上 下
224 / 239
七章 新生活の始まり

221話 反乱

しおりを挟む
 
 役人の命令に従って、兵士たちが村の子供を手に掛けるべく迫る。

「野郎……ッ!! 俺様のシマで、舐めた真似してンじゃねェぞッ!!」

 トールは額に青筋を浮かべながら、鋼の鎚をぶん投げようとした。
 しかし、その前に【冷水連弾】と【雷撃】が、兵士たちを襲う。

「「「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」

 連続で飛来する水の弾が、兵士たちの身体を拉げさせた。
 前衛職と思しき人たちは、防御力が高いから即死はしなかったけど、水で濡れた身体に【雷撃】が直撃して、止めを刺される。

「なぁ──ッ!? げ、下手人は誰だあああああああああああッ!?」

 役人は発狂して、魔法が飛んできた方を睨み付けた。
 そこには、畑に隠れていた人物──リヒトくんとスイミィちゃんの姿があったよ。
 二人とも、初めて人間を手に掛けたから、顔色を青くしている。

「リヒト兄ちゃん! スイミィ姉ちゃん!」

 ポテトくんを筆頭に、子供たちがパッと表情を明るくして、リヒトくんとスイミィちゃんに駆け寄った。

「み、皆の者……っ!! もう安心するのだ!! 我が魂の封印は解き放たれた!! 今の我は、雷鳴の勇者なのだぞ!!」

 リヒトくんは子供たちを守りたい一心で、やや声を上擦らせながら、兵士たちの前に立ち塞がった。
 そんな立派な勇者様の後ろで、子供たちが口々にツッコミを入れる。

「リヒト兄ちゃん、昨日は『稲妻の魔人』って言ってたー!」

「一昨日は、『紫電の魔王』じゃなかったっけ?」

「その前は、『裁きの雷を司るアクアヘイムの王子』だったよなー」

「いろいろあって、おぼえられなーい!」

 中二病のリヒトくんは、キャラ設定がブレブレだね。二つ名の響きが格好よければ、なんでも構わないんだと思う。
 なんとも締まらない背後の声に、リヒトくんはガクっと肩を落とす。
 そんな彼を励ますように、スイミィちゃんが背中をポンポンと叩いた。

「……リッくん、かっこいい。……スイも、がんばる」

「スイミィ……!! 我の味方は、其方だけなのだ!!」

 二人とも、初めての殺人という大きな山場を乗り越えて、気を持ち直すことが出来たみたい。
 今までの盗賊退治で、人死には何度も見てきたはずだから、ある程度の慣れはあったんだろうね。

「クソ餓鬼いいいぃぃいッ!! お前たちっ、何をやっている!! 早く殺──」

 役人が声を荒げて、再び兵士たちに命令しようとした瞬間、彼の頭にサクッと矢が突き刺さった。
 今度の下手人は、ペンペンの背中に乗って登場したミケだ。
 彼は高笑いしながら、スキル【強弓】で兵士たちを狙い撃つ。
 ペンペンもスキル【挑発】を使って、子供たちに敵視が向かないようにしてくれた。

「にゃはははははっ!! おみゃーらだけに、良い恰好はさせにゃいよ!! ちびっ子のメスたち!! 守ってやるから、みゃーに惚れるのにゃあ!!」

「「「ミケにゃん! ペンペン! ありがとー!!」」」

 幼女たちの感謝の声が、一斉に上がった。
 ミケとペンペンはビジュアルが可愛いので、幼女たちに人気があるんだ。

「や、ヤラーレル様が殺られてしまった! どうする!?」

「くっ、こんな餓鬼どもに負けたとあっては、我らがルーザー子爵に殺されてしまうぞ!?」

 役人を守っていた兵士たちは、動揺しながらも攻勢に出る。

 ちなみに、ルーザー子爵というのが、この辺りの領主だよ。
 スラ丸の調べでは、四十代後半の男性で、文武に秀でた才能はなく、貴族としてのプライドだけが肥大化している人物みたい。
 先代の領主はまだマシだったらしいけど、先の帝国との戦争で、討ち死にしてしまったんだ。

 ルーザー子爵家は、二百人くらいの常備兵を抱えているのに、自分の本拠地である小さな街しか守らず、盗賊に全く対処していない。
 農民は鼠のように、放っておいても勝手に増えると思っているタイプかな。

 そんな貴族だから、村の移転の件をどう報告するか、村長さんは散々悩んでいた。
 けど、この分だと、もう悩む必要はなさそう。敵対が確定してしまったからね。
 とりあえず、今は兵士たちを始末しよう。トールが既に動き出しているので、私も覚悟を決めた。

「ウオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ──ッ!!」

 スキル【鬨の声】を使いながら、トールは敵兵に向かって突撃する。
 敵兵は例外なく怯んだので、全員がトールよりも格下。つまり、レベル30以下ということになる。

「ティラ、一人も逃がさないで。退路を断とう」

「ワフっ!!」

 私の命令に従って、ティラが敵兵の後方へと移動した。
 その間に、トールはスキル【強打】を使い、鋼の鎚を二倍の大きさにして、敵兵の一人を頭から叩き潰す。

「ぬおおおおおおおおっ!! 兄貴っ!! 待っていたのだ!!」

「おうッ、テメェもまだまだ殺れンだろ!? 一人残らず、ブッ殺すぜェ!!」

 リヒトくんはトールの登場に、キラキラと瞳を輝かせた。
 これは、ポテトくんたちも同じだよ。やっぱり、分かりやすい強者と言えば、彼らが真っ先に思い浮かべるのはトールなんだ。

 この後、私たちは敵兵の集団を終始圧倒した。
 私はローズとグレープも召喚して、敵の魔物使いに格の違いを見せつける。
 村人たちも石を投げたり、ナスの水鉄砲を使ったりして、遠くから敵兵を攻撃してくれたよ。

 数人の兵士が逃げ出したけど、ティラが迅速に屠り、生存を許さない。
 チェイスウルフのティラは体力お化けで、スキル【気配感知】と【加速】を持っている。そんな魔物から、レベル30以下の兵士たちが逃げることは難しい。
 先天性スキルやマジックアイテムによって、例外が発生する場合もあるけど……今回は、恙なく始末出来た。


 ──いつの間にか、私も殺生に慣れてしまったみたい。
 嫌だな、とは当然のように感じる。でも、それ以上に、『敵対するなら殺るぞ!!』という気持ちが大きい。

 私の平穏を脅かす人たちも、色々な物語を辿って生きている。
 それは、サウスモニカの街を襲撃したドラーゴの過去を覗き見して、よく理解出来た。
 でも、自分の物語があるのは、私だって同じなんだ。大切な人たちとか、将来の夢とか、過去の誓いとか、譲れないものが沢山ある。

 だから、敵がどんな物語の主人公でも、必ず勝つよ。
 私がそう決意していると、トールが敵兵の全滅を確認して、獰猛な笑みを浮かべながら一同を見回す。

「野郎どもォ!! 俺様たちの大勝利だッ!! 勝鬨を上げやがれェッ!!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」

 村人たちも巻き込んで、私たちは勝利の味を嚙み締めた。
 体制側に楯突いた訳だけど、敵兵の生き残りは皆無。
 これなら、私たちが殺ったのか、それとも盗賊に殺られたのか、ルーザー子爵には分からないはず……。

 ただ、審問官が送られてきた場合、この反乱は呆気なく露見してしまう。
 あるいは、そんな手間を掛けずとも、盆地の村の仕業だと決め打ちされるかもしれない。
 こうなったら、ルーザー子爵と戦う準備が必要だね。

 あちらの常備兵は二百人だけど、近隣の貴族から兵士を借りたり、冒険者を雇ったりして、戦力が倍以上に膨らむと予想しよう。
 盆地の村を守るには、力が必要だけど……お年寄りと子供たちだけだと、戦力不足も甚だしい。

「さて、どうしたものかな……」

 大人数を養うための食糧と、暮らすための土地ならある。
 私の壁師匠を使えば、人を鍛えることも出来る。
 武器は野菜の魔物のドロップアイテムしかないので、かなり心許ないけど……いや、聖女の箱庭に階層を追加して、ゾンビファーザーを召喚すれば解決するかも。

 ゾンビファーザーとは、聖女の墓標の第五階層に出現した魔物で、大量のゾンビを召喚する統率個体だよ。
 召喚されたゾンビたちの中に、武具を落とす個体がいるから、それを集めればいい。
 階層の追加と召喚用のエネルギーは、箱庭内に村人を出入りさせれば、溜まっていくと思う。

 ……もういっそ、村人を箱庭に移住させて、この地から逃げ出すという手もある。
 ただ、私が死ぬと、箱庭は崩壊してしまうんだ。私とみんなの命を紐付けするのは、ちょっと躊躇われるよね。
 これは最後の手段として、頭の片隅に置いておこう。

「やっぱり、戦うなら人手が足りないなぁ……」

 私が頭を悩ませていると、シュヴァインくん、フィオナちゃん、ニュート、テツ丸が、山から下りてきた。
 彼らの後ろには、三百人くらいの老若男女が、ゾロゾロと付いて来ている。

「あんたたちっ、これってどういうこと!? どっかの兵士が死んでるじゃない!!」

 この場の惨状を目の当たりにして、フィオナちゃんは目を見開きながら狼狽した。
 まぁ、狼狽しているのは、私も同じだよ。

「どういうことって、そっちこそ……後ろの人たち、どうしたの?」

「ああ、この人たちは難民よ。山の中で、木の根っこを齧っていたから、一先ず連れてきたわ」

 フィオナちゃん曰く、彼女たちが村でのんびりしているときに、スラ丸三号の分身が山で難民を発見したらしい。
 最初は盗賊かと思って、フィオナちゃんたちは現地に急行した。
 しかし、難民の集団は暴れる元気もないほど弱っていたので、敵対はしなかった。

 難民の代表者に、もう少し詳しい事情を聞いてみる。
 すると、彼らは近隣の村に住んでいた人たちで、徴税によって食糧を殆ど奪われたと判明した。
 食べ物を探し求めて山に入ったけど、あんまり見つからなかったとか……。
 難民は一様に瘦せ細っており、悲壮感たっぷりな表情を浮かべている。彼らの中には、子供や妊婦さんもいるし、同情を禁じ得ない。

「アーシャ、すまない。なんの相談もなく連れて来てしまった。ダンジョンで羊狩りをすれば、養えるはずだが……どうだ?」

「あ、うん。全然大丈夫だよ」

 ニュートにおずおずと問い掛けられて、私はすんなりと首を縦に振った。
 本当に都合よく、人手が増えてしまった。聞くところによると、探し求めていた大工さんもいるって。
 私たちに、運が味方して──ああいや、違うか。これは、ルーザー子爵の因果応報なんだ。
 彼が農民から搾り取ったから、そのツケが反乱という形で返ってくる。

 ……この流れに逆らわず、行けるところまで行くべきか、今一度よく考えよう。
 ルーザー子爵は小物っぽいけど、寄り親に上位の貴族がいるだろうし、伯爵、侯爵、王族と連戦が始まったら、絶対に勝てない。
 落としどころがなければ、この流れに乗るのは自殺行為だよね。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...