他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

文字の大きさ
上 下
128 / 239
四章 流水海域攻略編

126話 今後の予定

しおりを挟む
 
 ──裏ボス攻略が終わった次の日。
 私は早朝から、自宅の裏庭でポーション作りに勤しんでいた。
 ミスリルの大釜に素材を投入して、ぐるぐると掻き混ぜ、淡々と小瓶に詰めていく。退屈な単調作業だけど、これぞ日常って感じだよ。

「アーシャ、おはよー。あんたってば、こんなに朝早くから働き者ね」

 寝間着姿のフィオナちゃんが、ポーションを作っている私に話し掛けた。
 彼女は起きたばっかりで、ぽやぽやしながら寝惚け眼を擦っている。

「…………」

 私は無言で、黙々と大釜を掻き混ぜているよ。声を掛けられたというのに、全く反応を見せていない。

「ちょ、ちょっと、アーシャ! なんで無視するのよ!? おはようの一言くらい返しなさいよ!」

「…………」

「ちょっとってば!! 聞こえないの!?」

「…………」

 尚もだんまりを決め込む私に、フィオナちゃんが肩を怒らせながら近付いて、脇腹をくすぐり始めた。
 ここでようやく、彼女は気が付いたみたい。

「な──ッ!? なにこれっ!? 硬い!? えっ、どういうこと!?」

 本物の私は、グレープの後ろから顔を覗かせて、驚いているフィオナちゃんを嘲笑う。

「うぷぷ……。フィオナちゃん、騙されたね。それは偽者の私だよ」

「アーシャ!? どういうこと!? なんで二人いるの!?」

「いやだから、そっちは偽者だって」

 私はスキル【土塊兵】を使って、自分の身代わり人形にポーション作りをさせていたんだ。そのことを説明すると、フィオナちゃんは私と人形を見比べて、あんぐりと口を開く。

「こ、これが、土の人形……? 触らないと全然分からないわよ……」

「人形は瞬きも呼吸もしてないし、髪も揺れないから、その辺に注目すればすぐに分かるよ」

 他にも欠点を挙げるなら、この人形は衣服を着ていない状態で、生成されることかな。
 身代わりの特殊効果をオンにして使うなら、人前でポンと出す訳にはいかない。
 公然わいせつ罪で、逮捕されちゃうからね。
 ちなみに、今は身代わり人形に、魔女っ娘の衣装を着させているよ。

「精巧な形にも驚きだけど……こうして、勝手にポーションを作ってくれることにも、大いに驚きだわ……。素材はローズが用意してくれるし、不労所得もここに極まれりって感じね」

「まぁね! 私、こういう生活に憧れていたんだ」

 私は胸を張って、この状況をフィオナちゃんに自慢した。
 すると、呆れたように苦笑されてしまう。流石に怠け者が過ぎるってさ。
 この後、彼女は『そういえば──』と前置きして、私をお出掛けに誘ったよ。

「今日はみんなで、マジックアイテムを買いに行くんだけど、怠け者のアーシャも来てくれる?」

「うん、いいよ。フィオナちゃんかトールの装備を買うんだっけ?」

「ええ、その通りよ! あたしとトールの装備、両方同時に見つけたら、きちんとあたしに忖度しなさいよね!」

「裏工作……!? それはちょっと、約束出来ないかも……」

 ルークスたちのパーティー『黎明の牙』は、結構な額のお金を貯めたから、装備を更新しようとしている。
 けど、高価なマジックアイテムを二つ同時に買うのは、まだ難しいみたい。

 フィオナちゃんとトールを天秤に掛けたら、当然のように前者の味方をしたくなるけど……一番重要なのって、パーティーの総合力を引き上げることだからね。
 トールの装備を優先することで、パーティーの総合力がより高くなるなら、私はそっちに清き一票を入れちゃうよ。

「むぅ……。朝っぱらから、騒がしいのぅ……」

 私とフィオナちゃんがお喋りしていると、庭の片隅で寝ていたローズが目を覚ました。彼女は下半身の薔薇を蕾の状態にして、その中に上半身を隠し、頭だけを覗かせている。

「おはよう、ローズ。煩くしてごめんね」

「うむぅ……。ま、よいのじゃ。魔力を空っぽにして、二度寝するかの」

「おっけー。それじゃ、私もスキルを使うね」

 私が【耕起】を使って地味を肥やすと、ローズがその上で【草花生成】を使ってくれた。
 素材はスラ丸の中に入れて、お留守番をすることが多い二号の【収納】から、身代わり人形に適宜渡して貰う。

 ここで、私たちの共同作業を見ていたフィオナちゃんが、ジトっとした目を向けてきたよ。

「目の前で、そんな簡単にお金を作られると、なんだか釈然としないわね……」

「いやいやっ、お金を直接作っている訳じゃないからね!? 貨幣の偽造は犯罪だから、滅多なこと言わないで……」

 人聞きが悪いなぁ……と思いつつも、フィオナちゃんの気持ちを察することは出来る。
 真面目に働いている人たちから見れば、この光景は確かに釈然としないよね。

「まあ、アーシャも色々と苦労して、こういう状況を整えたのよね! あたしが羨むのは、お門違いだったわ!」

 フィオナちゃんはスパッと気持ちを切り替えて、快活な笑顔を浮かべた。
 収入に格差が生まれても、全然気まずい関係にならないから、彼女の明るい性格は助かるよ。


 話は変わるけど、【水の炉心】によって生み出した水属性の魔力は、ローズたちの生産の助けにはならなかった。
 ローズとグレープに必要なのは、無属性か土属性の魔力。タクミに必要なのは、無属性の魔力だからね。

 そんな訳で、【水の炉心】は現状だと、やっぱり活躍の機会が少ない。
 水の魔石を冒険者ギルドに売れば、大きな稼ぎになるけど……出所を探られて、私が無限に生み出せるって露見したら、面倒事になりそう。
 私のレベル的に、まだ従魔を進化させる予定もないし……特殊効果は、しばらく使わないかな。

 ここまでの説明だと、活躍の機会が『少ない』ではなく、『皆無』と言うのが正しい。
 でも、一つだけあるんだ。現状で、【水の炉心】を活躍させる機会が……。

 聖水を生成するマジックアイテム、聖なる杯。これに注ぐ魔力って、純度百パーセントの水属性でも、大丈夫だったみたい。
 つまり、今の私は、聖水を無限に補充出来る。汚物を消毒する日は近いよ。


 ──さて、軽く今後の予定を纏めよう。
 まず、土の魔法使いから、別の職業に転職する。
 その職業のレベルを上げている間に、ペンギンのレアドロップであるマジックアイテム、脆い水の杖を買い集めて、水の魔法使いを目指すんだ。

 土の魔法使いのレベルを30まで上げて、新スキルをもう一つ取得したい気持ちもある。けど、安全マージンを取りながら、レベル26→30って、かなり遠い道程なんだよね。
 レベル上げが楽になる支援スキルは、残念ながら取得出来なかったし、ここで切り上げるべきだと判断した。
 ちなみに、転職したらレベルはリセットされるけど、転職先から再び土の魔法使いに戻したら、レベル26から始められる。いつの日か、この職業のレベル上げを再開したい。

 職業に関しては、こんな感じで……後は、新しい従魔だね。
 水属性の魔法を使える魔物をテイムしよう。【水の炉心】と【魔力共有】で、無限に水属性の魔力を供給出来るから、絶対に強い。

 ……あ、そうだ。従魔と言えば、チェイスウルフに進化したティラの話。
 身体が四メートルという大きさになったけど、私の小さな影の中に、きちんと潜れている。出入りするときは、影を押し広げるんだ。
 そんなティラが新しく取得したスキルは、予想通りの【加速】だったよ。

 このスキルをルークスが連発すると、あっという間に体力がなくなる。
 でも、ティラの場合は、全然そんなことがなかった。チェイスウルフって、体力お化けだったみたい。
 一度狙った獲物は、捕まえるまで延々と追跡するらしいから、そのための体力だろうね。

 今のティラは、流水海域のスノウベアーと同格の魔物だと思う。
 タイプが全然違うので、一概にどちらが上とは言えないけど……ベテラン冒険者であっても、警戒する存在であることは、間違いない。

 私の魔物使いのレベルに見合っていないのが、ティラの存在感からヒシヒシと伝わってくる。
 それでも、反抗期の気配は皆無だよ。やっぱり、懐き度って重要なんだろうね。
 今後もいっぱいモフモフして、可愛がってあげよう。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

処理中です...