天空の蒼鷲 ーされど地に伏す竜 ー

すだちかをる

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ヤナン村

恐怖との対峙-Ⅰ-

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 生暖かい風を切り裂き、夜闇の中を五頭の馬が駆け抜ける。
 馬の疲弊などかまっていられない。
 力いっぱい手綱を操り、疾走する。
 幸いデトゥックとヤナンは、長く交流がある村同士。
 行き交う機会も多いため、道はそれなりに舗装されている。
 振り返ると、後続には頼もしい四人の仲間達の姿があった。
 そのさらに後ろには生まれ故郷デトゥック村の灯。
 馬を盗んだ罪悪感はあるが、こうでもしないとヤナンには行かせてくれなかっただろう。
 小さくなっていく村の灯を背にそんな事を考えていると、一頭の馬が隣を並走してきた。
 手綱を握るには、一番の親友アランだ。
 
「やったな、カッシム!
 まさかこんなに上手く行くとは思わなかったけど・・・
 今ごろヤントゥムさん、かなり怒っているんじゃないか?」
 
 アランの言葉に一瞬、婆さんの顔が浮かんだ。
 ・・・確かに怒っているだろうな。
 けれど、やっぱりメイアの事がどうしても気になる。
 その衝動が、こんな暴挙とも取れる行動を起こしたわけだが・・・
 ちらりとアランの顔を見る。
 気づいたアランが、不思議そうに「どうした?」と尋ねた。
 
「いや、なんも関係ないお前達まで巻き込んじまったなって。
 ・・・本当にいいのか?
 今なら引き返して、全部命令されただけだって言ってもいいんだぜ?」
 
 アランが鼻で笑った。
 
「はっ、バカ言うな。
 それはさっき、散々、話あって決めた事だろ。
 "俺たちも一緒に行く"って。
 今更帰っても、こっぴどく怒られるだけ。
 ならいっそ、このままお前と一緒にいた方がいいさ」
 
「でも・・・」と言い掛けた言葉をアランが遮る。

「もう、その話はすんな」

  続けて後続の三人に振り返り「お前ら、帰りたいか?」と尋ねた。
 
「今更帰れねーだろ」
「一緒に行くよ」
「お前らだけ、格好つけんじゃねーよ」
 
 三人の言葉が胸に響く。
 アランがこちらに視線を戻し、にかっと笑った。

「そういうわけだから、諦めな」

 本当は嬉しいのに、口から出た言葉はぶっきらぼうになる。
  
「お前ら、ほんとに馬鹿ヤロウだよ」

 無論、照れ隠しのつもりだったが、やはり一番の親友アランには直に見透かされた。
 
「何、照れているんだよ」
「照れてねぇよ」
 
 否定するも、アランが執拗以上にこちらを見てニヤニヤしている。
 ついに根負けして、大声で認めた。

「あーそうだよ、照れてるよ。ありがとな、おまえら」

 後続の三人から笑い声が聞こえた。
 アランも笑い出し、とてもこれから危険な所に行く集団とは思えない。
 笑いが止み、暫しの沈黙が訪れると思わず胸中の不安が口から零れた。

「・・・なあ、アラン。ヤナン、大丈夫だと思うか?」

「お前はどう思ってんだ?」とアランが聞き返す。
「大丈夫なはずさ」と応えると、アランは首を振った。
 
はずさ・・・じゃなくて、・・・きっと大丈夫、だろ?」

「ああそうだな・・・きっと大丈夫だ」
 
 自分に言い聞かせるようにそう呟くと、アランが再び後続の三人に振り返り、今度は高らかに煽った。
 
「さあ、お前ら精一杯飛ばせよ!
 目指すは、ヤナン。
 俺らは彼らを救う勇者なんだからな」
 
 後ろから歓声が沸き起こった。
 馬の嘶きが聞こえ、三人の馬が速度を上げ追い越していく。
 アランも「俺らも行くぞ」と言い残し、馬を奔らせた。
 ・・・メイア、無事でいてくれ。
 そう願い、手綱を強く握り締め、自分も四人を追うように馬を一段と奔らせた。
 
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