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ファウルダース侯爵家結婚編
幸福の頂き3 ※
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宴もたけなわとなったところで、私とアンリはお披露目パーティーを抜け出した。
後はもう皆好きなだけどんちゃん騒ぎをするらしいので、花婿と花嫁は頃合いを見て抜けだすものらしい。
私はこんなにも沢山の人に囲まれるなんて滅多にないから、ちょっぴり疲れてしまった。
部屋に戻れば、メイドさんたちがてきぱきと湯浴みの準備をしてくれたり、簡単な軽食を用意してくれたりと甲斐甲斐しくお世話をしてくれた。
心地よい疲労感に湯船でうとうとしかけて、私は慌ててお風呂を出る。結婚初日にお風呂で溺死なんかしたら笑えない。
そうしてお風呂から上がった私は、ここにきてすっかり忘れかけていたことを思い出した。
「……ベルさん、あの、これ…………」
「夜着でございます」
「え、いや……えぇ……?」
いつも着てるパジャマじゃないよ!?
この世界で私が寝る時に着ているパジャマといえば、シンプルなワンピース。それがどういうわけか……とか何も考えなくても理由はわかるけど! それがベビードールみたいにちょっと大人で可愛くてセクシーな感じの衣装にチェンジされていた。
「……ちなみに、これを選んだのは?」
「奥様ですよ」
ミリッツァ様ー!!
私は顔が引きつるのを感じながら、その夜着を手に取る。
薄紫色のそれは、肩ひもがフリルで、胸元に細いリボンがついていて、前開きの仕様だ。内側が透けないように二重構造になってて見てる分には可愛いけど、着るのは結構勇気がいる。
「……着ないと、だめ?」
「無理にとは言いませんが……」
ベルさんも苦笑気味。
私はこっくりと頷いた。
「チェンジで」
残念ながら、私はまだそれほど吹っ切れるような理性は持ち合わせていなかった。
ベビードールから露出度控えめな可愛いネグリジェにチェンジしてもらった私は、そわそわとしながら居間の扉をノックする。
中から明るい声が聞こえてきたので、私はそろっと扉を開けて中へと入った。
「由佳、お疲れ」
「アンリこそ、おつかれさま」
アンリは居間のソファーでくつろぎながら、琥珀色の液体が入ったグラスを傾けていた。
私はそそくさとその隣に腰を下ろす。
良かった。あのベビードールで登場とかしなくて良かった……!
切実に心のなかでそれだけ思っていれば、アンリが私の方へとわずかに体を傾ける。
「由佳、良い匂いするね」
「お風呂入ったから。せっかくだからって、すこくいい香りの石鹸を使わせてもらったんだ」
薔薇を煮詰めた飴のように甘い匂いの石鹸で、いざ泡立てた時には私も心がうきうきした。
すんすんと私の髪の匂いをかぐアンリから、熱い吐息がこぼれる。
それにほんの少しだけ、お酒の匂いが混じってた。
「アンリ、お酒飲んでたの?」
「うん。由佳も飲む?」
「一口ちょうだい」
なんとなくアンリとお酒の組み合わせって意外すぎて、いったいどんなお酒を飲んでるのかと気になった。
グラスを受け取って、一口飲む。
「あ、おいしい」
「まだ飲むかい?」
「少しだけ欲しいかも」
アンリにねだれば、アンリは笑ってもう一つ置かれていたグラスにお酒を注いでくれた。
レモンティーのような味のそのお酒は、甘くて、とても飲みやすい。
「アンリはよく飲むの?」
「あんまり。砦にいると夜、急に起こされたりもするからね」
「へぇ」
適当に相槌を打ちながら、私はちびちびとお酒を飲む。
アンリも私と寄り添ってお酒のグラスを傾ける。
不思議な気分。
まさかアンリとこうしてお酒を飲む日が来るなんて、想像もしなかった。
アンリが控えめに注いでくれたお酒はすぐになくなってしまって、物足りなくなる。
じっとアンリを見上げれば、アンリはこてんと首を傾げたあと、私に口づけた。
レモンティーの味がするキス。
私が驚いて身を引こうとすれば、すぐに離れていってしまう。
でも、それが名残惜しいなんて、恥ずかしくて言えなかった。
「……アンリ、お酒もっと欲しい」
「うーん……あげてもいいけど、これけっこう度数高いよ?」
「アンリばっかりずるい」
むくれてみれば、アンリはとろりと目元をとろけさせた。
「しょうがないなぁ。可愛い奥さんのおねだりだ」
おくさん。
その一言が面映ゆくて、私はもぞもぞと体を動かした。
そんな私の気持ちなどつゆ知らず、アンリはお酒の瓶をグラスに傾けたけれど。
「ありゃ。空だ」
「一本飲んじゃったの?」
「小さいボトルだったからなぁ。僕のグラスもほとんど空だし。ごめんよ」
肩をすくめたアンリだけれど、ふと妙案を思いついたように笑顔になる。
それから一口分だけ残っていたグラスのお酒を仰ぐと、私の腰を抱く。
何をする気だろうと見ていれば、アンリがもう一度口づけを落としてきた。
唇に冷たいものが触れて、少しだけ口を開けば、甘いお酒がとろりと流れてくる。
こくりと、お酒を嚥下する。
すっかり口の中にお酒がなくなっても、アンリは口づけをやめなかった。
お酒の代わりに、今度は温かいものが私の舌をちょんとつつく。私もちょんとつつき返してやれば、だんだんとそれは大胆に私の口の中を動き始めた。
「んっ、ふっ、ぅ……」
鼻から抜けるような甘い声が聞こえる。
もしかしても私の声? なんて思っていても、深さをましていく口づけに、私はどうしようもなくて。
頭の芯がぼうっとしてるのはきっと、お酒のせいだ。
アンリとのキスにすっかり息も絶え絶えになってしまった私がくたりと体から力を抜くと、アンリはぎゅっと私を抱きしめた。
「……ベッドに行こうか」
私は小さく、ほんとうに小さく、こくんとうなずく。
そんな私を軽々と抱き上げてしまったアンリは、部屋を闊歩し、片手で寝室へと続く扉を開けてしまう。
月明かりだけが差し込むその部屋はとても暗い。
それでもアンリは真っ直ぐにベッドへと進むと、私をそっとベッドへと横たえて、三度唇へと口づける。
「……由佳」
「んぅ……?」
「抱きたい」
耳元で囁くように言われた言葉に、私の全身がふるりと震えた。
暗闇の中、アンリのお酒にとろけて熱を孕んだ瞳が輝いて見える。
伺うようなその表情に、私は自分からアンリへと口づけた。
はむっとアンリの唇を甘噛みする。
アンリが指を絡めるように握るから、私もその手を握り返す。
はむはむと戯れるように甘噛みしていれば、それまでじっとしていたアンリの舌が私の唇を舐めてくる。それがくすぐったくて、私はそっと唇を離すと、アンリの切なそうな表情が見えた。
その表情が、とても、愛しく思う。
だから。
「いいよ。……私を、愛してください」
私はアンリに許しを与えれば、彼は私の体にかぶさるようにベッドへ乗り上げてくる。
「由佳。優しくするけど……嫌なら、嫌って言って」
「うん。でもたぶん大丈夫。アンリならきっと平気」
アンリの髪をさらりと梳いた。
羨ましいくらいサラサラな銀髪は、いつもならハーフアップにされているのに、今は結ばれていない。私を見下ろすアンリの顔が髪に隠れて、あまり見えないのが寂しいし、知らない人にも見える。
「アンリ、お願い」
「ん?」
「顔だけ、よく見せて。顔が見えないと、不安になる、から」
そう伝えれば、アンリは上体を起こして、ベッド脇にあるサイドチェストから何かを取り出した。それは髪紐のようで、器用にくるくると髪を結び、いつものようにハーフアップにしてしまう。
「これでいいかい?」
「うん」
「それじゃあ、由佳。……覚悟しな」
アンリの声が胸がキュッとなるくらい甘くなる。
言葉とともに、今までで一番深い口づけが降りてきて、頭がくらくらした。
キスの雨が降ってくる。
額に、まなじりに、頬に、鼻筋に、唇に。
触れるだけのキスはくすぐったいけれど、私の体はアンリの唇が触れるたびにぽつぽつと火が灯る。
私の顔中にキスしたアンリは、その末に深く口づけしてくれる。舌を絡めて口内を侵されれば、鼻から甘い吐息がこぼれてしまう。
「ん、ふ……っ」
「由佳、可愛い」
私は息も絶え絶えなのに、アンリはそう囁いてまたキスをするものだから、ちょっとだけ不公平。
私がアンリのキスに翻弄されていると、アンリの手が宥めるように私の体の輪郭をなぞった。腰からお腹にかけてのくびれのラインをゆるゆると撫でられると、体からだんだんと力が抜けていく。
アンリからもたらされる穏やかな波を心地よく思っていれば、夜着越しにアンリの手のひらが私の胸へと触れた。
ゆっくりとマッサージをするように円を描くその手つきは、あんまりいやらしくないのに、私の心臓はドキドキと破裂しそうなくらい脈打つ。
アンリの口づけが少しずつ下へと降りていく。あご裏から首筋を通り、鎖骨まで降りてくると、アンリはぴとりと私の胸に頭を預けた。
「……アンリ?」
「由佳の心臓、すごくドキドキしてるなって思って」
「……だって、恥ずかしい」
「こぉら、顔を隠すなよ」
思わず腕で顔を隠してしまえば、アンリがやんわりと指を絡めて、私をベッドに縫いつけてしまう。
こんなに暗ければはっきりと表情なんて分からないだろうけれど、明るかったら絶対に私の顔は真っ赤になってたと思う。
それくらい、アンリにドキドキして、恥ずかしくて、これからすることに期待していた。
「僕だって可愛い奥さんの顔が見たいんだ。顔は隠さないでよ」
「うぅ……」
自分でアンリの顔を見たいって言った手前、自分は嫌だなんて言えなかった。渋々、私は腕の力を抜く。
アンリはふわりと微笑むと、私の唇にキスをする。
今度は私から舌を絡めてみたら、アンリにすぐさま主導権を奪われちゃって意味もない。
アンリの手が私の胸を優しく撫でる。胸だけでなく、お腹も撫でて、太ももも。
私はそれが焦れったくて、両足をすり合わせた。
「由佳、脱がせていい?」
アンリが私に聞いてくる。
私がこくんと頷くと、アンリは私の夜着をするりと脱がせてしまった。
外気が直接肌に触れて、寒さにふるりと体が震える。
「由佳の胸、可愛いな」
「胸が可愛いって……」
アンリの言葉にちょっと微妙な気持ちになる。
胸が可愛いってなかなか聞かない言葉だと思うよ?
「……アンリは大きい方が好き?」
「どうだろう? 魅力的だとは思うけど……由佳はこれくらいの方が可愛い」
その言葉の意味を深く考えたら負ける気がする。
結局は好きになったものがその人の好みなんだっていう、いつか誰かが言っていた言葉を思い出して、私は自分を納得させた。
でも、そんな余裕があったのもそれまでで、アンリはおもむろに私の胸元へ顔をうずめると、大して大きくもないその胸の頂きをぱくりとくわえてしまった。
「んっ、あっ」
ころころと飴を転がすように舌先で弄ばれて、思わず甲高い声が上がる。じんじんと胸の奥に熱がたまり、お腹の奥がきゅうっとした。
アンリの指が、もう片方の胸の頂きをすりすりとこねてくる。私がそれがむずむずして、体をくねらせた。
「あぅ……っ、アンリ、はずかしい……っ」
「恥ずかしがる由佳、可愛い」
胸元にアンリの吐息がかかってふるりと体が震えた。
アンリは体を少しだけ持ち上げて、また私へと口づける。
「……ここ、触っていい?」
トン、とアンリの指が、私の下腹部を叩く。
私はこくりと喉を鳴らした。
恥ずかしいけど……でも……。
おずおずとうなずいてみせると、アンリは嬉しそうに微笑んで、ついばむようなキスをしてくれる。
「嫌なら言って」
優しい気遣い。
私は返事の代わりに、自分から口つける。
アンリの、剣を持つちょっと硬い指が、秘所へと伸ばされる。
ゆるりと下着越しに割れ目をなぞられれば、ぞくりと腰が震えた。
「由佳、もう濡れてる」
「ひゃうっ」
すりすりと下着越しに花芽を撫でられると、ぞわっと全身に何かが駆け巡って、変な声が出てしまう。
思わず口元を抑えれば、アンリはちゅっと私のまなじりにキスをした。
「嫌かい?」
私はふるふると首を振る。
アンリは嬉しそうに笑うと、下着越しに私の秘所を撫でる。
ゆるゆるとした甘い波が、お腹の奥に燻っていく。
くすぐったいくらいのその波に身を任せて感じ取っていると、アンリの口づけが再び下へと降りてくる。
胸からみぞおち、みぞおちからおへそ、おへそから下腹へ。
ちゅ、ちゅ、とついばむようなキスは、足の付根へと到達すると、アンリは私の左足をぐいっと持ち上げて、その太ももにまでキスした。
それから。
「由佳、これも」
脱がしていい?
声にならない、吐息のような言葉。
私はとろりと蕩けはじめた頭で、こっくりと頷いた。
後はもう皆好きなだけどんちゃん騒ぎをするらしいので、花婿と花嫁は頃合いを見て抜けだすものらしい。
私はこんなにも沢山の人に囲まれるなんて滅多にないから、ちょっぴり疲れてしまった。
部屋に戻れば、メイドさんたちがてきぱきと湯浴みの準備をしてくれたり、簡単な軽食を用意してくれたりと甲斐甲斐しくお世話をしてくれた。
心地よい疲労感に湯船でうとうとしかけて、私は慌ててお風呂を出る。結婚初日にお風呂で溺死なんかしたら笑えない。
そうしてお風呂から上がった私は、ここにきてすっかり忘れかけていたことを思い出した。
「……ベルさん、あの、これ…………」
「夜着でございます」
「え、いや……えぇ……?」
いつも着てるパジャマじゃないよ!?
この世界で私が寝る時に着ているパジャマといえば、シンプルなワンピース。それがどういうわけか……とか何も考えなくても理由はわかるけど! それがベビードールみたいにちょっと大人で可愛くてセクシーな感じの衣装にチェンジされていた。
「……ちなみに、これを選んだのは?」
「奥様ですよ」
ミリッツァ様ー!!
私は顔が引きつるのを感じながら、その夜着を手に取る。
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「……着ないと、だめ?」
「無理にとは言いませんが……」
ベルさんも苦笑気味。
私はこっくりと頷いた。
「チェンジで」
残念ながら、私はまだそれほど吹っ切れるような理性は持ち合わせていなかった。
ベビードールから露出度控えめな可愛いネグリジェにチェンジしてもらった私は、そわそわとしながら居間の扉をノックする。
中から明るい声が聞こえてきたので、私はそろっと扉を開けて中へと入った。
「由佳、お疲れ」
「アンリこそ、おつかれさま」
アンリは居間のソファーでくつろぎながら、琥珀色の液体が入ったグラスを傾けていた。
私はそそくさとその隣に腰を下ろす。
良かった。あのベビードールで登場とかしなくて良かった……!
切実に心のなかでそれだけ思っていれば、アンリが私の方へとわずかに体を傾ける。
「由佳、良い匂いするね」
「お風呂入ったから。せっかくだからって、すこくいい香りの石鹸を使わせてもらったんだ」
薔薇を煮詰めた飴のように甘い匂いの石鹸で、いざ泡立てた時には私も心がうきうきした。
すんすんと私の髪の匂いをかぐアンリから、熱い吐息がこぼれる。
それにほんの少しだけ、お酒の匂いが混じってた。
「アンリ、お酒飲んでたの?」
「うん。由佳も飲む?」
「一口ちょうだい」
なんとなくアンリとお酒の組み合わせって意外すぎて、いったいどんなお酒を飲んでるのかと気になった。
グラスを受け取って、一口飲む。
「あ、おいしい」
「まだ飲むかい?」
「少しだけ欲しいかも」
アンリにねだれば、アンリは笑ってもう一つ置かれていたグラスにお酒を注いでくれた。
レモンティーのような味のそのお酒は、甘くて、とても飲みやすい。
「アンリはよく飲むの?」
「あんまり。砦にいると夜、急に起こされたりもするからね」
「へぇ」
適当に相槌を打ちながら、私はちびちびとお酒を飲む。
アンリも私と寄り添ってお酒のグラスを傾ける。
不思議な気分。
まさかアンリとこうしてお酒を飲む日が来るなんて、想像もしなかった。
アンリが控えめに注いでくれたお酒はすぐになくなってしまって、物足りなくなる。
じっとアンリを見上げれば、アンリはこてんと首を傾げたあと、私に口づけた。
レモンティーの味がするキス。
私が驚いて身を引こうとすれば、すぐに離れていってしまう。
でも、それが名残惜しいなんて、恥ずかしくて言えなかった。
「……アンリ、お酒もっと欲しい」
「うーん……あげてもいいけど、これけっこう度数高いよ?」
「アンリばっかりずるい」
むくれてみれば、アンリはとろりと目元をとろけさせた。
「しょうがないなぁ。可愛い奥さんのおねだりだ」
おくさん。
その一言が面映ゆくて、私はもぞもぞと体を動かした。
そんな私の気持ちなどつゆ知らず、アンリはお酒の瓶をグラスに傾けたけれど。
「ありゃ。空だ」
「一本飲んじゃったの?」
「小さいボトルだったからなぁ。僕のグラスもほとんど空だし。ごめんよ」
肩をすくめたアンリだけれど、ふと妙案を思いついたように笑顔になる。
それから一口分だけ残っていたグラスのお酒を仰ぐと、私の腰を抱く。
何をする気だろうと見ていれば、アンリがもう一度口づけを落としてきた。
唇に冷たいものが触れて、少しだけ口を開けば、甘いお酒がとろりと流れてくる。
こくりと、お酒を嚥下する。
すっかり口の中にお酒がなくなっても、アンリは口づけをやめなかった。
お酒の代わりに、今度は温かいものが私の舌をちょんとつつく。私もちょんとつつき返してやれば、だんだんとそれは大胆に私の口の中を動き始めた。
「んっ、ふっ、ぅ……」
鼻から抜けるような甘い声が聞こえる。
もしかしても私の声? なんて思っていても、深さをましていく口づけに、私はどうしようもなくて。
頭の芯がぼうっとしてるのはきっと、お酒のせいだ。
アンリとのキスにすっかり息も絶え絶えになってしまった私がくたりと体から力を抜くと、アンリはぎゅっと私を抱きしめた。
「……ベッドに行こうか」
私は小さく、ほんとうに小さく、こくんとうなずく。
そんな私を軽々と抱き上げてしまったアンリは、部屋を闊歩し、片手で寝室へと続く扉を開けてしまう。
月明かりだけが差し込むその部屋はとても暗い。
それでもアンリは真っ直ぐにベッドへと進むと、私をそっとベッドへと横たえて、三度唇へと口づける。
「……由佳」
「んぅ……?」
「抱きたい」
耳元で囁くように言われた言葉に、私の全身がふるりと震えた。
暗闇の中、アンリのお酒にとろけて熱を孕んだ瞳が輝いて見える。
伺うようなその表情に、私は自分からアンリへと口づけた。
はむっとアンリの唇を甘噛みする。
アンリが指を絡めるように握るから、私もその手を握り返す。
はむはむと戯れるように甘噛みしていれば、それまでじっとしていたアンリの舌が私の唇を舐めてくる。それがくすぐったくて、私はそっと唇を離すと、アンリの切なそうな表情が見えた。
その表情が、とても、愛しく思う。
だから。
「いいよ。……私を、愛してください」
私はアンリに許しを与えれば、彼は私の体にかぶさるようにベッドへ乗り上げてくる。
「由佳。優しくするけど……嫌なら、嫌って言って」
「うん。でもたぶん大丈夫。アンリならきっと平気」
アンリの髪をさらりと梳いた。
羨ましいくらいサラサラな銀髪は、いつもならハーフアップにされているのに、今は結ばれていない。私を見下ろすアンリの顔が髪に隠れて、あまり見えないのが寂しいし、知らない人にも見える。
「アンリ、お願い」
「ん?」
「顔だけ、よく見せて。顔が見えないと、不安になる、から」
そう伝えれば、アンリは上体を起こして、ベッド脇にあるサイドチェストから何かを取り出した。それは髪紐のようで、器用にくるくると髪を結び、いつものようにハーフアップにしてしまう。
「これでいいかい?」
「うん」
「それじゃあ、由佳。……覚悟しな」
アンリの声が胸がキュッとなるくらい甘くなる。
言葉とともに、今までで一番深い口づけが降りてきて、頭がくらくらした。
キスの雨が降ってくる。
額に、まなじりに、頬に、鼻筋に、唇に。
触れるだけのキスはくすぐったいけれど、私の体はアンリの唇が触れるたびにぽつぽつと火が灯る。
私の顔中にキスしたアンリは、その末に深く口づけしてくれる。舌を絡めて口内を侵されれば、鼻から甘い吐息がこぼれてしまう。
「ん、ふ……っ」
「由佳、可愛い」
私は息も絶え絶えなのに、アンリはそう囁いてまたキスをするものだから、ちょっとだけ不公平。
私がアンリのキスに翻弄されていると、アンリの手が宥めるように私の体の輪郭をなぞった。腰からお腹にかけてのくびれのラインをゆるゆると撫でられると、体からだんだんと力が抜けていく。
アンリからもたらされる穏やかな波を心地よく思っていれば、夜着越しにアンリの手のひらが私の胸へと触れた。
ゆっくりとマッサージをするように円を描くその手つきは、あんまりいやらしくないのに、私の心臓はドキドキと破裂しそうなくらい脈打つ。
アンリの口づけが少しずつ下へと降りていく。あご裏から首筋を通り、鎖骨まで降りてくると、アンリはぴとりと私の胸に頭を預けた。
「……アンリ?」
「由佳の心臓、すごくドキドキしてるなって思って」
「……だって、恥ずかしい」
「こぉら、顔を隠すなよ」
思わず腕で顔を隠してしまえば、アンリがやんわりと指を絡めて、私をベッドに縫いつけてしまう。
こんなに暗ければはっきりと表情なんて分からないだろうけれど、明るかったら絶対に私の顔は真っ赤になってたと思う。
それくらい、アンリにドキドキして、恥ずかしくて、これからすることに期待していた。
「僕だって可愛い奥さんの顔が見たいんだ。顔は隠さないでよ」
「うぅ……」
自分でアンリの顔を見たいって言った手前、自分は嫌だなんて言えなかった。渋々、私は腕の力を抜く。
アンリはふわりと微笑むと、私の唇にキスをする。
今度は私から舌を絡めてみたら、アンリにすぐさま主導権を奪われちゃって意味もない。
アンリの手が私の胸を優しく撫でる。胸だけでなく、お腹も撫でて、太ももも。
私はそれが焦れったくて、両足をすり合わせた。
「由佳、脱がせていい?」
アンリが私に聞いてくる。
私がこくんと頷くと、アンリは私の夜着をするりと脱がせてしまった。
外気が直接肌に触れて、寒さにふるりと体が震える。
「由佳の胸、可愛いな」
「胸が可愛いって……」
アンリの言葉にちょっと微妙な気持ちになる。
胸が可愛いってなかなか聞かない言葉だと思うよ?
「……アンリは大きい方が好き?」
「どうだろう? 魅力的だとは思うけど……由佳はこれくらいの方が可愛い」
その言葉の意味を深く考えたら負ける気がする。
結局は好きになったものがその人の好みなんだっていう、いつか誰かが言っていた言葉を思い出して、私は自分を納得させた。
でも、そんな余裕があったのもそれまでで、アンリはおもむろに私の胸元へ顔をうずめると、大して大きくもないその胸の頂きをぱくりとくわえてしまった。
「んっ、あっ」
ころころと飴を転がすように舌先で弄ばれて、思わず甲高い声が上がる。じんじんと胸の奥に熱がたまり、お腹の奥がきゅうっとした。
アンリの指が、もう片方の胸の頂きをすりすりとこねてくる。私がそれがむずむずして、体をくねらせた。
「あぅ……っ、アンリ、はずかしい……っ」
「恥ずかしがる由佳、可愛い」
胸元にアンリの吐息がかかってふるりと体が震えた。
アンリは体を少しだけ持ち上げて、また私へと口づける。
「……ここ、触っていい?」
トン、とアンリの指が、私の下腹部を叩く。
私はこくりと喉を鳴らした。
恥ずかしいけど……でも……。
おずおずとうなずいてみせると、アンリは嬉しそうに微笑んで、ついばむようなキスをしてくれる。
「嫌なら言って」
優しい気遣い。
私は返事の代わりに、自分から口つける。
アンリの、剣を持つちょっと硬い指が、秘所へと伸ばされる。
ゆるりと下着越しに割れ目をなぞられれば、ぞくりと腰が震えた。
「由佳、もう濡れてる」
「ひゃうっ」
すりすりと下着越しに花芽を撫でられると、ぞわっと全身に何かが駆け巡って、変な声が出てしまう。
思わず口元を抑えれば、アンリはちゅっと私のまなじりにキスをした。
「嫌かい?」
私はふるふると首を振る。
アンリは嬉しそうに笑うと、下着越しに私の秘所を撫でる。
ゆるゆるとした甘い波が、お腹の奥に燻っていく。
くすぐったいくらいのその波に身を任せて感じ取っていると、アンリの口づけが再び下へと降りてくる。
胸からみぞおち、みぞおちからおへそ、おへそから下腹へ。
ちゅ、ちゅ、とついばむようなキスは、足の付根へと到達すると、アンリは私の左足をぐいっと持ち上げて、その太ももにまでキスした。
それから。
「由佳、これも」
脱がしていい?
声にならない、吐息のような言葉。
私はとろりと蕩けはじめた頭で、こっくりと頷いた。
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そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
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そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
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◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
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