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第二章〜セカンドフィル〜
第四十八話「アレス商国十三大尽会 上」
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*作者前書き
今回のお話(49、50話)は読む方によっては、気分を害する事(性描写)があるかも知れませんので読み飛ばしてください。
土埃が、窓から入り込んで来るお昼前、私は、カシーム様の豪華な寝所で目を覚ました。隣でいびきをかいて寝ている人間の男が、私の主人。私は彼の唯一の上級奴隷だ。私は、素早く起き上がり日の傾きを窓から確認する。
強い日差しが、目に差し込んできた。もう夏も終わると言うのに、アレスの空気は焼けるような熱気を帯びている。しかし、これでもだいぶ涼しくなった方だった。
正午前、十三大尽会まであと一刻と時間が迫っていた。私は役目を果たすために、ご主人様の機嫌を損ねない様に、静かに声をかけた。
「カシーム様起きてくださいませ、お時間です」
「……んん、もうそんな時間か?」
カシーム様の穏やかな声色を聞いて安心した。良い目覚めの朝のようだ。
「はい、私も衣服を着て支度をしてよろしいでしょうか?」
「ふむ……」
「……」
ご主人様の視線が私の裸に注がれる。彼の視線は、まるで蛇のように私の足元から顔まで這ってくるようだった。毎日のように、夜伽の相手をして、毎朝、私に同じ視線を向けてくる。私の裸の何が面白いのだろうか。
私は普通の獣人だと思っている。狐人族の元で生まれ落ち、戦争によって、奴隷へとその身を落とした。この世界では、何も珍しく無い話で生き残るためには、私は此処から一歩も動くわけにはいかなかった。
「だめだな。こちらにくるんだ、私のウマイヤ」
ご主人様は、いつもの様に笑みを浮かべて、こちらに手招きしてくる。私は、言われた通りに、その手を取った。
どうやら、今日も会議には遅れる事になりそうだ。まぁ、私には、全く関係のない事だが……。
私は今、ご主人様と一緒の竜車に乗っていた。どこへ向かっているかは、明白でアレス商国を象徴する『緑の家』に向かっている。アレスの国土は狭く、作物は全く育たない砂漠地帯だ。それでも、アレスはどの国よりも富が溢れていた。
何故なのかは、奴隷の私でも知っている。周りの大国がこぞって、この国を通っているからだ。この国は、世界中の珍しい品々で溢れている。そして、その富を分け合っているのが、この国で十三人の大尽と呼ばれている商人たちだ。
竜車の窓から、緑の家が見えてきた。
「着いたな」
「……」
緑の家は、この街のオアシスを象徴する湖の中心に聳え立つ、金緑石の建造物だ。ご主人様の話では、建国当初の大尽達がお金を出し合って、高価な宝玉で建設させたそうだ。この地より、富が広がるようにとの願いが込められている。
竜車が止まるなり、私はご主人様より一足早く降りて、砂まみれの砂地に四つん這いになって、カシーム様を待った。
「うむ、やはり私のウマイヤは良い体をしている。実に良い、踏み心地だ」
「光栄です、ご主人様」
カシーム様は、背が低く足が短い、それに太っている。この国の人間の男は皆背が高いが、彼だけはまるでドワーフのようだった。その体で、豪華絢爛な竜車から降りようとすれば、転ぶ可能性だってある。
だけど、私の主人は自分の体のサイズに、竜車の大きさを合わせようとはしない。それが私には、不思議でならなかった。だって、きっとそれは不便な事だと思うから。
緑の家までは、小舟で向かう大した時はかからない。そんな移動でも、小舟は屋形船で豪華な食事もお酒も常備されている。此処にあるものを用意しようとしたら、平民十人分の一年の稼ぎが消し飛ぶだろう。
そして、小舟は緑の家に辿り着いた。そこには、一人の壮年の執事と二人の戦士階級の美女が私たちを出迎えた。
「カシーム大尽、お待ちしておりました。他のお大尽様方が、既にお待ちですよ」
「ご苦労、バターム。これでも取っておけ」
「いつも有難うございます。カシーム様のお席にいつものお酒を用意しておきました」
「さすがだ、お前は気が利く」
カシーム様は、出迎えた執事に大金貨を手渡した。彼は、この緑の家を管理する者だ。そして、十三大尽の各部屋を整備する者。だからこそ、ここで下の者に対する施しをケチることは出来ない。
そんな事をしてしまえば、カシーム様のこの家での扱いは悪いものとなり、商売の評判に直接影響してしまうのだ。
十三大尽会が執り行われるのは、緑の家中央にある円卓の間。そこには、真っ白な大理石が円形にくり抜かれた円卓があった。そしてそこに、用意された立派な椅子は全部で十三席。
その一つの空席にご主人様が座り、私は後ろに控えた。
「カシーム」
一人の蜥蜴人が、ご主人様に声をかけた。
「ヴォルダ」
「また遅刻か? 貴様に我々の時間を無駄にする価値はないのだぞ?」
「すまないな。遅刻は……四半刻程か。約定に則り、皆様方には後ほど罪金をお送りしよう」
「ふん」
蜥蜴人は、舌をチロチロと出し入れしながら、臍を曲げたようだった。契約さえ守れば、商人は静かになる生き物なのである。ただ、カシーム様は毎回のようにこの会議に遅れ、それは多額の罰金を払っている。
何故なら、そうすることで他大尽達に、己の莫大な財力を見せつけるためだった。
「カシーム」
そこへまた一人、額から二本の黒い角を生やした魔族がご主人様に声をかけた。
「トルマン」
「また、獣人っ子の乳でも弄っていたんだろう? 変態め」
「さぁ~、ご想像にお任せする。ただ、ウチのウマイヤは最高の体をしている。どうかな、一晩五枚で貸そうか?」
ご主人様の提示した額は、大金貨五枚だった。しかし私は、一度もこの中の誰かと寝た事はなかった。それに誰も獣人《わたし》を抱くわけがないし、ご主人様も貸す気がない。
「ぼったくりも良いところだな?! どこの世界に、獣と寝るためにそんな大金を払う奴がいるんだぁ? 物好きも過ぎるぜ、お前」
「物好き……? 開明的だといって欲しいな。食わず嫌いをせず、貴様も楽しんでみたらどうだ? 獣は、案外良い声で鳴くものだぞ」
魔族の大尽が何かを言いかける前に、誰かが銀の杯をスプーンで激しく叩く音が鳴り響いた。
「全く、くだらない話を続けるなら私は帰らせてもらうぞ? 貴様らのように、暇ではないのでな!」
真っ赤な髪をした、人間の大男が苛立ちをあらわにした。その人間の男は、アレスの軍事を司どり、財力も十分に兼ね備えた、十三大尽会議長リチャード、その人だ。
「チャーリー! これは済まなかった。さぁ~、十三大尽会を始めてくれ給え。今回の議題は、何だったかな?」
ご主人様は、悪びれたような態度でニヒルな笑みを浮かべた。
今回のお話(49、50話)は読む方によっては、気分を害する事(性描写)があるかも知れませんので読み飛ばしてください。
土埃が、窓から入り込んで来るお昼前、私は、カシーム様の豪華な寝所で目を覚ました。隣でいびきをかいて寝ている人間の男が、私の主人。私は彼の唯一の上級奴隷だ。私は、素早く起き上がり日の傾きを窓から確認する。
強い日差しが、目に差し込んできた。もう夏も終わると言うのに、アレスの空気は焼けるような熱気を帯びている。しかし、これでもだいぶ涼しくなった方だった。
正午前、十三大尽会まであと一刻と時間が迫っていた。私は役目を果たすために、ご主人様の機嫌を損ねない様に、静かに声をかけた。
「カシーム様起きてくださいませ、お時間です」
「……んん、もうそんな時間か?」
カシーム様の穏やかな声色を聞いて安心した。良い目覚めの朝のようだ。
「はい、私も衣服を着て支度をしてよろしいでしょうか?」
「ふむ……」
「……」
ご主人様の視線が私の裸に注がれる。彼の視線は、まるで蛇のように私の足元から顔まで這ってくるようだった。毎日のように、夜伽の相手をして、毎朝、私に同じ視線を向けてくる。私の裸の何が面白いのだろうか。
私は普通の獣人だと思っている。狐人族の元で生まれ落ち、戦争によって、奴隷へとその身を落とした。この世界では、何も珍しく無い話で生き残るためには、私は此処から一歩も動くわけにはいかなかった。
「だめだな。こちらにくるんだ、私のウマイヤ」
ご主人様は、いつもの様に笑みを浮かべて、こちらに手招きしてくる。私は、言われた通りに、その手を取った。
どうやら、今日も会議には遅れる事になりそうだ。まぁ、私には、全く関係のない事だが……。
私は今、ご主人様と一緒の竜車に乗っていた。どこへ向かっているかは、明白でアレス商国を象徴する『緑の家』に向かっている。アレスの国土は狭く、作物は全く育たない砂漠地帯だ。それでも、アレスはどの国よりも富が溢れていた。
何故なのかは、奴隷の私でも知っている。周りの大国がこぞって、この国を通っているからだ。この国は、世界中の珍しい品々で溢れている。そして、その富を分け合っているのが、この国で十三人の大尽と呼ばれている商人たちだ。
竜車の窓から、緑の家が見えてきた。
「着いたな」
「……」
緑の家は、この街のオアシスを象徴する湖の中心に聳え立つ、金緑石の建造物だ。ご主人様の話では、建国当初の大尽達がお金を出し合って、高価な宝玉で建設させたそうだ。この地より、富が広がるようにとの願いが込められている。
竜車が止まるなり、私はご主人様より一足早く降りて、砂まみれの砂地に四つん這いになって、カシーム様を待った。
「うむ、やはり私のウマイヤは良い体をしている。実に良い、踏み心地だ」
「光栄です、ご主人様」
カシーム様は、背が低く足が短い、それに太っている。この国の人間の男は皆背が高いが、彼だけはまるでドワーフのようだった。その体で、豪華絢爛な竜車から降りようとすれば、転ぶ可能性だってある。
だけど、私の主人は自分の体のサイズに、竜車の大きさを合わせようとはしない。それが私には、不思議でならなかった。だって、きっとそれは不便な事だと思うから。
緑の家までは、小舟で向かう大した時はかからない。そんな移動でも、小舟は屋形船で豪華な食事もお酒も常備されている。此処にあるものを用意しようとしたら、平民十人分の一年の稼ぎが消し飛ぶだろう。
そして、小舟は緑の家に辿り着いた。そこには、一人の壮年の執事と二人の戦士階級の美女が私たちを出迎えた。
「カシーム大尽、お待ちしておりました。他のお大尽様方が、既にお待ちですよ」
「ご苦労、バターム。これでも取っておけ」
「いつも有難うございます。カシーム様のお席にいつものお酒を用意しておきました」
「さすがだ、お前は気が利く」
カシーム様は、出迎えた執事に大金貨を手渡した。彼は、この緑の家を管理する者だ。そして、十三大尽の各部屋を整備する者。だからこそ、ここで下の者に対する施しをケチることは出来ない。
そんな事をしてしまえば、カシーム様のこの家での扱いは悪いものとなり、商売の評判に直接影響してしまうのだ。
十三大尽会が執り行われるのは、緑の家中央にある円卓の間。そこには、真っ白な大理石が円形にくり抜かれた円卓があった。そしてそこに、用意された立派な椅子は全部で十三席。
その一つの空席にご主人様が座り、私は後ろに控えた。
「カシーム」
一人の蜥蜴人が、ご主人様に声をかけた。
「ヴォルダ」
「また遅刻か? 貴様に我々の時間を無駄にする価値はないのだぞ?」
「すまないな。遅刻は……四半刻程か。約定に則り、皆様方には後ほど罪金をお送りしよう」
「ふん」
蜥蜴人は、舌をチロチロと出し入れしながら、臍を曲げたようだった。契約さえ守れば、商人は静かになる生き物なのである。ただ、カシーム様は毎回のようにこの会議に遅れ、それは多額の罰金を払っている。
何故なら、そうすることで他大尽達に、己の莫大な財力を見せつけるためだった。
「カシーム」
そこへまた一人、額から二本の黒い角を生やした魔族がご主人様に声をかけた。
「トルマン」
「また、獣人っ子の乳でも弄っていたんだろう? 変態め」
「さぁ~、ご想像にお任せする。ただ、ウチのウマイヤは最高の体をしている。どうかな、一晩五枚で貸そうか?」
ご主人様の提示した額は、大金貨五枚だった。しかし私は、一度もこの中の誰かと寝た事はなかった。それに誰も獣人《わたし》を抱くわけがないし、ご主人様も貸す気がない。
「ぼったくりも良いところだな?! どこの世界に、獣と寝るためにそんな大金を払う奴がいるんだぁ? 物好きも過ぎるぜ、お前」
「物好き……? 開明的だといって欲しいな。食わず嫌いをせず、貴様も楽しんでみたらどうだ? 獣は、案外良い声で鳴くものだぞ」
魔族の大尽が何かを言いかける前に、誰かが銀の杯をスプーンで激しく叩く音が鳴り響いた。
「全く、くだらない話を続けるなら私は帰らせてもらうぞ? 貴様らのように、暇ではないのでな!」
真っ赤な髪をした、人間の大男が苛立ちをあらわにした。その人間の男は、アレスの軍事を司どり、財力も十分に兼ね備えた、十三大尽会議長リチャード、その人だ。
「チャーリー! これは済まなかった。さぁ~、十三大尽会を始めてくれ給え。今回の議題は、何だったかな?」
ご主人様は、悪びれたような態度でニヒルな笑みを浮かべた。
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