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四章 流水海域攻略編
107話 ローズの進化
しおりを挟む──夕方。無機物遺跡の探索が終わって、私は自分のお店に帰ってきた。
開店休業状態だけど、なんとなくカウンター席に座りながら、ローズに今後の方針を伝える。
「テツ丸も仲間になったことだし、しばらくはのんびりしようね」
「えっ、待ってたも! わ、妾は……妾は進化させて、貰えないのかの……?」
「…………あっ」
「その『あっ』はまさか……っ、忘れてたの『あっ』ではなかろうな!?」
ローズに突っ込まれて、私は思わず言葉を詰まらせてしまう。
彼女の言う通り、すっかり忘れていたんだ。
「チ、チガウヨ……。ほらっ、ローズのために、土の魔石を用意したから!!」
「むっ、本当じゃな……。全く、紛らわしい反応をするでないわ」
私はスラ丸の中から魔石を取り出して、カウンターの上に並べた。
ブロ丸を進化させたときに余った魔石なんだけど、言わなければバレないよね……。
ローズは機嫌を直して、ボリボリと魔石を食べ始めたよ。
「そういえば、アルラウネの進化条件って調べてなかったけど、魔石を取り込むだけでいいの?」
「うむ! ムクムクと力が湧いてきたから、大丈夫だと思うのじゃ! なんかこう、己の殻を破れそうな感覚があるのぅ!」
ローズは普通のアルラウネと違う部分が多いから、図書館で調べたことが当てになるか分からない。そんな訳で、事前情報を集めずに進化させてしまおう。
私は自室に戻り、スラ丸の【浄化】で身綺麗にして貰ってから、スヤァっと眠りに就く。
──意識が微睡の中に沈むと、暗闇に浮かぶ四本の道が見えてきた。
それらの道の分岐点に下り立った私は、ステホを手にしながら看板を確認する。
『アルラウネハープ』──花弁の一部が竪琴になっているアルラウネ。奏でる音色で他の生物を癒せる。多くの感謝を集めると現れる進化先。
この魔物はヒーラーっぽいよ。ローズが生成した花弁は、多くの人の感謝を集めたはずだから、進化条件を満たしているのも納得だね。
私には【再生の祈り】があるから、ヒーラーの従魔は微妙かな……?
『アルラウネメイジ』──なんらかの魔法を使うアルラウネ。使える魔法は個体によって異なる。多くの魔力を消耗すると現れる進化先。
ローズは【草花生成】を多用していたから、現れて当然の進化先だ。
【竜の因子】を持っているローズなら、進化後に火属性の魔法を取得しそう。
彼女は店番をすることが多いから、火は困るよね……。お店を燃やす訳にはいかないので、泥棒が侵入しても火は使えないんだ。
そんな訳で、メイジは候補から外そう。
『アルラウネウィップ』──直接的な攻撃が得意で、好戦的なアルラウネ。茨の鞭の威力が上がる。多くの生物を殺傷すると現れる進化先。
ローズが多くの生物を殺傷したなんて、私には心当たりがない。
……ああいや、彼女はローズクイーンの転生体だから、転生前に満たした進化条件が反映されているのかも。
接客業を任せているのに、攻撃的な性格になったら困る。能力だけなら理想的なんだけど、これも候補から外そう。
『活性化』──特定の因子が活性化する。
この看板だけは、進化先の魔物の名前が書かれていない。
特定の因子って、【竜の因子】以外にないよね?
それが強化されるなら、ローズはとっても強くなると思う。けど、ドラゴンは恐ろしい魔物だから、これを選ぶのは絶対にやめておくよ。
「うーん……。消去法でハープかな……? うん、そうしよう。ローズ、行っておいで」
私が最終的に選んだのは、アルラウネハープだった。ヒーラーが増えて困ることはないし、別にいいよね。
私の隣に現れたローズが、力強く頷いてから、その道を辿っていく。……今更だけど、あんまり大きくならないで貰いたい。カウンター席に座れなくなっちゃうから。
──翌朝。私が目を覚ましたとき、裏庭からポロンポロンと、下手な竪琴の音色が聞こえてきた。
フィオナちゃんとミケはまだ寝ているけど、この音が原因で夢見が悪いみたい。二人とも顔を顰めているんだ。
私が裏庭の様子を見に行くと、鮮やかな緑色の衣を纏ったローズが、竪琴を掻き鳴らしていた。
その竪琴は、ローズの花弁に数本の弦が張ってあるもので、一つ一つの音色は非常に綺麗だよ。……でも、ローズの演奏が下手だから、折角の音色が台無しになっている。
彼女の姿に関しては、花弁の一部が竪琴になったこと以外にも、下半身の薔薇が一回り大きくなって、上半身が二歳分ほど成長していた。
まだまだ幼いけど、今の私よりは少し年上くらいに見える。
ステホでローズを撮影してみると、きちんと進化していることが分かった。
新しく取得したスキルは【癒しの音】であり、自分の演奏が傷や疲労を癒す効果を持つみたい。
これは全ての回復系スキルの中で、最も効力が低いのだとか……。
でも、影響を及ぼせるのが広範囲かつ、魔力を消耗しないというメリットがある。
「むっ、アーシャよ! おはようなのじゃ! 妾が奏でる美しき音色で目覚めた気分は、どうかの!?」
「どうって……ごめん、正直に言うね? ローズの演奏、下手っぴだよ」
「…………えっ!? ば、馬鹿な!? 妾はスキルを持っておるのじゃぞ!?」
「まさか、今の演奏って、スキルを使っていたの……?」
私が恐る恐る問い掛けると、ローズはごくりと固唾を呑んでから、こくりと小さく頷いた。
全く癒されなかったんだけど……もしかして、演奏の技量によって効力が変化するとか?
だとしたら、今のローズには全く使えないスキルということになる。
「ど、どうすればよいかの……? 妾、自分の演奏の良し悪しすら、把握出来ないのじゃが……」
「講師を雇うとか……いや、当てがないなぁ……。ちょっと図書館に行って、竪琴を練習するための本を写してくるから、それを読みながら頑張って貰うしか……」
「妾、一人でやれる自信がないのじゃよ……? アーシャも練習に、付き合ってたも……」
ローズはそう言って、自分の竪琴になっている花弁を引っこ抜き、私に差し出してきた。
受け取ると、意外に頑丈だと判明。ステホで撮影してみると、『アルラウネの竪琴』という立派なマジックアイテムだったよ。
これを使って演奏すれば、スキル【癒しの音】を使ったときと同じ効果が発生するみたい。
ちなみに、この竪琴は僅か七日で枯れてしまう。
「これ、引っこ抜いても大丈夫だったの?」
「うむ、問題ないのじゃ。【草花生成】を使えば──ほれ、元通りになった」
ローズがスキルを使うと、下半身から竪琴の花弁が生えてきた。
マジックアイテムを生成出来るなんて凄いけど、七日で枯れてしまうから、売り物にするのは難しそう。
「その竪琴さ、【草花生成】+【竜の因子】の複合技で、生やせないかな? それから、私の【耕起】も合わせたら、品質が向上するかも」
「おおっ! その発想はなかったのじゃ! 試してみようぞ!!」
私たちは早速、力を合わせて新しい竪琴の花弁を生成してみた。
その竪琴には、燃える炎のような模様が入っていて、色艶も非常に素晴らしい。
肝心の音色には、たった一音で心臓が掴まれるような、美しくも恐ろしい迫力が宿っている。
ステホで撮影すると、名前は『未登録』で効果も不明だったよ。
とりあえず、名前は『ドラゴンローズの竪琴』にしよう。
ポロンポロンと適当に鳴らすと、少しだけ身体がポカポカするようになった。
アルラウネの竪琴に備わっている従来の効果に加えて、身体を温めてくれる効果もあるみたい。
これも演奏の技量次第で、効力が変わるんだろうね。
もうすぐ冬だし、これなら売れてもおかしくない。竪琴を演奏出来る人なんて、そんなにいないと思うから、売れ行きは悪そうだけど。
楽器の演奏は上流階級の嗜みってイメージがあるから、高値を付けて様子を見よう。
──これは後日判明したことで、ドラゴンローズの竪琴は七日経っても、全く枯れる様子がなかった。
ドラゴンという、途轍もない生命力を持つ魔物の力が宿っているから、数年は使えるかもしれない。
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