他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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三章 スライム騒動編

100話 ノワール

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 ギルドマスターと銀級冒険者たちが、黒マントの一団と戦っている最中、カマーマさんと巨漢ゾンビの戦いは熾烈を極めていた。
 巨漢ゾンビも拳で戦うタイプらしく、カマーマさんと互角に殴り合えるだけの強さを持っている。

 秒間数十発という拳の応酬で、しかも一発一発がスキルを使っているかのような威力だ。
 打撃音が大気をビリビリと振動させて、風圧で周囲の人が吹き飛びそうだよ。

 下手に介入すると、足手纏いになってしまう。
 誰もがそう思える異次元な戦闘なのに、黒マントの一人が後方から魔法を放ち、巨漢ゾンビの背中に命中させた。
 それは、闇を凝縮したようなビームで、アグリービショップが同じスキルを使っていたと思う。

 フレンドリーファイアかと思ったけど、命中した直後に巨漢ゾンビの身体が一回り大きくなって、パワーアップした。
 まさかの支援スキルみたい。でも、その後でカマーマさんにも当てようとしたから、純粋な支援スキルという訳ではなさそう。
 多分だけど、ゾンビには強化、生きている人には悪い効果があるんだろうね。

「あはぁん!! 面倒なことっ、してくれるわねん!!」

 カマーマさんも筋肉を隆起させたけど、巨漢ゾンビほど大きくはなっていない。
 巨漢ゾンビは黙々と連打を叩き込み、上回った筋力の分だけ、カマーマさんにダメージを蓄積させていく。
 ただ、彼女には私が【再生の祈り】を使っていたから、即死さえしなければ、なんの問題もない。

 巨漢ゾンビは死体故か、息切れとは無縁みたいだ。
 カマーマさんの体力は無限ではないけど、肉弾戦に特化した職業だから非常に多い。私の【光球】を懐に入れているし、これは長期戦になりそう……。

 ここで、巨漢ゾンビを支援している黒マントが、不満げに口を開く。

「……計算が狂いましたね。壊門のカマーマ、想定外の治癒能力を持っています」

 その声は、以前に聞いたノワールさんの声と同じ……だと思う。
 鮮明に記憶している訳じゃないから、断言は出来ないよ。
 顔を隠しているフードを取って確認したい。そう思って注視していると、

「アーシャっ、後ろが不味そうよ!?」

 フィオナちゃんに声を掛けられて、私はすぐに後方の様子を確かめた。

「あれって、スケルトン……?」

 後方で行われているのは、冒険者集団とゾンビ集団の戦い──だったはずなのに、スケルトン集団まで加わっている。
 スケルトンは動く人間の骸骨で、ゾンビよりもやや強い程度の魔物だよ。

 どこから現れたのかと疑問に思ったけど、冒険者が倒したゾンビから腐肉が剥がれ落ちて、スケルトンとして復活しているんだ。
 これで実質、敵の数は千匹から二千匹になった。
 先程までは冒険者側が優勢だったのに、徐々に追い詰められている。

「負傷者を内側に入れて回復させろ!! 前衛は持ち応えてくれ!!」

「ポーションが足りないぞ!! クソっ、最近は市場に出回ってないから……っ」

「こっちはもう持ちませんよ!! 誰か代わってくださいッ!!」

「うちのパーティーは魔力切れだ!! 矢も尽きちまった!!」

 冒険者たちの指示と報告が飛び交って、切羽詰まっている様子がひしひしと伝わってきた。
 どうしようって、迷っている場合じゃない。
 私は【光球】+【再生の祈り】を使った複合技、女神球を頭上に飛ばす。

 デフォルメされた女神アーシャが入っている光の球は、照らし出した全ての対象に再生効果を齎した。
 重軽傷を負っていた冒険者たちが、瞬く間に回復して、ぽかんとしながら頭上を見上げる。けど、すぐにハッとなって戦闘を再開してくれた。

 ゾンビとスケルトンまで、回復させてしまうかもしれない。そう危惧していたけど、そっちには効果がなかったよ。
 でも、黒マントたちは回復してしまったから、全部が味方の有利に働いた訳じゃない。戦場って難しいね。

「ちょっと……!! それ、使ってよかったの……!?」

「使わないと負けちゃうし、仕方ないよ……」

 フィオナちゃんが耳打ちしてきたから、私も耳打ちで返した。
 部位欠損すら一瞬で治すスキルは、不特定多数に知られると面倒事を招き寄せる。そんなの嫌だから、公衆の面前では使いたくなかったけど、自分と仲間たちの命には換えられない。

 幸い、誰も私に注目していなかったから、誰が使ったスキルなのか、みんな分かっていないはず……。

「仕切り直しだ!! 気合いを入れろッ!!」

「「「おおーーーっ!!」」」

 ギルドマスターの号令に、冒険者たちが気炎を揚げて応えた。
 ゾンビとスケルトンが回復しない分だけ、冒険者側が有利になっていく。
 しばらくして、巨漢ゾンビ以外のゾンビとスケルトンが一掃されたから、私は女神球を消した。

 黒マントたちとの戦いは互角くらいだったけど、後方の冒険者集団がこちらに合流してくれたので、形勢が一気に傾く。
 私たちは黒マントの前衛を圧殺して、そのまま後衛に狙いを定めた。
 すると、巨漢ゾンビがカマーマさんから距離を取り、ノワールさんと思しき人物を守る立ち位置に就いたよ。

 カマーマさんはその人を指差して、ニヤリとしながら問い掛ける。

「これはもう、あちきたちの勝ちかしらん? そっちの黒マントちゃんも、そうは思わない?」

「…………」

「なんで黙っちゃうのよん!? アナタがそっちのリーダーでしょぉ!? 立ち位置を見ればバレバレなのよん!!」

「はぁ……。肯定しましょう。確かに当方が、この一団のリーダーです」

 彼女は溜息を吐いて、観念したようにフードを取り払った。
 黒い肌にスキンヘッド、それから瞳が白くて、両耳がない。耳の付け根には、元々あったものを切り落とした古傷がある。

 ……あれ? 女神球の光を浴びていたのに、古傷がある?
 他の黒マントたちは、フードで顔を隠している状態でも、再生効果の恩恵を得ていたんだけど……まぁ、この疑問は一旦置いておこう。

 なんにしても、彼女は間違いなく、闇商人のノワールさんだ。
 まさか、敵として現れるなんて、思ってもみなかったよ。

「見ない顔だわぁ……。クマちゃんはどうかしらん?」

 カマーマさんに『クマちゃん』と呼ばれたギルドマスターは、渋面を作りながら首を捻る。

「確か……つい最近、貴族になった奴じゃないか……?」

「肯定します。当方は王国北部の新興貴族、ノワール=ノースデッド。国王陛下より、女男爵の地位を賜りました」

「そうか、俺の記憶違いじゃなかったか……」

 刺客がお貴族様だと判明して、冒険者たちがどよめく。
 冒険者集団と黒マントの一団の戦いは、一時休戦だよ。双方は距離を取って睨み合いながら、カマーマさん、ギルドマスター、ノワールさんの話し合いの行方を見守った。

「はぁッ!? ど、どうして貴族が、あちきの首を狙うのよん!? まさかっ、王様から依頼されたとか、言わないわよねん!?」

 カマーマさんに問い詰められて、ノワールさんは悪びれもせずに、淡々と事情を説明する。

「そのまさかです。国王陛下はオカマ罪で、貴方を罰すると仰られました。国家反逆罪と並ぶ重罪なので、死刑です」

「オカマ罪ぃ!? な、なによそれぇ!? あちきっ、そんなの聞いたことないわよん!?」

「そうでしょうね。今のは当方の冗談です」

 ノワールさんの言葉を聞いて、カマーマさんの表情が目まぐるしく変化し、長い沈黙が横たわる。
 その後、彼女は憤怒の形相で声を荒げたよ。

「こ、このメスガキぃ……ッ!! オカマ舐めてんのかゴラァッ!!」

「小粋な冗談で場を和ませようという、当方の配慮でしたが……滑りましたか」

「ええもうっ、ダダ滑りよん!! さっさと事情を話すか、あちきに殴り殺されるか、選んで頂戴っ!!」

「では、前者を選びます。まず、依頼人はいません。当方が保険のために、貴方の首を求めたのです。当方が貰った領地は、王国北部の更に北方、ダークガルド帝国に近い場所だったもので」

 ダークガルド帝国とは、この大陸の中央に位置する強大な国家だよ。
 大陸に覇を唱えているから、他の全ての国と敵対関係にある。アクアヘイム王国も例外じゃない。
 私たちが暮らしている王国は、大陸の南側に位置しているから、王国北部が帝国南部と隣接しているんだ。

 ノワールさんは、コレクタースライムの情報を王国に齎したことで、王様から爵位と領地を貰ったらしい。
 けど、その領地は誰も欲しがらない場所だった。何せ、戦禍を被りやすい場所だからね。体よく押し付けられたってことかな。

 カマーマさんは聞き出した情報を纏めて、自分の認識が正しいか確かめる。

「──つまり、こういうこと? 帝国に攻められたとき、あちきの首を手土産にして、寝返ろうとしたのかしらん?」

「はい、そうなります」

 ここでも悪びれることなく、ノワールさんは素直に頷いた。
 カマーマさんは額に青筋を浮かべながら、大胸筋をピクピクさせているよ。
 
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