127 / 239
四章 流水海域攻略編
125話 一件落着
しおりを挟むツヴァイス殿下たちが、残りのお宝を分配している間、私は自分のステホを確認してみた。
アーシャ 魔物使い(22) 土の魔法使い(26)
スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】【再生の祈り】
【魔力共有】【光球】【微風】【風纏脚】
【従魔召喚】【耕起】【騎乗】【土塊兵】
【水の炉心】
従魔 スラ丸×4 ティラノサウルス ローズ ブロ丸
タクミ ゴマちゃん グレープ テツ丸
土の魔法使いの職業レベルが、大きく上がった。新スキルを取得出来る20の大台に乗って、そこから更に6も上がっているよ。
ただ、修羅場を潜り抜けた割に、魔物使いのレベルはあんまり上がっていない。
……まぁ、魔物使いとして戦闘に貢献出来たかと聞かれると、かなり微妙なところだからね。
ティラが進化して大活躍したけど、実は逃げ回っていただけだし……。
新しく取得したスキルは二つ。
一つ目は、土の魔法使いの職業スキル【土塊兵】で、動く土塊の人形を作る魔法だった。
魔物のゴーレムっぽいけど、明確に違うらしい。この人形って、命も魂も自我もないんだ。
私の魔法なので、当たり前のように【他力本願】のデメリットが作用して、誰かに危害を加えることが出来なくなっている。唯々諾々と指示に従って、単調な作業を行うだけの人形だよ。
「うーん……。悪くない、よね……?」
バフ効果を付与出来るスキルが欲しかったけど……うん、【土塊兵】でも全然いいよ。
この人形は、壊されるか三日間が経過するまで、ずっと動いてくれるんだ。
これなら、ポーションを量産するのが、とっても楽になるはず……。
幾らでも使い潰せる労働力だし、当たりスキルで間違いない。
【他力本願】の影響で追加されている特殊効果は、身代わり。土塊なのに、私と全く同じ見た目に出来るらしい。
物凄く精巧で、きちんと着色もされるみたい。ただし、触れば土だと分かってしまう。
……この特殊効果は、頗る微妙だね。使いどころが分からないよ。
二つ目は、スキルオーブを使って取得した【水の炉心】で、純度百パーセントの水属性の魔力を無尽蔵に生み出してくれる。
とは言え、魔力が出てくる蛇口の大きさが、私のレベルに比例しているんだ。現状だと、シャチが使っていたときほど、強力なスキルではなかったよ。
それでも、下級、中級魔法を秒間百回とか、それくらいの頻度で使える魔力の生成量だと思う。
そんなに連続で魔法を使うなんて、ちょっと現実的じゃないから、水属性の魔法に限って言えば、実質使い放題かな。
追加されている特殊効果は、このスキルによって生み出せる魔力の結晶化。つまり、水の魔石を生産出来るってことだね。
水の魔石を使った従魔の進化であれば、幾らでも出来るようになった。これは物凄く嬉しい。
──さて、私がスキルを確認している間に、お宝の分配が終わったみたい。
バリィさんとライトン侯爵が、ポーションを一本ずつ分け合って、カマーマさんはシャチの戦術指南書を貰っている。
「俺は青色の上級ポーションなんて、別にいらないんだが……殿下、献上してやろうか?」
「バリィ……。悪いことは言いませんから、いざというときのために、持っておきなさい。世の中、何が起こるか分かりませんからね」
「そうか……。まあ、何が起こるか分からないって、今回の裏ボス攻略で身に染みたな……。その忠告、ポーションと一緒に有難く受け取っておこう」
「ええ、そうしてください。バリィに何かあれば、ワタシは悲しい」
バリィさんがツヴァイス殿下に、折角のポーションを献上しようとしたけど、尤もなことを言われて突っ撥ねられた。
今のやり取りを聞いて、改めて思うけど、殿下って良い人だよね。こんな人が王様になるなら、この国の未来は明るいよ。
「あちきなんて、ポーションよりいらないものを貰っちゃったわよん……。魔法とは、生涯無縁なのに……」
「売ったらどうですか? それって、大金に化けますよね?」
「生憎と、お金には全く困っていないのよねん」
カマーマさんは伝説級の魔導書を片手に、草臥れた様子で嘆いている。
そんな彼女に、私は適当なアドバイスを送ったけど……そっか、高給取りの金級冒険者だもんね。お金はいらないか。
「ブヒヒッ、まだ分配していないものが、残っておりますぞ! この空っぽの宝箱は、どうしますかな?」
ライトン侯爵に問い掛けられて、私たちは宝箱を見遣った。
紅色混じりの黄金。これは、普通の黄金とは違う金属に見える。
試しにステホで撮影すると、『オリハルコン』という幻想金属だと判明したよ。
「オリハルコン……? もしかして、凄い金属ですか?」
「ああ、凄い金属だ。魔法に滅法強くて、硬度も相当なものだぞ」
私の質問に、バリィさんが答えてくれた。
オリハルコンとは、現存する金属の中で、最も魔法に強い金属らしい。
超高温や低温による影響を受けず、硬度も鉄を遥かに凌ぐから、加工する場合は防御力を無視するスキルを使うのが、一般的だとか。
希少性はスキルオーブよりも上で、この宝箱の推定価格は白金貨数十枚。
私は一歩下がり、受け取れませんとアピールしておく。もう十分に素晴らしい報酬を貰ったから、これ以上は過分だよ。
バリィさんとカマーマさん、それからライトン侯爵まで、私に習って一歩下がった。
「ふむ……。では、ワタシが受け取りますか……」
オリハルコンの宝箱はツヴァイス殿下が受け取って、今度こそお宝の分配は終わり。ちなみに、マジックアイテムではない金銀財宝は、兵士たちへの褒美の一部になるみたい。
ここで、タイミングを見計らっていたかのように、スイミィ様が現れた。
彼女はライトン侯爵のお腹に突撃して、ギュッと抱き着く。
「……父さま、無事でよかった。……スイ、心配した」
相も変わらず、スイミィ様はジト目で無表情だけど、目端には大粒の涙が浮かんでいるよ。
【予知夢】で死の運命を見てしまったから、よっぽど心配していたんだろうね。
「ブヒヒッ、吾輩にとっては造作もない冒険であった!! それよりも、スイミィ。これを飲みなさい」
ライトン侯爵は強がりを言ってから、スイミィ様に青色の上級ポーションを手渡した。
彼女は小首を傾げて、一頻り観察した後、言われた通りにグイっと飲み干す。
「……美味。これ、なに?」
「惚れ薬だ。これでスイミィは、吾輩を好きになってしまうぞ」
「……父さま、好き。丸いから」
くだらない嘘を吐いたライトン侯爵は、スイミィ様に再びギュッと抱き着かれて、デレッデレのだらしない表情を浮かべた。親子関係は良好らしい。
私、バリィさん、ツヴァイス殿下の三人が、『一体何を見せられているんだろう?』と言わんばかりの眼差しを向けていると、侯爵は慌てて表情を取り繕う。
「ブ、ブヒヒ……。スイミィ、今のは冗談だ。それは魂を回復させる薬だが、体調に変化はないかね?」
「……んー、ん。特に、なにも」
スイミィ様の返事を聞いて、ライトン侯爵はガクっと項垂れた。
彼は気落ちしているみたいだけど、無駄骨かどうかは分からないよ。
魂が消耗したことによる変化って、魔力を蓄えられる量が減るだけだから、それが元通りになったとしても、今のスイミィ様には分からないと思う。
職業選択の儀式、まだやっていないからね。
「あらぁん……。あんなに頑張った侯爵様の手に、なんにも残らないなんて、ちょっと寂しいわねん……。よかったら、これを貰って欲しいわぁ」
「ブヒィ……? よ、よいのか?」
「ええ、いいわよん。是非貰って頂戴な」
カマーマさんがライトン侯爵に、シャチの戦術指南書を譲り渡した。
これで、今回の大冒険はおしまい。
犠牲者が多かったから、気持ちよく締め括ることは出来ないけど……全滅するよりは、ずっとマシな結末に辿り着けた。
いっぱい頑張ったので、しばらくは自堕落な生活をしよう。
「……姉さま、ありがと。……スイ、この恩、忘れない」
「いえいえ、私は自分のやりたいことをやっただけですから、あんまり気にしないでください」
私はスイミィ様と、軽く抱擁を交わしてから、侯爵家のお屋敷を後にする。
帰り際、バリィさんたちにもお礼を言われて、なんだか雲の上を歩いているみたいに、心がフワフワしたよ。この感覚が心地よくて、人助けが癖になりそう。
……死に掛けたのに、そう思える自分に驚いた。
こういう性分って、早死にしそうだから、気を付けないとね。
75
お気に入りに追加
459
あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!
のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、
ハサンと名を変えて異世界で
聖騎士として生きることを決める。
ここでの世界では
感謝の力が有効と知る。
魔王スマターを倒せ!
不動明王へと化身せよ!
聖騎士ハサン伝説の伝承!
略称は「しなおじ」!
年内書籍化予定!
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる