他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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七章 新生活の始まり

228話 果たし状

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 ──夕方頃。ぽつり、ぽつりと、雨が降ってきた。
 ルーザー子爵と彼の兵団が、いよいよ私たちの村へ向かってくる。
 スラ丸の分身が偵察しているんだけど、連中は既に勝ったような雰囲気で、山に入ろうとしているよ。

「この山の中に、最後の村があるのか? 罠に気を付けないとな」

「ギャハハッ! どうせ、兎狩りに使うような罠しかないだろ!」

 敵の会話を盗み聞きした限り、あちらは偵察すら出さないみたい。
 こちらは人数で優っているので、平地で圧殺した方がいい。ビーンさんを筆頭に、大人たちはそう判断して、旧盆地の村で迎え撃つことになった。
 あの村はもう使わないから、戦闘で荒れても問題ない。

 さて、これから移動しようという段階になって、

「──アーシャおねえちゃん! たいへん! ポテトくんが!」

 村の幼女が大慌てで、私のもとに駆け寄ってきた。
 可愛い顔が涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃになっている。
 とりあえず、幼女の顔をスラ丸で拭って、背中を摩りながら落ち着かせよう。

「よしよし、落ち着いて。ポテトくんが、どうかしたの?」

「ポテトくんっ、敵をやっつけるって……!! それで、山に入って……っ、そしたら、さらわれちゃったの……!! これっ、さらった人が、ニュートおにいちゃんに、持っていけって……」

 幼女はそう言って、一通の封書を差し出してきた。
 そこには、丁寧な筆跡で『果たし状』と書いてある。

「ワタシ宛に、果たし状だと……? まさか……」

 ニュートは封書を受け取り、険しい表情で内容を確かめた。
 私を含め、黎明の牙の面々が覗き込む。

『拝啓、ニュート坊ちゃまへ。侯爵家から追放されて、如何お過ごしかと心配しておりましたが、冒険者としてご活躍しておられるようで、大変安心致しました』

『目覚ましい成長を遂げられたこと、元教育係として、誠に嬉しく思っております』

 ここまで読み進めて、この果たし状の差出人が判明した。間違いなく、セバスだよね。
 過去にあった出来事を考慮しなければ、ここまでの文章は好意的に捉えられる。
 ……けど、これで終わる訳がない。続きを読んでみよう。

『強くなられた貴方と、素敵なお仲間たちに、好き勝手に動かれると、わたくしめの目的の妨げになると判断致しました』

『つきましては、貴方とそのお仲間の皆様に、決闘を申し込みます。可及的速やかに、指定の場所までお越しくださいませ』

『これを断った場合、人質の子供は殺します。貴方の信愛なる元執事、セバスより』

 ニュートは果たし状を握り潰して、怒りと共に冷たい魔力を漲らせる。
 以前に敵対したときと同様、セバスは人質を取るという卑劣な手段で、ニュートの行動を強制しようとしているんだ。
 こんなの、怒り狂ってもおかしくないよ。

「可及的速やかにって、この指示に従うなら、あたしたちはルーザー子爵と戦えないってこと?」

「うぬ……。きっと、そういうことなのだ……。我、村の皆が心配だから、残りたいのだぞ……」

 フィオナちゃんが確認を取ると、リヒトくんが苦々しい表情を浮かべながら肯定した。
 果たし状の内容から察するに、セバスは村人とルーザー子爵の戦いに、黎明の牙を介入させたくないんだろうね。

 どうして? という疑問は、一旦置いておく。
 セバスと目を合わせて、過去を覗き見してしまえば、全部分かるはずだよ。

「リヒト、テメェは馬鹿か? クソジジイをさっさとブッ殺して、こっちに戻ってくりゃァいいだろ」

「ハッ!? た、確かにその通りなのだ!! 流石は兄貴!!」

 トールがシンプルかつ暴力的な解決策を出して、リヒトくんはキラキラした眼差しを向けた。
 ここで、スイミィちゃんがニュートの手から果たし状を引っこ抜き、セバスが指定した場所を確認する。

「……姉さま、見て。……目印、二つある」

「えっ、あ、本当だ……」

 旧盆地の村を中心にした周辺一帯の地図が、果たし状には添えられており、そこには目印の×が二つあった。
 それぞれが離れている場所だから、セバスは黎明の牙を分散させたいんだ。
 片一方にはセバスの仲間がいるのか、あるいは罠が仕掛けられているのか……。
 戦闘力に関しては底が知れているセバスよりも、その他の不確定要素の方が怖い。

「アーシャ、スラ丸の分身を偵察に出せないか?」

 ニュートの問い掛けに、私は渋い顔をしてしまう。

「出せるけど、時間が掛かっちゃうよ?」

「ふむ……。セバスが痺れを切らして、ポテトを殺す可能性もあるな……。偵察抜きで、ワタシたちが直接赴くしかないか」

 その通りだと、全員が頷く。敵の思惑に乗るしかないので、嫌な感じだね。
 肝心のパーティーの分け方だけど──ここは、私が腹を括ろう。

「私が片方を受け持つから、もう片方は他のみんなでお願い」

「はぁっ!? アーシャっ、それって大丈夫なの!?」

 フィオナちゃんが驚愕しながら詰め寄ってきたけど、私は力強く頷いて答える。

「ティラとブロ丸を連れて行くから、大丈夫だよ」

 ブロ丸はスキル【魔法耐性】を持っているので、セバスの攻撃は私に届かない。
 後はティラの速攻で、圧倒出来るんじゃないかな。
 仮に、セバスの仲間や罠が強力であっても、私の切り札を使えば勝てるはず……。

「アーシャ、無理はしてねェンだな?」

「うん、本当に大丈夫。私を信じて」

 トールとの短いやり取りで、私の自信がみんなに伝わった。
 正直、私は自分のことより、みんなのことの方が心配だよ。
 別に、侮っている訳じゃないんだけどね……。事実として、黎明の牙の一軍と二軍を合わせても、従魔込みの私より弱いと思う。

 でもまぁ、スイミィちゃんの【予知夢】は発動していないので、それが安心材料になっているかな。
 自分自身や近しい人たちに、死の運命が迫っていたら、彼女は悪夢を見るはずだからね。

「……姉さま。テッちゃんとペンペン、どうする?」

「て、テッちゃん……? ああ、テツ丸のことか……。二匹とも、いつも通りそっちに同行させて」

 スイミィちゃんの質問に答えてから、私は颯爽とティラの背中に乗った。
 ローズを筆頭に、他の従魔たちは、盆地の村で非戦闘員の護衛だよ。
 こうして、私たちはお互いの無事と勝利を誓い合い、セバスに指定された場所へと向かった。


 ──疾走するティラの背中の上で、私は自分の装備を再確認する。
 聖なる衣、編み上げのロングブーツ、幸運の髪飾り×2、魔女のお絵描き道具。
 運頼みになる局面があるか分からないけど、髪飾りは一応装備しておいた。

 それから、スラ丸を入れたペンギン型のリュックと、【従魔縮小】で小さくした腕輪型のブロ丸も身に付けている。
 出来ることはやっておきたいので、スラ丸の中から誘う点眼液を取り出して、自分の目に点しておくよ。

 【光輪】による並列思考は、戦闘のために全て使わせて貰う。
 各種スキルの連発とか、戦況の見極めとか、諸々を纏めてやるのに、思考は幾らでも欲しい。
 イーシャの操作を一時的に手放すけど、寝かせておけば不審には思われない。

 ──盆地の村から山を三つ越えた先に、セバスが指定した場所が見えてきた。
 そこは暗い森に囲まれたお花畑で、紫色のラベンダーが咲き誇っている。

「あっ、ポテトくん……!!」

 お花畑の中心で、気を失って倒れているポテトくんの姿を発見したよ。
 すぐに駆け寄りたかったけど、ティラの反応を見てしまうと、そうもいかない。

「グルルルルル……ッ!!」

 ティラはポテトくんの方を睨み付けながら、警戒心を剝き出しにしている。
 辺りを見回しても、セバスはおろか、敵っぽい存在は見当たらない。
 であれば、ポテトくんの近くに、見えない敵が潜んでいるんだろうね。

「ティラ、単独で勝てそう?」

「クゥン……。ワンっ!!」

 私の問い掛けに対して、ティラは少しだけ耳をペタンとさせてから、『頑張る!!』と意気込んだ。
 これは、勝ち目が薄いけど絶望的ではないという、あんまり好ましくない意思表示だよ。
 でも、ティラがこれくらいの反応を示す敵なら、私とブロ丸が協力すれば、どうとでもなる。

 問題は、ポテトくんを無事に取り戻せるか否か……。
 
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