18 / 25
ヤナン村
恐怖との対峙-Ⅰ-
しおりを挟む生暖かい風を切り裂き、夜闇の中を五頭の馬が駆け抜ける。
馬の疲弊などかまっていられない。
力いっぱい手綱を操り、疾走する。
幸いデトゥックとヤナンは、長く交流がある村同士。
行き交う機会も多いため、道はそれなりに舗装されている。
振り返ると、後続には頼もしい四人の仲間達の姿があった。
そのさらに後ろには生まれ故郷デトゥック村の灯。
馬を盗んだ罪悪感はあるが、こうでもしないとヤナンには行かせてくれなかっただろう。
小さくなっていく村の灯を背にそんな事を考えていると、一頭の馬が隣を並走してきた。
手綱を握るには、一番の親友アランだ。
「やったな、カッシム!
まさかこんなに上手く行くとは思わなかったけど・・・
今ごろヤントゥムさん、かなり怒っているんじゃないか?」
アランの言葉に一瞬、婆さんの顔が浮かんだ。
・・・確かに怒っているだろうな。
けれど、やっぱりメイアの事がどうしても気になる。
その衝動が、こんな暴挙とも取れる行動を起こしたわけだが・・・
ちらりとアランの顔を見る。
気づいたアランが、不思議そうに「どうした?」と尋ねた。
「いや、なんも関係ないお前達まで巻き込んじまったなって。
・・・本当にいいのか?
今なら引き返して、全部命令されただけだって言ってもいいんだぜ?」
アランが鼻で笑った。
「はっ、バカ言うな。
それはさっき、散々、話あって決めた事だろ。
"俺たちも一緒に行く"って。
今更帰っても、こっぴどく怒られるだけ。
ならいっそ、このままお前と一緒にいた方がいいさ」
「でも・・・」と言い掛けた言葉をアランが遮る。
「もう、その話はすんな」
続けて後続の三人に振り返り「お前ら、帰りたいか?」と尋ねた。
「今更帰れねーだろ」
「一緒に行くよ」
「お前らだけ、格好つけんじゃねーよ」
三人の言葉が胸に響く。
アランがこちらに視線を戻し、にかっと笑った。
「そういうわけだから、諦めな」
本当は嬉しいのに、口から出た言葉はぶっきらぼうになる。
「お前ら、ほんとに馬鹿ヤロウだよ」
無論、照れ隠しのつもりだったが、やはり一番の親友アランには直に見透かされた。
「何、照れているんだよ」
「照れてねぇよ」
否定するも、アランが執拗以上にこちらを見てニヤニヤしている。
ついに根負けして、大声で認めた。
「あーそうだよ、照れてるよ。ありがとな、おまえら」
後続の三人から笑い声が聞こえた。
アランも笑い出し、とてもこれから危険な所に行く集団とは思えない。
笑いが止み、暫しの沈黙が訪れると思わず胸中の不安が口から零れた。
「・・・なあ、アラン。ヤナン、大丈夫だと思うか?」
「お前はどう思ってんだ?」とアランが聞き返す。
「大丈夫なはずさ」と応えると、アランは首を振った。
「はずさじゃなくて、・・・きっと大丈夫、だろ?」
「ああそうだな・・・きっと大丈夫だ」
自分に言い聞かせるようにそう呟くと、アランが再び後続の三人に振り返り、今度は高らかに煽った。
「さあ、お前ら精一杯飛ばせよ!
目指すは、ヤナン。
俺らは彼らを救う勇者なんだからな」
後ろから歓声が沸き起こった。
馬の嘶きが聞こえ、三人の馬が速度を上げ追い越していく。
アランも「俺らも行くぞ」と言い残し、馬を奔らせた。
・・・メイア、無事でいてくれ。
そう願い、手綱を強く握り締め、自分も四人を追うように馬を一段と奔らせた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる