182 / 239
六章 聖女の墓標攻略編
180話 新しい装備
しおりを挟む『ガマ油の杖』──白金貨十枚。
スキル【爆炎球】の中に油が生成されて、焼夷弾になる。デメリットもあって、魔力の消耗量が二倍になるよ。
この杖はフィオナちゃんの装備として、以前から購入しようと決めていたものだね。
『燃える拡大の指輪』──白金貨十枚。
スキル【爆炎球】の大きさが二倍になる。魔力の消耗量は変化しない。
こっちは最近入荷した代物らしい。フィオナちゃんがキラキラした眼差しを向けてきたので、私は苦笑しながら買ってあげた。
杖は一メートルくらいの大きさで、赤みを帯びた暗い色の木材が使われている。
それと、持ち手の部分には、太っちょのガマガエルが鎮座しているよ。生物じゃなくて、作り物のやつ。
指輪は赤みを帯びた銀色のもので、小さな火の魔石が嵌っている。
「アーシャっ、ありがとね! これで、スイミィにもニュートにも、絶対に負けないわ!! あたしが最強の魔法使いよ!!」
「どう致しまして。杖はかなり危ないから、使い所に気を付けてね」
フィオナちゃんにお礼を言われて、私は気分を良くしながら、パッと思い付いた注意事項を伝えておく。
流氷の上で杖を装備したままだと、【爆炎球】を使ったときに油が散って、氷が溶けすぎること。
味方に少し飛び火しただけで、大火傷を負わせてしまうこと。
燃えている油に水を掛けると、延焼する恐れがあること。
この三つは、肝に銘じておかないといけないよ。
『強大なる鋼の鎚+1』──白金貨五枚。
スキル【強打】を使うと、武器の大きさと威力が二倍になる。
それと、この武器で殴打した相手を一定確率で混乱状態にする。
前々から購入しようと決めていた代物で、トールに使って貰う装備だね。
マジックアイテムは装備した人に合わせて、大きさが自動調整される。
子供のトールが装備した場合、そこそこ小さくなるんだけど……それでも、この鎚は彼より一回り大きい。背負うのが大変そうだよ。
材質は少し黒っぽい鋼で、重さは見た目相応。【強打】を使うと、更に大きさと重量が増して、トールでも軽々とは振り回せなくなる。
使い難い武器だけど、これでようやく、マンモスの頭を砕けるね。
ちなみに、この鎚の巨大化効果は、両手で持っているときにしか発動しない。
十分なスペースがない場所で、【強打】を使いたければ、片手で持てばいいんだ。
「ありがとよ、大切に使わせて貰うぜ」
「大切にしてくれるのは嬉しいけど、装備は使い潰すものだから、大切にし過ぎないでね」
ご機嫌なトールがお礼と共に、殊勝なことを言ってきた。
彼には細かいことなんて気にせず、いつでもフルスイングで戦って貰いたい。
当初のお買い物の予定は、これで終わり。
でも、私はルークスとシュヴァインくんの装備も、買ってあげることにした。
『健脚祈願』──白金貨四枚。
走る際に、足へ掛かる負担を軽減してくれる首飾り。
見た目は神社で貰えるようなお守りで、これはルークスのために購入したよ。
私のスキル【風纏脚】と、ルークスのスキル【加速】が相まって、彼の足への負担が大きかった。けど、この首飾りによって、随分と緩和される。
「アーシャ、オレにまでお金を使わなくても、よかったんだよ? 足にどれだけ負担が掛かっても、【再生の祈り】のバフ効果があるから、立ち止まればすぐに治るんだ」
「そうだけど、これは保険として、絶対にあった方がいいよ」
ルークスの職業は暗殺者だから、どれだけレベルが上がっても、身体はあんまり頑丈にならない。
しかも、隠密行動と高速移動を重要視しているので、常に軽装なんだ。
敵の攻撃を回避するための足は、彼の生命線なので、大切にする必要がある。
『強大なる鋼の盾』──白金貨三枚。
これは長方形の盾で、スキル【挑発】を使うと、大きさと強度が二倍になる。
当然、シュヴァインくんに装備して貰うよ。通常時の盾の大きさは、彼の身体より一回り大きいくらいだった。
マンモスの攻撃だって、これなら防げるかもしれないね。
ちなみに、この盾もトールの鎚と同じく、両手で持っているときにしか、巨大化しないみたい。
セバスの装備を売った分のお金だけだと、足りなくなってしまったけど、端数はルークスたちが出してくれた。
「し、師匠……っ!! ぼ、ボクにまで、よかったの……!?」
「うん、いいんだよ。シュヴァインくんには、ブロ丸とテツ丸がお世話になったし、遠慮しないで」
「あ、ありがとう……!! これが、師匠のデレ……っ!!」
「変な勘違いするの、やめてね」
シュヴァインくんはだらしない顔で、鋼の盾に頬擦りしている。
仮にだけど、彼に指輪のマジックアイテムなんて、あげようものなら……なんの躊躇いもなく、左手の薬指に嵌めそうだね……。贈り物には気を付けよう。
とりあえず、これでみんなの装備更新は終わり。ニュートには一刺しの凍土をあげたから、ここでは何も買っていないよ。
この後、私は十把一絡げのマジックアイテムを大量に購入した。
防刃や防弾などの効果がある木製の装備とか、落としたときに大きな音が鳴る財布とか、冷たいだけの手袋とか、本当に色々ね。
これらは全部、ブロンズミミックのタクミに食べさせて、進化条件を満たすんだ。
それなりに散財したので、またコツコツと貯金しよう。
「──っしゃァ!! 買い物も終わったし、いよいよマンモス狩りだなァ!!」
「くぅぅぅ──ッ!! あたしっ、メラメラと燃えてきたわ!! 一秒でも早くっ、ドカンとぶっ放したい気分よ!!」
トールとフィオナちゃんはお店を出た後、そのまま流水海域へ向かおうとした。
もうすぐ夕方になるから、やめておいた方がいいよ。
「お前たち、正気か? 今から第四階層へ移動すれば、確実に夜になるぞ」
ニュートが二人に対して、呆れたような目を向けたけど……頻りに細剣の柄を触っているので、本当は行きたいんだろうね。
ルークスはそんな彼の様子を見遣って、くすりと笑みを零しながら提案する。
「このままだと、今夜はみんな寝付けそうにないし、一狩り行ってみる? アーシャの【光球】を借りているから、夜でも戦えるよ」
「ぼ、ボクは、明日でも……いいと、思うなぁ……」
シュヴァインくんが控え目に反対意見を出したけど、他の四人は行く気満々になってしまった。
みんなが行くと決めた冒険に、私はあんまり否定的な意見を出したくない。
でも、黙って見送るのは怖いし……こうなったら、仕方ない。進化したブロ丸の出番だよ。
──流水海域へと向かうメンバーは、黎明の牙の一軍に加えて、私、スラ丸、ティラ、ブロ丸。
大所帯で移動して、ダンジョンの入り口から螺旋階段を下り、まずは第一階層に到着した。ここで、私はブロ丸に指示を出す。
「ブロ丸っ、大きくなって【変形】して! 豪邸モード!」
ブロ丸は【従魔縮小】を解除してから、【変形】を使って四角い箱になった。
出入り口の扉が一つと、何も嵌っていない窓が幾つかあるだけで、内装は皆無。
家と呼ぶには、お粗末かもしれないけど、これがブロ丸の豪邸モード──通称、『ブロ丸ハウス』だよ。
造形に関しては、後日改良予定なので、今日のところは目を瞑って貰いたい。
「アーシャ、あんた何してんの……? 信じられないほど、目立っているわよ……?」
フィオナちゃんの言う通り、周辺にいる冒険者たちが、一様にブロ丸を凝視している。
体長が二十メートルもあって、しかも金ピカだからね。注目されない訳がない。
「目立つのはもう、仕方ないって割り切るよ。それより、みんな中に入って。第四階層まで、ブロ丸に連れて行って貰うから!」
「まさか……っ、アーシャ、ブロ丸はこの状態で、飛べるのか?」
「うんっ、そのまさかだよ! ブロ丸は空飛ぶお家なの!」
ニュートに問い掛けられて、私は得意げに答えた。
ブロ丸のスキル【浮遊】は、移動速度こそ遅めだけど、流氷で移動するよりは速い。それに、魔物や無法者を無視出来るんだ。
これなら日が暮れる前に、第四階層まで行けると思う。
69
お気に入りに追加
461
あなたにおすすめの小説
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移の……説明なし!
サイカ
ファンタジー
神木冬華(かみきとうか)28才OL。動物大好き、ネコ大好き。
仕事帰りいつもの道を歩いているといつの間にか周りが真っ暗闇。
しばらくすると突然視界が開け辺りを見渡すとそこはお城の屋根の上!? 無慈悲にも頭からまっ逆さまに落ちていく。
落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして…………
聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。
ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。
召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。
私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。
ピンチになったら大剣の勇者が現れ…………ない!
教会に行って祈ると神様と話せたり…………しない!
森で一緒になった相棒の三毛猫さんと共に、何の説明もなく異世界での生活を始めることになったお話。
※小説家になろうでも投稿しています。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる