異世界酒造生活

悲劇を嫌う魔王

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第一章〜ファーストフィル〜

第八話「日々これ商売」

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 アクアリンデルを一望できる森の出口で、馬車をアイテムBOXから取り出す。ベッラと連結し、昨日のように城門で酒好きの衛兵に挨拶をして、開放市へと向かった。

「おぉ、酒の兄ちゃん!」
「ナッツのおじさん!」
「ありゃぁ、地竜の竜車かい。兄ちゃんは、金持ちだったんだな。」
「そんな事ないって、こいつ買ったせいでもうすっからかんよ。また一から稼ぎ直しさ。」
「そうかい。場所は、取って置いたよ。昨日からうちの常連がうるさくてな。一口で、天国へ行ける酒はまだか?ってよ。」
「そんな、大袈裟な。」

 馬車から、ウオッカの入った酒樽を荷下ろししていると、ゾロゾロと人が集まって来た。

「おい、あんただろ!口から火が出るほど、強い酒を安く売ってくれるっていう商人は!」
「え?」
「俺のダチが、金もねぇくせして酔っ払って気持ちよく寝てやがったんだ!そしたら、たったジョッキ一杯で馬鹿みたいに酔える酒があるって言うじゃないか!昨日からずっと待ってたんだよ!」
「それはあたいもさ!」
「しかも、味見もさせてくれるんだろ!?」
「え、あ、いやちょっと、皆さん落ち着いて・・」

 俺の店の前には、酒好きが血相を変えて押しかけていた。まだ一日しか、酒を売ったことがないのに、この反響はうれしい悲鳴だった。娯楽の少ないこの文明では、酒は立派な娯楽でもあるから、安くて酔えるは、いつの時代も正義なのね。

 集まって来た客は、全員ジョッキだったり、壺だったり各自酒を入れる器を用意しているようだった。

「兄ちゃん、俺にはこうなる事がわかってたぜ。」
「ドヤってないで手伝ってください!ナッツとのセット売りもしますから!!」
「そうこなくっちゃ!血が騒ぐねぇ!」

 こうして俺たちは、日が暮れるまでウオッカを売りまくった。呼水ならぬ、呼酒となり、酒を売れば売るほど、噂は人を呼んだ。

 ”安くて、死ぬほど強い酒”これがキャッチコピーみたいになって、たくさんの人がやって来てくれた。

 その結果。

「・・ゴクッ凄い銭の山だな、酒の兄ちゃん。」
「えぇ、これがどんぶり勘定って奴ですね。」

 ここまでの集客予想をしていなかった為に、お金の種類ごとに分けると言う発想はしていなく。大きな丼にお金を受け取っていったら、完全に溢れ出しているほどの銅貨と銀貨の山が出来上がった。

”ピシリッ”

「「あちゃー」」

 その丼ですら、たった今小銭の重さに耐えかねて割れてしまった。その後、ナッツのおっちゃんと稼ぎを分けて、店じまいをしようとしていた。そこへ、一人の兵士が駆け込んできていた。酒好きの門番である。

「どうしたんですか、そんなに慌てて。」
「ハァ、ハァッ、ど、どうしたも、こうしたもあるか。門番していると、ちらほら昼間から酔っ払ってるやろうがいて、いざこざは起こすわで大変だったんだぞ!!」
「そ、それはすみません。」
「しかぁし!そんなことはどうでもイイ!俺の酒は残ってるだろうなぁ、兄ちゃん!!」

 おぉ、凄い圧力だ。どんだけ酒好きなんだよ。

「それはもちろん、取り置きしてありますよ。どうぞ。」

 俺はジョッキ一杯にウオッカを注いで渡した。すると彼は、酒を一滴もこぼさないように慎重に受け取り、日本酒を飲むように上辺の酒を啜った。

「くぅ~~!!これだよ、これ。仕事終わりの一杯ほどうまいもんはねぇよな!!兄ちゃん!」
「えぇ、全くその通りですね。」
「あぁっと、代金払わないとな。いくらだい。」
「今回は差し上げます。」
「そんな悪いって!!」
「前回のお礼です。受け取ってください。」
「ヘヘッ、悪いな兄ちゃん。これからも西門使ってくれや、兄ちゃんの為ならいくらでも便宜を計ってやるからよ!」
「ははは、期待してます。ショウゴです。」

 俺は、名を名乗り彼に握手を求めた。

「おっ、俺はベンだ。長い付き合いになりそうだな。」

 彼は、上機嫌で帰っていった。本格的に、店仕舞いの支度を始めているとナッツの親父にある事を勧められた。

「兄ちゃん。」
「ん?」
「あんた店を持った方がいいんじゃねぇか。」
「店?」
「おうよ、これだけ兄ちゃんの酒が売れるんだ。いつまでもこんなとこで野良商売してねぇで、店構えた方が商売もやりやすいし、儲かるぜ。」
「何言ってんだよ、親父。まだ酒売って二日だよ。気が早えよ。」
「そうだけどな、考えることは早い方がいいぞ~。店もちゃぁ、人雇って、商業ギルド入って、箱も借りたりってやること多いからなぁ」
「わかってるって、金が貯まったらまた考えてみるさ。それまでは、二人で稼ごうぜ。」
「それはありがてぇ話だよ兄ちゃん!」

 その後、俺はひと月ほどウオッカだけを解放市で売り続けた。日に日に、押し寄せる客足はとんでもない事になり、俺たちはベン達の計らいで大通りの一角に露天を構えるまでになったのである。
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