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第三章〜サードフィル〜
第六十五話「会談の後始末 Part1」
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ティナに弾き飛ばされた大使は、そのまま座っていた立派な椅子に逆さまにホールインした。彼は背もたれからずり落ちながら、鼻から血を流し、泡を吹き出して気絶していた。
俺は怒り心頭になっているティナの腕を抱き込み訴えた。
「ティナやり過ぎだよ!!」
「どこがだ! これでも手加減してやったのだぞ? 本当なら我が剣の錆にしてやるところだ」
「そういう事じゃなくてさっ! 相手は一国のお偉いさんなんだよ!!」
俺の叫びには悲痛なものが含まれていたのだが、残念ながら彼女には届いていない様子だった。
「ふん! だからどうした? 相手が王だろうが、神だろうがショウゴに指一本触れさせはしない!」
ティナはすごく興奮していて聞く耳を持ってくれなかった。面と向かって言ってくれている内容はすごく嬉しいが、時と場合を考えると今は正直煩わしかった。
俺はとりあえず気絶している大使の元まで駆け寄った。そこでは既に大使の後ろに控えていたケモミミお姉さんと魔法使いの少女が手当てを始めていた。側から見るに、大使の具合は大したことは無さそうだった。
ひとまずティナが手加減をしたと言うのは嘘ではないらしい。それでも俺の心にかかった不安のもやは晴れなかった。
「本当にすみませんでした! 私の護衛が大使に大変な無礼を!」
俺は何度もお辞儀をして謝罪した。すると、ケモミミお姉さんが応対してくれた。
「この事は改めて追及させて頂きますので今はご返事しかねます」
(超ぅぅぅスッキリしました!! うっ!! うぅうっかり本音を漏らしてしまった。心まで読まれる、と言うのはっ、本当に、厄介ね……苦しい。)
先程まで冷然とした態度で俺に接していたケモミミお姉さんが、生き物が苦しむようにその無表情だった顔に生気を取り戻し、その場に苦しみながら蹲ってしまった。
俺は思わず彼女の肩と脇に両手を差し込み彼女を支えてしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、だいじょうぶですから、お構いなく」
彼女は俺を突き放そうとするのだが、その手には力が入っていなくて、必死に胸の辺りを手で絞る様に押さえ付けていた。
見るからに普通じゃない苦しみ方だった。放っては置けない! そう思ったのだが、そこへ侯爵がやってきて俺の肩をその手で後ろに引っ張った。
「ショウゴ、ここは私に任せて控えていろ」
「……はい、わかりました」
そうだよ、ここは侯爵に任せた方がいい。平民の俺では大した謝罪も出来ないし、大使が目を覚ました後に、直接謝れるかもわからない。
侯爵はテキパキと騎士に指示をだして、大使を担架に乗せて運び出していった。ケモミミお姉さんはそれについて行き魔法少女だけがその場に残っていた。
俺はティナのいる場所へと仕方なく戻った。
「ショウゴ」
「……」
ティナの声色には、少しだけ俺に対して怯えているような不安が含まれていた。
俺は彼女を少し怒りを込めて睨みやった。でも俺はすぐに目を伏せた。ティナは俺を守ってくれたにすぎない。それにはすごく感謝しているし、彼女の愛を感じられて嬉しい事だった。
だけど、矯正しなきゃダメだ! このままでは俺の命どころか、彼女の命まで危うくする。ティナの戦闘力は本当にすごい! ちょっとやそっとの事ではびくともしないだろう、でも法の前には彼女の剣も意味を為さない。
ただ、その法は俺のよく知る法律の事じゃない。人の上に立っている人、そう貴族達こそがこの世界では法なのだ。
法整備の整った日本生まれの俺にとって、人を裁いていいのは法律だけだ。法の前には王も平民も本来ない筈だ。そこにあるのは有罪か、無罪か。有罪となれば、王様ですら首を吊られなければならない。
だけど、この世界では人を裁くのは貴族、つまりは人が人を裁いている。その人間の地位が上であればある程、白も黒に、黒もまた白となる。
その時、俺は決して彼女を守り切れないだろう。出来るのは、後悔の念に苛まれながら自殺して後を追う事ぐらいだ。もちろん俺にそんな勇気があるのかは謎だけれど、理不尽を前にしてパワハラやセクハラを報告すれば、人事部が動いてくれた日本とここは違うんだ。
ここは心を鬼にするのだ。彼女に嫌われるか、傷付けるかどうなるかは分からないが、彼女をつまらない人間のせいで失ってしまうよりはマシだ。
「ティナよく聞いてね」
自分でも驚くほど低い声が出て内心びっくりした。それを堪えるように両手で拳を硬く握り俺は言葉を続けた。ティナはそんな俺の初めての声に肩を震わせた。
「前から思っていた事だけど、俺は君のことが大好きだし君の奉仕に心から感謝しているよ。でもね、君の後先考えない暴力は嫌いだ!」
ティナの綺麗な顔に大きな影が落ちた。きっと彼女は今好きな相手に嫌いと言われてひどく傷付いているのだろう。それが容易にわかるほど彼女の動揺が明らかだったし、そんな彼女と同じくらい俺の心にも痛みが走った。
「ショ、ショウゴ? う、うそであろう? だって、そんな、私はお前を守りたかっただけで……」
「ティナの暴力だけでは俺を守れないよ」
ティナは完全に否定されたせいで、その頭に盥でも落ちたのではないかというくらいの衝撃を受けていた。
「誰かを守るのに方法は暴力だけじゃないんだ。ティナには我慢を覚えてほしい。すぐに手を出すんじゃなくて、手を出してしまった後の事も考えてほしいんだよ。それが君のいう本当の守護になるんじゃないかな」
「……分かった。他でもないお前が言うならば努力しよう」
くぅぅぅ、ティナのこんな切なさそうな顔を見てしまったら、今すぐにでも抱き締めてお礼を述べたい所だが、これはティナの為、ティナの為、ティナの為!!
俺は彼女に背を向けて誘惑に対して、頑強な抵抗を示した。しかし、そんな俺の態度に慌てたティナが後ろの方で、機嫌を伺う犬のようにおろおろしている様子に思わず、ほっこりしてしまいそうになった。
こんなに可愛いティナを私欲に走り、肥え太った豚野郎どもに渡しはしないぞ!
俺は怒り心頭になっているティナの腕を抱き込み訴えた。
「ティナやり過ぎだよ!!」
「どこがだ! これでも手加減してやったのだぞ? 本当なら我が剣の錆にしてやるところだ」
「そういう事じゃなくてさっ! 相手は一国のお偉いさんなんだよ!!」
俺の叫びには悲痛なものが含まれていたのだが、残念ながら彼女には届いていない様子だった。
「ふん! だからどうした? 相手が王だろうが、神だろうがショウゴに指一本触れさせはしない!」
ティナはすごく興奮していて聞く耳を持ってくれなかった。面と向かって言ってくれている内容はすごく嬉しいが、時と場合を考えると今は正直煩わしかった。
俺はとりあえず気絶している大使の元まで駆け寄った。そこでは既に大使の後ろに控えていたケモミミお姉さんと魔法使いの少女が手当てを始めていた。側から見るに、大使の具合は大したことは無さそうだった。
ひとまずティナが手加減をしたと言うのは嘘ではないらしい。それでも俺の心にかかった不安のもやは晴れなかった。
「本当にすみませんでした! 私の護衛が大使に大変な無礼を!」
俺は何度もお辞儀をして謝罪した。すると、ケモミミお姉さんが応対してくれた。
「この事は改めて追及させて頂きますので今はご返事しかねます」
(超ぅぅぅスッキリしました!! うっ!! うぅうっかり本音を漏らしてしまった。心まで読まれる、と言うのはっ、本当に、厄介ね……苦しい。)
先程まで冷然とした態度で俺に接していたケモミミお姉さんが、生き物が苦しむようにその無表情だった顔に生気を取り戻し、その場に苦しみながら蹲ってしまった。
俺は思わず彼女の肩と脇に両手を差し込み彼女を支えてしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、だいじょうぶですから、お構いなく」
彼女は俺を突き放そうとするのだが、その手には力が入っていなくて、必死に胸の辺りを手で絞る様に押さえ付けていた。
見るからに普通じゃない苦しみ方だった。放っては置けない! そう思ったのだが、そこへ侯爵がやってきて俺の肩をその手で後ろに引っ張った。
「ショウゴ、ここは私に任せて控えていろ」
「……はい、わかりました」
そうだよ、ここは侯爵に任せた方がいい。平民の俺では大した謝罪も出来ないし、大使が目を覚ました後に、直接謝れるかもわからない。
侯爵はテキパキと騎士に指示をだして、大使を担架に乗せて運び出していった。ケモミミお姉さんはそれについて行き魔法少女だけがその場に残っていた。
俺はティナのいる場所へと仕方なく戻った。
「ショウゴ」
「……」
ティナの声色には、少しだけ俺に対して怯えているような不安が含まれていた。
俺は彼女を少し怒りを込めて睨みやった。でも俺はすぐに目を伏せた。ティナは俺を守ってくれたにすぎない。それにはすごく感謝しているし、彼女の愛を感じられて嬉しい事だった。
だけど、矯正しなきゃダメだ! このままでは俺の命どころか、彼女の命まで危うくする。ティナの戦闘力は本当にすごい! ちょっとやそっとの事ではびくともしないだろう、でも法の前には彼女の剣も意味を為さない。
ただ、その法は俺のよく知る法律の事じゃない。人の上に立っている人、そう貴族達こそがこの世界では法なのだ。
法整備の整った日本生まれの俺にとって、人を裁いていいのは法律だけだ。法の前には王も平民も本来ない筈だ。そこにあるのは有罪か、無罪か。有罪となれば、王様ですら首を吊られなければならない。
だけど、この世界では人を裁くのは貴族、つまりは人が人を裁いている。その人間の地位が上であればある程、白も黒に、黒もまた白となる。
その時、俺は決して彼女を守り切れないだろう。出来るのは、後悔の念に苛まれながら自殺して後を追う事ぐらいだ。もちろん俺にそんな勇気があるのかは謎だけれど、理不尽を前にしてパワハラやセクハラを報告すれば、人事部が動いてくれた日本とここは違うんだ。
ここは心を鬼にするのだ。彼女に嫌われるか、傷付けるかどうなるかは分からないが、彼女をつまらない人間のせいで失ってしまうよりはマシだ。
「ティナよく聞いてね」
自分でも驚くほど低い声が出て内心びっくりした。それを堪えるように両手で拳を硬く握り俺は言葉を続けた。ティナはそんな俺の初めての声に肩を震わせた。
「前から思っていた事だけど、俺は君のことが大好きだし君の奉仕に心から感謝しているよ。でもね、君の後先考えない暴力は嫌いだ!」
ティナの綺麗な顔に大きな影が落ちた。きっと彼女は今好きな相手に嫌いと言われてひどく傷付いているのだろう。それが容易にわかるほど彼女の動揺が明らかだったし、そんな彼女と同じくらい俺の心にも痛みが走った。
「ショ、ショウゴ? う、うそであろう? だって、そんな、私はお前を守りたかっただけで……」
「ティナの暴力だけでは俺を守れないよ」
ティナは完全に否定されたせいで、その頭に盥でも落ちたのではないかというくらいの衝撃を受けていた。
「誰かを守るのに方法は暴力だけじゃないんだ。ティナには我慢を覚えてほしい。すぐに手を出すんじゃなくて、手を出してしまった後の事も考えてほしいんだよ。それが君のいう本当の守護になるんじゃないかな」
「……分かった。他でもないお前が言うならば努力しよう」
くぅぅぅ、ティナのこんな切なさそうな顔を見てしまったら、今すぐにでも抱き締めてお礼を述べたい所だが、これはティナの為、ティナの為、ティナの為!!
俺は彼女に背を向けて誘惑に対して、頑強な抵抗を示した。しかし、そんな俺の態度に慌てたティナが後ろの方で、機嫌を伺う犬のようにおろおろしている様子に思わず、ほっこりしてしまいそうになった。
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