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第一章〜ファーストフィル〜
第五話「買い出しとちょい売り Part1」
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エルフの行商人から、かなりの金銭を巻き上げた俺は今、家から一番近い街へと繰り出していた。目的は、主に食糧だ。塩、肉、野菜、小麦、鶏、香辛料、といった各種を買おうと考えている。家から歩いて丸一日かけて、山を降りてやって来たのが港町だった。神様にお願いして、海が近い場所を用意してもらっていたのだ。
というのも、ウイスキー樽を潮風にさらすことで、潮っぽい風味を持たせることが出来る。そう言ったウイスキーを、俺自身が大好きでよく飲んでいた。だからいつか、この港町に倉庫を買い、そこにウイスキーを保管しようとも思っていた。
「見ない顔だな。アクアリンデルへは、初めてか?」
城門を前にして、衛兵に声を掛けられた。おそらく通行料の徴収と怪しいやつか調べるつもりだろう。
「はい、私は商売人でして酒を売ろうかと」
衛兵は、酒と聞くと明らかに上機嫌になった。兵士が酒好きなのは、異世界といえど同じなのね。
「酒か。その背負ってる樽か? 中身は、何の酒だ?」
「こちらはウオッカというお酒です」
「うおっか?なんじゃそりゃ。聞いた事ねぇぞ、それは新しいワインか?」
「ここだけの話ですけどね。口が燃えるほど強いお酒なんです」
そういうと、兵士は前屈みになりながら本当かどうか確認してきた。
「俺は酒にはうるさい方なんだ。今の話本当だろうな」
「もちろんです。開放市にて小売りしますから、是非買いにいらしてください」
「わかった。必ず行かせてもらうよ。問題を起こさないようにな」
酒好きとは、不思議と仲良くなれそうなのが不思議なものだ。俺は城門で通行料を払い、衛兵と別れた。港町は、人も物資も溢れかえっていた。高台から見た時も思ったが、大きな船がいくつも停泊し、その行き来も絶えることはなかった。
「お兄ちゃん、串焼きはいらんかい? うちのは絶品だよ?」
昼時ということもあり、腹も減っていた頃だ。確かに、屋台が立ち並ぶ大通りはいい匂いがしていた。
「なら、三つ貰おうか」
「毎度、銅貨一枚だよ」
串焼きの味は、完全に鶏肉だった。タレには、香辛料が使われているのか、炭火ということもあって中々旨かった。屋台レベルの店で香辛料が使われているのだから、さすが交易の要所といった感じだ。
「さぁて、俺も日暮れ前まで一稼ぎさせてもらいますかね。いや、酒は夜に飲むもんだよな?大丈夫か」
この街には、開放市と言って商業ギルドに加入していなくても、露天を出せる区画がある。それに税金も取られないため、野良の俺にはちょうどよかった。まぁ神様との打ち合わせで事前に、そういう街の近くがいいと言っておいたのだ。
開放市は城門を入ってすぐの、港まで続く大通り沿いにあった。人目につきやすい大通り沿いは、猛者商人が陣取っていたので、俺は少し路地に入って空き場所を見つけた。
「ここ、空いてますか?」
「あぁ、空いてるよ」
「そうですか、それじゃ失礼して」
俺はここまで担いできた、風呂敷と酒樽を設置して、最後に<酒>と書かれた看板を置いて商売を始めた。アリエルから、アイテムBOXは貴重品だと聞いてから、人前で使えなくなったので、街に入る前に背負って色々持ち込んだんだが、酒樽は四十リットルサイズだったこともあり、神様の加護があるとはいえかなり重労働だった。
それから四時間--
「くそぉ、閑古鳥が鳴いてらぁ!」
「そぉ焦りなさんな。あんた新顔だろ?初日から売れるには、運が必要ってもんよ」
「そうですよね。あははは」
俺の隣で、ナッツ類を売っているおっちゃんが慰めてくれた。ここは大通りと比べれば、人気のない場所だけあって客入りも少ない。目の前を通っていく五人に一人が、ちらりと覗いていくが皆忙しそうに通り過ぎていく。
「やっぱり、仕事中から飲む奴はいないか」
「昼間から酒を売りたきゃ、冒険者ギルドの酒場に卸したらええやない」
「冒険者ギルド?」
「荒くれ者の何でも屋よ。金に余裕のある奴は、昼から飲んでるやつも多いし、宿屋に卸すってぇのも一つの手だな」
俺は、おっちゃんの隣まで行って、肩を組んで自分で作った酒を見せつけた。
「ご提案は有り難いんですけどね? この酒は、俺が心底丹念に造った命の水と言っても過言ではないわけ。それを、エールと牛のションベンの違いも分からんやつに、バカスカ呑まれたら堪らんのですよ!」
おっちゃんは少し俺の口臭を気にするような仕草をした。
「あんた、酒臭いな。よぉは、頑固な職人なんだねあんたも」
「客が来ないんだから、呑むしかないでしょう!! ったく。おっちゃんナッツ頂戴」
「一袋銅貨四枚だよ」
ナッツのおっちゃんから、酒のつまみを買って自分で持ってきたウオッカを飲んでいた。そこに、声をかけてきた兵士がいた。
「おぉ、ここに居たのか! 探したぞ! ナッツの親父の隣だったか」
ナッツの親父は、兵士に軽く会釈した。
「あぁ、あんたは城門でお会いした。いらっしゃい」
「約束通り、あんたが言ってた、口が焼けるほど強い酒って奴を飲みに来たぜ!交代の時間になったから、すっ飛んで来たんだよ。あんな小樽じゃ、俺の分がなくなっちまうと思ってな」
「安心してください。まだ、一滴も売れてませんから」
「ワハハハッ、そりゃあんたには不幸でも、俺にとっちゃラッキーだぜ」
笑い事じゃねぇんですよ。まぁいいや、これだけの酒好きに俺の酒が売れるなら、酒の造り甲斐もあるってもんだよ。俺は、まず試飲用としてショットに三十mlほど注いで手渡した。
「何でぇ、これっぽっちしか売ってくれないのか?」
「それは試飲用ですよ。無料ですから、ぐいっといっちゃってください。俺の酒が気に入ったら、好きなだけ買ってください」
「おぉ、なんか粋だねぇ!それじゃぁ遠慮なく、グビッ……ん~~~~! なんじゃこりゃあ!! ホォーー! 本当に口の中が焼けるほど、強い酒だな!! それに、苦味や甘ったるさが全くない。こりゃぁ気に入った! 買った! にいちゃん、この金で売れるだけ売ってくれ」
そう言って、二十代後半ぐらいの兵士が、顔を赤らめ興奮気味に小銭入れをポンと俺に渡した。中には、小銀貨が数枚と銅貨が十枚ちょっと入っていた。
「毎度! 酒入れる器はあるかい?」
「あぁ~よし、ちょっと待ってくれや」
兵士は、自分の腰に掛けていた、革で出来た水筒を取り出した。そして、中に入った水を全部捨てると、これに入れてくれと言ってきた。俺は水筒一杯にウオッカを詰めてやった。
「今回は、初回サービスだ。存分に俺の酒を楽しんでくれ」
「あんがとよ~! 絶対にまた買いにくっからなぁ~!」
兵士は水筒片手に、ご機嫌で帰っていった。すると、俺と兵士のやりとりを見ていたのか。ナッツの親父も俺の酒を飲みたいと言い出したので、試飲用のショットをくれてやった。
「カァーーーッ、ゴホッ、なんでぇこの強い酒は、なげぇこと商売やってけどよ。こんな強い酒飲んだことねぇよ。こりゃ売れるぞ兄ちゃん! すげぇもん造ったんだなぁ……そりゃぁ頑固にもなるわ」
「どうだい親父、俺と一緒に酒売らんか?」
「そりゃぁどういう……」
俺は、ナッツの親父に説明した。ナッツを買いに来た客に、俺の酒と合わせてナッツを食えばそりゃぁもう、最高のひと時を過ごせると勧めるのだ。俺も然り、酒のつまみにナッツも一緒にどうかと勧める。
「そりゃぁいい考えだ。あんたの酒は間違いなく売れる。そうすりゃぁ、俺のナッツも売れるかもしれん。その話のったぞ!」
その後完全に日が暮れるまで、ナッツの親父の常連が、ついでに俺の酒を買って行ってくれた。しかも、みんなすげぇ喜び様だった。四十リットルあったウオッカも、半分程にまで減ってくれた。
「ふぅ、今日はもう店しめて宿屋だな」
「酒の兄ちゃん、また頼むぜ」
「おうよ、親父! それでよ、かわいい姉ちゃんがいる宿屋知らんか?」
「ふふっ、兄ちゃんも若いねぇ。それならいいとこがあるよ。<赤い唇>ってぇ娼館だよ。ちぃと値は張るが、今の兄ちゃんなら問題ないはずさ」
「ヒック……娼館? あぁ、お風呂屋さんね。……ふふん良いじゃない。色々溜まってるし構わないか。」
ナッツの親父に、娼館の場所を聞いて別れた。娼館は、港のすぐそばに合って歓楽街と並列していた。四階建ての建物で、壁は真っ赤に塗りあげられていた。
「こりゃぁ、見間違わねぇや」
娼館の中に入ると、娼婦の香水と汗の匂いがムワッと俺を襲ってきた。
ウッ、なんか吐きそう。そうか、まともに風呂も入れねぇ文明だもんな。やっぱ、普通の宿にしよう。まさか、東京の歌舞伎町が恋しくなる日が来るとはな……。
そう思い、踵を返そうとしたら、服の裾を誰かに掴まれた。振り返ると、華奢な黒髪の若い女が立っていた。歳は、十八、九くらいで、眉毛は細く長く凛々しく、切長の瞳は真っ黒で淫靡な光を宿し、唇は赤く塗られていた。それに何より、たわわな乳房が実っていた。
やばい、バチクソタイプキタァ!
「お兄さん、まさかうちの店の敷居跨いだくせに、女も抱かずに帰ろって言うのかい?」
何だとぉ、生意気な。
「……いくらだ」
「ふふっ、そう来なくっちゃ。私なら、金貨一枚。持ち合わせがないなら、他のキャッ! ちょっと! もぅ、慌てん坊さんね」
俺は彼女をお姫様抱っこで抱き抱えると、彼女に部屋を聞いて階段を駆け上がった。その後の記憶は、正直ない。
翌日。
俺は、目が覚めた。俺の腕の中で寝てる裸女をまず見て、売れ残っていたはずのウオッカの酒樽が空になっているのを確認すると。状況を察した。
「あぁ~やっちまった。いくら酒に強くなっても、酒癖だけは治らんかぁ」
俺は酒に酔うと、よく俺の意思とは関係なしに歌舞伎町のお風呂屋に駆け込んでいた。そして気づいたら、家の布団で目が覚めるのだ。財布は寂しくなっていて、夢じゃなかった事を悟るのがお決まりだった。
神様に、酒癖も直して貰えばよかったなぁ。
「んっ、起きたのかい旦那……昨日は凄かったね。初めてだよ、私が仕事中に気を失っちゃったの」
そして前世と違うことは、風呂屋の女がシラフの俺と一緒にいるということだ!! どうしよう。彼女がいたことはあるが、こんな見知らぬ美女とシラフで喋ったことはない。
「そろそろ、失礼するよ。これ代金」
「良いのかい?こんなに貰って」
「か、構わない。迷惑料だとでも思ってくれ」
「ふふふっ、迷惑だなんて。むしろ良い思いをしたのは、あたいの方なのに。それじゃ、次来てくれた時はサービスしてあげるね」
娼婦は俺に枝垂れかかってきた。おっと、これはセカンドのアタック、チャーンス? って馬鹿いえよ。
というか……よく見ると、めちゃくちゃ若いぞこの子!! 昨日は酒と暗さで気づかなかったけど。俺は一体……なんて事ををやらかしたんだ。歳だけは、聞かないでおこう。そしてもう二度とここへは来ない。
服を着るのもそこそこに、俺は変な汗が噴き出る中、逃げる様に娼館を後にした。
というのも、ウイスキー樽を潮風にさらすことで、潮っぽい風味を持たせることが出来る。そう言ったウイスキーを、俺自身が大好きでよく飲んでいた。だからいつか、この港町に倉庫を買い、そこにウイスキーを保管しようとも思っていた。
「見ない顔だな。アクアリンデルへは、初めてか?」
城門を前にして、衛兵に声を掛けられた。おそらく通行料の徴収と怪しいやつか調べるつもりだろう。
「はい、私は商売人でして酒を売ろうかと」
衛兵は、酒と聞くと明らかに上機嫌になった。兵士が酒好きなのは、異世界といえど同じなのね。
「酒か。その背負ってる樽か? 中身は、何の酒だ?」
「こちらはウオッカというお酒です」
「うおっか?なんじゃそりゃ。聞いた事ねぇぞ、それは新しいワインか?」
「ここだけの話ですけどね。口が燃えるほど強いお酒なんです」
そういうと、兵士は前屈みになりながら本当かどうか確認してきた。
「俺は酒にはうるさい方なんだ。今の話本当だろうな」
「もちろんです。開放市にて小売りしますから、是非買いにいらしてください」
「わかった。必ず行かせてもらうよ。問題を起こさないようにな」
酒好きとは、不思議と仲良くなれそうなのが不思議なものだ。俺は城門で通行料を払い、衛兵と別れた。港町は、人も物資も溢れかえっていた。高台から見た時も思ったが、大きな船がいくつも停泊し、その行き来も絶えることはなかった。
「お兄ちゃん、串焼きはいらんかい? うちのは絶品だよ?」
昼時ということもあり、腹も減っていた頃だ。確かに、屋台が立ち並ぶ大通りはいい匂いがしていた。
「なら、三つ貰おうか」
「毎度、銅貨一枚だよ」
串焼きの味は、完全に鶏肉だった。タレには、香辛料が使われているのか、炭火ということもあって中々旨かった。屋台レベルの店で香辛料が使われているのだから、さすが交易の要所といった感じだ。
「さぁて、俺も日暮れ前まで一稼ぎさせてもらいますかね。いや、酒は夜に飲むもんだよな?大丈夫か」
この街には、開放市と言って商業ギルドに加入していなくても、露天を出せる区画がある。それに税金も取られないため、野良の俺にはちょうどよかった。まぁ神様との打ち合わせで事前に、そういう街の近くがいいと言っておいたのだ。
開放市は城門を入ってすぐの、港まで続く大通り沿いにあった。人目につきやすい大通り沿いは、猛者商人が陣取っていたので、俺は少し路地に入って空き場所を見つけた。
「ここ、空いてますか?」
「あぁ、空いてるよ」
「そうですか、それじゃ失礼して」
俺はここまで担いできた、風呂敷と酒樽を設置して、最後に<酒>と書かれた看板を置いて商売を始めた。アリエルから、アイテムBOXは貴重品だと聞いてから、人前で使えなくなったので、街に入る前に背負って色々持ち込んだんだが、酒樽は四十リットルサイズだったこともあり、神様の加護があるとはいえかなり重労働だった。
それから四時間--
「くそぉ、閑古鳥が鳴いてらぁ!」
「そぉ焦りなさんな。あんた新顔だろ?初日から売れるには、運が必要ってもんよ」
「そうですよね。あははは」
俺の隣で、ナッツ類を売っているおっちゃんが慰めてくれた。ここは大通りと比べれば、人気のない場所だけあって客入りも少ない。目の前を通っていく五人に一人が、ちらりと覗いていくが皆忙しそうに通り過ぎていく。
「やっぱり、仕事中から飲む奴はいないか」
「昼間から酒を売りたきゃ、冒険者ギルドの酒場に卸したらええやない」
「冒険者ギルド?」
「荒くれ者の何でも屋よ。金に余裕のある奴は、昼から飲んでるやつも多いし、宿屋に卸すってぇのも一つの手だな」
俺は、おっちゃんの隣まで行って、肩を組んで自分で作った酒を見せつけた。
「ご提案は有り難いんですけどね? この酒は、俺が心底丹念に造った命の水と言っても過言ではないわけ。それを、エールと牛のションベンの違いも分からんやつに、バカスカ呑まれたら堪らんのですよ!」
おっちゃんは少し俺の口臭を気にするような仕草をした。
「あんた、酒臭いな。よぉは、頑固な職人なんだねあんたも」
「客が来ないんだから、呑むしかないでしょう!! ったく。おっちゃんナッツ頂戴」
「一袋銅貨四枚だよ」
ナッツのおっちゃんから、酒のつまみを買って自分で持ってきたウオッカを飲んでいた。そこに、声をかけてきた兵士がいた。
「おぉ、ここに居たのか! 探したぞ! ナッツの親父の隣だったか」
ナッツの親父は、兵士に軽く会釈した。
「あぁ、あんたは城門でお会いした。いらっしゃい」
「約束通り、あんたが言ってた、口が焼けるほど強い酒って奴を飲みに来たぜ!交代の時間になったから、すっ飛んで来たんだよ。あんな小樽じゃ、俺の分がなくなっちまうと思ってな」
「安心してください。まだ、一滴も売れてませんから」
「ワハハハッ、そりゃあんたには不幸でも、俺にとっちゃラッキーだぜ」
笑い事じゃねぇんですよ。まぁいいや、これだけの酒好きに俺の酒が売れるなら、酒の造り甲斐もあるってもんだよ。俺は、まず試飲用としてショットに三十mlほど注いで手渡した。
「何でぇ、これっぽっちしか売ってくれないのか?」
「それは試飲用ですよ。無料ですから、ぐいっといっちゃってください。俺の酒が気に入ったら、好きなだけ買ってください」
「おぉ、なんか粋だねぇ!それじゃぁ遠慮なく、グビッ……ん~~~~! なんじゃこりゃあ!! ホォーー! 本当に口の中が焼けるほど、強い酒だな!! それに、苦味や甘ったるさが全くない。こりゃぁ気に入った! 買った! にいちゃん、この金で売れるだけ売ってくれ」
そう言って、二十代後半ぐらいの兵士が、顔を赤らめ興奮気味に小銭入れをポンと俺に渡した。中には、小銀貨が数枚と銅貨が十枚ちょっと入っていた。
「毎度! 酒入れる器はあるかい?」
「あぁ~よし、ちょっと待ってくれや」
兵士は、自分の腰に掛けていた、革で出来た水筒を取り出した。そして、中に入った水を全部捨てると、これに入れてくれと言ってきた。俺は水筒一杯にウオッカを詰めてやった。
「今回は、初回サービスだ。存分に俺の酒を楽しんでくれ」
「あんがとよ~! 絶対にまた買いにくっからなぁ~!」
兵士は水筒片手に、ご機嫌で帰っていった。すると、俺と兵士のやりとりを見ていたのか。ナッツの親父も俺の酒を飲みたいと言い出したので、試飲用のショットをくれてやった。
「カァーーーッ、ゴホッ、なんでぇこの強い酒は、なげぇこと商売やってけどよ。こんな強い酒飲んだことねぇよ。こりゃ売れるぞ兄ちゃん! すげぇもん造ったんだなぁ……そりゃぁ頑固にもなるわ」
「どうだい親父、俺と一緒に酒売らんか?」
「そりゃぁどういう……」
俺は、ナッツの親父に説明した。ナッツを買いに来た客に、俺の酒と合わせてナッツを食えばそりゃぁもう、最高のひと時を過ごせると勧めるのだ。俺も然り、酒のつまみにナッツも一緒にどうかと勧める。
「そりゃぁいい考えだ。あんたの酒は間違いなく売れる。そうすりゃぁ、俺のナッツも売れるかもしれん。その話のったぞ!」
その後完全に日が暮れるまで、ナッツの親父の常連が、ついでに俺の酒を買って行ってくれた。しかも、みんなすげぇ喜び様だった。四十リットルあったウオッカも、半分程にまで減ってくれた。
「ふぅ、今日はもう店しめて宿屋だな」
「酒の兄ちゃん、また頼むぜ」
「おうよ、親父! それでよ、かわいい姉ちゃんがいる宿屋知らんか?」
「ふふっ、兄ちゃんも若いねぇ。それならいいとこがあるよ。<赤い唇>ってぇ娼館だよ。ちぃと値は張るが、今の兄ちゃんなら問題ないはずさ」
「ヒック……娼館? あぁ、お風呂屋さんね。……ふふん良いじゃない。色々溜まってるし構わないか。」
ナッツの親父に、娼館の場所を聞いて別れた。娼館は、港のすぐそばに合って歓楽街と並列していた。四階建ての建物で、壁は真っ赤に塗りあげられていた。
「こりゃぁ、見間違わねぇや」
娼館の中に入ると、娼婦の香水と汗の匂いがムワッと俺を襲ってきた。
ウッ、なんか吐きそう。そうか、まともに風呂も入れねぇ文明だもんな。やっぱ、普通の宿にしよう。まさか、東京の歌舞伎町が恋しくなる日が来るとはな……。
そう思い、踵を返そうとしたら、服の裾を誰かに掴まれた。振り返ると、華奢な黒髪の若い女が立っていた。歳は、十八、九くらいで、眉毛は細く長く凛々しく、切長の瞳は真っ黒で淫靡な光を宿し、唇は赤く塗られていた。それに何より、たわわな乳房が実っていた。
やばい、バチクソタイプキタァ!
「お兄さん、まさかうちの店の敷居跨いだくせに、女も抱かずに帰ろって言うのかい?」
何だとぉ、生意気な。
「……いくらだ」
「ふふっ、そう来なくっちゃ。私なら、金貨一枚。持ち合わせがないなら、他のキャッ! ちょっと! もぅ、慌てん坊さんね」
俺は彼女をお姫様抱っこで抱き抱えると、彼女に部屋を聞いて階段を駆け上がった。その後の記憶は、正直ない。
翌日。
俺は、目が覚めた。俺の腕の中で寝てる裸女をまず見て、売れ残っていたはずのウオッカの酒樽が空になっているのを確認すると。状況を察した。
「あぁ~やっちまった。いくら酒に強くなっても、酒癖だけは治らんかぁ」
俺は酒に酔うと、よく俺の意思とは関係なしに歌舞伎町のお風呂屋に駆け込んでいた。そして気づいたら、家の布団で目が覚めるのだ。財布は寂しくなっていて、夢じゃなかった事を悟るのがお決まりだった。
神様に、酒癖も直して貰えばよかったなぁ。
「んっ、起きたのかい旦那……昨日は凄かったね。初めてだよ、私が仕事中に気を失っちゃったの」
そして前世と違うことは、風呂屋の女がシラフの俺と一緒にいるということだ!! どうしよう。彼女がいたことはあるが、こんな見知らぬ美女とシラフで喋ったことはない。
「そろそろ、失礼するよ。これ代金」
「良いのかい?こんなに貰って」
「か、構わない。迷惑料だとでも思ってくれ」
「ふふふっ、迷惑だなんて。むしろ良い思いをしたのは、あたいの方なのに。それじゃ、次来てくれた時はサービスしてあげるね」
娼婦は俺に枝垂れかかってきた。おっと、これはセカンドのアタック、チャーンス? って馬鹿いえよ。
というか……よく見ると、めちゃくちゃ若いぞこの子!! 昨日は酒と暗さで気づかなかったけど。俺は一体……なんて事ををやらかしたんだ。歳だけは、聞かないでおこう。そしてもう二度とここへは来ない。
服を着るのもそこそこに、俺は変な汗が噴き出る中、逃げる様に娼館を後にした。
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