170 / 239
六章 聖女の墓標攻略編
168話 聖女が来た
しおりを挟む「──そんな訳で、ごめんね。お祭りは午後から、一緒に回らせて」
お店の外では、ルークス、トール、シュヴァインくん、ニュートの四人が待っていた。いつもの仲良しメンバーだね。
私は彼らに事情を説明して、教会へと向かう旨を伝えたよ。
すると、ルークスがのほほんと微笑んで、優しい提案をしてくれる。
「教会、オレたちも一緒に行こうか? アーシャは神父様とか聖騎士とか、あんまり好きじゃなかったよね?」
「確かに好きじゃないけど、適当に対応出来るから大丈夫だよ。折角のお祭りなのに、私の好奇心に付き合わせるのは申し訳ないから、先に楽しんでて」
教会関係者は欲望に塗れており、貧乏人を毛嫌いしている人が多い。そういう部分が、私は嫌いなんだ。
今でこそ、商売が繁盛して裕福になったけど、一年前までの私は貧乏な孤児だった。
あの頃に、溝鼠みたいな扱いを受けたこと、結構根に持っているからね。
「オイ、アーシャ……。なンかあったら、ステホに連絡を入れろよ」
「うん、分かった。ありがとう」
いつもツンツンしているトールが、珍しく気を遣ってくれた。
彼も成長しているんだと、私は微笑ましく思ったよ。
ここで、シュヴァインくんが首を傾げながら、余計な疑問を挟む。
「あ、あれ……? トールくん、師匠とフレンド登録、してたっけ……?」
「「──ッ!?」」
私とトールは同時に目を見開いて、素早く自分のステホを確認した。
ステホにはフレンド登録という機能があって、登録した相手と通話が出来るようになる。
当然、仲間内では登録し合っていたと思うけど……私のステホには、トールの名前だけがなかった。
なんで? と疑問に思って、過去を振り返ってみる。
──ああ、そうだ。昔のトールはいじめっ子で、私が被害者だったから、孤児院を卒業した直後は、フレンド登録していなかったんだ。
そのまま登録する機会がなくて、今日までズルズルと来てしまったみたい。
この一年で、トールの良いところを沢山見せて貰ったし、私への態度にもデレが混ざるようになったので、もう根に持っていないんだよね。
「トール……。その、私とフレンド登録……」
「待てや……!! 俺様に、ケジメを付けさせろ……ッ!!」
私がおずおずとステホを差し出すと、トールはこれを押し返して、酷く真面目な顔をしながら『ケジメ』なんて言い出した。
「えっ、そ、それって……小指を切り落とすつもりじゃ、ないよね……?」
「発想が怖ェよ!! ンなことするワケねェだろッ!! そうじゃなくて……後で、少しだけ、時間を寄こせ……」
トールの要求を呑んで、私はこくりと頷く。どうやら、彼は過去を清算したいらしい。
きちんと仲間思いになってくれて、私は──いや、私たちは、感無量だよ。
私、ルークス、シュヴァインくん、フィオナちゃんの四人が、トールに生暖かい眼差しを向けていると、ニュートが少し寂しそうに口を開く。
「ワタシだけ、話に付いて行けないが……」
ニュートは元貴族で、途中から仲間に加わったので、私たちが孤児院で暮らしていた頃の事情を知らない。
疎外感を抱かせることになって、ちょっとだけ申し訳なく思う。
「ニュートっ、あたしが色々と教えてあげるわよ!! トールの赤裸々な過去っ、全二十四話!! あることないこと、吹き込んでやるんだからっ!!」
「ざけンなボケ!! あることだけ吹き込めやッ!! テメェは一年経っても、なンも変わらねェなァ!!」
「良い意味でね!!」
「悪い意味に決まってンだろォがッ!! 勝手に付け加えてンじゃねェぞ!!」
フィオナちゃんとトールが、いつもの言い争いを勃発させた。
この辺の成長は、全く感じられないね……。
お店の前でみんなと別れてから、私はイーシャと護衛の従魔たちを引き連れて、教会へと向かう。
ゲートスライムのスラ丸、チェイスウルフのティラ、シルバーボールのブロ丸、ミストゼリーのユラちゃん。
街中では過剰戦力だと思うけど、一応ね。
ちなみに、従魔たちは近々進化させる予定なので、戦力は更に大きくなるよ。
道中、表通りにある装飾品店で、イーシャ用の伊達メガネを購入してみた。
ついでに、床屋に立ち寄って、イーシャの髪を切って貰う。
ショートカットで伊達メガネまで掛けていれば、私との差別化は十分かな。
「──お嬢様方、教会へようこそ。本日の用向きをお伺いしても、宜しいでしょうか?」
節制とは無縁の煌びやかな大聖堂の前で、門番を務めている聖騎士から、お決まりの質問をされた。
私はイーシャの身体を使って、これに答える。
「お祈りに来ました。それと、私は転職を希望しています」
「左様でしたか。本日は新年祭なので、神父様はお一人しかいらっしゃいません。聖堂にお姿がなければ、奥にある扉の方へ、お声掛けしてください」
特になんの問題もなく、通行を許可して貰えたよ。
私は【光輪】を使っている状態なので、頭の上を少し不思議そうに見つめられたけど、これに関しての質問はされなかった。
逆に、私から気になった質問をしてみる。
「神父様が、一人しかいない……? あの、他の方たちは、どうしたんですか?」
「新年祭を楽しまれております。この日だけは、教会関係者でも俗世を満喫することが、許されておりますので」
聖騎士が教えてくれた事情を聞いて、私は内心で困ってしまった。
堂々と欲望を解放出来る日に、大聖堂で働いている神父って、品行方正なんじゃないかな……?
いつもは欲望に忠実な神父を探して、その人に賄賂を渡すことで、誰にも見られないように転職しているんだ。
それが出来ないとなると、面倒なことになるかもしれない。
日を改めるべきかも……。いや、一先ず神父と会ってみて、それから決めよう。
私がイーシャと一緒に、大聖堂へ足を踏み入れると、誰の姿も見当たらなかった。
日本では新年と言えば、初詣に行く人が多かったけど、この国ではそういう文化はないみたい。
「今なら、勝手に触れる……?」
大聖堂の奥には、縦横が五メートルほどもある板状の結晶が置いてある。
透明だけど、光の当たり方次第で極彩色に見える結晶だよ。
あれが、転職に必要な道具、神聖結晶。
触れば事が済むから、こっそりと──って、そんな考えが私の脳裏を過った。
でも、スキルかマジックアイテムによって、守られているかもしれないので、迂闊なことはやめておこう。
「ごめんくださーい! 神父様、いらっしゃいますかー!?」
「はいはい、只今そちらに参ります。何か御用で──ッ!?」
私が声を掛けると、奥にある扉から壮年の神父が姿を現した。
坊主頭で細身な彼は、私と目を合わせるなり、何度も自分の目を擦って、頻りに私の顔を見直す。
それから、カクンと顎を落として──唐突に跪くと、祈りを捧げるポーズを取ったよ。
「え、な、なんですか……?」
「聖女様のご尊顔を目にする栄誉に預かれたこと、恐悦至極に存じますッ!!」
「はぇっ!? い、いやっ、ち、違います!! 神父様っ、大いなる勘違いをなさっていますよ!!」
いきなり職業を言い当てられて、私の全身から冷や汗が噴き出した。
「わたくしめは、司祭のスキル【職業鑑定】を持っております。このスキルを使うと、視認している人物の職業が分かるのです。貴方様は、紛れもなく聖女であると、そういう鑑定結果が……」
神父の話を聞いて、私は内心で悲鳴を上げてしまう。
そんなスキルがあるなんて、知らなかったよ!
このままだと、権力者に体の良い神輿にされて、お金稼ぎの道具にされるかもしれない。
目撃者は一人だけだし、口封じ……乱暴は嫌だから、穏便に……よしっ、いっそ突っ切ろう……!!
私は咳払いを挟んでから、スキル【再生の祈り】を使って、自分の背後に女神アーシャを出現させる。
「こほん、よくぞ見抜きましたね。敬虔な神のしもべよ」
私が緩やかに両腕を広げると、女神アーシャが私の頭上に手を翳して、優しくも神々しい光を浴びせてくれた。
これによって、身体が再生するというバフ効果が貰えるんだ。
ただのスキルの演出だけど、これを見た神父は感極まって、ブワッと涙を溢れさせる。
「おお……っ!! 主よ……!!」
「私は確かに聖女ですが、表舞台には出られない事情があるのです。なんかこう、使命的なやつで」
「そ、それはどのような……!? わたくしめがっ、全力でお手伝いさせていただきます……ッ!!」
「事情は誰にも明かせません。これは、聖女に与えられた試練なのです」
神託なんて与えられていないし、神様とは会ったこともないけど、私はつらつらと嘘を吐いた。
大聖堂でこんな嘘を吐くなんて、とんでもない不敬だと思う。
神父が咽び泣いているから、罪悪感で胸がいっぱいだよ。
「おおおぉおぉぉ……っ!! 主よ……!! ではっ、ではわたくしはっ、一体どうしたら!?」
「今から私は、神聖結晶を使います。その際に見たことは、全て他言無用にすること。それが、貴方の使命です」
そうだよね? と、私が背後の女神アーシャを見遣ると、彼女は微笑みながら首を縦に振った。
「畏まりましたッ!! 全身全霊を懸けてッ、他言無用と致しましょう!! 悪魔に腸を引き裂かれようともっ、決して喋らないと誓いますッ!!」
「敬虔な神のしもべよ、感謝します。これは、心ばかりのお礼です」
私は感謝の気持ちを籠めながら、スキル【治癒光】を使って、神父に柔らかい光を浴びせた。
この光は、私の手から照射されるんだけど……狙いが甘くて、神父の頭部に直撃してしまう。
ハゲが、光ってる……!!
私ね、こんな悪戯みたいなこと、するつもりじゃなかったの。
腰痛とか肩凝りとか、なんでもいいから、治してあげたかっただけなんだ。
私が心の中で、ごめんなさいと謝罪した瞬間、神父の頭部からモサっと金髪が生えてきた。
「うっ、うおおおおおおおおおおおおおおッ!! は、ハゲが治ったぁ!? こ、これが主の奇跡……ッ!?」
神父は諸手を挙げて、大喜びで舞い上がっている。
【他力本願】の影響によって、【治癒光】に追加されている特殊効果は、スキルやマジックアイテムとは関係ない病を治すこと。それが、作用したっぽい。
ハゲは病じゃなくて個性だって、私はそう思うけど……ま、まぁ、結果良ければ全てヨシ!
53
お気に入りに追加
464
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
パパー!紳士服売り場にいた家族の男性は夫だった…子供を抱きかかえて幸せそう…なら、こちらも幸せになりましょう
白崎アイド
大衆娯楽
夫のシャツを買いに紳士服売り場で買い物をしていた私。
ネクタイも揃えてあげようと売り場へと向かえば、仲良く買い物をする男女の姿があった。
微笑ましく思うその姿を見ていると、振り向いた男性は夫だった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる