215 / 239
七章 新生活の始まり
212話 収穫
しおりを挟むサキュバスに攻撃出来ない。それを気まずく思ったのか、シュヴァインくんがおずおずと話を逸らす。
「そ、そういうフィオナちゃんは、どうなの……? 雄のサキュバスに、攻撃出来そう……?」
「あたし? あたしは、まぁ──」
フィオナちゃんは肩を回しながら、拘束中のサキュバスに攻撃する素振りを見せた。
すると、サキュバスが【異性転身】を使って、雄になったよ。
雄ならサキュバスじゃなくて、インキュバスかな。
フィオナちゃんには、シュヴァインくんの姿に見えているはずだけど、なんの躊躇いもなく【火炎槍】をぶっ放す。
凝縮された炎によって形成されている槍は、雄の淫魔の心臓を穿ち、一撃で絶命させてしまった。
「見ての通り、楽勝よ! シュヴァインの姿に見えたけど、あんたとスイミィが乳繰り合っている光景を想像したら、カッとなって躊躇が吹き飛んだわ!!」
「ひぃ……っ!? そ、それって、実際にヤっちゃったら──」
シュヴァインくんが皆まで言う前に、彼の顔の真横を【火炎槍】が通過する。
それから、フィオナちゃんに威圧感たっぷりの笑顔を向けられて、シュヴァインくんは二の句が継げなくなった。
何はともあれ、第三階層での初めての戦闘は終わったよ。
ニュートは徐に室内を見回して、家具を一つずつ確かめていく。
「ふむ、簡素だが作りはしっかりしているな……。これらの家具を持ち帰れば、村人の生活の助けになりそうだ」
「持ち帰るのは構わねェが、ベッドだけはやめろや。あの魔物が使ってたンなら、クソ気持ち悪ィぜ……」
トールはベッド以外の家具を見繕って、スラ丸の中に突っ込んでいく。
ベッドだって普通に使えそうだから、ちょっと勿体ないかも……。
雌雄の淫魔がイチャイチャしていた可能性を考えると、生理的に受け付けないというのは、共感出来る。けど、スラ丸の【浄化】で綺麗にすれば、大丈夫だと思うんだ。
みんなが家具を回収して、部屋を出たところで、向かいの扉から出てきた雄の淫魔と遭遇した。
フィオナちゃんはステホで撮影する余裕を見せながら、【火炎槍】を使って瞬殺したよ。
雄の淫魔の名前は『レッサーインキュバス』で、持っているスキルは【異性転身】【異性誘惑】【烈斬】の三つ。
サキュバスは魔法攻撃タイプで、インキュバスは物理攻撃タイプだね。
ちなみに、ドロップアイテムは雌雄共に、やや赤みを帯びた黒い魔石と、エッチな本だった。
この本には、年老いたサキュバスかインキュバスの、淫らな姿が描かれている。
紛うことなきゴミアイテムなので、一同は落胆していた。
「──さてと、みんなのダンジョン探索が終わったし、こっちも引き上げようかな」
私はテツ丸との【感覚共有】を切って、覗き見を終わらせた。
それから、開拓作業をしていたブロ丸とスラ丸を呼び戻し、ダンジョンの第一階層へと向かう。畑の様子を見に行くんだ。
話し相手が欲しいので、スラ丸の中から硝子のペンを取り出して、【従魔召喚】でローズを呼び出した。
「のじゃ~♪ のじゃ!? アーシャよっ、らいぶ中に呼び出すのはやめてたも!」
「ごめんごめん、ちょっと付き合って貰いたくて……」
どうやら、ローズは呑気に歌っていたらしい。お店がなくなったから、暇なんだろうね。
「妾を呼び出すとは、余程の困難かのぅ……?」
「う、うーん……。まぁ、その可能性も、なくはないかな……? これから、ダンジョン内の畑の様子を見に行くの」
「ほぉ、そこが次のらいぶ会場かの! 妾の歌でっ、無知蒙昧な作物どもを踊り狂わせてやるのじゃ!!」
アルラウネプリマのローズは、【植物扇動】というスキルを持っている。
これを使えば、歌によって下位の植物系の魔物を扇動出来るんだ。自害させることも出来るから、大量に収穫するときは役立つよ。
スラ丸、ティラ、ローズ、ブロ丸を引き連れて、私はダンジョン内の畑に到着した。
ここで、私が育てた野菜の魔物たちを紹介しよう。
『ファングトマト』──大きな口と鋭い牙を持つトマトで、体長は六十センチ。
持っているスキルは【奪命牙】で、噛み付いた相手の生命力を奪うから、かなり危険な魔物だよ。
幸いにも手足がないので、移動は出来ない。進化すると人型の身体を手に入れるので、栽培には気を遣った。
『ランスキャロット』──先端が硬くて鋭利になっているニンジンで、体長は四十センチ。
持っているスキルは【牙突】で、通常の二倍くらいの威力がある刺突攻撃だね。
茎を使って跳躍しながら突撃してくるので、動けないファングトマトよりも厄介かな。
『ナスビーム』──絵の蛸みたいな唇を持つナスで、体長は五十センチ。
持っているスキルは【体液噴射】で、自分の体内にある液体と同じものを噴射してくる。
一応、遠距離攻撃を行う魔物だけど、威力は大したことがない。ナスの汁も無害だし、身体が汚れて嫌な気持ちにさせられるだけだね。
『ロックピーマン』──防御力が高いピーマンで、体長は四十センチ。
持っているスキルは【岩石皮膜】で、体表を岩のように硬くするんだ。
身体が硬いだけで攻撃してこないから、魔物というカテゴリーに入っているのが不思議だよ。
『メカブ』──大きな単眼を持つカブで、体長は五十センチ。
持っているスキルは【誘導眼】で、目を合わせた相手の思考を誘導する。
彼我の実力差によって、効力が上下するので、弱い魔物が持っていても脅威にはならない。
これら五種類の魔物が、私の畑のオールスターだ。
早速だけど、ドロップアイテムを確かめよう。そう決めて、ローズに指示を出そうとしたら、彼女が一つ提案する。
「妾、ちと思い付いたのじゃ。この弱っちい魔物たちで、ヤキトリに戦闘経験を積ませるのは、どうかの?」
「あ、いいね。それは名案だよ。ヤキトリも進化させてあげたいし」
私は硝子のペンで魔法陣を描き、この場にヤキトリを召喚した。
この子はカラーヒヨコという魔物で、太っちょな赤色のヒヨコだよ。
体長は四十センチくらいで、瞳が橙色。羽毛はフワフワで、とっても温かい。
持っているスキルは【鳳雛】【火達磨】の二つ。
前者は自分が死んだ際に効果を発揮するスキルで、一度だけ完全な状態で復活出来るというもの。復活後に、このスキルは失われるみたい。
ヤキトリはフェニックスの卵から孵化したので、このスキルを持っている。けど、残念ながら、フェニックスへの進化条件は不明なんだ。
後者のスキルは、自分自身を燃え上がらせるというもの。
これを使って野菜の魔物に体当たりすれば、簡単に倒せるはず……。
「ヤキトリよっ、野菜どもに攻撃するのじゃ!! ふぁいやーーーっ!!」
「ピヨピヨ!!」
ローズの指示に従って、ヤキトリは自らの身体を燃え上がらせると、よちよち歩きでメカブに突撃する。
ヤキトリも大概弱いけど、この程度の相手なら楽勝──かと思いきや、メカブの単眼がキラリと光って、ヤキトリが踵を返した。
この子は身体を炎上させたまま、私たちの方へと突撃する。
「ゆ、誘導された!? 噓でしょヤキトリ!?」
「メカブ、侮り難し……!! いや、ヤキトリが弱すぎるのかのぅ……?」
私は愕然としながら頭を抱えて、ローズは呑気に首を傾げている。
そんな私たちを守るように、スラ丸が前に出た。
「スラ丸っ、ヤキトリに怪我させたら駄目だよ!」
「!!」
スラ丸は心得たと言わんばかりに、プルンと揺れると、その身体でヤキトリを受け止めた。
ヤキトリは頭からスラ丸の中に突っ込み──しばらくして、頬をパンパンに膨らませた状態で、スポンと抜け出す。
それから、再び踵を返すと、メカブのもとに駆け寄って、口から聖水を吐き出し始めたよ。
「み、水遣り、じゃと……!? そう誘導されるとは、流石の妾も予想外なのじゃ……!!」
「えぇぇ……。なにこの、ほっこりする戦い……」
ヤキトリはメカブの【誘導眼】に敗れて、スラ丸の中に頭を突っ込み、口の中に聖水を蓄えて、水遣りを始めた。と、こういう流れだね。
殺伐とは無縁な戦い。これに水を差すのは申し訳ないけど、私はローズに指示を出す。
「ローズ、メカブだけ始末して貰える?」
「うむ、任せてたも。こんなの歌うまでもなく、一捻りなのじゃ」
ローズは童女から少女の姿に戻ると、蔦を伸ばしてメカブを引っこ抜き、キュッと絞め殺していく。
彼女は攻撃系のスキルを持っていないけど、二段階も進化しているだけあって、この程度はお茶の子さいさいだよ。
私の期待通り、野菜の魔物をダンジョン内で倒したら、きちんとドロップアイテムに置き換わってくれた。
メカブのドロップアイテムは、そこそこ大きいけど普通の域を出ないカブと、小さな魔石。それから、種もあった。
レアドロップは、『誘う点眼液』という代物で、点眼瓶に入っている白っぽい液体だ。これを目に点した状態で、誰かと目を合わせると、少しだけ相手の行動を誘導しやすくなるみたい。
新しい薬の材料になるかもしれないし、そのまま使っても強力だよね。
トールたちにプレゼントしたら、淫魔に【異性転身】を使わせないように、誘導出来るかもしれない。
「よしっ、ヤキトリ! 今度こそ頑張って、野菜の魔物を倒して! ふぁいやー!」
「ピヨピヨ!!」
気を取り直して私が指示を出すと、ヤキトリは再び自分の身体を炎上させて、今度はファングトマトに突っ込んでいく。
よちよち歩きで敏捷性が低いから、何度も噛み付かれそうになったけど、私がスキル【逃げ水】を連発して援護したよ。
ヤキトリは体当たりによって、なんとかファングトマトを倒し、立て続けにランスキャロットとナスビームも撃破した。
ロックピーマンには、ヤキトリの攻撃が通用しなかったので、ローズに始末して貰う。
こうして、ヤキトリの初めての戦闘は、ちょっとハラハラしながらも無事に終わったよ。
……さて、メカブ以外のドロップアイテムを確認していこう。
48
お気に入りに追加
459
あなたにおすすめの小説
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる