202 / 239
七章 新生活の始まり
199話 集結
しおりを挟む私が借りているボロっちい家。
その庭は意外と広くて、私の従魔たちが思い思いに過ごしていた。
アルラウネのローズは、竪琴を掻き鳴らしながら歌っている。
トレントのグレープは、枝葉を揺らしてローズのライブを盛り上げている。
ゴーストのリリィは、大釜を掻き混ぜてポーション作りをしている。
ミミックのタクミは、置物のようにジッとしている。
「みんな、おはよう。心配掛けて、ごめんね」
「おおっ、アーシャよ! ようやく起きたのじゃな! この寝坊助さんめ!」
ローズがライブを中断して、私のもとに駆け寄ってきた。
彼女の下半身は深紅の薔薇なので、脚はないんだけど、蔦を器用に動かすことで移動している。
私たちは再会を喜び、ハグをしようとして──
「アーシャさあああああああああああんっ!! わたくしっ、寂しかったですわああああああああああっ!!」
リリィが横入りしてきた。彼女は鼻息を荒くしながら、私に抱き着く。
「リリィ……。お尻に触るの、やめてね」
「ふひっ、ふひひひひっ、ふひぃ!! どさくさに紛れて触る美少女のお尻は、最高ですわぁ……!!」
相も変わらずのド変態だけど、みんなに心配を掛けてしまった私自身への罰として、十秒間だけ甘んじて受け入れよう。
ちなみに、リリィは私の分身であるウーシャに、スキル【憑依】を使って、乗り移っている状態だよ。
私が意識を失っている間も、分身は消えなかったんだ。
分身を生み出すスキル【遍在】は、私とスラ丸が持っているんだけど、スラ丸の分身は本体が意識を失うと消えてしまう。
私の分身が消えないのは、【他力本願】の影響によって、『存在強度を本体と同等にする』という、特殊効果が追加されているおかげかな。
「リリィっ、この馬鹿もの! 其方は新入りであろう!? 年功序列っ、順番を守るのじゃ!!」
「そんなこと仰らないでくださいまし! ローズさんもご一緒に、イチャイチャしますわよ!!」
ローズが頬を膨らませて、プリプリと怒った。けど、リリィはお構いなしに彼女の手を引っ張り、みんなで抱き締め合う状態を作る。
この後、私は他の従魔たちともハグをして、ホッと一息吐いた。
「──さて、トールたちが帰ってくる前に、ローズとリリィの話を聞かせて貰える? 私が眠っている間に、スラ丸の目が届かない場所で、何か変わったことはあった?」
「スラ丸さんの目が、届かない場所……? 何故、そのような条件を付けるんですの?」
「あ、そういえば、リリィには教えていないんだっけ……? えっと、他言無用にして貰いたいんだけど、私のスキル【過去視】で──」
私はリリィにスキルの説明をして、スラ丸視点で過去を覗き見したことを伝えた。
彼女は納得して頷き、この村での出来事を教えてくれる。
「わたくしは村長さんに頼まれて、ずっとポーション作りをしていましたわ。この村は街から離れていて、薬師の方もいらっしゃらないので、慢性的なポーション不足でしたの」
私が眠っている間は、スキル【魔力共有】が使えないから、ローズの【草花生成】を多用出来ない。
でも、スラ丸の中に予備の花弁が沢山あったので、村人が満足するだけのポーションを提供出来たのだとか。
「そっか、ご苦労様。……提供っていうのは、無償提供?」
「いえ、対価はいただきましたわ。ですが、お金ではなくて……」
「うん……? ああ、もしかして、村の家を借りる対価とか?」
それなら全然構わない。そう私が付け加える前に、リリィが頭を振った。
「いいえ、そうではなく、とある茸の栽培方法を教えて貰いましたの。とても貴重な代物で──」
リリィ曰く、この村にある各ご家庭の地下室では、『ブルーマッシュルーム』という高級食材が、密かに栽培されているらしい。
それは、独特な臭みを放つ青い茸で、食べて美味しいだけではなく、青色のポーションの素材になるんだって。
この村に住んでいるのは、高齢者ばかりなので、体力的に畑仕事が捗らない。
だから、ブルーマッシュルームを密かに栽培して、商人に売ることで生計を立てているそうだ。
密かに、ということは、脱税だね。
リリィは独特な臭みを嗅ぎ付けて、その秘密に辿り着き、ポーションを対価に栽培方法を聞き出した。
「その栽培方法って、一般的には知られていないものなの?」
「そうですわよ! だからこれは、一大事なんですの!! ブルーマッシュルームを栽培して、グレープさんの葡萄と合わせれば、青色の中級ポーションに届くはずですわッ!!」
青色の中級ポーションは、飲むと魔力が全回復する代物だよ。
お腹がタプタプになったら飲めなくなるけど、それまでは中級ポーションがあればある分だけ、魔力を使い続けられる。魔法使いであれば、誰もが欲しがる代物なんだ。
そんな訳で、是非とも量産体制を整えたい。
ブルーマッシュルームの栽培方法は、まず最初に、薄暗くて風が吹き込まない場所を用意すること。
次に、トレント系の魔物の原木を用意して、ブルーマッシュルームを擦り付け、水属性の魔法で適度に湿らせること。
これには、スキル【霧雨】を使うのが最適らしい。ユラちゃんが取得しているので、場所さえ確保出来れば、すぐに始められる。
「かなり重要な情報だね……。ポーションを千本くらい差し出しても、全然惜しくないよ」
「ですわよね!? アーシャさんならっ、そう仰ると思っておりましたわ!!」
いぇーい、と私たちはハイタッチを交わす。
それから、私はリリィが使っている大釜に目を向けた。
一目でミスリル製だと分かる代物なので、私たちのお屋敷にあったものだと思うけど……よく持ち出せたね。
その辺りのことを尋ねると、リリィはサウスモニカの街が襲撃を受けたとき、即座にスラ丸五号の中に、色々なものを詰め込んだらしい。
とは言え、早々に私が召喚して避難させたので、お屋敷にあった全てのものを持ち出せた訳ではない。
「ミスリルの大釜を持ち出せただけで、大金星かな。他に白金貨以上のものなんて、置いてなかったはずだし……」
「女性陣の下着も、全て回収しましたわ!!」
「そ、そっか……。ありがとね……」
リリィはド変態だけど、そこに目を瞑れば優秀なんだ。
「リリィの報告は以上じゃな。妾からは、特に何も──ああいや、必要な情報か分からんが、あっちの山脈の頂上が、三日に一度だけ光るのじゃ。金色の輝きで、そこに魔物の影が殺到しておった」
ローズが指差す方角は東で、結構遠い場所に山脈が見える。山頂には雲が掛かることもあるほど、標高が高い。
三日に一度の、金色の輝き……。気になるところだけど、今は冒険をしている場合じゃないので、頭の片隅に追い遣ろう。
──ローズとリリィから、話を聞き終わったところで、トールたちが帰ってきた。
「アーシャっ!! 無事だったのね!!」
「……姉さま、よかった。……スイ、心配した」
「ごめんね、二人とも。心配してくれて、ありがとう」
フィオナちゃんとスイミィちゃんが、真っ先に駆け寄ってきて、ギュッと私に抱き着く。
二人の後ろでは、男の子たちが見るからに安堵していた。
「ったく、心配させやがって!! 問題が起こったンなら、どうして俺様たちを呼ばなかったンだァ!?」
トールに怒鳴られて、私は首を竦めながら言い訳をする。
「事態が急展開だったから、みんなを呼ぶっていう発想が、出てこなかったの……。ごめんね……」
「チッ、ああクソっ、しゃーねェな……ッ!! 俺様がもっと強けりゃァ、真っ先に選択肢に挙がったはずだ!! つまり、俺様の強さが足りねェンだろ!?」
トールが珍しく、自責的になっている。
私は咄嗟に、『そんなことないよ』って気遣おうとしたけど、言葉に詰まった。
実際のところ、彼の言う通りなんだ。サウスモニカの街を襲撃した帝国軍と戦って、トールたちがどうにか出来たとは思えない。
「し、師匠……!! 無事でよかった……!! ぼ、ボクとも、ハグしよう……!!」
「ご主人っ、みゃーともハグするのにゃあ!!」
「邪な気配を感じるから、却下で」
シュヴァインくんが私に抱き着こうとしたけど、私は彼の頬をモチモチして押し留める。
ハーレムの形成を狙っている太っちょ男子とは、ハグなんてしてあげないよ。
同じく私に抱き着こうとしたミケは、ローズが蔦で拘束してくれた。
「街が滅んだという話なら、既に聞き及んでいる。ワタシも辛い気持ちは同じだが、まずは仲間の無事を喜ぼう」
「ナハハハハハッ!! 我は心配なんて、していなかったのだ!! アーシャなら不死鳥の如く復活すると、信じていたのだぞ!!」
ニュートとリヒトくんも声を掛けてくれて、私の口元には自ずと笑みが浮かぶ。
故郷を失っても、大切なモノはまだ残っているのだと、実感することが出来たよ。
ペンペンとテツ丸、それから貸し出し中のスラ丸たちも私に甘えてきて、和気藹々とした後──いよいよ、私はルークスのことを切り出す。
「みんな、大事な話があるの。実は──」
68
お気に入りに追加
461
あなたにおすすめの小説
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜
I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。
レベル、ステータス、その他もろもろ
最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。
彼の役目は異世界の危機を救うこと。
異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。
彼はそんな人生で何よりも
人との別れの連続が辛かった。
だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。
しかし、彼は自分の強さを強すぎる
が故に、隠しきることができない。
そしてまた、この異世界でも、
服部隼人の強さが人々にばれていく
のだった。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる