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六章 聖女の墓標攻略編
180話 新しい装備
しおりを挟む『ガマ油の杖』──白金貨十枚。
スキル【爆炎球】の中に油が生成されて、焼夷弾になる。デメリットもあって、魔力の消耗量が二倍になるよ。
この杖はフィオナちゃんの装備として、以前から購入しようと決めていたものだね。
『燃える拡大の指輪』──白金貨十枚。
スキル【爆炎球】の大きさが二倍になる。魔力の消耗量は変化しない。
こっちは最近入荷した代物らしい。フィオナちゃんがキラキラした眼差しを向けてきたので、私は苦笑しながら買ってあげた。
杖は一メートルくらいの大きさで、赤みを帯びた暗い色の木材が使われている。
それと、持ち手の部分には、太っちょのガマガエルが鎮座しているよ。生物じゃなくて、作り物のやつ。
指輪は赤みを帯びた銀色のもので、小さな火の魔石が嵌っている。
「アーシャっ、ありがとね! これで、スイミィにもニュートにも、絶対に負けないわ!! あたしが最強の魔法使いよ!!」
「どう致しまして。杖はかなり危ないから、使い所に気を付けてね」
フィオナちゃんにお礼を言われて、私は気分を良くしながら、パッと思い付いた注意事項を伝えておく。
流氷の上で杖を装備したままだと、【爆炎球】を使ったときに油が散って、氷が溶けすぎること。
味方に少し飛び火しただけで、大火傷を負わせてしまうこと。
燃えている油に水を掛けると、延焼する恐れがあること。
この三つは、肝に銘じておかないといけないよ。
『強大なる鋼の鎚+1』──白金貨五枚。
スキル【強打】を使うと、武器の大きさと威力が二倍になる。
それと、この武器で殴打した相手を一定確率で混乱状態にする。
前々から購入しようと決めていた代物で、トールに使って貰う装備だね。
マジックアイテムは装備した人に合わせて、大きさが自動調整される。
子供のトールが装備した場合、そこそこ小さくなるんだけど……それでも、この鎚は彼より一回り大きい。背負うのが大変そうだよ。
材質は少し黒っぽい鋼で、重さは見た目相応。【強打】を使うと、更に大きさと重量が増して、トールでも軽々とは振り回せなくなる。
使い難い武器だけど、これでようやく、マンモスの頭を砕けるね。
ちなみに、この鎚の巨大化効果は、両手で持っているときにしか発動しない。
十分なスペースがない場所で、【強打】を使いたければ、片手で持てばいいんだ。
「ありがとよ、大切に使わせて貰うぜ」
「大切にしてくれるのは嬉しいけど、装備は使い潰すものだから、大切にし過ぎないでね」
ご機嫌なトールがお礼と共に、殊勝なことを言ってきた。
彼には細かいことなんて気にせず、いつでもフルスイングで戦って貰いたい。
当初のお買い物の予定は、これで終わり。
でも、私はルークスとシュヴァインくんの装備も、買ってあげることにした。
『健脚祈願』──白金貨四枚。
走る際に、足へ掛かる負担を軽減してくれる首飾り。
見た目は神社で貰えるようなお守りで、これはルークスのために購入したよ。
私のスキル【風纏脚】と、ルークスのスキル【加速】が相まって、彼の足への負担が大きかった。けど、この首飾りによって、随分と緩和される。
「アーシャ、オレにまでお金を使わなくても、よかったんだよ? 足にどれだけ負担が掛かっても、【再生の祈り】のバフ効果があるから、立ち止まればすぐに治るんだ」
「そうだけど、これは保険として、絶対にあった方がいいよ」
ルークスの職業は暗殺者だから、どれだけレベルが上がっても、身体はあんまり頑丈にならない。
しかも、隠密行動と高速移動を重要視しているので、常に軽装なんだ。
敵の攻撃を回避するための足は、彼の生命線なので、大切にする必要がある。
『強大なる鋼の盾』──白金貨三枚。
これは長方形の盾で、スキル【挑発】を使うと、大きさと強度が二倍になる。
当然、シュヴァインくんに装備して貰うよ。通常時の盾の大きさは、彼の身体より一回り大きいくらいだった。
マンモスの攻撃だって、これなら防げるかもしれないね。
ちなみに、この盾もトールの鎚と同じく、両手で持っているときにしか、巨大化しないみたい。
セバスの装備を売った分のお金だけだと、足りなくなってしまったけど、端数はルークスたちが出してくれた。
「し、師匠……っ!! ぼ、ボクにまで、よかったの……!?」
「うん、いいんだよ。シュヴァインくんには、ブロ丸とテツ丸がお世話になったし、遠慮しないで」
「あ、ありがとう……!! これが、師匠のデレ……っ!!」
「変な勘違いするの、やめてね」
シュヴァインくんはだらしない顔で、鋼の盾に頬擦りしている。
仮にだけど、彼に指輪のマジックアイテムなんて、あげようものなら……なんの躊躇いもなく、左手の薬指に嵌めそうだね……。贈り物には気を付けよう。
とりあえず、これでみんなの装備更新は終わり。ニュートには一刺しの凍土をあげたから、ここでは何も買っていないよ。
この後、私は十把一絡げのマジックアイテムを大量に購入した。
防刃や防弾などの効果がある木製の装備とか、落としたときに大きな音が鳴る財布とか、冷たいだけの手袋とか、本当に色々ね。
これらは全部、ブロンズミミックのタクミに食べさせて、進化条件を満たすんだ。
それなりに散財したので、またコツコツと貯金しよう。
「──っしゃァ!! 買い物も終わったし、いよいよマンモス狩りだなァ!!」
「くぅぅぅ──ッ!! あたしっ、メラメラと燃えてきたわ!! 一秒でも早くっ、ドカンとぶっ放したい気分よ!!」
トールとフィオナちゃんはお店を出た後、そのまま流水海域へ向かおうとした。
もうすぐ夕方になるから、やめておいた方がいいよ。
「お前たち、正気か? 今から第四階層へ移動すれば、確実に夜になるぞ」
ニュートが二人に対して、呆れたような目を向けたけど……頻りに細剣の柄を触っているので、本当は行きたいんだろうね。
ルークスはそんな彼の様子を見遣って、くすりと笑みを零しながら提案する。
「このままだと、今夜はみんな寝付けそうにないし、一狩り行ってみる? アーシャの【光球】を借りているから、夜でも戦えるよ」
「ぼ、ボクは、明日でも……いいと、思うなぁ……」
シュヴァインくんが控え目に反対意見を出したけど、他の四人は行く気満々になってしまった。
みんなが行くと決めた冒険に、私はあんまり否定的な意見を出したくない。
でも、黙って見送るのは怖いし……こうなったら、仕方ない。進化したブロ丸の出番だよ。
──流水海域へと向かうメンバーは、黎明の牙の一軍に加えて、私、スラ丸、ティラ、ブロ丸。
大所帯で移動して、ダンジョンの入り口から螺旋階段を下り、まずは第一階層に到着した。ここで、私はブロ丸に指示を出す。
「ブロ丸っ、大きくなって【変形】して! 豪邸モード!」
ブロ丸は【従魔縮小】を解除してから、【変形】を使って四角い箱になった。
出入り口の扉が一つと、何も嵌っていない窓が幾つかあるだけで、内装は皆無。
家と呼ぶには、お粗末かもしれないけど、これがブロ丸の豪邸モード──通称、『ブロ丸ハウス』だよ。
造形に関しては、後日改良予定なので、今日のところは目を瞑って貰いたい。
「アーシャ、あんた何してんの……? 信じられないほど、目立っているわよ……?」
フィオナちゃんの言う通り、周辺にいる冒険者たちが、一様にブロ丸を凝視している。
体長が二十メートルもあって、しかも金ピカだからね。注目されない訳がない。
「目立つのはもう、仕方ないって割り切るよ。それより、みんな中に入って。第四階層まで、ブロ丸に連れて行って貰うから!」
「まさか……っ、アーシャ、ブロ丸はこの状態で、飛べるのか?」
「うんっ、そのまさかだよ! ブロ丸は空飛ぶお家なの!」
ニュートに問い掛けられて、私は得意げに答えた。
ブロ丸のスキル【浮遊】は、移動速度こそ遅めだけど、流氷で移動するよりは速い。それに、魔物や無法者を無視出来るんだ。
これなら日が暮れる前に、第四階層まで行けると思う。
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