異世界酒造生活

悲劇を嫌う魔王

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第三章〜サードフィル〜

第六十七話「会談の後始末 Part3」

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 ハハハハハッ、なんか勢いで爵位くれとか言っちゃったけど、まじで貰えた上に、俺は爵位が何なのかいまいち分かっていない。でも多分、名誉市民的なポジションを貰えるのだろうと思っている。

 そして侯爵はヤケに上機嫌そうだ。この人が上機嫌だと碌なことが起きない。なんか嫌だなぁ。

「爵位については追って連絡しよう。今はまず乾杯したい気分だ、執務も無事終わり一息入れたいな。スタンプ」
「はっ」

 スタンプ伯爵はいつも侯爵の申し付けを聞けるように絶妙な位置で控えている。伯爵も貴族だって言うのに、それを顎で使えるこの人は何者なんだ? それとも貴族社会ってこんなもん? 疑問は募るが俺に取っては全てどうでも良いことだった。

「この場にいる者にショウゴの酒を振る舞え」
「御意」

 侯爵は付け加える様にスタンプを呼び戻した。

「それと何か甘いものが食べたいな。大使のせいでデザートを食べる時間が無くなってしまったからな」
「仰せのままに」

 侯爵がそう言うのを聞いて俺は卓上に残されていたチョコレートを見て口を挟んだ。

「俺が作ったチョコレートはお気に召しませんでしたか?」
「ん? なんだそれは美味いのか?」
「え、いや、侯爵閣下の目の前にありますが……」
「何?」

 俺は侯爵の目の前に手付かずで残されていた丸いチョコを指さした。

「この茶色く焦げた物が何だと言うのだ?」
「焦げてないですよ?!」
「馬鹿を言え、こんな見た目が豚の糞にしか見えないものが食えるか!

 おいおいおい、豚の糞とはひどい良い様だなぁしばくよ? 俺はにっこりしながら怒りマークをこめかみに浮かべた。

「正直言えば、貴様の酒とこれが共に出てきた時は冷や汗をかいたのだぞ! 幸い大使はこれを食べなかったから良かったものの」

 え、えぇ。侯爵はとても不満そうにチョコレートを見た目だけで批判した。

 そうか、チョコレートに馴染みがないから、何かを焦げ付かせた失敗作が出てきたと思われたんだなぁ。侯爵はチョコの制作過程までは見ていないし、そういえば……厨房の給仕さんにチョコを献上品として保管してもらう時も、ギョッとしていた様な……。

 俺の説明不足だったようだ。

「良いですか、侯爵閣下。これはチョコレートと言ってとても美味しいお菓子なんです」
「貴様爵位を貰えるからと言って、侯爵である私に虚言を吐くのはあまり褒められたものではないぞ?」
「侯爵が厨房で一口食わせろと仰っていたものですよ?」
「何、本当か?」

 侯爵はそう聞くと、チョコレートをしばらく見つめた後にその手に一つ取ってみた。そしてすごぉく嫌な顔をしながら匂いを嗅いだ。すると……彼の疑惑の表情が少し緩んだ様に思えた。

 侯爵は何故か一度スタンプ伯爵にチョコレートをまざまざと見せつけた。すると伯爵はゆっくりと頷いた。

「閣下、是非一口でお食べください。美味しさは保証しますので」
「むっ、んんん」

 侯爵が恐る恐る少しだけ齧って様子を見ようとしていたので、このように声をかけた。このチョコレートはただのチョコではない。あるサプライズが仕込まれているのだ。
 
 侯爵はそのままチョコを口に放り込んだ。さすがの社交界のボスも目を瞑っての挑戦だった。しかし、彼の口がもぐもぐと少し動いた後……彼の長いまつ毛と綺麗いな二重が特徴的な瞳が見開かれた。

 その表情は驚きに満ちていて信じられないと俺に訴えてきている様だった。

「初めて嗅ぐような香ばしい香りが口から鼻に抜けたかと思えば、口の中で砕けた菓子の中からトロッとした甘い蜜が流れ出してきた。しかも、この甘い密に含まれている物の味には覚えがあるぞ?」

 侯爵はこいつめ! と言いたげに悪戯をされた人間が浮かべる様な、一種の責めを孕んだ視線を向けて来た。

 俺は少しニヤついてその問いに無言で答えた。すると彼は自身ありげに答えてきた。

「やはりな、この甘い蜜の正体はウイスキーであろう?」
「さすが閣下でございます。その通り、チョコレートの中に蜂蜜とウイスキーを混ぜた物を仕込みました」
「ふふっ、本当にお前が作る物は摩訶不思議な物ばかりである。だが、それにも増して本当に美味なものばかりだ。ふむ、この菓子はチョコレートというのか」
「閣下それは少し違います」
「何だと? 貴様が今自分の口でそう言ったではないか」

 まぁそうなんだけどね。

「ご説明しますと、甘い蜜を包んでいる菓子がチョコーレートと言いまして、その中に先程ご説明した甘い蜜が入っているチョコレート菓子を、ウイスキーボンボンと申します」
「ほほぅ、ではこの菓子はウイスキーボンボンなるものというわけだな?」
「左様です」
「よかろう、ウイスキーボンボンなる菓子、誠気に入った! 覚えておこう」

 良かった。食べてさえくれればチョコレートが貴族にも受け入れてもらえる味みたいだ。ティナに数時間もかけて煎ったカカオ豆を擦ってもらった甲斐があったぜ! 俺はティナの方を振り向いて、右拳を突き出した。

 彼女は先程のこともあり少しびくついたが、俺が微笑みかけて「やったね」と小声で声をかけると、観念した様な顔を見せた後にいつも通りの毅然としたティナに戻ってくれた。

 そして「あぁ」と同意の感情がこもった一言と力強い左拳が返ってきた。
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