他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

文字の大きさ
上 下
176 / 239
六章 聖女の墓標攻略編

174話 新居

しおりを挟む
 
 私たちは大通りにある不動産屋へと到着して、女性店員さんに出迎えて貰った。
 以前、私がバリィさんと一緒に来たときに、対応してくれた人だよ。
 私のことを憶えていたみたいで、保護者がいない状態でも、きちんと接客してくれる。

「ようこそ、お嬢様。お久しぶりですね。本日のご用件をお聞かせ願えますか?」

「お久しぶりです。今日は新居を買いに来ました。お屋敷を紹介してください」

「お屋敷、ですか……。失礼ですが、ご予算をお伺いしても?」

「よくぞ聞いてくれました! 白金貨、百枚です!」

 私はスラ丸の中に手を突っ込み、白金貨が詰まった布袋を取り出して、ドン!とテーブルの上に置いた。
 スイミィちゃん以外が、ギョッとして私を見つめてくる。

「ちょっ、アーシャ!? あんた、こんな大金、一体どうやって……!? まさかっ、悪いことしたんじゃないでしょうね!?」

「ち、違うよ! とっても綺麗なお金だから、変なこと言わないで!」

 詰め寄ってきたフィオナちゃんに、あらぬ疑いを掛けられてしまった。
 このお金は、ソルガルーダの討伐依頼を引き受けたときに、ツヴァイス殿下から貰った報酬なんだ。
 私の言葉に嘘がないことを見抜いたのか、店員さんは騒ぎ立てることもなく、物件の目録を手渡してくる。

「それだけのご予算があるのであれば、この中からお選びください。白金貨三十枚以上の物件が載っております」

 お金持ち専用の目録だけど、私は物怖じせずに、ペラペラと捲らせて貰った。
 フィオナちゃんとスイミィちゃんが、左右から覗き込んできて、要望を出し合う。

「折角だから、お風呂があるといいわね。身体はスラ丸の【浄化】で、綺麗にして貰えるけど、湯船に浸かると気持ちがいいのよ」

「……姉さま、料理してほしい。……スイ、姉さまのピザ、好き」

 二人は浴場と厨房が欲しいみたい。
 お屋敷ともなると、基本的にはどちらも備わっているので、選択肢を絞るような要望じゃないね。

「シュヴァインくんとニュートは、どんな家がいいの?」

「ぼ、ボクは、どんな家でも大丈夫……!! フィオナちゃんと、スイミィちゃんと、師匠と、ミケちゃん……。び、美少女たちと、一つ屋根の下……!! それだけで、大満足だから……!!」

 ミケは男の子なんだけど、シュヴァインくんは未だに誤解したままだ。
 フィオナちゃんがミケの性別を把握済みなので、てっきり伝わっているものだと思っていたよ。

「ワタシは男女別に、居住空間を分けられる屋敷を所望しよう。モラルが低下することは、看過出来ないからな」

 欲望を曝け出しているシュヴァインくんとは違って、ニュートはとっても真面目だった。彼を風紀委員に任命しよう。
 男女別に居住空間を分けるとなると、二階建て……いや、浴場と厨房も入れて、三階建てのお屋敷になるのかな。

 それと、従魔たちが伸び伸び出来るような、広い庭も必要不可欠だよね。
 去年のスライム騒動で、一部の商人たちが摘発されたから、空き家になったお屋敷が幾つかある。そのため、選択肢は少なくない。
 その中で、一つ気になる物件を見つけた。地下室の広さが、建物の二倍もあるお屋敷だよ。

「店員さん、この地下室が広いお屋敷って、危なくないんですか? 地盤が崩れそうですけど……」 

「その地下室は、庭師のスキル【箱庭】を使って、特別に用意された異空間です。なので、実際は地盤が崩れるほど、地中に穴はあいていません」

「い、異空間!? それって、生物も入れるんですか!?」

「はい、可能ですよ。スキル【収納】の異空間とは、別物だとお考えください」

 私はワナワナと震えながら、庭師という職業の評価を一変させた。
 庭師にそんな凄いスキルがあるなんて、知らなかったよ。
 更に詳しい話を聞いてみると、【箱庭】で作った異空間への出入り口は、好きな場所で開け閉め出来るらしい。

 言うなれば、持ち運びが可能な秘密基地だとか……。
 出入り口を閉じれば、誰にも干渉出来ない安全地帯になる。私はそういうスキルを求めていたんだ。

「凄いですね……。庭師……」

「はい、凄いですよ。庭師は自分だけの小さな世界を作れるので、神様に最も近い職業だと言われています」

 店員さんの話を聞いて、私はいつか庭師に転職しようと決心した。
 このタイミングで、ニュートが重要な情報を教えてくれる。

「そのスキルを取得するためには、前提条件があったはずだ。それを満たしていなければ、庭師は微妙な職業だろう」

 ニュート曰く、【箱庭】のスキルを取得するための前提条件は、『空間に作用するスキルを持っていること』らしい。
 私の場合は【従魔召喚】があるから、既に前提条件を満たしている。召喚って、空間転移だからね。

 一般的には、【収納】持ちの商人が庭師に転職して、【箱庭】の取得を狙うことが多いんだって。
 この前提条件を満たした上で、ランダムなスキル抽選に挑む必要があるので、【箱庭】はとても希少なスキルだよ。

 仮に、庭師のレベルを100まで上げたとしても、スキルを取得出来るチャンスは十回しかない。
 庭師のスキルが、どれだけあるのか知らないけど……十個だけってことは、ないんじゃないかなぁ……。


 ──つらつらと、私が考え事をしている最中、フィオナちゃんが店員さんに質問をしていた。

「店員さん、【箱庭】で作った異空間って、ずっと残り続けるの?」

「その異空間を作った庭師が、自分の意思で消すか、あるいは死亡するまで、残り続けます」

「へぇ……。それなら、異空間が消えたときに、中にあるものって……どうなるの……?」

「出入り口が開いている状態だと、そこから一気に外へ排出されます。出入り口が閉じている状態だと、異空間ごと消滅するそうです」

 店員さんの口から明かされたのは、かなり恐ろしい仕組みだった。
 外へ排出されるという現象に巻き込まれると、高確率で死ぬだろうし、異空間ごと消滅なら確実に死んでしまう。

「それだと、地下室の異空間って危険よね……? この異空間を作った庭師が、事故か何かで死んだときに、あたしたちが異空間の中にいたら、最悪なことになるんでしょ?」

「はい、その可能性はあります。ですので、特殊な事情がない限り、他人の異空間を使うことはお勧め出来ません」

 庭師が作った異空間は、危ない実験をする人とか、危ない従魔を飼育している人が、活用するみたい。
 従魔が反抗期になって、手に負えなくなった場合、従魔ごと異空間を消滅させるんだろうね。

 そう考えると【箱庭】って、私が取得出来ない『攻撃系のスキル』に、該当してしまうかも……。い、いやっ、大丈夫! なんの根拠もないけど、大丈夫だって信じよう。

「アーシャっ、別の家にするわよ! 赤の他人が作った異空間なんて、怖くて入れないんだからっ!!」

「う、うん。そうだね」

 私もフィオナちゃんと同じで、他人が作った異空間には入りたくない。
 この後、三十分ほど検討して──そこそこ大きい三階建てのお屋敷と、付近の空き家四件を購入することになった。

 空き家は元々、お屋敷で働いていた使用人のものらしい。けど、お屋敷の前の主人である【収納】持ちの商人が、処刑されていなくなったので、使用人は纏めて引っ越したとか。
 お屋敷の庭は少し狭かったから、私は空き家を撤去して、庭を拡張することにしたんだ。

 このお屋敷はレンガ造りで、華美とは無縁な外観だよ。
 以前は成金趣味のような装飾によって、彩られていたみたいだけど、全部外されたんだって。

 一階には吹き抜けがあるエントランスと、食堂、厨房、浴場、応接室。
 二階と三階にはそれぞれ、四部屋ずつある。二階を男子、三階を女子の居住空間にしよう。
 上下で男女の居住空間を分けると、私、フィオナちゃん、スイミィちゃんは、一部屋ずつ使えるね。

 家は住んでいないと傷むって言うし、余りはイーシャの部屋にしよう。日常的に私と離して動かすことで、並列思考の練習をするんだ。
 男の子たちは、ルークス、トール、シュヴァインくん、ニュート、ミケ、リヒトくんの六人だから、部屋が足りない。

 二人一部屋でも問題ない広さだけど、どうしたものか……。その辺りは男の子たちで、話し合って決めて貰おう。

「あたしはシュヴァインと同じ部屋で、全然構わないわよ?」

「フィオナ、止せ。スイミィの近くで風紀を乱すな」

 フィオナちゃんの意見をニュートが一蹴したところで、スイミィちゃんがシュヴァインくんの腕にしがみ付く。

「……スイも、シュヴァインと、いっしょがいい」

「し、師匠……!! ボクはどうしたら……!?」

「どうもこうも、普通に駄目だよ。私のお屋敷を愛の巣にしないでね」

 本格的にイチャイチャするなら、宿屋でやって貰いたい。
 私はシュヴァインくんに、きちんと言い含めてから、新居購入の手続きを終わらせた。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜

双華
ファンタジー
 愛犬(ポチ)の散歩中にトラックにはねられた主人公。  白い空間で女神様に、愛犬は先に転生して異世界に旅立った、と聞かされる。  すぐに追いかけようとするが、そもそも生まれる場所は選べないらしく、転生してから探すしかないらしい。  転生すると、最初からポチと従魔契約が成立しており、ポチがどこかで稼いだ経験値の一部が主人公にも入り、勝手にレベルアップしていくチート仕様だった。  うちのポチはどこに行ったのか、捜索しながら異世界で成長していく物語である。 ・たまに閑話で「ポチの冒険」等が入ります。  ※ 2020/6/26から「閑話」を従魔の話、略して「従話」に変更しました。 ・結構、思い付きで書いているので、矛盾点等、おかしなところも多々有ると思いますが、生温かい目で見てやって下さい。経験値とかも細かい計算はしていません。 沢山の方にお読み頂き、ありがとうございます。 ・ホトラン最高2位 ・ファンタジー24h最高2位 ・ファンタジー週間最高5位  (2020/1/6時点) 評価頂けると、とても励みになります!m(_ _)m 皆様のお陰で、第13回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます。 ※ 2020/9/6〜 小説家になろう様にもコッソリ投稿開始しました。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。 異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。 持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。 これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

処理中です...