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外伝

英雄だが嫁が成長するまでは独身だ!1

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気がついたら、あいつはずっと俺の側にいるんだと思うのが当たり前になっていた。

身分が違うあいつが俺の屋敷に来て、双子の妹とお茶をするのも、わざわざ俺に会いに来てくれてるんだと勘違いをするくらいには。

実際には俺が高確率にもほどがあるだろというような偶然さで、あいつがいるところを通りかかってたってだけなんだが。この話をしたら双子の妹には「さすが脳筋、本能で生きてのね」とか言われた。誰が脳筋だ、馬鹿。

社交界デビューを果たして、ようやく正式に婚約を申し込めると思った矢先、あいつが王族との婚姻を内々に進めているって聞いて、頭が沸騰するかと思った。

そんなわけあるか!
あいつは俺と結婚するんだからな!

……今にして思えば、なかなかに子供じみた考えだったと思う。
まぁ、実際子供で、散々あいつには迷惑をかけた。妹には反省文を書かされた挙げ句、謝罪文まで要求されて、普段は一秒も向かっていたくない机に向かって手紙を必死に書いた。

ちょうど、その頃だったか?

大型魔獣と魔獣の大群の討伐に頻繁に駆り出されるようになったのは。

俺はあいつにやった子供じみた嫌がらせがバレて妹に責められたことの恨みと、叶うことはなかった失恋の悲しみを、八つ当たりするかのように魔獣にぶつけまくった。

それはもう、英雄と呼ばれるくらいに。

……俺としては不本意なんだがなぁ。
俺が英雄と呼ばれるには、俺よりも強い奴が世の中には多すぎる。

その最たる奴が、その頃あいつの回りにちょろちょろとちょっかいだすみたいにまとわりついてたのもあって、俺はますます魔獣に八つ当たりした訳だが。俺があいつに嫌われてるのに、そいつだけずるくね?

俺が、俺よりも強いと認めているそいつは、俺と二つしか違わないくせして、鬼のように強かった。俺の剣はそいつに教えてもらったから、当然、そいつの方が強い。模擬戦してもこちらの手の内を知られまくってるせいで、未だに一本も取れねぇのは悔しすぎる。

……あー、まー、なんだ、つまり俺が言いたいのはだな?

巷じゃ俺を英雄だなんだとちやほやしているが、その正体は子供じみた理由から来た八つ当たりの結果でしかないわけだ。

なんか俺のこの失恋事情を面白がった奴が面白半分にあることないことを混ぜこんで噂したせいで、社交界じゃ一躍有名人。ついたあだ名は「報われない英雄」。

慰めるかのように続々と届き出した縁談は片っ端から蹴ってやった。

畜生、人の不幸に拍車をかけやがって! 噂広めた奴許さねぇからな! ま、直後の討伐で最前線の囮にぶちこんでやったけど! そのままピーチクパーチクうるせぇ口ごと魔獣に食われちまえばよかったのに! だがさすが白陽前線部隊というべきか、しれっと任務遂行しやがったけど溜飲は下がった。

あれから何年も経って、王太子にも重宝されるようになって、さらには出世もした。
ただ、俺が認める俺より強いそいつの実力を王太子もよく知っているらしく、あいつの方が出世は早かったがな!

王太子はよく、「時期が時期なら、あいつが英雄だったんだがなぁ……」とぼやく。俺もそれによく頷く。
外でそんな事を言えば不審がられるが、本当にそうなのだ。

顔も良ければ品行方正、実力もある完璧人間。
非の打ち所がない……といえば嘘になるが、唯一そいつに足りないのは身分だけだろう。そいつは没落したばかりの田舎貴族だったんだから。

ただ一つ、不可解なことがある。
その完璧人間、もう二十半ばだというのに、仕事ばかりで恋人の「こ」の字も見えやしない。

つい最近まで奴は第三王子の護衛をしてたが、出世による異動の決まった数ヵ月の間は休みの日ですら出勤していたほどだ。どんだけ仕事馬鹿なのか。

まぁ、そいつにもそれなりに考えてたことがあるのだろうとは思いたいが……結婚できんのか? 俺にはどうでもいいが。

そう、それよりも俺のことだ。
失恋が確定した俺だったけど、世の中はそんな上手くは回っていないもんだ。

未だに俺は独身。
あんだけ縁談来てたけど、未練がましく全て断っていた結果だ。

次男とはいえ、家は兄上が継ぐからいつかは家を追い出される。他の弟妹達すら嫁ぎ先、婿入り先が決まったというのに……英雄の俺だけ未だ実家に寄生中。
なんとも情けねぇ……。

あー、くそ、どっかに良い嫁落ちてねぇかなぁ。



「パトリック様! だからカビーがお嫁様になりますの! だからもう少し待っててほしいの!」
「うるせぇマセガキ」
「ほら! ここにカビーが落ちてますの! 落ちてますからお嫁様になってほしいですの!」
「だー、社交界に出るようになったら考えてやるつってんだろ」
「約束ですわよ! カビーが社交界に出るまでパトリック様は独り身を貫いてくださいましね!」
「なんだそれ地獄か」

きゃんきゃんと叫ぶ御年十一歳のご令嬢が、今日も元気よくクラヴェリ家に強襲してきた。
家の者はもう見慣れたもので、皆にこにこと微笑ましいものを見るかのようにあれこれと世話を焼きながら見守っている。くそ、俺の部屋にカビーの好きな菓子持ってきやがって。こらは長居コースじゃねぇか。

カビー・ランズマン伯爵令嬢。
ふわふわとした赤毛と幼女特有のふにふにとした柔らかいもち肌。

若いってのはいいが、さすがにこれに手を出すのは犯罪だからな?
俺が失恋したあいつの婚約者も確か七歳差とか言ってたか? あいつのことを散々幼児趣味と言ってやった俺が、十二歳差の幼女を手込めにするとか……うぇ、考えるだけでも批判ものじゃねーか!

末の妹と同い年だぞ。無理だ、ここまでいくと恋愛対象から外れる。

若ければ若いほど良い?
んなわけあるかッ!

俺は散々魔獣相手に命のやり取りをして来た奴だぞ? そんな奴が女の扱いどころか、子供の扱いが分かるはずねーじゃねぇか! 力加減間違えて怪我でもさせたらどうする!

むすっとしながら、俺はカビーに構わず愛剣を磨く。俺がこういう作業をしているときは、カビーは弁えているのか話しかけては来ない。

……ったく、俺なんかを選ばずとも、こいつなら結婚相手なんて選びたい放題だろうに。

何でこうなっちまったかなぁ。
俺はそう思い、カビーと出合った頃───俺が英雄と呼ばれ始めた頃に思いを馳せた。
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