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四章 流水海域攻略編

104話 ブロ丸の進化

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 私はスキルと従魔の再確認を終わらせてから、スラ丸、ティラ、ブロ丸を引き連れて、街中のお店を回ることにした。
 まずは食べ物の買い出しをして、その後に鍛冶屋へと向かう。

「ごめんくださーい! 鉄と銀を売ってください!」

 工房で鉄を叩いている鍛冶師のおじさんに、私は大きな声で呼び掛けた。

「鉄は幾らでも売ってやるが、銀はそんなに多くないぞ」

 銀塊は同量の銀貨よりも安い。ブロ丸に取り込ませるなら、銀塊を買うのが節約になるんだけど……どうしても銀塊が集まらなかったら、銀貨を取り込ませようかな。

 ──あっ、いや、駄目だ。貨幣を故意に破損させたら、犯罪になるかもしれない。

「銀塊って、無機物遺跡から沢山採れたりしないんですか?」

「銀の身体を持つ魔物は、滅多に出ないからな。金も同様だ」

 おじさん曰く、無機物遺跡に出現する魔物の大半は、銅か鉄の身体を持つ魔物みたい。
 下層へ行くと、鋼の身体を持つ魔物がいるらしいけど、九割方の冒険者はそこまで行かないって。
 鉄と炭素があれば鋼は作れるから、お金が欲しいだけなら、態々強い魔物を狩る必要はないんだ。

 第一、第二階層で安定した収入を得て、人並みの暮らしをする。そんな、冒険しない冒険者が、この街にはとても多い。
 私は鍛冶屋を何件か回って、鉄塊と銀塊を買い集めてから、今度は冒険者ギルドへと向かう。ここで魔石を買わないと。

 受付の女性に用件を伝えると、カウンターの上にずらりと魔石を並べてくれた。

「ブロ丸、どの魔石が欲しいの?」 

 私の問い掛けに、ブロ丸は茶色の魔石を選んだ。これは土属性の色だね。
 大きさはビー玉程度で、淡く光っている。お値段は一個あたり銀貨三枚。とりあえず、纏めて二百個ほど買っておいた。

 私は足早に帰宅して、早速だけどブロ丸を進化させるべく、銀塊と魔石を与えてみる。白金貨一枚分の銀塊と、大量の魔石……。まだ一段階目の進化なのに、費用が凄まじい。

 裏庭にて、ブロ丸はこれらをモリモリと取り込んでいく。その様子をミケが覗き見して、ワナワナと慄いた。

「ご、ご主人……。ブロ丸の食費、ぱにゃいね……。お金がなくにゃっても、みゃーのこと、売らにゃいでね……?」

「ぱにゃい……? 何それ、若者言葉?」

「半端じゃにゃい! って、意味にゃんだよ」

「ああ……。まぁ、これは食事って訳じゃないんだけど……仮に、食費を切り詰めることになっても、家族を売ったりはしないから、心配しないで」

 私が微笑み掛けると、ミケは安堵したように胸を撫で下ろした。
 ちなみに、シルバーボールの次の進化条件は、もっと厳しい。進化先は金塊の魔物だから、ブロ丸には大量の黄金を与える必要があるんだ。

 ブロ丸の進化条件を満たした後、私は自室で仮眠を取って、微睡の中に意識を沈めた。


 ──夢の中で、暗闇に浮かぶ一本の道が見えてくる。その道の手前には、『シルバーボール』と書かれた看板が立っているよ。

「ブロ丸、行っておいで」

 私が指示を出すと、隣に現れたブロ丸がフワフワと浮かびながら、目の前にある道を辿っていく。
 その後ろ姿を眺めていると、私の意識は緩やかに浮上して──目が覚めたとき、外はもう夕方だった。

 裏庭に出てブロ丸の姿を確認してみると、体長が二メートルになっていて、全身が銅から銀に変わっていたよ。形は球体のままだね。

 ステホで撮影してみると、きちんとシルバーボールに進化していた。
 持っているスキルは、【浮遊】【変形】の二つ。事前に調べた通りだ。

 ブロ丸という名前は、ブロンズの丸い魔物だったことが由来なんだけど、シルバーになったから改名する……?
 いやでも、敵の攻撃をブロックする丸い魔物って考えたら、ブロ丸でも変じゃないかも。

「ブロ丸、盾の形になってみて。出来る?」

 私が尋ねると、ブロ丸は身体を上下させて頷き、丸い盾の形になってくれた。
 球形で二メートルもの大きさがあったから、結構な厚みを維持したまま、大きな盾になれるみたい。
 変形速度はそこそこ早いけど、攻撃に転用出来るほどじゃなかったよ。

 この後、ローズとミケに、進化したブロ丸の姿をお披露目すると、

「うーむ……。立派になったことは確かじゃが、ちと簡素過ぎるのぅ……」

「デザインがダメダメにゃ! もっと格好いい盾に変形させるのにゃあ!!」

 能力面じゃなくて、見た目にケチを付けられてしまった。
 今のブロ丸は何の飾り気もない盾だけど、私はこれでも一向に構わない。大事なのは能力だからね。

「私、派手な見た目は好みじゃないよ?」

「案ずるでない! 妾に全て任せよ! テーマは『薔薇の盾』にするのじゃ!!」

「みゃーはトゲトゲ付けたい!! それから、縁をギザギザの刃にするのにゃあ!!」

 ローズとミケは嬉々として、あーでもない、こーでもない、ああしろ、こうしろって、ブロ丸に注文を付け始めた。
 ブロ丸に表情はないけど、心なしか楽しそうだし、このまま任せてみよう。

 ──最終的に、ブロ丸の形状は丸い盾のまま、表面に薔薇、縁に茨の意匠を加えることで落ち着いたよ。
 途中で四角い盾とかも試したけど、丸っこい形の方がブロ丸は動きやすそうだった。

 さて、お金の力でブロ丸を進化させた訳だけど……残念ながら、実戦経験は乏しいままなんだよね。
 盾で攻撃を防ぐのって、相当な技術が必要だと思う。押したり引いたり、斜めにして受け流すなんてことも、場合によってはしないといけない。
 その辺の技術を養わせるために、ブロ丸をシュヴァインくんに使って貰おうかな。

「にゃにゃっ!? 乗り心地が抜群にゃ!! ご主人っ、これで移動が楽ちんにゃんだよ!!」

「わぁ……。それで街中を移動したら、物凄く目立つね……」

 ミケが水平に寝かせたブロ丸の上に乗って、空中浮遊を楽しんでいる。
 安定感はあるけど、そんなに速くないし、何より成金趣味の道楽に見えるから、ご近所さんの目が怖くなっちゃう。

 ……でも、ちょっと楽しそうだから、今だけは私も乗せて貰った。
 私にはバランス感覚がないから、球体のときは乗れなかったけど、今なら余裕だよ。ブロ丸を椅子の形にすれば、物凄く怠惰な生活が出来そうだね。……や、やらないけど。

「二人とも、ブロ丸の防御力を確かめたいから、攻撃してみてくれる?」

 お披露目も終わったことだし、私はローズとミケに、ブロ丸を攻撃するようお願いした。
 二人とも少し躊躇ったけど、ブロ丸を軽くコツコツと叩き、その硬さを確かめてから頷く。
 シルバーボールは魔法防御力が高い魔物だけど、物理防御力が殊更低い訳じゃない。鉱物の塊だし、相応に硬いのは当たり前なんだ。

 【竜の因子】を使ったローズの攻撃と、【強弓】を使ったミケの攻撃。
 どっちも無傷とはいかなかったけど、余裕を持って耐えられたよ。
 ブロ丸は普通の盾じゃなくて、生きている盾だから、【再生の祈り】を使ってバフ効果も付与出来る。一撃で核の魔石を破壊されなければ、なんの問題もない。

「ふむ……。ブロ丸が欠けても再生するなら、銀を取り放題だと思うたが、そう上手くはいかないのじゃな」

「そうにゃあ……。ブロ丸の破片、すぐに消えちゃうのにゃ」

 ミケが言った通り、ブロ丸の破片は霞のように消えてしまう。
 野生のブロンズボールもそうだったけど、核が破壊されると、この現象は発生しなくなるんだ。

「シルバーボールは優秀だし、この分ならアイアンボールも優秀かな……。明日にでも、ブロンズボールをもう一匹テイムしてくるね」 

 今の私なら、スラ丸、ティラ、ブロ丸の三匹を引き連れて行くだけで、無機物遺跡の第一階層を探索出来ると思う。けど、私は慎重派なので、ルークスたちに付き合って貰うよ。
 久しぶりの冒険だから、気を引き締めないとね。
 
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