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七章 新生活の始まり
198話 寂れた村
しおりを挟むブロ丸から、諸々の話を聴き出したスイミィちゃんは、他の面々と情報を共有した。
リヒトくんは頭を抱えて、ウンウンと唸り出す。
「う、うーぬ……? 帝国軍に街を壊されて、アーシャがダンジョンを攻略して……? なんだか、現実感が湧かない話なのだ……。我らはこれから、一体どうすれば……?」
「はにゃあ……。一先ず、ダンジョンから出たいのにゃ……。みゃーは寒いの、苦手にゃんだよ」
ミケはそう言って、ぶるりと身体を震わせた。
ヤキトリがスキル【火達磨】を使って、自分自身を炎上させているので、みんなはそれで暖を取っている。けど、ずっとそうしている訳にもいかない。
「……外、くさい。……ミケ、寒いのと、くさいの、どっち?」
極寒の流水海域か、悪臭が漂うサウスモニカの街。辛い二択をスイミィちゃんが迫った。
ミケは猫獣人で、人一倍寒さに弱くて嗅覚が鋭いので、耳を塞ぎながらイヤイヤと首を横に振る。
「ど、どっちも嫌にゃあ!! あっ、そうにゃ!! フィオナたちと合流するのは、どうかにゃあ!? スラ丸のスキルで!!」
「ふむ……。あちらは確か、王国東部の農村だったかの」
ローズは指を折りながら、王国東部に遠征中のメンバーを思い出した。
トール、シュヴァインくん、フィオナちゃん、ニュートの四人と、スラ丸三号、テツ丸という組み合わせだね。
彼らは国から強制依頼を押し付けられて、王国東部にある農村を守っている。
王国東部は穀倉地帯で、帝国の冒険者や義勇兵が荒らしにくるので、王国も冒険者を使って防衛しているんだ。
──話し合いの結果、ミケたちはスラ丸の【転移門】を使って、トールたちと合流することにした。
彼らは中規模の農村を守っていたはずだけど……実際に合流した場所は、山中の盆地にある寂れた村だったよ。
お年寄りと子供ばっかりで、住民が二百人程度しかいない。
トールたちは空き家を借りて、そこに滞在しながら村を守っていた。他の冒険者の姿は、見当たらない。
まずはローズがトールたちに、知る限りの情報を伝える。
「──と、そんな感じで、街は壊滅。アーシャも見ての通り、寝たきりになってしまったのじゃ」
「そ、そんな……。それじゃあ、あたしたちの孤児院は……? マリアさんも、死んじゃったの……?」
「ブロ丸が言うには、生存者は見つからなかったそうじゃ……」
フィオナちゃんはショックを受けて、膝から崩れ落ちた。
シュヴァインくんが慌てて、彼女を支える。
「ふぃ、フィオナちゃん……!! しっかりして……!!」
「チッ、こっちも面白くねェことが続いてンのに、余計に辛気臭くなる話じゃねェか……ッ!! オイっ、アーシャは無事なんだろうなァ!?」
トールが苛立ちを露わにしながら、流水海域から来た面々を問い詰めた。
今にもスラ丸の中から、私を引っ張り出しそうな様子だったので、リヒトくんが割って入る。
「兄貴っ、落ち着くのだ! アーシャの身体に異常はないのだぞ!」
「ぐっ……そうかよ……ッ!!」
自分を慕う弟分に、八つ当たりなんて出来ない。トールはそう思ったのか、怒りを抑えながら仏頂面で座り込んだ。
ここで、比較的冷静なニュートに対して、リリィが質問をする。
「ニュートさん、こちらでは何がありましたの?」
「まず、中規模の農村から追い出された。ワタシたちよりも実力が下で、年齢が上という冒険者が、それなりに多くてな……」
「なるほど……。折り合いが付かなかったんですのね……」
トールたちは銀級冒険者で、年齢不相応に実力が高い。
しかも、私が貸し出しているスラ丸とテツ丸までいるから、パーティー単位での戦力は、並みの銀級冒険者パーティーを超えている。
それが年上の冒険者たちには、面白くなかったみたい。
トールっていう、生意気な男の子もいるし、余計にね。
「……まず? 兄さま、他にも問題、ある?」
「ああ、ワタシたちのステホが全て砕けた。そちらから聞いた話で、原因は察したが……」
スイミィちゃんの質問に、ニュートは懐からステホの残骸を取り出して答えた。
布に包まれていたステホは、復元が出来そうにないほど粉々だ。
ステホがなくなっても、職業、レベル、スキルはなくならない。
でも、ステータスの確認や、誰かと連絡を取ることが出来なくなった。
それと、政府からの重要なニュースも、現状では受け取れない。
ステホという情報媒体を失い、トールたちは悶々としながら、寂れた村での滞在を余儀なくされている。
帝国の冒険者──いや、もう盗賊と言い換えよう。盗賊たちが、この村をチマチマと襲撃しにくるので、見捨てられないんだ。
黎明の牙の一軍と二軍が合流して、二週間も経過した頃──ようやく、私が目を覚ました。
スラ丸に使っていた【過去視】を解除して、私は現在に意識を戻す。
とりあえず、聖女の墓標と流水海域に一匹ずつ、スラ丸が置き去りになっているので、【従魔召喚】を使って回収したよ。
【転移門】はスラ丸自身が門になって、動けなくなるから、入り口側のスラ丸が置き去りになってしまうんだ。
「ふぅ……。二週間も眠っていた割には、全然元気かも……。スラ丸、ありがとね」
スラ丸の手厚い介護によって、私は眠ったまま、食事も運動もきちんと行っていた。スキル【浄化】があるので、身体も綺麗なままだよ。
ちなみに、現在の私の服装は、金糸で彩られた純白の衣だった。
ニラーシャが着ていたものと、非常によく似ている。
彼女のドロップアイテムである宝箱の中から、スラ丸がこの服を勝手に取り出して、私に着せたみたい。
なんで? と疑問に思ったけど……この衣服からは、心地良い波動のようなものが感じられるので、気を利かせてくれたのかな。
衣服の大きさが私にピッタリだから、マジックアイテムだと思う。全てのマジックアイテムには、サイズの自動調整機能が付いているからね。
どんな代物なのか、ステホで確かめようとして──私のステホも、粉々になっていることに気付く。
「あっ、どうしよう……!? これだと、ルークスと連絡が取れない……!!」
急いで渇きの短剣を捨てさせようと思っていたのに、予定が狂ってしまった。
サウスモニカの街が滅んだので、ルークスとどこで合流していいのかも分からない。
「困った……。本当に困った……」
私は頭を抱えて、どうすればいいのか考え抜く。
とりあえず、みんなと相談──の前に、事情を説明するのが先だね。
渇きの短剣に関する事情は、私がニラーシャの悪夢の中で見ただけだから、みんなは知らないんだ。
現在、トールたちは盗賊退治のために、山の中へと入っていた。
私は【感覚共有】を使って、彼らに同行しているテツ丸の視界から、無事な様子を確かめたよ。
みんなのパーティー『黎明の牙』は、一軍と二軍に分かれているんだけど、合流した後は一緒に盗賊退治を行っているみたい。
丁度、一仕事終わった直後で、これから帰路に就くところかな。
同行していたペンペンが、ペンギンナイトに進化したので、あっちではちょっとした騒ぎになっている。
ペンギンナイトは体長が二メートルもあって、大きな丸い盾と、短めの剣を持つペンギンだ。カラーリングは、進化前と変わっていない。
ペンペンが新たに取得したスキルは【挑発】で、シュヴァインくんと同様に、敵視を取れるようになった。
「ペンペンが進化したってことは、アーシャが意識を取り戻したのよね!? みんなっ、早く帰るわよ!!」
「ふぃ、フィオナちゃん……!! 走ると危ないよぅ……!! そこら中に、ミケきゅんの仕掛けた罠が──」
フィオナちゃんがシュヴァインくんの制止を無視して、我先にと駆け出し──つるんと滑って転んだ。
彼女は『ぎゃふん!』と悲鳴を上げて、地面に顔を打ち付けてしまう。
しかも、転んだ拍子に蔦のロープが引っ掛かって、それと連動する形で頭上から丸太が落ちてきた。
「何やってンだテメェ!! 馬鹿がよォ!!」
トールが丸太を片手でキャッチして、フィオナちゃんを怒鳴り付けた。
普段から言い争いが絶えない二人だけど、今回ばかりはフィオナちゃんも、自分が悪いと思っているらしく、しゅんとして反省する。
「うぅ……っ、わ、悪かったわよ……。つい……」
「みゃーはフィオナの気持ち、よく分かるのにゃ! でもっ、慌てると余計に時間を食うから、落ち着いて帰るのにゃあ!」
ミケはそう言って、みんなを先導しながら山道を歩く。
彼のスキル【滑る床】と、自作のブービートラップ。それらを山中に幾つも仕掛けて、盗賊や魔物を狩っていたみたい。
【滑る床】とは、地面の一部を摩擦が発生しない状態にするという、罠系のスキルだね。
──トールたちが帰ってくる前に、私は他の従魔の様子も確認しておくことにした。ローズたちが、この家の庭にいるんだ。
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