相容れない存在。
 だから人語を操るSAWは存在しないと聞かされてきた。
 けれど目の前にいるのだ、そのあってはならない存在が。
 こいつは先ほどの奴らとは違う。
 肉体からだが本能的に悟ったのか、知らずにアランと共に後退あとずる。
 それを見たSAWの口角が鋭さを増した。
 鋭い牙が見え、長い舌を舐め回す。
 次の、瞬間。
 SAWはとてつもない速度でこちらに突進してきた。
 かと思うと、既に目前には背中の両手斧を振り下ろすSAWの姿がある。
 顔を見た。
 にたりと不気味な笑みと恍惚な眼差しを浮かべている。
 その時、悟った。
 嗚呼、俺は此処で死ぬんだなと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...