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ヤナン村
恐怖との対峙-Ⅱ-
しおりを挟む星が流れ、景色が変わる。
やがて遠くで一つの小さな鈍い灯りが見えた。
それは次第に数を増し、暗闇の中に幾つかの点として現れる。
距離や位置的に、ヤナンの方角で間違いない。
しかし近づくにつれて大きくなるその灯りは、揺らめきを帯び始めた。
胸騒ぎがした。
アランが急いで後続の三人に裏から廻るように指示を出す。
三頭の馬が離れ、残ったアランと二人、正面から村へと突っ込む。
そして村の惨状を目の前にして、思わず凍りついた。
「嘘だろ・・・」
草木を倒し、家々を焼き尽くす業火。
逃げ惑う村の人々と湧き上がる悲鳴。
恐れていた事が現実として、そこにあった。
逃げ惑う村人の一人が、こちらに気づいた。
女の子だ、まだ十やそこらだろう。
目が合い、助けを求めるようにこちらに駆け出した、直後だった。
後方から飛んできた何かが、女の子の脳天に突き刺さった。
そのまま前のめりに地に伏し、それが片手斧だと分かる。
女の子の瞳が、あらぬ方向を見ていた。
そして既に絶命したその子の前に、そいつはぬらりと現れた。
揺らめく炎から現れた黒い影。
それは、人間の姿を成していなかった。
成人男性とほぼ同じ体格をした黒山羊の頭と黒い翼をもった異形の存在。
そいつがゆっくりと女の子の頭から斧を引き抜き、そして赤い眼でこちらを見た。
・・・SAWだ!
「おいっ、カッシム! 上だ、上!!」
アランの声で我に返り、ふと視線を上げる。
するとそこには、つい先ほどまで地上にいたSAWが、
信じられない跳躍でこちらへ目掛けて斧を振り下ろそうとしていた。
一瞬の出来事に身動きできず、目前にその斧が迫ってきた時。
後ろからアランの馬が、突進してきた。
自分の馬とぶつかり、その衝撃で地上へと放り投げ出される。
斧は、アランの馬の首を両断した。
首のないアランの馬が最後の抵抗とばかりに狂ったように暴れ、
そして最後に両前足を高々く上げると、そのままアランと共に地に墜ちた。
驚いた自分の馬は逃げるようにその場から駆け出し、首の無い馬はその血で大地を赤く染め始める。
SAWが、アランの元に歩み寄る。
アランは苦悶の表情を浮かべたまま左足を抱えていた。
その足は普通ではありえない角度に曲がっている。
足を折ったのか・・・
助けに行こうにも、体が痛くて思うように歩けない。
見下ろすSAWと、見上げるアラン。
そしてSAWの斧がゆっくりと振り上げられた。
・・・おい、嘘だろ、やめてくれ!!!
声にならない悲鳴が体中を暴れ狂う。
そして斧が無情に振り下ろされた、そのとき。
「やれやれ、もうちょっと手加減できないもんかね」
SAWとアランの間に閃光が走り、一人の人物が現れた。
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