天空の蒼鷲 ーされど地に伏す竜 ー

すだちかをる

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デトゥック村

囚われの身-Ⅴ-

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「何か御用ですか?」

 振り返ると部屋の入口に先ほどの大男が立っていた。
 恭しく尋ねた大男に、老婆は俺を指差し言い放つ。

「この者を裏の穴倉に閉じ込めておき」

 「えっ」と間の抜けた声を漏らすと同時に、俺の体が急にふわりと浮いた。
  後ろから大男の太い腕が俺の両脇を担ぎ上げるように持ち上げたのだ。
  そのまま部屋を出て行こうとする大男を、ナルシャが呼び止める。
 
「お待ち下さい!」

  大男が立ち止まり、ナルシャが老婆に向き直り尋ねる。
 
「何をなさるのですか、ヤントゥム様」
 
「こやつは災いをもたらす使者。
  故に今ここで処罰せねば後々手遅れになるやもしれん、だからじゃ」
 
 老婆がナルシャを見据えて冷たく端的にそう告げると、大男がまた部屋を出ていこうとする。
 それを、ナルシャが今度は語気を強めて呼び止めた。
 
「待ちなさい!」

 立ち上がり、静かにこちらへ歩み寄ると大男を見上げた。
 
「この者は我々が保護した方です。
 規則によりこの後、首都エヴァーフォーンに連れて行きますので勝手な真似は許しません」
 
 大男とナルシャが、俺を挟んで互いに厳しい表情で対峙する。
 見かねて大剣の少女も立ち上がり、両者の間に割って入る。
  
「ナルシャ姉、どうしたんだよ」

 らしくねぇぜと宥めるも、ナルシャは引き下がらない。
 
「私は、この方の身の安全を保障しました。
 たとえ百識の灰魔女グレイウイッチと謳われるヤントゥム様だろうと、
 一方的な言い分だけで、この方の処遇を決めさせるわけにはいきません。
 どうしてもと仰るのであれば、根拠をお聞かせ下さい」
 
「根拠?」
 
 老婆の眉が僅かに上がった。
 そして徐に腰を上げると両手を後ろに組み、ゆっくりとこちらに歩み寄って来た。
 目前まで来て、今度はナルシャと老婆が対峙する。
 
「言う様になったではないか、ナルシャよ。このあたしに意見を言うとはね。
 ・・・まぁいいさね、百聞は一見にしかずだ」
 
 そう言い老婆が大男に目配せすると、ようやく俺の体が解放された。
 俺達を通り越し「ついてきな」と告げ、老婆が広間を出る。
 大男が続き、大剣の少女は「一体、どうしちまったんだよ」とナルシャに囁き、その後を追う。
 残された俺に、ナルシャが約束をした。
 
「安心して下さい、あなたの身柄は私が絶対保証します」
 
 妙な説得力に俺は小さく頷き、またナルシャに付き添いながら三人の後を追う為に部屋を後にした。
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