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七章 新生活の始まり
199話 集結
しおりを挟む私が借りているボロっちい家。
その庭は意外と広くて、私の従魔たちが思い思いに過ごしていた。
アルラウネのローズは、竪琴を掻き鳴らしながら歌っている。
トレントのグレープは、枝葉を揺らしてローズのライブを盛り上げている。
ゴーストのリリィは、大釜を掻き混ぜてポーション作りをしている。
ミミックのタクミは、置物のようにジッとしている。
「みんな、おはよう。心配掛けて、ごめんね」
「おおっ、アーシャよ! ようやく起きたのじゃな! この寝坊助さんめ!」
ローズがライブを中断して、私のもとに駆け寄ってきた。
彼女の下半身は深紅の薔薇なので、脚はないんだけど、蔦を器用に動かすことで移動している。
私たちは再会を喜び、ハグをしようとして──
「アーシャさあああああああああああんっ!! わたくしっ、寂しかったですわああああああああああっ!!」
リリィが横入りしてきた。彼女は鼻息を荒くしながら、私に抱き着く。
「リリィ……。お尻に触るの、やめてね」
「ふひっ、ふひひひひっ、ふひぃ!! どさくさに紛れて触る美少女のお尻は、最高ですわぁ……!!」
相も変わらずのド変態だけど、みんなに心配を掛けてしまった私自身への罰として、十秒間だけ甘んじて受け入れよう。
ちなみに、リリィは私の分身であるウーシャに、スキル【憑依】を使って、乗り移っている状態だよ。
私が意識を失っている間も、分身は消えなかったんだ。
分身を生み出すスキル【遍在】は、私とスラ丸が持っているんだけど、スラ丸の分身は本体が意識を失うと消えてしまう。
私の分身が消えないのは、【他力本願】の影響によって、『存在強度を本体と同等にする』という、特殊効果が追加されているおかげかな。
「リリィっ、この馬鹿もの! 其方は新入りであろう!? 年功序列っ、順番を守るのじゃ!!」
「そんなこと仰らないでくださいまし! ローズさんもご一緒に、イチャイチャしますわよ!!」
ローズが頬を膨らませて、プリプリと怒った。けど、リリィはお構いなしに彼女の手を引っ張り、みんなで抱き締め合う状態を作る。
この後、私は他の従魔たちともハグをして、ホッと一息吐いた。
「──さて、トールたちが帰ってくる前に、ローズとリリィの話を聞かせて貰える? 私が眠っている間に、スラ丸の目が届かない場所で、何か変わったことはあった?」
「スラ丸さんの目が、届かない場所……? 何故、そのような条件を付けるんですの?」
「あ、そういえば、リリィには教えていないんだっけ……? えっと、他言無用にして貰いたいんだけど、私のスキル【過去視】で──」
私はリリィにスキルの説明をして、スラ丸視点で過去を覗き見したことを伝えた。
彼女は納得して頷き、この村での出来事を教えてくれる。
「わたくしは村長さんに頼まれて、ずっとポーション作りをしていましたわ。この村は街から離れていて、薬師の方もいらっしゃらないので、慢性的なポーション不足でしたの」
私が眠っている間は、スキル【魔力共有】が使えないから、ローズの【草花生成】を多用出来ない。
でも、スラ丸の中に予備の花弁が沢山あったので、村人が満足するだけのポーションを提供出来たのだとか。
「そっか、ご苦労様。……提供っていうのは、無償提供?」
「いえ、対価はいただきましたわ。ですが、お金ではなくて……」
「うん……? ああ、もしかして、村の家を借りる対価とか?」
それなら全然構わない。そう私が付け加える前に、リリィが頭を振った。
「いいえ、そうではなく、とある茸の栽培方法を教えて貰いましたの。とても貴重な代物で──」
リリィ曰く、この村にある各ご家庭の地下室では、『ブルーマッシュルーム』という高級食材が、密かに栽培されているらしい。
それは、独特な臭みを放つ青い茸で、食べて美味しいだけではなく、青色のポーションの素材になるんだって。
この村に住んでいるのは、高齢者ばかりなので、体力的に畑仕事が捗らない。
だから、ブルーマッシュルームを密かに栽培して、商人に売ることで生計を立てているそうだ。
密かに、ということは、脱税だね。
リリィは独特な臭みを嗅ぎ付けて、その秘密に辿り着き、ポーションを対価に栽培方法を聞き出した。
「その栽培方法って、一般的には知られていないものなの?」
「そうですわよ! だからこれは、一大事なんですの!! ブルーマッシュルームを栽培して、グレープさんの葡萄と合わせれば、青色の中級ポーションに届くはずですわッ!!」
青色の中級ポーションは、飲むと魔力が全回復する代物だよ。
お腹がタプタプになったら飲めなくなるけど、それまでは中級ポーションがあればある分だけ、魔力を使い続けられる。魔法使いであれば、誰もが欲しがる代物なんだ。
そんな訳で、是非とも量産体制を整えたい。
ブルーマッシュルームの栽培方法は、まず最初に、薄暗くて風が吹き込まない場所を用意すること。
次に、トレント系の魔物の原木を用意して、ブルーマッシュルームを擦り付け、水属性の魔法で適度に湿らせること。
これには、スキル【霧雨】を使うのが最適らしい。ユラちゃんが取得しているので、場所さえ確保出来れば、すぐに始められる。
「かなり重要な情報だね……。ポーションを千本くらい差し出しても、全然惜しくないよ」
「ですわよね!? アーシャさんならっ、そう仰ると思っておりましたわ!!」
いぇーい、と私たちはハイタッチを交わす。
それから、私はリリィが使っている大釜に目を向けた。
一目でミスリル製だと分かる代物なので、私たちのお屋敷にあったものだと思うけど……よく持ち出せたね。
その辺りのことを尋ねると、リリィはサウスモニカの街が襲撃を受けたとき、即座にスラ丸五号の中に、色々なものを詰め込んだらしい。
とは言え、早々に私が召喚して避難させたので、お屋敷にあった全てのものを持ち出せた訳ではない。
「ミスリルの大釜を持ち出せただけで、大金星かな。他に白金貨以上のものなんて、置いてなかったはずだし……」
「女性陣の下着も、全て回収しましたわ!!」
「そ、そっか……。ありがとね……」
リリィはド変態だけど、そこに目を瞑れば優秀なんだ。
「リリィの報告は以上じゃな。妾からは、特に何も──ああいや、必要な情報か分からんが、あっちの山脈の頂上が、三日に一度だけ光るのじゃ。金色の輝きで、そこに魔物の影が殺到しておった」
ローズが指差す方角は東で、結構遠い場所に山脈が見える。山頂には雲が掛かることもあるほど、標高が高い。
三日に一度の、金色の輝き……。気になるところだけど、今は冒険をしている場合じゃないので、頭の片隅に追い遣ろう。
──ローズとリリィから、話を聞き終わったところで、トールたちが帰ってきた。
「アーシャっ!! 無事だったのね!!」
「……姉さま、よかった。……スイ、心配した」
「ごめんね、二人とも。心配してくれて、ありがとう」
フィオナちゃんとスイミィちゃんが、真っ先に駆け寄ってきて、ギュッと私に抱き着く。
二人の後ろでは、男の子たちが見るからに安堵していた。
「ったく、心配させやがって!! 問題が起こったンなら、どうして俺様たちを呼ばなかったンだァ!?」
トールに怒鳴られて、私は首を竦めながら言い訳をする。
「事態が急展開だったから、みんなを呼ぶっていう発想が、出てこなかったの……。ごめんね……」
「チッ、ああクソっ、しゃーねェな……ッ!! 俺様がもっと強けりゃァ、真っ先に選択肢に挙がったはずだ!! つまり、俺様の強さが足りねェンだろ!?」
トールが珍しく、自責的になっている。
私は咄嗟に、『そんなことないよ』って気遣おうとしたけど、言葉に詰まった。
実際のところ、彼の言う通りなんだ。サウスモニカの街を襲撃した帝国軍と戦って、トールたちがどうにか出来たとは思えない。
「し、師匠……!! 無事でよかった……!! ぼ、ボクとも、ハグしよう……!!」
「ご主人っ、みゃーともハグするのにゃあ!!」
「邪な気配を感じるから、却下で」
シュヴァインくんが私に抱き着こうとしたけど、私は彼の頬をモチモチして押し留める。
ハーレムの形成を狙っている太っちょ男子とは、ハグなんてしてあげないよ。
同じく私に抱き着こうとしたミケは、ローズが蔦で拘束してくれた。
「街が滅んだという話なら、既に聞き及んでいる。ワタシも辛い気持ちは同じだが、まずは仲間の無事を喜ぼう」
「ナハハハハハッ!! 我は心配なんて、していなかったのだ!! アーシャなら不死鳥の如く復活すると、信じていたのだぞ!!」
ニュートとリヒトくんも声を掛けてくれて、私の口元には自ずと笑みが浮かぶ。
故郷を失っても、大切なモノはまだ残っているのだと、実感することが出来たよ。
ペンペンとテツ丸、それから貸し出し中のスラ丸たちも私に甘えてきて、和気藹々とした後──いよいよ、私はルークスのことを切り出す。
「みんな、大事な話があるの。実は──」
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