他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

文字の大きさ
上 下
201 / 239
七章 新生活の始まり

198話 寂れた村

しおりを挟む
 
 ブロ丸から、諸々の話を聴き出したスイミィちゃんは、他の面々と情報を共有した。
 リヒトくんは頭を抱えて、ウンウンと唸り出す。

「う、うーぬ……? 帝国軍に街を壊されて、アーシャがダンジョンを攻略して……? なんだか、現実感が湧かない話なのだ……。我らはこれから、一体どうすれば……?」

「はにゃあ……。一先ず、ダンジョンから出たいのにゃ……。みゃーは寒いの、苦手にゃんだよ」

 ミケはそう言って、ぶるりと身体を震わせた。
 ヤキトリがスキル【火達磨】を使って、自分自身を炎上させているので、みんなはそれで暖を取っている。けど、ずっとそうしている訳にもいかない。

「……外、くさい。……ミケ、寒いのと、くさいの、どっち?」

 極寒の流水海域か、悪臭が漂うサウスモニカの街。辛い二択をスイミィちゃんが迫った。
 ミケは猫獣人で、人一倍寒さに弱くて嗅覚が鋭いので、耳を塞ぎながらイヤイヤと首を横に振る。

「ど、どっちも嫌にゃあ!! あっ、そうにゃ!! フィオナたちと合流するのは、どうかにゃあ!? スラ丸のスキルで!!」

「ふむ……。あちらは確か、王国東部の農村だったかの」

 ローズは指を折りながら、王国東部に遠征中のメンバーを思い出した。
 トール、シュヴァインくん、フィオナちゃん、ニュートの四人と、スラ丸三号、テツ丸という組み合わせだね。
 彼らは国から強制依頼を押し付けられて、王国東部にある農村を守っている。
 王国東部は穀倉地帯で、帝国の冒険者や義勇兵が荒らしにくるので、王国も冒険者を使って防衛しているんだ。


 ──話し合いの結果、ミケたちはスラ丸の【転移門】を使って、トールたちと合流することにした。
 彼らは中規模の農村を守っていたはずだけど……実際に合流した場所は、山中の盆地にある寂れた村だったよ。
 お年寄りと子供ばっかりで、住民が二百人程度しかいない。

 トールたちは空き家を借りて、そこに滞在しながら村を守っていた。他の冒険者の姿は、見当たらない。
 まずはローズがトールたちに、知る限りの情報を伝える。

「──と、そんな感じで、街は壊滅。アーシャも見ての通り、寝たきりになってしまったのじゃ」

「そ、そんな……。それじゃあ、あたしたちの孤児院は……? マリアさんも、死んじゃったの……?」

「ブロ丸が言うには、生存者は見つからなかったそうじゃ……」

 フィオナちゃんはショックを受けて、膝から崩れ落ちた。
 シュヴァインくんが慌てて、彼女を支える。

「ふぃ、フィオナちゃん……!! しっかりして……!!」

「チッ、こっちも面白くねェことが続いてンのに、余計に辛気臭くなる話じゃねェか……ッ!! オイっ、アーシャは無事なんだろうなァ!?」

 トールが苛立ちを露わにしながら、流水海域から来た面々を問い詰めた。
 今にもスラ丸の中から、私を引っ張り出しそうな様子だったので、リヒトくんが割って入る。

「兄貴っ、落ち着くのだ! アーシャの身体に異常はないのだぞ!」

「ぐっ……そうかよ……ッ!!」

 自分を慕う弟分に、八つ当たりなんて出来ない。トールはそう思ったのか、怒りを抑えながら仏頂面で座り込んだ。
 ここで、比較的冷静なニュートに対して、リリィが質問をする。

「ニュートさん、こちらでは何がありましたの?」

「まず、中規模の農村から追い出された。ワタシたちよりも実力が下で、年齢が上という冒険者が、それなりに多くてな……」

「なるほど……。折り合いが付かなかったんですのね……」

 トールたちは銀級冒険者で、年齢不相応に実力が高い。
 しかも、私が貸し出しているスラ丸とテツ丸までいるから、パーティー単位での戦力は、並みの銀級冒険者パーティーを超えている。
 それが年上の冒険者たちには、面白くなかったみたい。
 トールっていう、生意気な男の子もいるし、余計にね。

「……まず? 兄さま、他にも問題、ある?」

「ああ、ワタシたちのステホが全て砕けた。そちらから聞いた話で、原因は察したが……」

 スイミィちゃんの質問に、ニュートは懐からステホの残骸を取り出して答えた。
 布に包まれていたステホは、復元が出来そうにないほど粉々だ。

 ステホがなくなっても、職業、レベル、スキルはなくならない。
 でも、ステータスの確認や、誰かと連絡を取ることが出来なくなった。
 それと、政府からの重要なニュースも、現状では受け取れない。

 ステホという情報媒体を失い、トールたちは悶々としながら、寂れた村での滞在を余儀なくされている。
 帝国の冒険者──いや、もう盗賊と言い換えよう。盗賊たちが、この村をチマチマと襲撃しにくるので、見捨てられないんだ。
 黎明の牙の一軍と二軍が合流して、二週間も経過した頃──ようやく、私が目を覚ました。



 スラ丸に使っていた【過去視】を解除して、私は現在に意識を戻す。
 とりあえず、聖女の墓標と流水海域に一匹ずつ、スラ丸が置き去りになっているので、【従魔召喚】を使って回収したよ。
 【転移門】はスラ丸自身が門になって、動けなくなるから、入り口側のスラ丸が置き去りになってしまうんだ。

「ふぅ……。二週間も眠っていた割には、全然元気かも……。スラ丸、ありがとね」

 スラ丸の手厚い介護によって、私は眠ったまま、食事も運動もきちんと行っていた。スキル【浄化】があるので、身体も綺麗なままだよ。
 ちなみに、現在の私の服装は、金糸で彩られた純白の衣だった。
 ニラーシャが着ていたものと、非常によく似ている。

 彼女のドロップアイテムである宝箱の中から、スラ丸がこの服を勝手に取り出して、私に着せたみたい。
 なんで? と疑問に思ったけど……この衣服からは、心地良い波動のようなものが感じられるので、気を利かせてくれたのかな。

 衣服の大きさが私にピッタリだから、マジックアイテムだと思う。全てのマジックアイテムには、サイズの自動調整機能が付いているからね。
 どんな代物なのか、ステホで確かめようとして──私のステホも、粉々になっていることに気付く。

「あっ、どうしよう……!? これだと、ルークスと連絡が取れない……!!」

 急いで渇きの短剣を捨てさせようと思っていたのに、予定が狂ってしまった。
 サウスモニカの街が滅んだので、ルークスとどこで合流していいのかも分からない。

「困った……。本当に困った……」

 私は頭を抱えて、どうすればいいのか考え抜く。
 とりあえず、みんなと相談──の前に、事情を説明するのが先だね。
 渇きの短剣に関する事情は、私がニラーシャの悪夢の中で見ただけだから、みんなは知らないんだ。

 現在、トールたちは盗賊退治のために、山の中へと入っていた。
 私は【感覚共有】を使って、彼らに同行しているテツ丸の視界から、無事な様子を確かめたよ。
 みんなのパーティー『黎明の牙』は、一軍と二軍に分かれているんだけど、合流した後は一緒に盗賊退治を行っているみたい。
 丁度、一仕事終わった直後で、これから帰路に就くところかな。

 同行していたペンペンが、ペンギンナイトに進化したので、あっちではちょっとした騒ぎになっている。
 ペンギンナイトは体長が二メートルもあって、大きな丸い盾と、短めの剣を持つペンギンだ。カラーリングは、進化前と変わっていない。
 ペンペンが新たに取得したスキルは【挑発】で、シュヴァインくんと同様に、敵視を取れるようになった。

「ペンペンが進化したってことは、アーシャが意識を取り戻したのよね!? みんなっ、早く帰るわよ!!」

「ふぃ、フィオナちゃん……!! 走ると危ないよぅ……!! そこら中に、ミケきゅんの仕掛けた罠が──」

 フィオナちゃんがシュヴァインくんの制止を無視して、我先にと駆け出し──つるんと滑って転んだ。
 彼女は『ぎゃふん!』と悲鳴を上げて、地面に顔を打ち付けてしまう。
 しかも、転んだ拍子に蔦のロープが引っ掛かって、それと連動する形で頭上から丸太が落ちてきた。

「何やってンだテメェ!! 馬鹿がよォ!!」

 トールが丸太を片手でキャッチして、フィオナちゃんを怒鳴り付けた。
 普段から言い争いが絶えない二人だけど、今回ばかりはフィオナちゃんも、自分が悪いと思っているらしく、しゅんとして反省する。

「うぅ……っ、わ、悪かったわよ……。つい……」

「みゃーはフィオナの気持ち、よく分かるのにゃ! でもっ、慌てると余計に時間を食うから、落ち着いて帰るのにゃあ!」

 ミケはそう言って、みんなを先導しながら山道を歩く。
 彼のスキル【滑る床】と、自作のブービートラップ。それらを山中に幾つも仕掛けて、盗賊や魔物を狩っていたみたい。
 【滑る床】とは、地面の一部を摩擦が発生しない状態にするという、罠系のスキルだね。

 ──トールたちが帰ってくる前に、私は他の従魔の様子も確認しておくことにした。ローズたちが、この家の庭にいるんだ。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...